おっさんに拾われる
おっさん登場ー
イケメンおっさんです。
「……い」
あのまま流されてどうなったんだろう。死んだのかな。だったら、きっと死因は溺死だと思う。
じゃあ、ここは死後の世界?
にしては真っ暗だ。社会科の授業で習ったのは、こんなに真っ暗な感じじゃなかったと思うんだが。
「…い、…お………ぶか」
何か、誰かの声が聞こえる。低いから、男の人の声。お迎えでも来たのか?
…ん?待てよ、可笑しい。体に感覚がある気がする。普通、死んだら体に感覚って無いんじゃないの?
もしかして、こんなに真っ暗なのって…
「おい!大丈夫か?」
「んにゃっ」
はい、普通にぱっちり目開きました。やっぱり目を閉じてただけだった。ってか、はっきり聞こえた声が思ったより大きくてびっくりした。
目を開くと、おっさんがいた。日本人っぽくない、なかなかに彫りの深い顔をしている。鳶色の髪と深い蒼の瞳。うむ、なかなかにイケメンさん。おっさんだけど。あ、二回もなかなかって言ってた。
黙ったまま、じーっとおっさんを見ていたら、おっさんは心配そうに声をかけてきた。
「おい、どうした?どっか怪我でもしてるのか?」
あ、そうだ、それ忘れてた。取り敢えず、手を握って開いて、問題無し。体の方は……ん?
自分の体を見下ろして固まった。ぺたぺたぺた…うん、やっぱり。
「大丈夫か、チビ」
「ちょい待て大丈夫じゃない、縮んでる」
そう、縮んでた。そう言えば、さっき何か違和感あったわ。
で、どのくらい縮んでたかというと、5歳児くらい。どうやら、川の畔に倒れてたようなので、そこの水を鏡代わりに確かめました。目で確認はしたけど信じられなくて、ぺたぺた体を触りまくる。ちなみに、「縮んだ」と聞いたおっさんは。
「そうか」
「いや、そうかじゃねぇわ、おっさん」
変な顔をするでもなく、吹き出すとかでもなく、1つ頷いただけだった。思わず突っ込んだよ。もっと呆れられるとかすると思った。
「ところで、お前は何処から来たんだ?」
「そもそも此処どこ」
「此処か?此処はカルヴァン王国の辺境の町、ロダンだが」
「うわ、全然知らねぇ」
さらりと普通は有り得ないだろう出来事をスルーしたおっさんが尋ねて来たので、逆に訊き返すと全く知らない答えが返って来た。目を覚まして最初に見たのがこのおっさんだった時点で、日本じゃないことはわかってたけど、この感じだと地球ですら無さそうだ。遠い目をする郁に、おっさんは更に訊いた。
「全然知らない?確かに此処は辺境ではあるが…それで、名前は?何処から来た」
「……ルカ。遠い、遠いところから流されて来た」
名前は、「郁」から取って並び替えて「ルカ」と名乗った。こういう時、本名は簡単に言っちゃ駄目、って何かで見た気がする。何処から来たか、ってことに関しては、たぶん「日本です」って言ってもわからないように思えたから、只「遠いところ」って言った。まぁ、恐らく地球じゃ無さそうだし、間違ってないと思う。
そうしたら、おっさんは考えるような素振りを見せたあと、頷いて言った。
「遠いところか……ふむ、ルカと言ったか。お前、行く宛は?」
行く宛?そんなの、
「ない」
これは正直に答えた。
「それなら、うちに来るといい」
思いがけない申し出に、目を瞬かせる。
「え…いいの?」
「ああ」
「自分で言うのもおかしいけど、おっさんからしたら見ず知らずの人間だよ?」
「別に構わん。拾った縁だ」
「素性もよくわかんないでしょ?」
「素性なら知っている。ルカだろう?」
あんまりあっさりと言ってくれるので、色々言ったけど、おっさんは私を自分の家に置く、というのを撤回する気は無いようなので、結局はおっさんの家に厄介になることにした。
このおっさんは、良いおっさんなのかもしれない。