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都の隠れ皇女  作者: 椋結城
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都の隠れ皇女


これは、私の物語だ。童話の中の物語でも、単なるフィクションでもない。


私の人生の話。


いつも通り私は他の使用人と紛れて淡々と家事をこなす。広いこの都の中心、王都の帝が住む、邸、いや城で。そしていつも通り、我儘なお姫様が暴れて、何とかしろと他の使用人が皇后様に怒られている。


いつも通り、また私はひとつ心に傷を負う。

他人は私の事なんて知らないのだろう。私の存在は、皇后様や皇帝、お姫様や使用人しか知らないのだから。


でも、私はこの屋敷の中では有名だ。


何故なら、この屋敷にある三代の秘密に()()()()()()()()、この邸の者だけが知っている秘密。まずひとつめそれは、世間一帯で知らないものはいない、代々王家が次ぐ異能力者が今現在皇室にはいない事。そしてふたつめ。帝と皇后には隠し子が居ること。


最後に三つ目、それは、私が皇女な事―――――。







「うっ、。」

「あんたが!あんたが居なければ、!!」

実の姉の冷たい視線に耐えながら今日も私は実母の暴力に耐える。


蹴る、殴る、叩く、。

そんなものは日常茶飯事。

私が、使用人だから?、でも、これは、お母様とお父様が望んだものであって、。



もう、なんのために生きているのか、途端にわからなくなってしまった。

二歳までは、皇女だったのに、


あぁ、あの日からだった。



どうしてもどうしても、お母様とお父様から褒めてもらいたくて、何をしたら喜んでくれるのかを聞いた。そしたら、

「あなたが使用人として生きてくれるなら母様も父様も喜ぶわ。」


と、返された。


今思えば馬鹿な発想だった。


単に喜んでくれる、褒めてもらうために自分の身分すら捨てるなんて、。


でも、それも今日で終わり。



私は、今日初めて父に歯向かう。


本音を、言う。



この暴力に耐えたら、私は、自由になるんだ。






帝の間




「話とはなんだ。手短に話せ。」

「はい。お父様。私、皇室に戻りたく存じます。」

「なんですって?!」


母が私の言葉に叫ぶ。煩い、。


「そもそも、私はなぜ、使用人に回されたのでしょう?身分は姉様とは変わらぬ皇女なはず、。」

「…それで、皇室に身分を戻して欲しいと?」

「はい。その通りでございます。」


父は一瞬沈黙した。が、

「いいだろう。だがな?条件がある。」


条件の内容、それは、


姉の身代わりになること。


それは何に対してもだ。


「かしこまりました。では、これより私は皇室の責務を全うさせていただきます。第二皇女一条紫乃。」

母の赤い真紅の唇が斜め上えと吊り上がる。忌々しい笑顔を浮かべながら、私を侮辱する視線で使用人を呼ぶ。



何の話かは分からないが、私の事というのは分かる。



翌日から私はまるでおとぎ話の中かのような物置部屋が自分の部屋になっていた。


まぁでも、服もちゃんとした上等な着物だし、これくらいの量があればもし追い出されても何とかなるかな。


「祝皇室に戻れたということで、久々にお忍びで街にでも行こうかな?」

そして私は久々の買い物へと出かけた。もちろん何も言わずに。



主な買い物は袴を買い足すこと、そして、念願の劇を見る事、。




劇場観劇後



「はぁー、やっぱり思った通り面白かった、!!あー、またあの息苦しいところに帰らないといけないのか、。」


深いため息をついて前を向いて歩きだす。


この広い空を目の当たりにしてみると、私がこの()()()()だってことを忘れそうになる。私も今、周りの人から見たらただの小娘なんだって。


「...ふふっ、何だか貴重な経験ね。こうして人生で二つの人間の気分を知れるなんて。」


そう思うと、この立場も捨てたものじゃないなと思える。姉様は王宮からお忍びで街に来るなんてことは無いだろうし。

そして突然何者かが私に当たった。

ドンっ!


「いった、。。」

「!済まない。大丈夫か、?急いでる物でな、、。」

「大丈夫です、。」

当たった人間はいかにも位が騎士程度の人間だった。こういう戦場に立ってもおかしくなさそうな人間には好感が持てる。

声は低く落ち着いた声色で、とてもチャラそうな顔をした高身長美形。

途端に町で一番高い鐘の音が鳴る。まるで運命でも告げるかのように。


もう八つ時か、。


「私のことは良いのでお急ぎなら早くお行きください、。」

「...済まない、。また、会おう。いつか今日の礼がしたい。では。」

騎士のような者とその仲間は王宮へと去っていった。


。。。



「まずい!!」


そうだった!平和ボケしすぎた!今日は八つ時から大事な行事があるって母様が言ってたっけ、!!

「。いや、まさかね、。」



私は超特急で王宮へと帰った。



王宮




はぁ、こういうの嫌いなんだよなぁ、はぁ、。しくじった。


「では始めようか。」

そして会議が始まった。

周りを警戒しながらゆっくり見渡すと、先程の騎士らしき人物がいた。


国に関わる人かな、?でも、初めて見る顔だわ。


「では、皆に紹介しよう。今回から国の第一軍隊長になる、櫛筒康氏の息子、櫛筒沙幸殿だ。」

その場にいる全員が声を上げる。あれは本当に男なのか?あのように浮付き物のような者に軍隊長を任せても大丈夫なのか?いくらあの櫛筒氏の息子だといっても、。王は何をお考えなのか。などなど。


私は納得の意しかなかったが、。逆にだが今の貴族はこの噂を知らないのだろうか。

『櫛筒軍隊長の息子は剣の天才、櫛筒家の正当な異能力、力を継いでいる。』

と。


まったく。いまの貴族は何を耳にしているんだ。


それよりも、まさかこの男が櫛筒沙幸、本当に名前にあった美形だな。


櫛筒氏が前に立ち口を開く。

「このような場をお借りしていただき誠に恐縮でございます。。父は隠居のため父の座はわたくしが引き継ぐことになりました。これから何卒よろしくお願い致します。」


やっぱりどこからどう聞いても見てもさっき当たったあの男だ。


これはまさに驚天動地だな。

というかこの男、顔は良いが愛想がないな。さっきから笑顔の一つ見せやしない。


そして父が咳込むとその場が静まり、こういった。


「では今日はここまでとする。櫛筒氏はお残りいただきたい。」

「...承知しました。」




そして大臣や国を背負う貴族が全員帰ると、父が椅子から降りてこう言った。


「ではまず先に、紹介しよう。私の実の二人目の娘紫乃だ。今日から再び皇室へと戻ることになった。が、このことはまだ誰も知らない。そこでだ櫛筒殿。君にはいくらでも報酬はやる。紫乃を婚約者にもらってくれないか?」


「!?」


何を言っているんだこのくそ爺、!!!!


「このことが公になれば国中が大騒ぎになるだろう。紫乃の位は皇室の身ではなく、新たな公爵の娘ということにする。ちょうど嫁が欲しかったのではないかね?」

櫛筒は黙る。そして数十秒にわたる沈黙の末に重い口を開いた。


「……。王は自分の娘が婿の手に渡ることは良いのですか。そして、皇女様はこんな見ず知らずの男と婚約なんて本当に良いのですか。」



お断りよ!!。なんて、言ったら首が吹っ飛ぶわね、。


「...はい。父の命礼ですから。ですが私にも条件があります。父上様。」


「なんだ。」


「公爵の位はありがたくいただきましょう。ですが、何があってもたとえあなたの命でも私はこの王宮へは戻ってきません。そして、よろしければですが、櫛筒様。今日、貴方様の屋敷に空き部屋はございますでしょうか?物置部屋でも結構です。」


「...ありますが。」


「左様ですか。では、誠に勝手ながらですが、今夜から私は櫛筒様の屋敷にて暮らさせていただきます。よろしいでしょうか?櫛筒様。」

「...皇女様の最後の命とあらば。」

「ありがとうございます。では、今までありがとうございました。父様母様姉様。すべての荷物を持って私は出て行かせてもらいます。あと、もう後悔しても遅いですからね?最後に二言。、

バカな皇后と王と皇女の家族に生まれて私は大変不幸せでした。そして、Die(死ね)Youmother(このくそ野郎)fuckers!(共が!)


母は甲高い声で笑い、私が出て行くのに何も反対しなかった。父はフンと鼻を鳴らし好きにしろと言って私を見送った。姉はと言うと、なにかやるせない顔をして私を睨みつけていた。


なぜ私が最後、英語で罵倒をしたかと言うと、家族は全員英語が分からないからだ。たとえどんなことを言っても、何を言っているのか分からないだろう。


櫛筒を見ると恐らく英語がわかるのだろう、父や母に気まずそうな顔をしていた。


櫛筒は父と母にお辞儀をして私と共に部屋から出た。



しばらく廊下をつかつかと歩いていると櫛筒が口を開いた。


「……貴女はそれで良いのか?、。」


「ええ。それよりも、先程は身勝手な真似をしてしまい大変申し訳ありませんでした、。父の無礼もお許しください、。今、想い人がいらっしゃるのであれば、私のことは放っておいて結構ですので。私を屋敷に住まわせてもらわせてもよろしいでしょうか、?」


「あぁ。想い人は居ないが、貴女も家が必要なはずだ。私もあなたが何をしようと知らないふりをしておくつもりだ。浮気だろうとなんだろうと、兎に角、王の命令には逆らえない。王にはいい顔をしておくつもりだ。」


この人、飲み込みが早いわね。嫌いじゃないけど、無愛想なのは嫌ね。


「ありがとうございます。では、荷物をまとめてきますので、。」


「あぁ馬車で待っている。」





そして私はすべての荷物をカバンにつめて、馬車へ乗り櫛筒邸へと向かった。


櫛筒邸へ付き馬車をおりるとそこは、王宮よりも少し小さいが、自然溢れる良い場所だった。


初めての感覚に心が踊る。目が輝く。街には王宮住まいの時よりも直ぐに行けるし、何より私が望んだ環境だった。これだったら私の()()()もより力を増す事だろう。


この世には最大力を持つ5つの分家がある。そこを元にして、異能力、という物があり、私はその中の分家後からの生みの親《本家》と呼ばれる異能力を宿す。


本家は代々皇室の中の誰か一人だけが受け継ぐことが出来る。ここ数年、本家を持つものは現れていなかったが、私がその受け継ぐ1人であり、それは誰も知らない。


分家は五つと言ったな。分家は、まず水や氷などを操る異能力が受け継がれている『和泉橋家』。そして炎などを操る異能力が受け継がれている『日向家』。自然体を操る『稲社家』。雷や光などを操る『白陀家』最後に闇や霊を操る『櫛筒家』。と分かれている。本家はその中でも全てを総べる力を持っており、水氷炎緑雷光闇、そして全てに打ち勝つ《白》《白銀》と言った特別な力がある。


そしてこの分家は常日頃から対立しており、年に一度この5つの戦いがある。毎度優勝をするのは櫛筒家だが、この5つを和解させるには本家の継承者が必要になってくる。その継承者が私って訳だ。


「お帰りなさいませ旦那様。そして、旦那様からお話は伺っております。紫乃様ですね。」

「?はい。なんでご存知なのでしょう?」


「……近々、あなたに継承権が渡る夢を見た。」


そういうことか。全てを予測した上でとった行動と。


「そうですか。」


「では、中を案内させていただきます。私はこの家で使用人を任されております、優衣那と申します。これからよろしくお願いしますね。奥様。」


優衣那というものはどことなく死んだ祖母に似ていた。やはり環境がいいと違うのか、?



「ええ。よろしく頼みます。」


邸を案内されたが、とても綺麗だった。


こんなのが闇を統べる分家の、。


まぁ悪い気はしないかな。



自分の部屋となるところも案内されたが、王宮住まいの時よりもこれまた広く綺麗だった。


「こんないい部屋を、。」


「ふふふ、王宮住まいでしたのだからもう少し広かったのではありませんか?」

「そうですね、。普通はそうなのでしょうけど、。私だけは違いましたから、。」


「なにか失礼なことを聞いてしまったみたいですね、。申し訳ありません。」


「いえ。気になさらないで。」


優衣那はいい人みたいだ。


「これからは優衣那が貴女の身の回りの世話をする。」


「そうですか。付き合いが長くなりそうですね。では敬語もやめてよろしいですか?」


「ええ。私は構いませんよ。」


「ありがとう。」




そして、王宮住まいだった時よりも何倍も充実した生活が始まった。



まぁ、この婚約に愛などないが。










7月某所




「では、行ってきます。」


「行ってらっしゃいませ奥様。」


私は街へ出かけた。劇を見に。





劇場はとても人が多くチケットをとるのを苦労した理由がわかった。

席に座ってソワソワしていると隣に何者かが座った。

紺色の短髪。そして目がキレ長くいかにも性格がキツそうな青年。


「(櫛筒とは真反対ね。いやまって、このひとどこかで、。)」

私がまじまじとみているのが伝わってしまったのだろうか、隣のその青年は私に向かってこういってきた。


「なにか?」


そうだわこの人、。



特徴的な紺色の髪、エメラルド色で妖艶に光る瞳、間違いない、分家稲社の、長男で後継、稲社航大、!!!?


「い、いえ。少し知り合いに似ていたもので、。失礼しました、。」


「ほう、?その言葉使いですと、貴女、ただの一般人では無さそうだ。」



やばい、やばい、!


「い、いえいえ!!ただのしがない一般人ですよ!!」









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