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異世界で5歳児からRESTART  作者: 柊 月
序章 不思議な夢と
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不思議な夢、君の名前

作者が見た夢をもとに書いてます~

「ちょっとたんけんしてくるー!」

現実ではいない兄弟達は、荷物が散乱した状態の日本家屋の一室に座り込んだまま、顔だけ上げて返事をした。それを確認してから、早速駆け出した。

小さくて短い、子供の手足。ぱたぱた、とでも効果音が付きそうな足取り。何より、低い目線。

子供の頃の記憶等、とうの昔に忘れてしまっていた筈だけど、“この自分”はどうやら小学校低学年、6、7歳くらいだろう。

そんな幼い子供にとって、見慣れない場所は格好の遊び場で、肉体は年相応の行動をとる。そんなふうに、いつの間にか肉体と乖離(かいり)していた精神はただぼんやりと、客観的に「自分」を見詰めていた。

ぱたぱた、と小さな身体で走り回る。兄弟達がいた建物、離れ、広い庭。一般家庭にとっては不釣り合いな程に広い、旅館のような場所だった。

そもそも、ここは“家”なのだろうか?それとも旅館なのだろうか。そのことやさっき見た兄弟の顔、全てが(もや)がかかったかのように何処か曖昧だというのに、動き回る小さな身体が「自分」であるということだけは、理屈なしに確信めいたものを持っていた。

散々走り回った「自分」が最後に辿り着いたのは、珍しく母屋と離れて建つ、些か不便な御手洗いだった。しかし、本命はその手前にある小さな池らしい。

ひょい、と屈み込んで覗いたその池は本当に小さかった。最早池というよりは唯の窪みのようなそれは、コンクリートで形作られている。澄んだ水が張られただけのそこには、鮮やかで淡い、一匹の魚が尾を揺らめかせていた。



そして、時は流れる。

「自分」は成長していた。小学校高学年くらいだろうか。以前よりも伸びた手足で、以前より高い目線で、周りを見ながら歩いている。

向かったのは離れた所にある御手洗い、その手前の窪みだった。一度は御手洗いの中に入ったものの、直ぐに出て、窪みの縁に膝をつく。小さな長方形の窪みに満たされた水は汚れ一つ無く清らかで、相変わらず美しい魚がそこにいた。

今までに知っているどの美しい魚達とも違っているようで、似ている“それ”に言葉を投げ掛けた。


「…やっと、話せるんだね」

『貴女が成長したからよ』


応える不思議な声が頭に響く。


「そっか。話せるようになって嬉しいな」

『私もだわ。私の声を聴くことが出来るのは、貴女くらいだもの』

「そうなの?」

『ええ、そうよ。私の声は、資格無き者には聴こえない』


告げられた“資格”という言葉に首を傾げる。


「しかく?じゃあ、わたしには“資格”があるの?」

『ええ』

「それって、なぁに?」

『今はまだ、それを知る時では無いの。でも“刻”が来れば、いずれ判るわ』

「…ふぅん」


膝をつく“自分”の前に留まっていた“彼女”は、ゆらりと優雅に(ひれ)を動かして続けた。


『ふふ、拗ねないで頂戴(ちょうだい)な。もう少し…きっともう少しよ。そう長くは無い』

「…ほんとに、もう少し?」

『ええ、きっと。だから、“其の刻”が来たら、私を呼ぶといいわ』

「あなたを?」

『私を』

「でも、名前知らないよ?」

『そうね…』


姿は魚なのに、魚らしくない綺麗な瞳が見上げてくる。


『貴女にだけ、私の名を教えてあげる。喚ぶことを許してあげる』

「私、だけ?」

『そう、貴女にだけ。契約者以外は誰も知らない、真の名を。私の名はー…』



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