1 出会い
翌日の朝、歯磨きをし終わって、洗面台の鏡をふと見ると、知らない人が映りこんでいるのだった。
知らない人は、私の背後で微笑を浮かべ、黒いスーツは新品のようにパリッとしていた。
さて、ここで読者の皆さんにごしつもん。このとき、私は何を思ったでしょうか?
ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ちっ、ち。あと10秒ですよ。
5、4、3、2、1、0。
正解は、「何このイケメン、私の推しの具現化じゃん! 」でしたー。正解した皆さんは、ってあれ、誰も正解できなかったみたいですね、ざんねん、ざんねん。
私は脳内でクイズ番組を繰り広げた。色白、やせ型イケメンは、ずっとこちらを見たままである。
仕方ないので、私は振り向いた。振り向いたら、いなかった。誰も。
鏡のほうを見ると、やっぱり微笑していた。鏡を指先でこすってみる。消えない。それどころか、不思議そうな表情を浮かべている。おかしい。おかしいから、もう一度鏡を指先でこすった。さっきよりも強く。
……消えない。
イケメンは、私の背後でためいきをついた。
「どうしてそんなに物分かりが悪いんですか」
背中から、声がする。私は振り向く。やっぱり誰もいないままだ。
前を見るとやっぱり彼はいた。
「私はいますよ、ずっとここに」
「どういうことなのでしょうか、これは」
「だからどうしてわからないのですか、それとも、分からないふりをしているだけでしょうか」
「分からないです、なにも」
私は本当に何が起こっているのか、何が何だか分からなかった。
「俗にいう幽霊というやつですよ、私は」
「ゆう、れい」
「はい、左様です」
「き、きゃあああああああああ」
「どうしたのですか、急に叫び声などあげたりして」
「いや、幽霊にあったのに悲鳴を上げないのも失礼かと思いまして」
「急に叫ばれる方が迷惑です」
「そうですか」
「あなた、それで今日は」
「今日は休みです」
「そうでしたか、それなら丁度いい」
私には何がちょうどいいのか、全く分からなかった。しかし、何か悪いことが起きそうな予感だけは、分かるのだった。