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黒の外交官  作者: 鮎味
11/19

11 開幕

イベントとしての催しは始まってもいないのだが個人的にはもう満足した。この後さらに迫力のある実演が待っているのだとしても、帰って事務仕事でもしていたい。肉体派ではないことを再確認したが訓練を避けて生きる道は残されていないようだ。さりげなく戻ろうとしたのだがしっかと腕を捕まれた。



「(何処へ行く?)」


(見学はもう十分かと。)


「(新しい弟子はつれないようだね。)」


「(まあな。だがヌルが選んだ道だ。なあ?)」


(・・・はあ。私にできる範疇を越えてるでしょ。)


「(年齢と線の細さを考えると確かにきついだろうけど、まだ遅くないよ。)」


「(そういうことだ。やらずに見切るなよ、やってみりゃ意外となんとかなるぜ。)」


「(今日は気楽に見てるといいよ。毎日見ているだけでも感覚は掴めていくものだ。)」



分かってはいたが当然のように娯楽扱いではなかった。2階席のオーディエンスと僕では立場が違った。見学は自分のものにするための訓練の一環であり、毎日見ることが求められていた。サーカスで見る演武は凄いと思うが何度も見たいとは思わない。だがそれも目線が変わればいくら見ても見足りないだろう。格闘技も好まないがあっけなく終わらないためには必要だ。これまでは人生に不要な技術だったというのに。


暴力的なのは好かない。あれは見ていて気分が悪い。あの野蛮人の血を継いだとは虫唾が走る。格闘技術とあれは全くの別物で、あれは単に人間性の問題だとは理解しているが、暴力にさして抵抗がない自分はやはりあれの末なのだと思えてしまえば、それから遠ざかりたくなるのも必然だろう。


まあ、仕方ないか。僕がどんな人間かなんて取り繕う相手は今も昔も自分しかいなくて、自身を誤魔化すことは不可能だ。それに今更違いを主張したところで誰もあれを知らないのだ。本当に意味がない。暴力と力が違う事も分かっている。もう子供じゃない。積み重ねてきた性格はすでに変えようがなく、だからこそ始めてみてもいいかもしれない。ここは武力が必要な世界だ。



(わかったよ。・・・観念する。)


「(おう、少しずつ慣れりゃいい。森はいいぜ。街のような利便性はないが心が洗われる。魔素も濃いしな。)」


「(双方良いところはあるからね。行き来できた方が楽しいと思うよ。私もずっと街では息がつまる。))


((あんたは行き過ぎだ。王なんだぜ?もうちっと玉座にいろや。))


((仕事はしてる。今日だってこの後お隣との話し合いだよ。憂鬱だね。))


((近場でよかったじゃねえか。))


((別種族相手の方が楽だね。同族は強欲だから。この土地を欲しがるのは人しかいない。))


((俺らはフィールドの民だからな。遊びに来る分にゃいいが治めたい訳じゃない。))


(・・・魔が薄いからか?)


((ああ。空気が薄いようなもんだ。ここは生がひしめいて濃密だが帰りたい場所じゃねえんだよ。))


((同感だ。私も還るなら森へ、あの場所にと決めている。))


((くくっ、人はこっちの方が住みやすかろうに。))



気安い師弟の会話は途中からやたら頭に響く念のみになった。初めて王の言葉を聞いた時もこんな感じだった気がする。



「(整列っ。)」



タタラが再度号令を発する。3番隊の面々は組手を中断し速やかに整う。僕も並ぶべきな気がするがどこにいるのが適当なのか。この位置でないことだけは確かだがまたも機を逸し、王と隊長に挟まれた形で本日のお相手を迎えることとなる。



「・・・御前、失礼仕る。本日は我ら1番隊に時間をいただき感謝する。フィールドを駆けるその力、しかと学ばせていただく所存だ。」



前に出た髭の立派な初老の男が何かを宣った。一瞬怪訝そうな顔が現れたがすぐに引っ込めたあたり空気を読めるタイプなのだろう。申し訳ない。後ろに控える人数は同じくらいか。年齢層は広く下は見習いといった風情だ。何というか、若い。3番隊も若そうなのはいるのだが、なにせ寿命に大きな違いがある為いまひとつわかりにくい。ラルラミュートあたりは若いと思うのだが・・・それでも下手すると僕と同じくらいかもしれない。


まずは1対1での試合形式だそうだ。開幕は時間の関係で王とタタラの御前試合ならぬ御前が試合。



「(まあ恒例だな。無理やり参加するからそうなる。)」

「(王なんてね、そうでもしないと身体が鈍る一方なんだよ。)」



実に普通の事らしく、恙なく進行していく。2階からは歓声が降ってきてうるさい。人と獣人が半円に別れ取り囲むように武官が並ぶ中、相対したふたりはキンっと剣を1度交わした。



「(弟弟子にいいとこみせてやれよっ。)」

「(老体に酷いこと言うね。)」



喋りながら鍔迫るような刃をぐっと下に押し込んでタタラが仕掛けると王はあっけなく剣から手を離した。



((馬鹿力に張り合う必要ないからね。))



優しい兄弟子は解説してくれるらしい。抵抗の抜けた剣に戸惑うこともなく予定調和のようにタタラの剣は王を薙ぎに軌道を変える。身体の捻りも加わり勢いのあるその一閃を、あろうことか踏みつけ、王は後方に跳んだ。



((これは真似すんなよ?踏むトコ間違うと身体もってかれっから。))



できないから。踏んだ場所までは見えなかったが恐らく柄近くだったと思う。むしろあれは蹴りか。跳び退いた徒手空拳の王は懐から何やら取り出して一直線に放つ。タタラは剣に左手を添えるようにして正面に構えた。切り落とすでも避けるでもない。そのまま被弾するかと思えた碁石のような物は、あたる直前に壁にぶつかった様に弾かれてぼとぼとと落ちる。爆発するようなこともない。不発だったのか?


不自然に動かないタタラに対して、投げると同時に駆けだした王は、剣を持つ手を牽制するように押しやり顎に掌底を叩き込む。軽くのけ反りバランスを崩したところに後ろ回し蹴りで後頭部に一撃、さらに畳みかけようとしたところでタタラが吼える。


びりびりと空気が振動しリズムが崩れた隙を剣が突く。


王は器用に攻撃の軌道を変えて避けた。距離をとり構えたその手にはいつの間にやら剣が戻っている。



「(ったくやらしい攻撃を覚えたもんだ。若さがねえよ。)」



こきこきと首を回す。素人目にもさぞかし脳が揺れただろうなと、気持ち悪そうに思うのだがそうダメージはないようだ。



「(老獪って言ってほしいね。)」



見えない攻防はわからないがここは魔法世界だ。あの碁石に何か仕掛けがあったのだろう。明らかにタタラの動きが止まっていた。しかしながら双方容赦ない。下手を打てば致命傷になりそうな気もするがどう見極めているのだろう。この程度は大丈夫だと信頼しているのか、はたまたあの勢いでも寸止めできるのか。これを、やれと。いやここまでは求められてないだろうが僕の希望という名の強制力が重い。


ざっと地を蹴る残響に意識を戻す。互いに間合いを詰め、剣での応酬が始まった。


繰り出す剣は互いに防ぎ合い決定打に欠ける。それでも掠る事はあるようで血が滲むのがみえる。剣撃の合間にも蹴りが入る器用さだがそれも互いに読んでいるのか、まるで形稽古のようだ。だがついに押し負け弾かれた。王もだがタタラにとっても剣は命じゃないようだ。邪魔とあれば手放して、ああ、足払いのような下段から腹、次いで首へと連続で回転蹴りが入った。人がリアルに飛んでいくんだがあれはどのくらいの威力なのだろう。交通事故と同じに思える。


被害者は頑丈ですぐに身体を起こし、おもむろに剣を投擲した。


それなりのスピードがあったものをついと身を躱し、ついでのように刀身を指で挟み持つように受け止めたタタラは人じゃないね。うん、人じゃないんだけど。獣人に外であっても敵対するのはやめたいと思う。



「(奪い取れ、その自由をっ。)」



王の発した言葉に呼応するかのように剣が消失した。代わりに空間に紋様が見えた気がして、錯覚かと瞬いた後には勝負がついていた。鎖に動きを封じられ首筋にナイフがあてがわれたタタラが膝をつく。雁字搦めに拘束している鎖は4方に打ち込まれた楔から伸びていた。



((ふうっ。これがね、捕縛の仕方だよ。獣人とまっとうにやりあっちゃ身が持たないからね。))



周囲から歓声があがり、負けたタタラは苦笑う。



「(やられたなぁ。それ魔道具かよ。)」



ガキン、ガキン、と鎖が千切れる。


・・・なるほど。鎖ごときじゃ封じることができないから止めをさしにいったのか。2階から降り注ぐやかましさは減ったが現場は賑やかだ。獣人サイドから漏れ聞こえる念で剣の仕組みについて盛り上がっているのがわかる。



(おつかれさま。)



戻ってきたタタラに労いの言葉をかける。王には会釈だ。言葉遣いをどうすべきか、そも話してよいものか判断に迷った末、タタラに話しかける(てい)になってしまっている。



「(みっともねぇとこ見せちまったなあ。)」


「(なんとか体裁は保てたかな。)」


(教材とするにはレベルが見合わないけど、特に剣戟は形のようにきれいだった。頑丈だよね。前後に頭揺られたタタラも3段蹴りくらった王もダメージが残っているようには見えない。)



王の元に供の騎士がやって来た。自由時間は終わりとばかりに背に担いだ大剣を王に渡す。会話を中断されて"無粋だね、師弟の会話くらいみのがしてよ"とおどけたように笑いながらもてきぱきと装備を整えていく。



((タタラ殿、ヌル殿、歓談中失礼した。))

((私には失礼じゃないの?・・・それではね、また会おう。ヌル、安心おし、アースの加護は良い方に働いているよ。きっと望む余生を送れる。))



フルフェイスの兜で中身はわからないが念だったから獣人なのかもしれない。王のように念を使う人かもしれないが。王は観衆に向けて何かのたまい、足早に退場していった。本当に時間がないようだ。



「(それじゃ続きだ。今日は混戦の訓練なんだ、サシでやんのはあと2組までな。)」


「タタラ殿はいつも王にとられてしまうな。儂のお相手はどなたが?」



挨拶をした髭の初老が中央に進み出る。



「(俺がしよう。)」



名乗りと共に羽織を脱げばぼふっと羽根が広がる。あれで下半身が鳥だとハーピィだね。雄は呼び方違うのだろうか。


ポルパロッタは空中戦を仕掛けた。腕は翔ぶのに使ってしまうから剣は腰に佩いたままだ。空から降り注ぐ風を斬る攻撃は、てっきり羽根を矢のように撃ち込んでるのかと思いきや何も刺さっていない。挨拶がわりとでも言いたげな遠隔攻撃の後は急降下と飛翔のヒット&アウェイだ。足癖も悪いが羽根そのもの・・・腕でも攻撃している。金属音がするから何か仕込んでいそうだ。


まあ、全てを防がれているが。



「それほどに空は良いか。ならば、参ろう。」



防戦一方だった初老が地を蹴り空へ駆け上がる。・・・実際見ると凄いものだね。羽根のない身で空を歩くなんて夢がある。あの魔法は難しいのかな。


地の利が無くなれば腕に自由の効かない方が分が悪い。羽ばたきつつ蹴り技で応酬するが地上ですら弾かれてたのだ、勢いが足りない今、押されるのは当然だ。距離を空けようにもぴったりとついてこられ煩わしそうに顔をしかめる。



「(大人しく地に暮らせば良いものをっ。)」



勢いよく地に降り立ち剣を抜くと羽根が舞い上がった。



「届かぬものには憧れるだろう?」



追うように着地した初老に向けて今度こそ羽根がダーツの如くとんでいく。それは切り捨てられたが小爆発を起こした。怯んだ隙に間合いを詰め連撃をくわえる。爆発によるダメージはないようで避けていなしてと守りが堅い。だがそれでもランダムにとんでくるカッターのような羽根に邪魔され先程までよりもポルパロッタがおしている。


・・・技術をみるべきなんだろうがポルパロッタの身体の方が気になる。飛ぶにあたり仕事中は羽毛だったものが風切羽として急成長した、のだと思う。あのダーツは剣を持つ際に抜け落ちたものだ。羽ばたきは静かでよく風を掴んでいそうだがあの角度で腕を振るのは辛い。関節の構造も違ってそうに思う。見た目は人寄りでもその仕組みは全く異なるのだろうね。先祖が猿ってことはないだろうし。


押していたはずのポルパロッタが急に飛び退いた。羽根が少なくとも空に浮かぶような優雅な跳躍だ。羽根以外にも飛ぶに適した何かがあるのかもしれない。



「(お返しだ。)」



初老を囲むようにざりざりととぐろを巻きながら出現した石の鎖が蛇のように首をもたげる。初動は王の剣より遅い。が、獲物を見定めた後は速かった。ガードした上から容赦なく巻き付いて何事もなかったかのように固まった。


きっと脱出はできるのだろう。だがそれを牽制するように、残っていた風切羽が全て眼前で止まっている。あれは嫌だな。性格悪くないか?



「(そこまでだ。次行くぞ。)」



タタラの令で羽根は地に落ちた。予想通り初老は石を割って自力で出てくる。人を敵に回すのも嫌だな。戦えない人だって、インドアな獣人だっていると知識はあるがここでの水準はこれなのだろうか。



「こちらからは見習いをだそう。」


「(へえ。なら・・・ラル、行ってこい。)」


「(はいっ。)」



外周から前に進み出た若者と目があった。



「指名させてくださいよ。その人も3番隊なんでしょう?そんな見目して高名な隊長様の弟子って言ってましたよね、なら問題ないはずだ。」

「わきまえないかっ。」

「勇者の再来って噂ですよ?王とも懇意なようですし。是非手合わせ願いたい。」



ラルラミュートが前に出ているのだが、何故こちらを見る必要があるのか。目つき、表情からどうも糾弾されているようだが内容が分からないことには謝罪もできない。大方礼儀がなっていないとかだろうが。王にも礼をとっていないしね。ああ、ラルラミュートが困り顔になっている。対戦相手が試合そっちのけじゃねえ。



((ヌルさん、そいつ、試合の相手に貴方を希望してます。))



・・・は?



((そうだなあ。ヌル、立ってるだけでいいから矢面を経験してみるか?))


(無理。)


((そうですよっ、訓練だってまだなのにっ。))


((まあな。けど意外と平気だと思うぜ。なあ、ヌル、あんた見えてるだろ?自覚はあるか?))


(・・・そういえばそうだね。見えてたわ。これも魔法か?)


(("見よう"とした結果動体視力が強化されたんだろ。ヌルの魔法は俺ら寄りだ。赤子でもな、俺ら魔の生き物は多少の害悪にゃ抵抗できるのよ。あいつは弱い。それに1回は死ねるから。))


(・・・死んだらトラウマにならないか?)


((死んでもよかったんだろう?))



"ヤバそうならドクターストップはだしてやっから"と、前線に送り出された。スパルタだ。"とりあえず経験してこい"とこちらの意思(No)は通らなかった。心配顔のラルラミュートと交代する。魔法ね・・・使っている自覚がない。そんなものに頼らなければならないなんて心もとないことこの上ない。お守りのありがたい効果をこんなつまらないところで消費するのは勿体ないが、まあ、命は普通ひとつだ。



「化けの皮を剥いでやろう。俺はキルファガングが末子にしてその後を継ぐ者である。」



"弱い"と評された若者の事は何も知らないし、僕と試合う意味も不明だが・・・単に気に食わないだけかもしれないね。アースだって事がか、それ以外かは分からないけど、その顔からは加虐的な嗜好が滲み出ている。あまりよい性格ではなさそうだ。



「言葉もしらないか。」



音が吐き捨てられると同時に攻めてきた。丸腰相手に剣を抜くのは魔法世界だから普通なのだろうけど、相手が小物だって、見て分からないものなのだろうか。そして本気で斬りかかる気なのだろうか。避ける能力も、防ぐ能力もないと知れば寸止めしてくれるかな。いや、弱いってことは下手だってことだ、中途半端に斬られそう。それだと命が失われずお守りが発動しない。ただ痛く苦しいだけになってしまう。それは嫌だね。


勢いのありそうな感じなのにスローモーションな世界が命の危機に脳がフル回転した結果なのか、無意識の魔法なのかは知らないが、手の届く範囲まで迫られても身体は動かない。思考しか追い付いていない。剣が肩にあたりそうな軌道を描き始めても表情が変わらないから向こうに退いてもらうのは無理そうだ。嗤ってるしね。それなりに深く入りそうだけど即死はできなそう。どこを通るのかは分かった。ならそこに僕がなければいい。


・・・なんて荒唐無稽な事を考えているうちに剣が身体を抉って抜けていった。気持ち悪い。更に斬りつける気のようで軌道がこちらを狙っているが吐き気が酷くて思考が回らない。見えているだけだ。腹を通過した次は首へと向かう。普通に殺しにきてないか?いや、その方が。


急所を斬りつけて満足したか、若者が距離をとった。


ああ、息苦しい。力が抜け膝が折れる。これが死ぬと言うことか。早く死にたい。苦しいのが長引くのは辛いじゃないか。この下手くそが。恨みがましく睨み付けてやった。


・・・希望に反して意識が遠退くことはなく、だが息苦しさは消えていった。気持ちの悪さはまだ健在だ。生き返った気は全くしないが命は守られたようだ。



「・・・どういう、ことだ?」


「(そこまでだ。満足したか?無抵抗の者を刻むとは歪んでいるな。ヌルは勇者ではない。3番隊に所属はしているが文官としてだ。暴力にさらされたのも今が初めてだよ。カイル殿、その者は荒くれ者にはなれても騎士にはなれん。素質がない。)」


「そうだな。まさかきまりを取り違えるとは。もう少し望みがあるかと思っていたが甘かったようだ。」


「(よろしく頼む。)」



試合(リンチ)は終わったようだ。たった3振り受けただけの短い試合だった。3番隊の面々が駆け寄ってくる。向こうは幽霊を見るような目でこちらを見つめたまま固まっていたが、引きずられるように演習場そのものから退場していった。



(御者の守りがあるからとはいえ、隊長も無茶させる。)

(怖かったでしょう?)

(休んでろよ。ほら、歩けるか?)

(・・・ふらついてんな。ああ、魔力切れかかってんのか、これ飲んどけ。)

(それてっちゃんだから。怪しいものじゃないぜ。)



どうせなら健康な状態まで戻すサービスを求めたいが、死んだ身を生き返らせてもらっただけで感謝するべきなのだろう。気持ち悪さは治まってきたがひどくダルい。渡された小瓶を飲み干す。部屋で飲んだものより味がかなり悪い。もしかして薬にすると不味くなるのか?


礼を言い、支えてもらいながら中央から退くべく歩き出す。



(すまんな。トラウマになったか?)

(どうだろうね、同じ状況になってみないとわからないな。)

(くくっ、少しはなっとけ。ああも平然とされちゃこっちが不安になる。)

(理不尽だなあ。)



向こうの・・・カイル老との話は終わったようだ。外周で待っていたタタラに謝罪された。必要あってのデモンストレーションだったのか。それにしても酷い師だと思うが。



(今度美味しい(回復薬)奢れよ。それで許す。ああ、これもグレード上げて返してやってくれ。もちろん自腹でだ。経費は落ちないからな。)



貰った小瓶をタタラに渡す。"了承した"と笑いながらがしがしと頭をなでられる。



((身体を張ってくれたお陰で良い結果を得た。ありがとな。))



それは何よりだ。(回復薬)をくれた狼系がガッツポーズをとっているからやはりあれは安い葉っぱだったのかもしれない。だがちゃんと効いているようで楽になってきている。



(面白かったぜ。)

(だよな。無茶しやがる。)

(やっぱり訓練したほうがいいよ。)

(もっといい方法で身を守れるようにしような。)



相変わらず一斉に喋る(念がくる)ものだから全ては聞き取れない。大きく強いものだけが意味を持ち、後はがやがやと紛れてしまう。だがそのガヤも労いと称賛であることは感じ取れる。



(役に立てたならこのお守りも無駄じゃなかったんだろうね。)

(ん?・・・ああ、なるほど。くくっ、いいねえ。)

(なんだよ。)

(いや。・・・ほら、ラルが休むとこ作って待ってるぜ。行ってやれ。)



促されて目をやると訓練場に似つかわしくない空間が構築されていた。塀の影に敷布が敷かれ、クッションが積んである。どうやら試合を見ずに先を見越して準備してくれていたようだ。・・・いささかやりすぎにも感じるが好意はありがたく受け取っておこう。

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