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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
115/118

報告

 馬車の車輪が、大きい石が有る荒れた土道、整地された土道、

 そして再び石畳へと、路面に合わせて音を変えていく。


 御者台には、いつものようにリーダーが手綱を引いていた。


 丸い背中に黒い外套、焦げた袖は簡単に縫い直され、

 火傷を治さない腕を捌くたび、馬の耳が嬉しそうに動く。


 その荷台には、ミアとリアが座り――

 リーダーの背中を互いに陣取り、牽制するように、睨み合っていた。


「ねえ、リア。納得いかなくない?」


 ミアが馬車の背板に肘をつき、

 肩までの金髪を指でくるくる弄びながら、頬を膨らませる。


「何がです?」


 リアは背板に背を預け、長い脚を組んだまま、

 腰まで続く銀髪の揺れに合わせて、冷静に返していく。


「あたしたち、二人とも奴隷として売られたじゃん」

「……事実ですね」

「で、そのお金って、助け出した人達に全て渡していたじゃん」

「それも、事実ですね」


「なのにさ――」


 ミアは御者台の背中を、じと目で見つめた。


「なんで傷ついてるあたしに回復で終わり? ねえ、リーダー」


 御者台の男は、見事なまでに無反応。


「聞こえてるくせにさ~」


 ミアが前の座板を、こつこつとブーツの先で蹴る。


 リアも、小さく溜息をついた。


「私から言わせてもらえば、“売られたショック”は、ミア以上です。

 それなのに“悪かった”の一言でしたね」


「それ、あたしの前で言う?」

「不公平さに関しては、明確に話し合う必要が有ります」


 二人の視線が、御者の背中へと突き刺さる。


 リーダーは片手で手綱を操りながらも、

 空いた手の形を変えて、ほんの少しだけ振る。


「……ちょっと。いまの、感じ悪くない?」

「感じが悪いのは、いつものことです」


 リアが、きっぱりと言い切る。


 だが、次の瞬間だけ、二人の表情がわずかに緩んだ。


 そんな空気を乗せたまま、馬車はやがて街の城門へと滑り込む。


 空気が妙にざわついていた。


 いつもなら、朝から晩まで同じ種類の喧騒が続くだけの通りに、

 妙な「浮つき」が混じって、自分達が来た街道へと向かって行く。


「なんか、みんな忙しそう」


 ミアが荷台から身を乗り出して、通りを眺め。


「ああ、情報が回るの早いですね……」


 何かに気付いたリアが、ギルドの方へ視線を向けると、

 前の広場には、すでに何組ものパーティが集まっていた。


 そこには、助けた冒険者の姿もあった。


 彼は興奮気味に、周囲へ何かをまくし立て、

 それを聞いた冒険者達の声が、リアの耳に届く。


「今まで気づかれなかった。盗賊団のアジトが割れたってよ」

「しかも《黄昏の環》の二人が殲滅したって?」


「ああ。“残ってる戦利品は放棄。欲しい奴が取りに行け”ってさ」

「流石に、単独Aランクの二人は太っ腹だな!」


「道さえ分かりゃ、取り放題だ」「お前達、夜までには着くぞ!」

「急げ! 他の連中に、取られちまう」「いそげ。先に行くからな!」


「そうそう、デブは震えて見ていただけだってよ」

「聞いた聞いた。助けられたら、慌てて地下に逃げていったらしいぞ」


 ざわめきが一気に熱を帯び、リーダーの恥を強調して騒ぎ始め、

 多くの冒険者が楽しそうに着色していった。


 ミアが肩をすくめる。


「……今更向かっても、あの村人達も行ってるよね?」

「でしょうね」


「いい武器や防具とか、壁にかけて無かった?」

「魔法書や素材とかも、棚に……」


「やっぱ、酒。高そうな瓶が、床に転がっていたんだよ!」

「高級そうなフルーツとか見たこと無い食材も、床に……」


 リアも淡々と返す。


 そう言う愚痴が、馬車の上で花開いていくが、何時ものように。


「いつもの事だけど、正直どうでもいいや!」

「どうでもいいですよね!」


「ねえ、リーダー!!」


 二人は目を合わせて、同時にリーダーに向かって声を掛け。


 その言葉にリーダーは何も言わず、

 冒険者たちの群れを一瞥しただけで、馬車を馬留めへ寄せた。


 ◇


 ギルドの中は、さらに騒がしかった。


 受付カウンターの前には、いつもの様な光景と、

 二人を見て、目を輝かせて話をする冒険者が入り混じる。


 その話には「双刃」と「銀弓」の名が何度も混じっていた。


「森の盗賊団、やったのはあの二人らしいぞ」


「マジか。《双刃の金狼》と《滅弓の銀鷹》が組んだら、

 並の盗賊団なんて、ひとたまりもねえな」


「違うんだよ。ボスと魔法使いってのは、

 何処にいるのか分からない、S級認定の手練れだったらしいぞ」


「そうそう。そんなヤツを、二人とも正面から瞬殺だってな」


「すげぇ…やっぱり、あの二人は凄すぎるな」


 ミアは、耳に入ってくる自分たちの噂に微妙な顔をする。


「なんか、美化されてない?」

「事実に脚色が乗っているだけ。よくあることです」


 リアは、慣れた調子で受け流す。


 リーダーは、気にもせずに淡々と受付へ向かう。


 依頼が簡単すぎだと、嫌な顔をして送り出した受付嬢が、

 三人の姿を見た瞬間、その表情が強張る。


「……依頼の報告です……よ?」


 リアが、代表して口を開き、

 ミアが、「村周辺の魔獣退治」の完了サインが入った依頼書を渡す。


「……盗賊団の殲滅は、別途報告を受けています。

 そちらは、上層部で対応いたしますので、少々お待ち下さい」


「へえ。ずいぶんと話が早いんだ」


 ミアが、わざとらしく片眉を上げる。


「あの依頼って、簡単じゃなかったっけ?」

「ギルドとして、事実の確認を行っている最中でした」


 受付嬢は視線を逸らしつつも、特に気にもせずに続ける。


「森の盗賊団壊滅、村人及び冒険者などの解放。貴族の救出。

 全て《黄昏の環》二名の働きであると、報告を受けました」


「“二名”ねぇ?」


 ミアが、意味ありげに呟く。


 続いてリーダーは、討伐地点。盗賊団の規模に構成。

 救出した人の数等を報告していき、

 依頼の報酬を受け取ると、何も言わずに荷袋へしまう。


 一方、別の場所では、

 ミアとリアを捕まえて、盗賊団との戦闘を聞いている冒険者達。


「両手斧の一撃を、ボロい剣で受け止めたって本当ですか?」

「ええ、まあ。折れたけどな」


 ミアが、後頭部を掻きながら笑う。


「巨大な火炎の竜巻を、真正面から防いだって聞きましたが……」

「正確には、受けながら魔法で撃ち抜いただけですよ」


 リアが、淡々と答える。


 話は盛り上がり、先入。救出。解決。二人の英雄譚が広がっていく。


「そうだ。二人で死にそうだった。あの……を、助けたんですって!」


 この時には、二人は呆れた顔で視線をリーダーに向けている。


「ああ……」「まあ、そうですね」


 その説明の時は、二人とも少しだけ嬉しそうに答えていた。


 そんなやり取りが続いた後、

 リーダーが二人の肩に軽く手を置くと、ギルドから出ていく。


「はいはい。報告はおしまいね」

「では、詳しい話は、また今度にでも」


 二人は職員たちに挨拶をし、大きな背中を追いかけていった。



 報告

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