1 死亡、そして転生
世界一シンプルな異世界転生
朝起きた。
カーテンから差し込む光が眩しい。
ちゅんちゅんと雀か何かの鳴き声がうっすら聞こえる。
ああ、いい朝だ。
……といいたいところだけど、残念ながら違う。
すごく憂鬱だ。
何故なら今日は学校があるからだ。
本当にめんどくさい。
しかも月曜日だ。
土日休みからのギャップもあるし、今後また五日間通わなければならないと思うと、すごく嫌だ。
でも行くしかないんだよな。
親の金で行かせて貰ってる高校だ。
流石に立場的にに行かないわけにもいかない。
ホントにダルいけどな。
俺は重い腰を上げて自室を出る。
一階に降りて、リビングへ行くと、ベーコンの焼けるいい匂いがした。
「あら、今日は早いのね」
俺のお母さんが話しかけてくる。
「まぁ」
適当に返事し机につく。
普段なら朝食ができるくらいに叩き起こされるところなのだが、昨日は風呂を上がってすぐ寝てしまったので珍しく早起きだ。
俺も成長してるのかな。
そうして朝ごはんを食べて、身支度を整え自宅を出た。
ああ、ホント嫌だな学校。
友達もほとんどいないし、部活にも入ってないから勉強して帰るだけだ。
もう感情を捨てた方がいいかも。
修行僧のように耐えてればその内金曜になってまた楽しい連休が訪れるだろ。
ああ、そう考えるとなんだか週末が楽しみになってきたな。
考えれば五日間なんてすぐだろ。
それに金曜は実質休みみたいなものだから木曜までしのげば後はウイニングランだ。
よーし、仕方ないけど四日だけなんとか耐えてやりますか。
そんなことを呑気に考えていたのがいけなかったのだろうか。
とある交差点に差し掛かったときにそれは起きた。
「うん?」
何とはなしに横断歩道を渡っていた。
ふと違和感を感じ、横を見る。
大型トラックが突っ込んできていた。
……え?
ばごーーーーーん!!
凄い衝撃を感じ、混乱に陥る。
あ、れ?
何が、起こって……
半ば無意識で顔をあげる。
周囲には大勢の人がいて、俺の方にやってきていた。
ああ、なんだろう、体が重い。
いや動かない。
そうか、そうだよな。
俺、車と衝突したんだ。
はは、まさか現実にそんなことが起きるなんて、思いも……しなくて……
そうして俺の意識はプツリと途絶えた。
「起きよ、少年」
そんな言葉が聞こえ、目を開く。
目の前に広がるのはピンク色の空間だった。
足場は半透明の板。
足場の下はやはり底無しのピンクが広がる。
えっと……これは一体……。
「目が覚めたか。さて、お主名を田中早己と言ったな」
なんだ、どうしてこの人は俺の名前を知ってるんだ?
いや、そんなことよりもこの状況だ。
まるで流れが見えてこない。
「そうですけど……あのここは一体どこなんですか? それにあなたは一体……」
「ワシは神じゃよ。そしてここは天だ。人のいう天とはまた違う、本当の意味での神の住まいじゃ」
神……だと?
どうにも眉唾だが、この状況だ。
信じる信じない以前に意味が分からなすぎる。
「あの、僕はどうなってしまったんですか?」
「お主は死亡した。よそ見運転の大型自動車に敷かれてな、覚えておらんか」
「……あ」
思い出した。
そう言えばそうだ。
一瞬のことすぎて記憶は薄いが、目の前にトラックが迫ってきていた瞬間だけはよく覚えてる。
ああ、そりゃそうか。
あんな質量のものたぶつかられたらタダじゃすまないよな。
それこそ死んでもおかしくはない。
と言うことはだ。
ここが天とかいう場所なのにも信憑性が出てくるのか。
自分の記憶がなによりの証明だ。
「その、思い出しました。でもこの状況というのは一体……」
「ワシが呼び出したんじゃよ。実はちょいとタスクを抱えていてな、適任者を探していたところなんじゃ。それがお主だったという話よ」
「僕が……適任者?」
意味が分からなくて混乱する。
死んだ俺になんの役割が果たせると言うのだろうか。
「うむ。実はじゃな、お主さえ良ければお主を地球とは違う異世界に転生させようと思うておる」
異世界だと?
しかも転生って生き返るってことか?
「その世界は剣と魔法が支配する、いわゆる力がものをいう世界でな。そんな中魔王と呼ばれる存在が力を増してきておる。お主にはこの魔王を討伐して貰いたいというのが簡単な筋書きじゃな」
「討伐って……転生するってことは新たに命を貰えるってことですか?」
「そうじゃ。死んだ瞬間のお主と全く同じ肉体を用意し、そこにお主の魂を吹き込む。これで異世界に擬似的に転生することができる」
はぁ。
なんだか凄すぎてついていけない。
だが神を名乗る者がそういうのだから、恐らくその通りになるのだろう。
「わかったかの?」
「どうして僕なんですか?」
何故かあえて凡人中の凡人の俺が選ばれたのか。
「適正があったからじゃよ。魔王に対抗するには強力な魔力を持たねばならん。死んだ者の中からより強い者を探しておったのじゃが、中でもお主はダントツじゃった。過去にも類をみないほど大量の魔力を生み出せる素質がある」
「魔力って……そんなものないと思いますけど」
俺は本当にただの一般人だ。
喧嘩するほぼやったことないというのに。
「そりゃあ適正というのは世界ごとに違ってくるからの。この辺の成り立ちを理解するのはお主らの感覚では無理だろうから諦めよ」
うーんなんだか釈然としないな。
俺にそんな力あると思えないけど。
「まぁそんなわけでどうじゃ、転生してはくれんかの? もちろん強制ではない。強制したところでミッションを真面目にこなしてくれるとは思わんからの。どうじゃ、力が全ての世界でそれなりにいい思いもできると思うんじゃが。それに魔王討伐さえ取り組んで貰えれば他のことには一切口出しせん。自由に暮らして貰って構わん」
神は畳み掛けるように転生を推してくる。
そうだなぁ、まぁ別に力だとかが欲しいわけじゃないけど、新たの命を得て復活できるというのは絶対悪くない話……のはず。
だったら乗らない手はないのかな。
不安しかないが。
思いきりも大事なのかな。
この期に及んでって感じだしな。
「……分かりました。そのミッションお受けいたしましょう」
「やってくれるか。そうこなくてはな。それじゃあ転生の儀に入るからの。期待しておる」
そうして俺は異世界に転生することになった。
魔王討伐。
となれば俺はさながら勇者ってとこか。
イメージ湧かないな。
まぁタダで貰ったような人生だ。深く考えるのはやめにしよう。
目の前のことにコツコツ取り組んでくだけだ。
異世界、どんなものなのか、見てみるとしよう。




