ネコチャンと天国で会う時の注意点
俺は死んだ。でも死んだことよりもショックな事実を突きつけられた。
「ロク。ロクちゃんという白茶の猫はいませんねぇ」
「そんな!」
『頭上に金の輪っか。金髪。青い目。白いローブ』というテンプレな見た目の天使様は何度も何度も『ネコバーサルスタジオ』のデータフォルダにアクセスしてくれた。
『死後も人間と一緒にいたいと願う猫はネコバーサルスタジオで飼い主を待っている』と聞いて俺は死んだのにドキドキしながら天国市役所に来たのにそれはないよ!ロクちゃんは俺に会いたくないのか!?
「えーっと『2019年死亡』『ロク・もしくはロクちゃん』。やっぱりいないなぁ」
「……もういいです」
俺の片思いだったってことか。一緒におじやや焼き魚を食べた思い出を大切にしていたのは俺だけか。
いいよ。ロクちゃんが俺を忘れてよーが嫌ってよーが俺はロクちゃんが好きなのは変わらない。
「新人さん。どいてください。それじゃあダメですねぇ。お役所仕事です」
「あっ。先輩」
先輩の天使は多分日本人だと思った。金髪なのは変わらないがサイドにしか髪の毛は残っていないし、眼鏡だしおじさんだし出っ歯だし右乳首は丸出しだ。俺は心のなかで『キモブタ用務員』とあだ名をつけた。
「ご主人様はお猫様を可愛がっておられた?」
「はい。それはもう」
「「あーロクちゃんは可愛いねぇ」とよく言われた?」
「えっ!?何で分かるんですか!?」
天使もベテランともなると心が読めるのだろうか?
「ネコバーサルスタジオにはお猫様のお名前の登録が必要なのですが、多くのお猫様は自分の名前を『カワイイ』だと思われています。可愛いと言われ過ぎて名前だと勘違いしてしまうんですねぇ。あとご主人様の場合……いえ。これは言う必要はないな。さて『ロクチャンハカワイイネェ』様の登録を確認しました。さぁ行きましょう。ネコバーサルスタジオヘブンへ!」
大分恥ずかしいけどロクちゃんにまた会えるなら嬉しい。そうかぁ。ロクちゃんはカワイイを名前だと思っていたんだねぇ。可愛いから仕方ないね。
ご主人様の場合……なんだろ?なんか苦い顔で流されたけど?
・
ネコバーサルスタジオのクルーに気球で案内され、巨大キャットタワーの天辺に向かう。
ロクちゃんは生前高いところが好きだったけどこれはやりすぎじゃないかな?
キャットタワーの天辺にある大きな葉っぱの上にロクちゃんはいた。ちゃぶ台の前に正座をしてお箸でおじやと焼き魚を食べている。……賢い!
肉きゅうと肉きゅうを合わせてご馳走さまをしたロクちゃんはこちらに気がついて肉きゅうをあげた。
「おお!下僕!やっと死んだか!こちらに来てごはんを食べなさい」
「下僕かぁ」
飼い主だと思われてなかったか。そりゃ飼い猫で検索しても出ないよね。
「ごはんを食べたら私を撫でたり一緒に遊びなさい」
「ああそれはよいねぇ」
ロクちゃんは私のためにジャーのごはんを茶碗によそってくれた。
私はその後、転生するまでロクちゃんと遊んだり寝たり最高の時間を過ごしたのだった。