結婚
夏に差し掛かるある日。二人はいつも通りに会社に行きいつも通りに仕事をしていた。そんな変わらない日常だった。
しかししばらく仕事をしていると上司から葵が呼ばれた。
「葵さんに頼客が来ている。」
上司の言葉に疑問を感じた。私にくる人なんて心当たりがない。
「どのような方ですか。」と葵が上司に聞く。
「〇〇会社の代表取締役のかたとその旦那さんらしい。」
葵はそれを聞いて固まった。
「え・・・なんで・・・」
葵は固まったしばらく動けなかった。
「葵さんどうした。〇〇会社ってあの超一流の商事会社じゃないか。そこの社長がなんで葵さんに。」
葵は体が震えていた。
「葵さん?」
その様子を見た上司が太陽を呼ぶ。
太陽は呼ばれて急いで葵の元へ向かった。
「あおちゃん。どうしたの?症状が出ているの?」と太陽は葵の背中をさすりながら葵に問いかける。葵は何も喋らなかった。
太陽は今上司としたやりとりを聞く。そして太陽は状況を整理し一つの疑問を葵に聞いた。
「〇〇会社の社長って確か葵さんのお母さん・・・」
上司は驚いた。まさか葵さんがあの有名企業の社長令嬢なんだと驚きを隠せなかった。けど上司はすぐに察した。
「平野くん。私社長を呼んでくる。」と上司はこれはまずい問題の意なりそうだと即座に判断して社長を呼びに行った。
葵はそれでも無言だった。顔は下を向き目は一点を見つめたままだった。
葵の両親が来た。とても嫌な予感がする。太陽も瞬時にことの自体の重さを把握した。
少しすると社長が来た。
「葵さん。まさか両親が来たなんて。それにあの会社の社長とは。」
社長の表情が硬くなる。
そして社長は一息入れてこういった。
「とりあえず葵さんに合わせる前に私が最初に対応する。」
そういって社長は葵の両親を応接室まで案内するよう指示を出した。そして社長も応接室へと向かった。
「平野くん。少し葵さんを休ませよう。」と上司は葵を会社のソファーに座らせた。葵は呼吸が荒くなっていった。
「僕薬持って来ます。」といって太陽は葵のデスクに向かい薬を持って来た。
「あおちゃん。大丈夫?薬飲める?」と葵に聞いて薬と水を葵の前に置く。
葵はそれを静かに取り薬を飲んだ。そしてしばらくソファーに座っていた。
しばらくして葵が口を開いた。
「すみません。何も喋れなかったです。今はしゃべれます。あの二人は私の両親です。」
やっぱりそうだったか。と上司と太陽は心で思った。太陽と上司はここからの流れを考えていた。社長がうまく話しつけて帰ってもらえるのが一番だがなかなか難しいと考えていた。いくら社長が説得しても葵の両親は引かないような気がした。
しばらくして社長が応接室から出て来た。社長の顔は険しかった。
「やっぱり葵さん本人でないとダメの一点張りだった。だけど葵さんとの対話に私たちも同伴できることになった。一人で行くのは辛いと思うけど自分たちがいるから少しでも安心してもらえると嬉しい。」と社長は言ってくれた。
「ありがとうございます。私行きます。」と葵は言ってソファーから立ち上がった。顔色が明らかに悪いのがわかる。みんなで葵を支え応接室に向かった。
応接室に入ると太陽は驚いた。葵の父親の顔を見て衝撃を受けた。
「この方って確か衆議院議員の・・・」と葵は小声で言った。それを聞いていた社長が太陽に囁く。
「そうだ。山梨1区から当選した日向茂だ。まさか葵さんのお父さんとは驚いたよ。」
社長の言ったことに太陽が一瞬震える。けれど葵のために話を聞かないとと自分自身を奮い立たせた。
葵は両親と正面の位置に座った。そして葵の母から先に口を開いた。
「葵。秦と結婚することになったから。婚姻届も秦の方は書いてくれてある。あとは葵だけだから。」
葵の母の言葉にみんな唖然としていた。太陽と上司と社長は3人で目を合わし何言ってるんだと思いが伝わって来た。
「葵早く書いて。もう決定事項だからさ。こうすればうちの会社安泰だから。うちの会社の給料もあげられるし会社も設けられる。だから早く書いて。」
葵は無言のままだった。目には涙が流れていた。それを見て葵の母はさらにいう。
「いや泣いてる暇ないから。なく暇があったら書いて。もう決定事項だから。」
これを来た社長がブチギレた。
「さっきから聞いてますけどね。何言ってるんですか?葵さんの意見も聞かずに結婚?何ふざけた話行ってるんですか?葵さんは葵さんの人生がある。葵さんに決定権がある。それをいかにもロボットみたいに指示だしてどういうことなんですか。」
太陽と上司は切れた社長にびっくりしていた。普段温厚な社長がこんなにキレるのは初めて来た。
それを聞いて葵の母は話を続ける。
「いや決定権も何も会社のためなので。あなたには関係ないことですので。」
「いや違います。関係ないわけない。葵さんは私の会社の大事な社員です。社員の意思が一番大事なので葵さんの意思を大事にしたいです。」
社長の話を聞いてた葵の父が口を開く。
「社員の意思が大事と言いますけど世の中お金なんですよ。葵が結婚することによって多くの人に利益がもたらされる。葵はうちの会社に利益をもたらすために生まれたにすぎないので。」
今度はそれを聞いた太陽がブチギレた。
「葵さんは僕にとって大事な人です。葵さんをそのように言わないでいただきたいです。不快です。」
太陽の目は怒りでガン開きになっていた。もう怒りが抑えきれなかった。
「確かあなた葵の彼氏さんでしたっけ。きっぱり言います。別れてください。葵にいい影響ないので。葵は秦と結婚するので早く別れてください。」
「嫌です。」
「いやという権限はありません。確かここの会社って私の会社とも取引してますよね。しかもかなり大きい取引。葵があなたと別れなくて秦との結婚を拒むようでしたら今後二度とそちらとの取引はしませんから。そうなると社員を養っていけますなりますよ。」
葵の母は脅しをかけて来た。どこまで自分勝手なんだと。けど相手は本気だ。そうなったらこの会社にとっても痛手だ。太陽は社長の顔をみる。
社長は太陽の目線を受け取り言葉を開く。
「確かにそれは会社にとって不利益になります。会社の利益を守るのが社長の使命です。しかし社員の気持ちを尊重できないのはそれこそ社長失格です。社員が働いてくれるから利益が生まれます。社員が会社そのものです。うちの会社と取引をしないというならどうぞご勝手にお願いします。その代わり葵さんは渡さないので。」
社長は力強くきっぱりといった。葵を守りたいその一心で葵の母に対抗している。
太陽と上司も同じ気持ちだ。葵を絶対に渡す気はなかった。
「そうですか。それならそれでどうぞ。この結婚はもう確定事項なので関係ないですけどね。」
葵の母は社長の言葉など関係なしに話す。
葵の体が震えている。
「葵震えている暇があるなら早く書きなさい。子供じゃないんだから早く書いて。時間の無駄。そもそもあなたは私たちの会社の道具にすぎないので。」
太陽は怒り狂った。葵は決して道具ではない。一人の人間だ。笑ったり泣いたり楽しんだりしてきた思い出がたくさんある。葵は太陽にとって大切な人だ。そう言いたかった。
そう思っていると葵は椅子からふらりと崩れ落ちる。
「あおちゃん。」と太陽が葵に駆け寄る。
「とりあえず婚姻届は置いてってください。葵さんはいま書ける状況にないので今日はお引き取りを。」と上司が言った。
「しょうがない。書いたらすぐに出すように。」と葵の母が言うと両親は立ち去った。
葵は床にうつ伏せになっていた。
「救急車を呼んだほうがいいか。」と上司が言う。
それを聞いた葵は「大丈夫。」と答える。
太陽はその間にツッキーに連絡をとっていた。ツッキーは今日は休みと聞いていたので駄目元で連絡した。
そしたらツッキーは「すぐに向かう。」と言って会社にきてくれることになった。
葵をソファーに寝転がせツッキーの到着を待っていた。そのとき上司と社長と太陽はどうするか考えていた。
「あおちゃんが秦と結婚するなんて絶対嫌だ。そんなの許さない。」と太陽が言う。上司と社長も頷いた。こんなの許されるはずがない。絶対に阻止すると太陽は心に誓った。
少し経つととっきーがきた。横には渡辺先生もいる。二人はたまたま休みが重なって二人でツッキーの家で映画を見ていたらしい。
「ツッキーと渡辺先生までお休みのところ来ていただきありがとうございます。」
と太陽はお辞儀する。
「それは全然大丈夫。葵さんの体調は。」とツッキーが聞く。
「ずっと体が震えて呼吸も苦しそう。そして顔色が明らかに悪い。」と太陽はツッキーに葵の症状を説明した。
ツッキーはそれを聞いた上で葵にも症状を聞く。
「葵さん。喋れますか。どんな症状か聞かせてください。」
葵はツッキーの方を向いて喋りかけた。
「めまいがする。体に力が入らない。怖い。辛い。体がなぜか震える。」
ツッキーは葵の症状を聞いて渡辺先生と話しをした。
そのし渡辺先生が葵の脈を確認する。明らか脈が早かった。
そしてツッキーと渡辺先生は社長と上司と太陽に説明する。
「葵さんかなり統合失調症の症状が出ています。この症状が落ち着くまで安静にする必要があります。そして葵さんに何があったのか聞かせてください。」
とツッキーが言う。渡辺先生にそれに続いて説明する。
「そして身体的にも症状が出てきています。体の震えは精神的ストレスが要因で体の神経がうまくコントロールできてないからだと思います。何日か入院する必要があると思います。」と渡辺先生がいうと3人は頷く。そして3人は葵に起きたことを話した。
それを聞いたツッキーと渡辺先生は激怒していた。二人とも葵の両親が許せなかった。
4人は話し合いこのまま葵を入院させることで合意した。その際太陽にはつきっきりでいてもらうことにした。上司も社長も快く了承してくれた。
太陽はツッキーと渡辺先生とともに葵を車に乗せ病院へ向かった。病院へ行くとすぐに葵は病室にいき点滴を打たれた。そしてしばらく太陽は葵の元にいた。
ツッキーと渡辺先生は当直の先生に事情を話し一旦帰ることになった。
「二人とも本当にありがとうございます。」と太陽が一礼する。二人は「大丈夫。葵さんのそばにいて。」と言って帰っていった。
病室には葵と太陽だけになった。
しばらくして葵が口を開いた。
「陽くんごめんね。みんなに迷惑かけちゃった。本当に私って最低だよね。やっぱ親の会社の都合で生まれてそうやって生きて行くしかないんだね。」
葵の言葉を聞いて太陽は首を振る。
「社長や上司が言っていた通りあおちゃんに決める権利がある。自分がしたいように生きるべきだよ。」
太陽は葵の頭を撫でながら話した。
「そうだけどさ。それを許してくれないじゃん。もうどうしようもできないじゃん。結婚するしかないんだよ。そうすればみんなに迷惑をかけなくて済むんだよ。それが一番平和的な解決。」
葵は泣きながら言う。葵自身楽しい経験をたくさんすることができた。これからも楽しく生きられると思っていた。しかしそれはもう叶わないんだと悟ってしまっていた。
「それは平和的解決じゃない。そんな選択したがみんなが悲しむ。そしてあおちゃん自身一番苦しむことになる。」
太陽がそう言葉を続ける。葵にはこれからも幸せでいてほしい。だからこんなことを言わないで欲しかった。
「じゃあどうすればいいの。」
葵の声が病室に響く。太陽はびっくりした。こんなに声を荒げる葵は初めて見た。葵は続けて様にいう。
「一人になりたい。だから陽くん帰って。」
「でも。」
「いいから帰って。」
そういい葵は無言になった。太陽は何も言い返せなかった。
しばらく太陽は呆然と立ち尽くしていた。そして静かに病室を出た。
「どうして・・・」と太陽は帰りの車でずっと考えていた。考えても考えても話がまとまらない。そこにツッキーから電話がかかってきた。
「もしもし太陽。今病院から連絡があって太陽が帰ったそうだが何があったか説明できるか。」と電話で言われた。
太陽は病室であったことをツッキーに話した。
「なるほどね。葵さんの統合失調症が完全にぶり返している。今はひとりにさせたほうがいいかもしれない。あした俺も病院に出勤したらこまめに様子見ておくからしばらくひとりにさせてあげよう。けどこう言う状態の時って自殺とかに走りやすくなるから看護師にもこまめに様子を見てもらうようにする。最悪精神病棟への入院も考えている。」とツッキーから説明があった。
葵の心はそれほどまでに壊れていた。
「俺もあの時完治が見えると言ったけこの件があってから振り出しに戻ったと感じるよ。けど俺は諦めない。精一杯葵さんの治療をする。」とツッキーが言う。
「ありがとう。」と太陽が言って電話をきる。そうしていると家の前まで来ていた。
部屋を開けてももちろん誰もいない。部屋でひとりなのは前々そうだったけど青いと同居してからはずっと一緒だった。その葵がいなくて太陽は心の中に寒さを感じた。




