臆病魔王は勇者の下僕になる
俺のステータスは最強だ。この世界でこれほどのステータスを持つのは俺だけだ。
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レベルMAX
魔王
HP100000
MP100000
攻撃9999
防御9999
魔攻9999
魔防9999
素早さ9999
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何故なら魔王だからだ。魔法だって詠唱無く使って国一つ崩壊させることだって出来る。
そしてこの世界にはスキルというものも存在している。攻撃スキルや便利スキルがある。
俺もスキルを持っていた。それは恐ろしい呪いスキルだった。
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スキル 聖剣一撃
聖剣に触れると痛みも苦しみもなく安らかに死ねる。
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このスキルのせいで俺は小さい頃から無茶苦茶頑張って、この最強のステータスを手に入れた。
だって死にたくないもん。痛みも苦しみも無いとしても死にたくないものは死にたくない。
聖剣は勇者しか使えない武器だ。つまり勇者を殺せば俺は死なない。そう思っていた時期もあったけど。
しかしよく文章を見たら、触れたら死ぬのだ。つまり聖剣が地面に転がってて、うっかり躓いたら死ぬのだ。それに気づいた俺は海の中に逃げた。大地にいなければ安心だ。だって聖剣を海の中に落とす馬鹿なんていない。
それに魔王と言っても他にもいるので、俺が大人しく海の底にいれば勇者も他の魔王の所に行くだろう。
そして最近ちょうどいい洞窟があったので魔法で改造して城を建てた。
一人しかいないから小さめの城だが、窓から見える魚達を眺めるのは、なかなか癒される。
今日もぼんやりと魚達を見ていると誰かが城へ侵入してきたのに気づいた。
「隣の国の魔王かな?」
時々他の魔王が気まぐれに転移魔法でやって来る。俺の気配は分かってるだろうからすぐここの部屋に来るはずだ。だからこの部屋に来るまでに、俺はお茶の準備をする。俺以外誰もいないから、自分でやるしかないのだ。おかげで家事は出来るようになった。
扉がゆっくりと開く音がして俺はテーブルにお菓子を置きながらそっちを見た。ちなみにお菓子は俺が作った。だって暇だしね。
「いらっしゃ……………へ?」
俺は笑顔で扉から入ってきた女3人組を見て変な声を出した。3人とも美人だ。
魔法使いと狩人のような2人と、もう1人は立派な甲冑を着て腰には神々しい剣をさしている。
それは危険だと本能が警鐘を鳴らしている。
「貴方が魔王ね、私は勇者と言えば分かる?この聖剣で貴方を倒しに来たわ」
「っ………」
変な汗が止まらず俺はゆっくりと後ずさると勇者が剣を抜いて歩いてくる。残りの2人も武器を持ち俺を睨んでいる。
「まさかこんな海の底にいるなんて思いもしなかったわ、他の魔王から聞かなければ気づかなかった」
あぁ俺は死ぬんだ。
海の底でひっそりと暮らして数百年、どうせなら最後に…。
「最後にお茶していいですか?」
お菓子と紅茶を準備したけど勿体ない。怒らせないように丁寧に言うと、勇者は目を見開いた後、テーブルの上にあるお菓子と紅茶を見た。そして剣をしまう。
「いいわよ、二人ともこっちにいらっしゃい」
何故か勇者はソファに座って残りの2人も勇者に言われてソファに座る。
俺は1人でお茶をしてどうにかして、この状況を打開する案を考えようとしていたんだけど。
「あの」
「何をしてるの?早くしなさい」
「あ、はい」
向かい側に座り勇者は警戒もなくお菓子を食べ始めた。俺は一応紅茶を出すと2人がそれをじっと見つめている。毒は入ってないけどなぁ。
「貴方、聖剣に触れると死ぬの?」
勇者が紅茶を飲みながら言われて、俺は怯えたように勇者を見た。
「な、なんでそれを」
「鑑定スキルがあるの、それで貴方を鑑定したらあったから」
「そ、そうですか」
「ステータスは今まで会った魔王の中でトップね。むしろ私より強いわ、凄いわね」
ステータスを褒められてもスキルの事を知られたから嬉しくない。こんなに強くなっても俺は聖剣に触れれば死ぬ。
「勇者様…これ美味しい」
魔法使いがチョコを食べてポツリと言った。それ結構オススメ。
「あら、本当ね。貴方は食べないの?」
勇者がチョコを食べながら狩人を見た。
「毒があるといけませんので」
「大丈夫よ、鑑定したから…食べてみなさい」
「勇者様が言うなら」
最後のお茶会が勇者達となんて最悪だ。俺はため息をついて俯く。
「ねぇ、そんなに力があるのに貴方はなんでこんな海の底にいるの?」
「このスキルのせいでいるんです」
「ふぅん、聖剣が怖いのね…」
勇者は立ち上がると俺に近づいてきた。しかし聖剣は抜いてないのを見るともう殺しに来たわけではないみたいだ。しかし聖剣も近づいてきて怖い。
「な、なに?」
「このお菓子、貴方が作ったのよね?」
「そうだけど、別に毒とか入れてないですよ」
「このお城は1人?掃除とか貴方がやってるの?」
「はい」
「ふーん」
そう言うと勇者は俺に襲い掛かってきた。肩を掴まれソファに押し付けられるが、俺は勇者の腰にある聖剣から目が離せない。鞘に入っているが、この状態でも触れたら死ぬかもしれない。
「我が聖剣よ、魔のものを永遠なる下僕として縛り付けろ」
勇者が何やら詠唱すると俺は首に違和感がしてそっと首に触れると何やら首輪みたいなのがついている。
「え?な、何?」
「鑑定、さぁ…見てみなさい」
勇者は俺を鑑定してステータスを見してくれた。
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レベルMAX
永遠なる下僕(元魔王)
HP1000000
MP1000000
攻撃99999
防御99999
魔攻99999
魔防99999
素早さ99999
スキル 聖剣に従えるもの
更に力が強くなる。しかし聖剣を従える勇者の言うことを聞かないと、痛みと苦しみで死ぬ。
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「なっ!スキルが変わった!?」
「聖剣の力よ、凄いでしょ?」
しかも前より怖いスキルだ。痛みと苦しみで死ぬって絶対そんなの嫌過ぎる。
俺は怖々と勇者を見上げた。勇者はにっこりと笑っている。
「これからよろしくね!」
「う…、はい」
思わず涙した俺は頷くしか無かった。
そして俺は久しぶりの大地へと、勇者達と共に向かうことになる。
読んで頂いてありがとうございました。
魔王
勇者達のお世話をする事に、痛いの苦しいのが怖いので必死にお世話をしている。勇者達の御機嫌を取ろうとして、勇者達の家の裏に露店風呂を作ったりした。
勇者
3人とも家事が出来ないのが困っていた所、家庭的な魔王がいたので下僕にした。毎日必死な魔王を見て微笑ましく思っている。
魔法使い
特に魔王が下僕でも気にしていない。ただよく部屋を散らかすので、クエストから帰ると部屋が綺麗になっているのは喜んでいる。
狩人
勇者のために我慢しているが魔王を家から追い出したいと思っている。毎日警戒して睨んでいる。しかし露天風呂には満足している。1日2回入ったりしている。