12 合同訓練
"待ってる"と言われたが礼を言うべき相手は不在だった。サンダルを脱ぎ遠慮なく敷布にあがる。外だと言うのに随分良い物を敷いてくれている。介助してくれた狸系とずらずらとついてきた面々に感謝を伝え、後は平気だと訓練に戻ってもらう。中央では1番隊の準備運動が始まっていた。
大きなクッションに身体を預ければ身体から力が抜けていくのを感じた。思っていたよりも緊張していたようだ。まあ、人生で1度しかないはずの経験だったしね。刃物を突きつけられたのも始めてだ。
改めて斬られた場所を見てみれば7着しかない新品の服は無惨に破れ、だが肌には傷ひとつなかった。なぞってもわからない。血の跡すらない。服にすらついていないところをみると回収復元系の蘇生魔法だったのかな。地に触れた血を体内に戻して平気だろうか。まあ体調は戻りつつあるし問題ないのだろう。手荒れとかは治っていないから、回復というよりも身体を死の瞬間より少し巻き戻す時間魔法なのかもしれない。ああ、そういえば折角の保湿剤を使い忘れてるな。風呂の効果か悪化はしていないが戻ったら塗り込んでおこう。
ふと気配を感じて顔をあげるとラルラミュートが戻ってきていた。手に籠を持っている。
「(お疲れさまでした。ご無事そうで何よりです。大活躍だったそうですね。)」
(お守りの効果だよ。私はただ斬られてただけだ。)
「(・・・御者の耳飾り、まだ魔力ありますよ?)」
(そうなのか?ああ、それ念漏れ防止の効果も付与してくれてあるから、それでじゃないかな。)
"あ、お茶持ってきたんです"と、コップに注がれた茶からはいい香りがする。紅茶のようだ。
「(念、漏れてたんですね。その時に会ってみたかったな。)」
(漏れるのは子供っぽいと聞いたよ。そうでなくともいい年して駄々漏れは恥ずかしいから。)
紅茶を口に含めばよく冷えていてスッキリと飲みやすく、つい飲みきってしまった。"お口にあったようで"と笑いながらおかわりを注いでくれる。
「(子供が漏れやすいのは悪いことばかりじゃないんですよ。多感な時期に何を思っているのか、問題があれば気づきやすいですからね。)」
(聞かれてることが原因で引きこもりになりそうだけど。)
「(ふふ。隊長言ってませんでした?本当に聞かれたくないことは、無意識でも隠すんです。そういうものなんですよ。だからあくまできっかけですね。ヌルさん、幼いのにしっかりしてるから、無理してないかと心配になるんです。聞こえたら、もっと助けになれるのにと。・・・いえ、大人なのは、理屈では。)」
(見目は完全におっさんだろうに。オーラってイメージは何となくわかるのだけど、実感できるものでもないからなあ。)
「(コツを掴めば分かると思いますよ。それに大人は分かりにくいんです。成長と共に落ち着いてきます。)」
(魔力のコントロールが上手になるってこと?)
「(それもありますね。オーラは魔力由来と言われますが、人柄もでるんです。人生経験なんてのもそれとなく。ヌルさんを指名した人はとても軽やかでしたね。)」
(淀んでそうだったけど。)
「(ふふ。そんな深いものはなかったですよ。まあ軽いこと自体に善し悪しはないです。この印象も受け手によって差がありますし、変わっていくものなので。ただ、ヌルさんのようにまっさらでは守らねばと、どうしても感じてしまう。実際は生きてきた分経験も積んでいる筈なのに全く反映されてないんです。)」
(アースでなければ舐められるといわれたな。)
「(まあ、そうですね。現時点ではまずないですけど。舐めるほどの何かもない。そのオーラは赤子にしかあり得ないです。こちらに馴染んでくればだんだんと個性が出てきますから、その過程ではあり得ると思います。)」
(なるほど。0歳からスタートじゃ死ぬ頃にようやく今の年頃か。)
「(年齢とオーラは必ずしも一致しません。年のわりに経験豊かな者だっています。逆もまた然りです。恐らくヌルさんもお亡くなりになる頃には相応になってますよ。)」
(そうありたいね。)
よく響くタタラの号令に目を向ければふた手に陣営が分かれていた。
「(あ、始まるんで行ってきます。ああ、それ、食べれたらどうぞ。)」
籠の中には瓶と包みが入っている。慌ただしく駆けていく姿を見送って、包みを開くとサンドイッチがひと切れ入っていた。・・・これラルラミュートのおやつだったんじゃないか?気を使わせてしまったようだ。昼からそう経ってないが小腹はすいてきている。もう少し落ち着いたらいただこう。
再びの号令で両陣営がぶつかった。距離が空いた分、詳細は見えない。視力自体はそう変わって無いように思う。まあ変わっていたら眼鏡の度が合わなくなっているよね。1番隊は鎧を着ていて3番隊は軽装かつ何か出ている者が殆どなので見分けはつきやすいが、戦っている当人は訳が分からなくならないのだろうか。何となく目についた者と剣を交わしているのか、膠着状態を作り出したペアを抜けてさらに奥に進んでいっている感じだ。
奥に・・・ああ、決まりはありそうだね。タタラとカイル老、あと数人は動いていない。タタラの方はポルパロッタと、多分小隊長らだと思う。きっと向こうも同じ感じなんだろう。
紅茶がなくなったので瓶のコルクを外して注ぐ。冷たいのに汗をかいていないなと改めて見てみれば2重ガラスになっていた。全部が全部魔法頼りではないんだね。こういう技術も進んでいるのか。
中央に目を戻せば砂ぼこりも舞って状況がより分からなくなっていた。だが人壁を飛び越えるように抜け出た3番隊員がそのまま空中で何もない空間に向けて剣を振るった。ガィンっっと響く硬質な音と共に薄っすらと何か、膜のような、ドーム状のモノが一瞬みえたように思う。地に降りても何度も斬りつけ、その度に姿を現すが壊れる気配がない。彼は諦めたのか一歩下がったが、剣は構えたままだ。
そこに蝙蝠の群れが飛んできた。どこから、というなら群衆の中からだろう。思い当たる人物がひとりしかない。ドームを囲むように展開するとチラチラとドームが見え隠れし始めた。何やら干渉を始めたようだが・・・あんな芸当もできるのではますます印象は吸血鬼だろう。まさか霧になれたりはしないだろうな。
結界解除まちの隊員が増えていく。タタラ側にたどり着いた人はいない。3番とつくが1番よりも強いらしい。これが獣人と人の能力差か。よく戦争しかけたよね。群衆の方をみれば白旗が上がった者を戦場から遠ざけているのがみえた。あの旗面白いね。ひとめでリタイアが分かる。手負いになって自ら下がっている者もいるがこっちは白旗が出ているものと出ていない者がいる。何か飲んでいるのは回復薬だろうか。
パキィン・・・と、どこか涼やかな音がした途端、群衆の半分が消えた。
反射的に音の発生源を確認すればそこでも人の数が減っている。開き待ちをしていた3番隊はそのまま突撃し残る3人に挑みかかった。動揺した様子はない。
軒並み消えた1番隊。ざわめく反対側は大変なことになっている。急に増した人口密度でタタラが見えない。消えた全てはタタラらの前に転移したようだ。
戦闘相手を喪失した3番隊の面々はカイル老へと向かっているが、乱れが生じているようだ。まあ、急に消えたしね。転移って簡単なのかな。王宮にでもたくさん使われてるからその可能性はあるか。トリガーが明らかだったから一種の罠のように思う。
「(ははっ、そうかいっ。なら望み通り相手してやんぜっ。)」
威勢のいい大声はタタラのものだ。ドォっと轟音と共に人が飛んでいく。放物線を追えば3番隊が後ろから襲い掛かられていた。カイル老に向かっていた3番隊の半数程度が仕方なしとばかりに反転し応戦しているようだ。頭数的には1番隊の方が少ないようなのだが・・・あれはカイル老についてた奴か。あのガタイの良さに見覚えがある。小隊長クラスが相手なら無視できないのも何となくわかるね。そうなると先ほどから景気よく吹っ飛んでくるのは若いのか。訓練だからかな、弱いのを強いのにぶつけたわけだ。質より量はいまのところ成功してなさそうだけど。
紅茶で喉を潤して、サンドイッチを口に運ぶ。タタラ謹製と同じ味がした。
・・・ラルラミュート、どこにいるのかな。分かりやすい特徴がないから見つけにくい。少し灰がかった髪色をしているがそれは人でもいる。あえて言うならふわふわしているがこの距離じゃ質感までは分からない。この世界の毛の色は地球よりも幅があるが暗めの髪色が多い。西洋風の金髪系もちらほらいるが、恐らくこの地域の人は黒っぽいのだろう。おかげで違和感はほとんどない。一番明るかったので角付きの白髪か。白髪とは風合いが違って見えた。老化で色が抜けるのと違って瑞々しい艶があるからかもしれない。
カイル老へと駆ける残り半数を牽制するかのように地が抉れた。衝撃でここまで突風が届いた。よく分からない時はきっと魔法。なかなかの威力だ。訓練じゃなければ人に当てたのかもしれない。砂ぼこりも一掃され、目的の人物を発見できた。果敢に筋肉の塊に挑んでいる。ラルラミュートは僕より小さい。身体の厚みもないが薄っぺらいのではなく成長期真っ只中といった感じだ。怪我をしない程度に頑張ってほしい。
年季の入った騎士は強い。獣人のスペックは高いが人がそれに劣るわけではないと言っていた。僕からすればその人ですら人でないように見えるのだが、実は猿の獣人が白だったりしないだろうか。その理屈はアースにも当てはめて良いものだろうか。
現場はまた砂に巻かれ始めている。興奮した声はひっきりなしに降ってくるから2階からならみえるのかな。抉れた部分にはいまだ竜巻のような渦が残っていて、行く手を阻まれた3番隊は小隊長らに標的を変えている。反対側では蝙蝠がカイル老を封じ込めるように囲み、残り4人で副官2人とやりあっているが蝙蝠がだいぶ墜ちている。
見晴らしが良くなってきたタタラの側にポルパロッタが伏していた。他の4人は固まったように動いていない。バンドなど抜刀途中で止まっているから、先の王戦と同じかもしれない。毒なのか魔法なのかは分からないが戦いの最中にまったく動けなくなるなんて恐ろしいね。それともひとりで数十人吹っ飛ばしているタタラのほうが怖いのかな。・・・あ、バンド動いたね。タタラも時間経過で動けていたし効果時間はそう長くないか。それでも死活問題だけど。
硬化が解けた小隊長らは道を阻む者だけ蹴散らしながら1番隊を挟み撃ちにかかる。タタラに今もなお挑めている者は一撃で吹っ飛ばされなかった者だけだ。あの狼、遠目に見ても笑ってるんだよね。"入れ替わり立ち替わりかかってくるのをいなすレクリエーションだ"と言ってたしな。
到着とほぼ同時に竜巻がおさまった。挟み撃ち・・・かと思ったが、小隊長同士でやり合うことにしたようだ。1番隊小隊長から解放された生き残りの3番隊はカイル老へと目標をかえる。敵が強くなってる上にすでに疲れているようにみえるが1番隊に倣うらしい。
目標の人物はとみれば、蝙蝠はすべて堕ちて、けれど副官は攻略できたようだ。3番隊の4人中3人も白旗が上がっているから結構な接戦だった模様。残った者同士で戦っていたが3番隊の増援がたどり着く前に白旗が上がった。
「さて、押し通らせてもらおうか。」
カイル老も笑ってるね。武官なんて職業で上まで上り詰めるような人物は種族問わず戦闘狂なのだろう。好きじゃなきゃやってられなそうだもの。タタラよろしく3番隊をなぎ倒しながらご老公が突進する。1人ずつ相手にする気はないようだ。置いて行かれた者は慌てて追いかけていくが、小隊長らの戦線に引っかかって逃してしまう。ひとりではするりと抜けられても団子状態では難しかったようだ。
「(ひでぇなあ。こっちはちゃんと相手してやったってぇのに。)」
「そう言いなさるな。儂も遊びたいのだよ。」
そう言って1対1の勝負が始まった。タタラの周りには白旗だけだ。巻き込まれないようにそそくさと撤退していっている。
中央の戦いも完全に1対1になってしまっていて、入り込めない3番隊員は一斉に白旗を上げた。あとは上官に任せるらしい。伸びた隊員を介抱したり、蝙蝠を拾い集めたりと、どこか激しさを増した勝負を完全放置で訓練終わりのムードが漂っている。
僕も手伝うか。クッションから退きがたくは思うが今これが必要なのはもう僕じゃないだろう。戦いの巻き添えを食らわないように安全そうな場所へと向かう。
「(ヌル、もう平気なのか?)」
(運ぶくらいなら私にもできるから。)
「(そうだな、分割されてる分軽いし。よし、それじゃ頼むよ、まとめて寝かしてやっといて。服も一緒にな。グラッチェ、お前も行け。いっとき抜けるのを許可してやるから、忘れる前に出すもの出しておけ。)」
「(うへぇ・・・どこやったけなあ・・・。)」
「(気合いで探してこい。ヌルに手間かけさせるな。)」
「(・・・キリだって出してねえじゃんよ。)」
「(俺はどこに置きっぱなしか覚えている。・・・ああ、ヌル、すまんな、訓練後に出しに行くから許してくれ。)」
(助かる。・・・キリ、でいいのか?)
「(ああ。皆そう呼ぶ。キリュリィーネだ。あそこで倒されている情けない熊の副官を務めている。よろしくな。)」
(こちらこそ。)
服の裾を風呂敷のように持ってそこにのせてもらった。蝙蝠を間近で見るのは初めてだが意外にふさふさと可愛らしい。のせきれなかった蝙蝠と、スィルの隊服と下着、靴や武器などはグラチェノーレが持ってくれている。裂けてる部分からうっかりこぼさぬよう気を付けながら歩く。キリは熊を介抱してくると走っていった。彼も何の獣人か分からないんだよね。
「(なあ、あれださねぇとそんなにまずいん?俺たいしたもん買ってねぇんだけど。)」
(出さなかった場合、来年のおやつが無くなるが。)
「(そんくらい俺買ってくるけど?)」
(自腹を切るのは自由だが、もしグラチェノーレが退役したら誰が支払うんだ?まあ気のいいのが多そうだから誰かしら持ち込むかもしれないね。けど、ここのおやつ代って予備費の役割もあるからね。急な出費があればおやつ代で補填してる。だから請求がないと予備費が削られていくって事になるの。)
「(予備費って、変なの。)」
(優しい仕組みだよ。食欲旺盛な武官を慮ってわざわざ予算くれてるんだ。おこづかいみたいだよね。用途も特に問うてない。折角割り当ててくれてるのに何もこちらから無にする事はないでしょ。)
「(つかわねぇでとっときゃいいじゃん。)」
(ここは家庭じゃなくて公の組織だから、そういうわけにもいかないんだよ。蓄えるのは武官の役割じゃない。3番隊として国の予算をへそくるのは無理だ。予算が余ると要らないとみなされて減るだけなんだよ。まあ、金じゃなくて物に換えれば置いておけるから全くできないわけじゃないんだけど。そもそもね、個人の出費で賄うのが当たり前になるのはよくないよ。そんな前例は作るべきじゃない。公私は分けるべきだ。グラチェノーレ、おやつ以外も出してないでしょ。)
「(む・・・えっと、なんだっけ、ああ、騎獣の餌か。)」
(個人的に3番隊の為に使いたいっていうならとめないけどね。公の使いとしてお金を使ったなら出しなさい。それが、仕事ってものだ。できないのは職務怠慢だからね。しいて言えば上官の管理不行き届きだ。3番隊の評価が落ちる。)
"それは嫌だな"と顔をしかめるグラチェノーレは思っていたより若そう、というより幼そうだった。大人びた顔していたから読み違えた。実年齢はしらないが少なくとも精神年齢は低い。タタラから隊には行き場のない獣人も所属してると聞いていた。里は遠く、身寄りがいるかも分からず、だがいずれ帰る日の為に力を付けたいと入隊してきた獣人。グラチェノーレがそうなのかもしれない。3番隊は獣人だけだから家のように落ち着くんだろうね。"公"じゃなくてこここそが"私"になっているようだ。
衣食住完備で給料もよい武官はなかなかの人気職らしい。もし見習い卒業後に入隊できなくとも受けた教育と訓練はその後に役に立つと、半ば学校のような感覚で試験を受けに来るから、毎年の新規宮仕え募集獣人枠は狭き門となる。だが最終的にその多くは宮仕えにならず普通に街で働いている。長命な獣人であるし、今は戦争もしてない為、軍に新規人員募集がかかることが少ないからだ。一応、卒業者で宮仕えにならなかった者は"一般兵"という職に就くことができる。年に数度の訓練参加と有事の際の強制出動を条件に少ないが給金がでるそうだ。ここに居を構え家庭を築いた獣人の多くは一般兵を兼任しており、独り身だと縛られるのを嫌って辞退するケースも多いと言っていた。
敷布まで戻り、とりあえずクッションの間に蝙蝠をざざっと流し込む。グラチェノーレは手持ちをまとめてどさっと敷布の端に置き、"探してくんよ。捨ててはねえからあると思う"と駆けていった。頭上に白旗出たままなのだがあれはいつ消えるんだろう。クッションを整え、改めて蝙蝠をきれいに敷き詰めていく。ちゃんとお風呂に入ってるからか汚ならしくもなく、ふさふさを堪能できる癒される作業だった。下着はそっと隊服に挟んで側に置いておいた。
次の仕事を探しに行くかと腰をあげかければ、一段と大きな歓声が湧いて勝負がついたのを知る。
「(愉しかったぜ。)」
「情けない。身体が鈍くてかなわん。」
「(次に繋げよ?あんたらの強みはそこにあるんだ。)」
「そうだな。本日あれらは強者を知っただろう。自惚れを知り、見下しを恥じ、畏れを覚えた筈だ。明日からの訓練はまた違うものとなろうよ。」
「(新人が多いと大変だな。)」
「仕方あるまい。・・・整列っ。」
タタラも号令を発した。後ろに並べばいいか。
たどり着いた頃には生き残りはほぼ並び終わっていたが、"ここどうぞ"とラルラミュートが手招きしてくれたので、今度は比較的正しい場所におさまれただろう。締めの言葉が交わされ、これにて解散となるかと思った矢先にお呼び出しがかかった。
「(ヌル、何紛れてんだ。今日は顔見せなんだ、前にこい。)」
ああ、これもそうなのね。目立つのは本意ではないが生存戦略なら仕方ない。始まりと違い1番隊も3番隊も同じ向きで整列しているので、いささか短くなった列を一望できる。
「(先にも言ったがヌルは3番隊の文官だ。俺が後見人を務めている。見ての通りひ弱なんで守りをつけてる。これから鍛えていくが今は一般市民以下なんだ。よく見ろよ?力なきを守るのが騎士の矜持だろう。見きわめも加減もできず、志すものもなく、力を振いたいだけなら他の職につくんだな。・・・自分の人生なんだ、己が足で歩め。)」
"見習い"が抜けてる。ひ弱な見目だろうがこの魔法世界じゃ油断できないのだろうが、うっかり一般市民を殺しましたじゃ後味も悪いし王宮の評判も落ちるだろう。僕としても疑わしきを殲滅するような国には住みたくないし、些細な無礼で都度殺されてはたまらない。・・・まあ、あの一戦の意味合いは少し違っていそうだったけどね。
今度こそ解散となり1番隊が退場していく。来たとき同様に隊列を組んでの立派な行進だが、ほぼ全員に白旗が上がっているのが哀愁を誘う。まあ旗無しなんて双方合わせても5人しかいないのだが。2階も撤退作業にはいったが3番隊の面々は残った。
「(おし、お疲れ様。・・・くくっ、結構やられてたな?)」
「(魔力制限かかってるのがきついっすよ。)」
「(ありゃ白とやるときゃもうデフォルトだ。嫌なら剣を合わせるな。)」
「(避け続けるってのもなぁ。やっぱ隊長みたく一撃で吹っ飛ばすしか。)」
「(命盗っちゃ駄目ってのも地味に辛い。)」
「(生け捕る練習だと思えよ。)」
「(戦争の方が楽そうだ。)」
「(それ問題発言だから。せめて狩りにしとけ。)」
「(そうそう。戦争じゃもっと嫌らしくなるなんだから全く楽にはならねえって。)」
わいわいと反省会のようなものをやっている。白の武器には弱体効果が付与されているらしい。種族的な能力差は道具でも補われているようだ。
「(さて、あとは自由にしていいぞ。ああ、俺は相手しねえからな。ヌルで手一杯だ。)」
「(え、ヌルも空いてないって事?)」
「(ずるいですっ。もっとお話ししたいですっ。)」
「(ラルはさっき話してたじゃねえかっ。俺なんて名前すらっ。)」
「(後見人の特権だな。ほら、ちったちった。)」
再び群がろうとしていた獣人は追い払われ、僕とタタラは敷布を敷いた日陰の方へ移動した。スィルだけでなくポルパロッタら気絶組も日陰に転がしてある。負傷組は回復薬を飲みながら壁に寄りかかったり寝そべったりしている。保健室的な場所はないのだろうか。治療班とかいてもいいと思うのだけど。
「(さ、訓練を始めるぞ。)」