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クロスオーバー  作者: 連鎖
リリアンとクロ(正義の味方)
15/99

蹂躙③

 巨大なユーマの頭が、リリアンの下半身を覆い隠すように止まっていた。


「ぎゃっぎゃ。。ギャッッが。」


 その頭は、まるで時を超えるかのような速さでリリアンに迫り、

 大きな口を開けて彼女の豊満な胸に抱きつくはずだったが、

 ユーマにとって何かが足りなかったらしく、不思議な声をあげていた。


 その不思議な鳴き声をあげている理由は、


 先端が突き刺さり、口いっぱいに広がる生暖かい体液を感じなかった。

 牙がくい込み、顎を絞める度に変わっていく心地よい叫びがなかった。

 顎が全て閉じて、熱い獲物が冷たい屍に代わる瞬間がなかった。


 その全てを与えてくれる、楽しい玩具がいないと戸惑っていた。


「もうチョット。もうちょっとよぉ。あっあぁあ。もうチョットぉおお。」


 戸惑っている観客とユーマの事を無視して、

 上半身がどこかに消えて、巨大な頭が自分を覆い隠しているのに、

 その近くから、楽しそうな話し声が聞こえてきた。


「理々杏?りりあん、なのか?大丈夫なのか?本当に生きているのか?」


 その楽しそうな声は、理々杏が出しているように聞こえるが、

 博士には、彼女が下半身だけで話しているように見えて戸惑っていた。


「いやぁあん見えちゃっているわぁあ。アハハ。もぉお。エッチぃい。」


(クロ。見えちゃっている。早く隠して、早く隠すのおおぉおぉ!!)


 観客が心配する声は、リリアンにも理々杏にだって聞こえているが、

 本人たちは状況が見えていないらしく、

 二人とも下半身に感じる空気の冷たさだけを気にしていた。


 もちろん理々杏が感じているのは、ユーマが消えたと思ったら、

 背を思い切り反らして、腰が逆方向に曲がって痛い事と、


 何故かは、よく分からないが、


 鳩尾辺りの皮膚が、引き裂かれそうに痛い事と、

 両肩付近に感じる巨大な重りが、大きく揺れている事と、


 ミニスカート姿のまま、

 両膝を開いてリンボーダンスを踊っているかのように、

 お尻からへそ下辺りにまで感じる冷たい夜風と、

 太腿の合わせ目に感じる熱い汗の流れ、

 そして、濡れたショーツの凍えるような冷たさが、彼女を困らせていた。


(アハハハハハ。いやぁ。。丸見えだったね。ごめえぇえん。)


 リリアンにとって、巨大な生き物が持つことのない、

 姿が消えるほどに早い攻撃など、特に気にする事でもなく、

 檻と沼に囲まれて、逃げ場のない状況などは普通のことだったのか、

 冷静に相手の牙を避けるために、両膝を広げて折りたたみ、

 ブリッチをするように身体を逸らして、その攻撃を避けていた。


 そのユーマの攻撃を避けている彼女の格好は、

 可愛らしいチェック柄のスカートが、腰あたりまでめくれ上がり、

 色っぽい太ももと、タンガのようになっているショーツが見えて、

 中央で切り裂かれていた上着も、境目から左右に広がっていた。


 しかし、釣鐘型の大きな乳房が、

 身体のラインに沿って左右に広がっていたので、

 広がった乳房の谷間や、その先につながる膨らみは見えているが、

 皮膚が薄くなって、ピンク色に染まっている部分は隠されていた。


「それじゃぁ、いくわよぉおお。せぇえぇえのおぉおお。グルぅうン。。」


 相手の攻撃を、リンボーダンスのように両膝を広げて避けていた彼女は、

 そのまま頭を下げていき、身体を後ろに回転させていた。


「ぶぅうん。。ドゴン。」「ギリギリィ。。いいい。。バギィイん。。」


 彼女の身体が回転すると、ユーマの顎に膝が当たったらしく、

 最初はリリアンの動きに抵抗していたが、

 頭が前に飛び出して、首が伸びきって弱くなった場所から、

 組み木細工のハマッタ部分を、無理やり外したような音が響いていた。


「。。グッ。。グギギャァアアアア。」


 ユーマもリリアンからの攻撃を受けて混乱していたが、

 獲物に向かって自分が近づいていることに気づいたようで、

 頭が身体から外れて自由になり、刹那しか残っていない命を燃やして、

 彼女に喰らいつこうと顎を大きく広げていた。


「しつこいのは、嫌われちゃうぞぉおぉぉぉお!」


 ユーマのような化け物を倒せるのなら、この女も化け物らしく、

 外れた大きな頭が顎を広げて落ちてくるのに、

 冷静にバク転を途中でやめて地面に両手をつけると、


「グウゥウ。あはははっ。。飛んでけぇええ。。ブン。どごぉおん。」


 ネックスプリングをするように、両腕をたたみ、両膝をまげて、

 落ちてくるユーマの頭を足裏で受け止めてから、

 思い切り身体を伸ばし、空に向かって頭を打ち上げていた。


(うぅう。言ってからやってよォ。もぉ気持ち悪いぃいい。くろぉおお。)

(あはは、ごめぇえん。もうしないから、ごめんよぉ。)


 理々杏だってバク転はできるが、

 今回のは、いつもと違う動きが途中から入ったせいなのか、

 色々と身体が引っ張られ、皮が伸びる感触と痛みに戸惑っているらしく、

 これをする時には、やる前に言って欲しいと同居人に頼んでいた。


「理々杏?大丈夫。だいじょうぶ?大丈夫だったのか!」


 ユーマの頭が消えて理々杏の身体が見えてくると、

 やっと状況をつかめた観客が、安心した声で話しかけてきた。


「スタッ。。あっあははは、あははは。いやったああぁ。あはははは。

 そおらぁあ。飛んでけぇえぇええ。」


 とても楽しそうに笑っているリリアンはいいのだが、

 全裸の上からジャケットを着たような格好で、

 バク宙をし始めたと思ったら、途中でやめて跳ね起きたので、

 さっきまでギリギリ先端部分を隠していた上着がズレてしまい、

 大きな乳房全体が服の外に出てしまっていた。


 同じ行動をしたミニスカートは、めくれるというより、

 お腹を隠す腹巻きのような姿に変わり、綺麗なお尻と、

 濡れて貼り付いたショーツが丸見えになっていた。


 その姿は、全て録画されているはずだし、

 ユーマを初めて倒した記録なので、

 何度も再生されたり分析されるのは、確実に起こる未来だった。


 そのことを知っているのか、最初から気にしていないのか、

 リリアンのとても嬉しそうな笑い声が公園に響いていた。


「びしゃぁああああ。。びしゃしゃやぁあ。ドサン。。ガラ。。ガラン。」


 そんな彼女と同じく、ユーマも生き物であったらしく、

 首が外れた場所から、突然蛇口を開いたホースの先端のように、

 踊るように体液が吹き出し、リリアンの全身を濡らしていた。


(生ぬるいシャワーって感じ?)

(ふぅうん。リリィってそうなんだ。もう少し強いよ。打たせ湯かもね。)

(打たせ湯って?)(温泉に、そういう設備が有るんだよ。)

(温泉?でも、お金は?)(お給料が貰えるし、大丈夫かなぁぁぁ。)


(温泉もいいよね。でも、そ。うだった。そうなのよおぉォ。

 お。。おきゅうりょぉおお。そうよ。おかぁあねえぇええええ。)


 巨大な生物からの威圧がなくなり、安心しているのはいいが、

 普通の人間なら、体液が身体にまとわりつくなど気持ちが悪く、

 嫌悪感と忌避感で吐きそうになったり、

 大声を出して逃げ出したりするはずだが、

 その二人が話しているのは、いつもの日常生活のことだった。


「博士ぇええ。倒しました。倒しましたよぉおお。

 これで、試験は合格でいいですかァァァァ?これでいいですかァ。」


(どうなったの?何がどうなったの?)(終わっちゃった。。。ね。)


 今の状況は、彼女にとって全て予定通りだったのだろう。


 上半身は、上着の中央部分が裂けて乳房の膨らみが飛び出し、

 下半身は、大人の妖艶な生脚にチェックのミニスカート姿で、

 左手を腰に当て、右手は夜空に向けてピースサインを掲げ、

 何かを探すような仕草で、夜空に向かって笑いかけていた。


 もちろん理々杏にも今までのことが全て見えているし、

 彼女も試験が終わったことに感謝しているのだが、

 これによって変化した世界については、少しも理解していなかった。


「ああ。。おぉお。。。」


 子供のような無邪気な声で叫ばれてしまい、驚いているが、

 少しは理解している博士の気持ちは、

 驚きと困惑、世界を壊す、全てを作り直されてしまうような衝撃と、

 今まで対処もできなかった自然現象のような存在を、

 目の前に引きずり出してやったという達成感と、

 その対処がこれからも可能だと証明できてしまった戸惑いと、


 これから起こるであろう、朧げに見えた未来に恐怖さえ感じていた。


「りりアァアン。ありがとォオオオ。りりアァアアん。ありがっとぉお。」


 それでも、博士としての根本を形作る、全てを知りたいという欲求は、

 全身を焦がされても、全てを失っても構わないと叫んでいた。


「。。。。どごーぉぉおん。グラグラ。。ガギガギ。。。ガギ。。」


 そんな博士の叫びに反応したのか、

 リリアンに蹴り上げられた頭は、クルクルと回りながら空中を飛び回り、

 首の外れた場所から、大量の体液を空に撒き散らしていた。


 その後に起こった現象は、頭を無くした身体は崩れ落ち、

 空を舞っていた頭も、重力に負けて地上に落下するという、

 ごく当たり前な、世界の理と同じ動きをしていた。


「ザァっアア。ウフフフ。さあ、コレでオシマイ。ザアァアア。うふふ。」


(勝ったの?勝ったんだよねぇえ。)(さぁ。アハハハハ。そうかなぁ。)


 リリアンは、さっきまで水中にいたかのように全身が濡れていた。


 その理由は、

 ユーマの首から吹き出した体液が、つなぎ目から噴水のように吹き出し、

 彼女の美しさを賛美する歌のように、まとわりついていた。


 それだけではなく、

 頭から飛び散った体液が、空に撒き散らされながらも重力に負けて、

 彼女の強さを賞賛する拍手のように、音を立てて降り注いでいた。


「ボト。。ボトボト。。。ぽた。。。ポタ。。。ポ。。。。」


 そのどちらも、リリアンの身体に辿り着くと、

 雫のように集まろうとするが、世の理に負けて滑り落ち、

 肌の表面に雨だれ跡だけを残して、服や地面に染み込んで消えていった。


 その染み込むまでの時間は、

 ユーマが持っていた命の灯火が、最後の役目を果たしているかのように、

 月の光が反射し、彼女の美しさを彩る宝石のように、今も輝いていた。


「り。。。。り。あん。」


 誰の声だったのだろうか、彼女を呼ぶ声が世界を満たしていた。

 その声を出していた相手のことを、彼女は知っているのだろうか。


 その問いに対する答えは笑顔だった。


 彼女の顔は楽しそうにも、嬉しそうにも見えるが、

 しかし、目は笑っていないし、

 口も笑っているように曲がっているだけで、

 全体として、リリアンの顔が醜く歪んでいるだけだった。


「。。。」


 博士は、彼女の妖艶な身体を滑り落ちる液体を見ていた。


 少し前まで動いていた生物を生かすために必要なものだと、

 それを浴びて喜んでいる彼女の姿に、観客は戸惑っていた。


 もちろん、恐怖していた。ただ逃げ出したい、忘れたいと思っていた。


 今まで出来なかった状況を覆す化け物が、目の前に誕生したのだから。。


 理々杏は、もちろん喜んでいた。


(くろぉおお。ヤッタァア。やったよぉお。)(そうだね。リリ。)


 襲ってきた相手を排除して、お金が貰えると思っている理々杏と、

 体液が目に入っているはずなのに、

 目を閉じずに妖艶な笑みを浮かべたまま、腕を組んでいるリリアンは、

 敵を見ながら、楽しそうに笑っていた。


「(さあ、これからも楽しませてね。ウフフフ。)」


 その声は誰に届けたいのだろうか、

 声はとても小さく聞こえる人がいないもので、

 ただ身体を雨で濡らしている妖艶な女の、

 楽しみが少し増えた瞬間を伝える音だったことは、


 彼だけは理解できていた。



 蹂躙③

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