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ショートショート10月〜3回目

逆詐欺

作者: たかさば

  友達に誘われて、人気のカフェに行くことになった。


 ややモダンで、それでいて明るい木目調がオシャンな、地元民で賑わう店内。


「いらっしゃませ!二名様ですね!こちらのお席にどうぞ~!」


 ニコニコとした店員さんに窓際の席に案内されて、ベロアのソファに腰を降ろしたら…、分厚いメニュー表を差し出された。

 使い込まれた綻びが目立つ表紙をそっと開くと、ドリンク、軽食、ランチセット、ボリューム満点のメニュー、デザート……おいしそうなモノがずらりと並んでいた。

 私はあまり外食をしないタイプなので、どのメニューを選んだらいいのか…少し悩んだ。


「私はピザトーストとクリームソーダにしようかな」


 友人は、軽食メニューとドリンクを注文するようだ。

 ソフトクリームの乗ったフロートだけ頼もうかなと思っていたけれど……私も同じようなものを頼んだ方がいいだろう。先にドリンクを飲み終わってしまっては申し訳ないし、せっかく来たのだから美味しそうなメニューも食べておきたい。


 時刻は11:10…まだ少しお昼には早い時間帯だし、ガッツリ食べる気にはなれない。お残しをするのは嫌なので、食べ切れそうな小さなバラエティセットを頼むことにした。


「じゃあ…私はミニコメバスケットとアイスココアにしようかな」


 ……待つこと、十分。


「おまたせしました~!」


 注文した品が、運ばれてきた。


「……って、え?!は、ハイ?!」


 想像以上のボリュームに、思わず…おかしな声が、出てしまった。


 明らかにデカい、どう見てもミニじゃない、迫力満点のサンドイッチとからあげが二つずつ入ったバスケット。

 アイスココアの常識を吹き飛ばす、飲み物あるまじき高さでそびえ立つソフトクリームタワー。


 腹ペコであったとしても、食べきることができるかどうか微妙なレベルだ。


「ふふ!!ここはねえ、逆詐欺で有名なの!」


 モリモリと大ぶりなピザトーストをかじる、友人の目が…笑っている。

 ……どうやら私は、ハメられたらしい。


 このところ、巷では逆詐欺なるものがブーム?になっているようだ。


 こちらの予想したものをはるかに超えてくる、カフェの心意気。

 メニュー写真が控えめすぎるのか、はたまたキッチンスタッフのサービスがすごいのか。


 とけるソフトクリームに苦戦しながら、分厚いサンドイッチとゲンコツみたいな唐揚げを二つ…がんばって、完食、したのだが。

 ……気のせいか、罰ゲームを受けてでもいるかのような、げっそり感が。


「どお!かなり幸せな気分になれたでしょ!」

「う、うん……」


 満足そうに目を細めた食いしん坊な友人を見て、私は学びを得たのだ。


 一つ、つられてメニューを選んではならない。

 一つ、カフェのメニューは疑ってかかる事。

 一つ、誰かの幸せは、自分にとって苦になる場合がある。


 逆詐欺は、私に……良い経験を残してくれたのだ。




 親戚のススメで、お見合いをする事になった。


 写真を見ると、優しそうに微笑む、スーツ姿がよく似合う誠実そうな人だった。


「とりあえず会ってみるだけでも!とってもイイ人よ?」


 パワフルな仲人さんの言葉を流せずに、喫茶店で会う事になった。

 テーブルの上にあったラミネートされただけのシンプルなメニュー表には、ドリンク、軽食、ランチセット、デザート……文字だけがずらりと並んでいた。

 私はこういう時に何を頼んでいいのかわからなかったので、どのメニューを選んだらいいのか…困ってしまった。


「あ、ここにホット四つね!!」


 仲人さんは、まだ来てもいない人の分まで注文してしまった。


 私、コーヒー飲めないんだけどな……でも、今さら紅茶にしてくださいとは、言えない。おそらく代金を支払う必要はないと思うけれど、出てきたものは飲み干さねばダメだろう。


 時刻は15:00…間もなく相手方が来る頃、気を取り直して、笑顔を作らなくては。あとで母親にブツブツ言われるのは嫌なので、大人の社交辞令を発動しておくことにした。


「あの、コーヒー代はいつお支払いしたらいいですか」

「そんなの出すわよ!!顔合わせだけしたらあとは二人でデートに行っていいんだからね?」


 ……待つこと、十分。


「おまたせして申し訳ありません!」


 コーヒーの湯気の向こう側に、お見合い相手が、やってきた。


「……って、え?!は、ハイ!!」


 想像以上のボリュームに、思わず…おかしな声が、出てしまった。


 明らかにデカくて、あきらかに小さい、どう見ても178センチ65キロじゃない、迫力満点のおじさんとスーツの年配男性。

 お見合いの常識を吹き飛ばす、ラフないでたちに落ち着きのない動き、なめまわすような視線。


 いくら私が彼氏募集中であったとしても、逃げ出したくなるレベルだ。


「ふふ!!お似合いよぅ、それじゃあ、あとは若い人達同士で仲良くね!!」


 ぺらぺらと耳障りの良い事をしゃべっていた仲人さん達が…笑っている。

 ……どうやら私は、ハメられたらしい。


 そういえば……、逆詐欺がブームだったんだっけ。


 こちらの予想をはるかに超えてきた、縁を結び付けたくてたまらない人々のゴリ押し。

 見合い写真が控えめすぎる…実物に肉がつき過ぎている。

 声が大きすぎる…肩書が盛り過ぎている。

 年齢は控えめにしておいたっておかしいでしょう、そのくせ頭部は誇張しておいたってどういうこと?

 体重を控えるなら身長だって控えるべき、170ある私が見下ろす178センチなんて無理がある。

 どうして年収が将来的な予想金額になっている?釣書きが目標ってどういうこと。


 ……いやいや、もはや別人だろう。


 一方的に押し付けられるコミュニケーションに苦戦しながら、分厚い面の皮に作り笑顔を向けて…がんばって、お断り、したのだが。


 ……どう考えても、罰ゲームだとしか思えなかった。


「どうしてあんないい人、断っちゃうのよ?!」

「は、はは……」


 目を三角にして私に怒鳴りつける母親を見て、私は学びを得たのだ。


 一つ、流されて見合い話を受けてはならない。

 一つ、見合い相手の釣り書きと写真は信じない事。

 一つ、恋愛相手は、一刻も早く自分で見つけるべし。



 逆詐欺は、私に。



 ……旦那と出会う、きっかけをくれたのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはひどいwww [気になる点] ホイホイついて行っちゃダメぇ。 [一言] デカいのは良いんですが、詐欺はいけません
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