#ゲームスタート
【登場人物】
門脇葵 - カドワキアオイ
大学3年
サバサバした性格
本気で誰かを好きになったことがない
則岡海人 - ノリオカカイト
大学3年
ニコニコしていて人懐っこい
あだ名はノリ
景山とは幼馴染
景山隼也 - カゲヤマシュンヤ
大学3年
几帳面で落ち着いている
あだ名はカゲちゃん
恋愛は、ゲームと一緒だ。
相手を落とすことができるかどうかの駆け引き。
相手が私に落ちればゲームオーバー。
” 釣った魚に餌をやらない ”
なんて言葉があるけど、私は釣れば満足なのだ。
ずっと、ずっと、そうして生きてきた。
手に入れるまでが楽しい。恋愛は所詮その程度のもの。
……そう思ってた。
彼と出会うまでは。
「もう帰るの?」
「うん、この後彼女と約束あって」
「あーそうなんだ、またね」
他の女と寝てから彼女と会うなんて、最低だなあ。
なんてまるで他人事のように考える。
隼也は友達の彼氏だった。
何人かで飲みに行って、お互い酔って、気付けばホテルで体を重ねて。
それが少し前の出来事で、それからはこうして定期的に会ってまた体を重ねるようになった。所謂セフレ。
勿論、友達には内緒だし、お互い割り切っている。
私は彼氏なんていらない。欲さえ満たしてくれればいい。
そう思っているけれど、たまに。
本当にたまにだけど、彼女が羨ましく思う。
隼也のことが好きなのではなく、こうしてセフレがいながらもなんだかんだ彼氏に大切にしてもらえる彼女が羨ましい。
私はそうやって誰かに大切にされたり、一途に想ってもらったことなんてないから。
小さい頃からそうだった。
両親は離婚して、お母さんに引き取られたけどそのお母さんも新しく彼氏を作って。
私よりも新しい男を選んだのだ。
だから、こうして体だけでも誰かに必要とされていたい。
「煙草……、はあ……」
ポツポツと雨が降ってきた音がする。
さっきまでは火照っていた肌も今はもう冷たい。無性に寂しい。
こういう時に限って煙草を切らしてしまうし。
「…………愛されたい、なあ」
一人だけの部屋に呟いた言葉が静かに消えた。
愛されたい。
想われたい。
誰かに、一途に、好きと言ってほしい。
私が求めているのはそれだけなのに、いつからこんな生活を送るようになってしまったのだろう。
「葵おはよ、昨日はどうしたの?」
「昨日…は、頭痛くて」
「大丈夫?」
「うん、もう大丈夫。課題出た?」
「出てないよ〜。あ、そうだ今日の夜。行くでしょ?」
「…今日何かあったっけ?」
「もー、サークルの飲み会!たまには顔出してって言ったら今日ならOKって葵言ってたじゃん!」
完全に忘れてた。
面倒だな〜とは思うけど、麻里には休んだ時ノート見せてもらったりしてるしなあ…と思うと、顔を出すしかない。
気怠い授業も終わり、時刻は19:30。
指定の居酒屋へ少し遅れて行くと、飲み会は既にスタートしていた。
「珍しいな、葵が来るの」
隅の方に座ると隼也が隣に座り話しかけてきた。
「…私に話しかけて大丈夫なの?彼女は?」
「あいつは今日バイト」
「ふーん……」
興味なさげに適当に返事をするとビールが運ばれてくる。
とりあえず顔は出したし、これ飲んだら帰ろうかなと考えていると、前に見知らぬ男が座る。
「門脇さん…だよね?飲み会来るの初めてじゃない?」
「……誰ですか?」
黒髪で、ラフな格好をして、人懐っこそうな笑顔を浮かべるThe好青年な人。
それが彼の第一印象だった。
「あれ、カゲちゃんから聞いてない?」
カゲちゃん…って隼也のこと?
チラッと隼也の方を覗くと、
「前に話さなかったっけ?ノリのこと。」
ノリ……あだ名がノリの人がいる、みたいなことは聞いた気がするけど、それ以外何も覚えてない。
「則岡海人です。ノリって呼ばれてるんで門脇さんもよかったらそう呼んで」
「…門脇葵です。門脇さんじゃなくて、葵でいいです」
なんとなく、苦手だ。
こういう誰に対してもニコニコして、人当たりの良さそうな人。
「かどわ…じゃなくて、葵はなんでいつも飲み会来ないの?」
「面倒だから」
「じゃあなんで今日は来たの?」
「友達に呼ばれて仕方なく」
「あ、心理の授業選択してる?」
「してない」
された質問に対して淡々と答えていると、前から笑い声が聞こえてくる。
「……何か面白い答えでもあった?」
「いや(笑)やっぱり葵は面白いなあと思って」
「面白い…?」
「うん、サバサバしてて、顔にめんどくせ〜って思いっきり出てる(笑)」
「あっそ……」
あと少しでビールを飲みきる。
これを飲みきったらここを出よう。
そう思っていたのに。
「最後の質問。カゲちゃんとはどういう関係?」
「……友達だけど」
「ふーん、友達、かあ」
なんでいきなりそんな質問をしてくるんだろう。
気付けばテーブルには私と則岡海人こと、ノリしか居なくて。
「普通の友達じゃないだろ」
「さあね」
「例えば、セフレ……とか?」
先程までの笑顔はどこへ消えたのか。
冷たい視線で私を見つめる彼。
軽い女だと思っているのか、軽蔑でもしてるのか。
「その感じだと彼氏とも長続きしないタイプだな」
なぜこうも図星をつかれるのか。
「私、誰とでもセックスするから。」
ビールを飲み干して、勢いよくジョッキをテーブルに置く。
「……そういうの、辞めれば?」
「は?」
「そういう、誰とでもヤるみたいなの、辞めておけよ」
「…貴方にどうこう言われる筋合いないんですけど」
荷物を持って立ち上がると、腕を掴まれる。
「俺が、その考え変えさせる。」
「はい……?」
「絶対幸せにする。」
「なに、いきなり……、初対面でそんなこと言われても、」
「俺のこと好きにさせて、付き合って、それで幸せにする」
好きになるかなんて私次第だし、幸せになれる保証なんて無いのに。
この人の真っ直ぐな目を見ると、その言葉に嘘が無いんじゃないか。信用してもいいんじゃないか。そう思ってしまう自分がいて。
「…………勝手にすれば」
「わかった、勝手にするわ」
「帰るから離して」
「駅まで送るわ」
「結構です」
「勝手にすればって言ったの誰だっけ?」
「…………うざ」
私の荷物を勝手に持って、出口へと歩き始めたノリ。
今まで出会ったことのないタイプで困惑する。
「……なんで私なの」
彼の背中に、小さく呟いた。