1話
こんにちは!
「俺たちはいつまでも友達だよな!」
「もちろんだとも!」
「…うん」
「こうして集まるのは、しばらく無いかもしれない。でも、俺たちはずっと心で繋がっている!」
「そうだな!しばらく会えないのは少し寂しいが僕たちは親友だ。」
「…僕達、親友…きっとまた会える」
「ああ!しばしの別れだけど必ずまた会おうな!それまで会えないからって泣くんじゃねぇぞ!お前ら!」
「そっちこそっ!、寂しいよ〜って泣くなよ!」
「…2人とも、泣きすぎ」
別れ道の前にたたずむ3人の少年達。
1人は涙を堪え、1人は涙を流し、1人は呆れた顔で、しかし暖かい視線を2人に送る。
この3人を包む空気はとても暖かく、そしてとても優しかった____
「………ん?」
青年は宿の外の騒ぎに起こされ、寝ぼけ眼を擦る。
そして目を開けるが、半分まで瞼を開けそこで止まった。
常に眠そうな彼の名はセイル・エリマ。
怠け者でつねに気だるげな態度を取っている。
そんな少年だ。
そんな彼は騒ぎの原因を求めるため宿の外に出る。
今日は珍しく宿主のおばさんとその娘さんがいなかったため、だらしない格好で外に出る。
騒ぎで半ば無理やり起された彼は不機嫌そうな顔で外にでる。
「…うるさい」
外に出ると騒音はさらに大きくなり、ますます彼を不機嫌にする。
不機嫌になりながらも彼は騒ぎの中心へと足を進めた。
少し歩くと彼は見知った背中を見つけた。
彼はその背中へ足を進めて肩をちょん、ちょんと突く。
「え?なに____」
「…メル、この騒ぎはなに?」
振り返った彼女の名はメル・テイラー。
セイルの宿泊先の宿主の娘だ。
活発な少女で、顔が整っていることもあり、この村では知らない人はいない程の人気者だ。
そんな彼女はセイルの顔を見つめて固まっている。
「…メル、聞いてる?」
固まって反応がない、メルにさらに不機嫌になり口を尖らせるセイル。
するとメルは突然、
「かわいいーーー!!!!!」
セイルに抱きついた。
彼女は自分と同じぐらいの背丈のセイルの顔に頬をすり付ける。
「セイル君!その顔はダメだよ!可愛すぎるよ!」
「…ちょっと、メル。今、僕不機嫌なんだけど」
「だから可愛いの!ただでさえ可愛いのにぶっきらぼうな顔したら余計に可愛くなるだけだよ!しかも髪も整えてないし、服もきちんと着てなくてさらに母性本能がくすぶられて、、、、あーーたまらん!」
「…何言ってるの?メル」
彼は基本どんなことにも無頓着な故自分の容姿にも無頓着だ。
彼は童顔で所謂美少年に分類される。
本人に自覚はないがその眠そうな顔が元々童顔の顔をさらに幼くみせ、女性の母性を擽りモテてしまう。
そこに不機嫌そうな顔というスパイスもトッピングされて、今の彼は母性本能を最大限引きだすような顔をしていた。
「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい」
頬をすり付けながらかわいいと延々に繰り返すメルに若干の恐怖心を感じながらも不機嫌という感情にめんどくさくなり、彼女が落ち着くまで彼は身を委ねたのであった。
「…で、この騒ぎはなに?」
ようやくメルが落ち着いたところでセイルは再び質問を投げかける。
「まさか知らないの?」
「…うん」
「…さすがにそれはぼーっとしすぎだよ、セイル君」
彼女は呆れた様子でセイルの質問に答える。
「これはね、勇者様の選定会だよ。」
「…勇者?」
「まさか勇者も知らないの?」
「……」
「さすがに勇者様を知らないのには驚いたよ」
そして彼女は勇者について説明する________________
遥遠い昔から人類と魔族は敵対関係にあった。魔王率いる魔族は自分たちの勢力圏を伸ばそうと頻繁に人間の領土を侵略し、奪い取っては、暴虐の限りを尽くした。
もちろん人類も対抗したが魔族は強く、徐々に生存圏は小さくなっていった。
________ある日、人類に光が誕生した。その光は人類の道を、戦場を照らし、勝利へと導いた。その光こそが勇者。彼はその圧倒的な強さで魔族を蹴散らしていき、人類を魔族の恐怖から救った。________そしてある日、ついに勇者は魔王と対峙した。
彼らは死闘の末、相討ちとなった。
「____それ以来、勇者様も魔王も誕生してなかったんだけど、最近魔王の血筋の者が魔王に目覚めたらしいんだよね。それで、神官様がこの日に天が勇者様を選定するって言ったんだよ」
「…長い」
「あはは、ごめんごめん」
セイルはもうほぼ目を閉じていた。
「…魔王ってどんなやつなの?」
「わかんない。本とか読んでると凄く残虐な魔族の王らしいよ。
それに最近誕生した魔王は目が赤いんだってさ」
「…目が、赤い?」
セイルはいつも半眼な瞼を上げ開眼する。
「せ、セイル?大丈夫____」
「「うおおおおぉ!!!!」」
メルの声は周りの歓声に掻き消される
村の中心では神官らしき人物が物々しい雰囲気で立っていた。
そして彼は口を厳かに開く。
「この日、人類に光をもたらす勇者様が誕生した。その名は____________
キサラギ・ユウキ」
さようなら!