魔法少女のテンプレは体感するとある意味泣きそう。
お久しぶりです。ひどいスランプ中の作者の勢いと思いつきとリハビリのための垂れ流し。
それでも良いという心の広い方のみどうぞ。
「やめて!それ以上の乱暴は許さないんだから!!」
荒れ果てた大地に、全ての騎士や魔法使い達が倒れ伏したとき、その声は響いた。
「マジカルリリカル、お花さん、みんなを助けて〜〜!!」
突如、現れた少女がクルクルと回りながら手にした可愛らしいピンクのステッキを空に掲げて叫んだ。
膝上15センチのミニワンピが少女の動きに合わせてふわりと広がり見えそうで見えない絶妙のラインを描く。
こぼれ落ちそうな大きな瞳は祈るように天を仰ぎ、キュッと噛み締められたプルプルのピンクの唇はとても可憐だ。
と、少女の祈りに応えるようにステッキの先から七色の光が飛び出した。
真っ直ぐに天に伸びたソレは途中で放射線状に分かれ、世界を美しい七色に染める。
そしてその光の中何処からか現れた色とりどりの花達がまるで雨のように降り注いだ。
そうして、光が、花が触れた所から奇跡が始まる。
荒れ果てた大地に緑が。
枯れた泉や川に水が。
今にも生き絶えてしまいそうに地に伏していた動物達が動き出し、少女の元へと駆け寄っていく。
体を駆け上ってきたリスの尻尾に頬をくすぐられ、少女が擽ったそうに笑う様子を同じように力尽きようとしていた人々は信じられない思いで見つめていた。
体についていた致命傷どころか、失血による倦怠感すらない。
枯渇していたはずの魔力まで完璧に戻っているのだ。
「………これは、なんだ……」
春の光に包まれたかのような穏やかな心地よさに呆然とつぶやかれた言葉に被せられるように、おぞましい叫び声が響く。
まるで灼熱の炎に焼かれているかのような叫びに、人々はつい先程まで自分たちが対峙していた脅威の存在を思い出した。
全てを汚し、滅ぼし、無に還す悪魔。
突如現れ、自分たちの世界を壊そうとした存在。
どんな魔法も武力も、その前には児戯に等しいほど圧倒的な力の差があった。
それでも。
無駄と知っていても時間稼ぎにすらならないと分かっていても、せめて一矢報いるために、大切な人たちを守る為にと前に立った自分達を、薄ら笑いを浮かべながら嬲り遊んでいた存在が………。
地に伏し、苦痛に悶え苦しんでいた。
まるで、先ほどの自分達のように。
「……本当に、どうして……」
信じられない光景に、幾つもの疑問が浮かんでは消える。
だけど、そんな疑問よりも何よりも「もう大丈夫なんだ」と言う圧倒的な安心感が湧き上がって人々の体から強張りを抜き取っていってしまうのだ。
「彼女」が来たから、もう大丈夫なのだ、と。
「何者だあ〜〜!キサマァァ〜〜〜!!!」
目の前の奇跡の様な光景を引き起こし、まとわりつく動物たちと無邪気に戯れていた少女は、その声に、キュッと表情を引き締めると、怯える動物達を守る様に一歩、前に出た。
「弱い者イジメなんてしちゃダメなんだから!悪い子にはお仕置きよ!?」
両手を腰に当て仁王立ちになって怒る少女に迫力は全くなかった。
それなのに、なぜか背中に庇われた安心感は半端ない。
「そこに救いを求める声がある限り、助けを求め伸ばされる手がある限り、女神様は絶対にお見捨てにはならないのです」
少女が腰に当てていた手を、何かを抱きしめようとするようにスッと横に広げた。
唇には柔らかな微笑が浮かぶ。
それはまさに、女神の微笑み。
「女神、だとぉ〜〜?!?」
威嚇するように叫ぶ声に怯むことなく、少女はキッと相手を睨みつけた。
口元に浮かぶ笑みも包み込むような優しいものから不敵なものへと変わっている。
それは、たしかに戦う者の顔だった。
「愛と正義の女神ラライアの使者!」
少女が高らかに叫んだ後、まるでダンスを踊るように優雅にステップを踏み、くるりと回った。
「荒れ狂う風にも負けず凛と咲く、一輪の花!」
タンっと踵を鳴らし、少女が花のレリーフのついたステッキを片手で掲げ、もう片方を可愛らしく頬に当てて、ポーズをとってウィンクする。
「ラブリーフラワー、りりか!参上よ!!」
それは、後世に語り継がれることとなる正義の使者が地上に舞い降りた瞬間、だった。
「沙也加さんや。コレ、本当に着なきゃダメなのかい?」
げんなりとした表情でハンガーに吊るされた衣装を見て呟く私に、十年来の友人は呆れたようにこっちを見た。
「まだ言ってんの?賭けに負けたの菜月でしょ?しかも、自分から言い出した」
冷たい目に、うぐっと唇を噛みしめる。
それはひと月前の学期末テストのこと。
『勝った方が負けた方になんでも1つ命令できる』
学生にはよくあるおふざけだと思うんだよ。
絶対的な自信があったし、さらに言えば過去の実績だってちゃんとあった。
勝てるはずの勝負だったはずなのに、結果は惜敗。
なぜなら、私がケアレスミスで大量失点したからだ。
「なんで、あそこで名前を書き忘れたんだ、私………」
「私の運の良さを侮った自分の愚かさを恨みたまえ。さ、潔くきがえて」
そう。
ここぞと言うとき、なぜか幸運を引き寄せるこの友人に対し、なぜかやらかすのがこの私。
あれだけ条件良ければ、覆せると思ったのに、またもジンクスに敗れて今がある。
「今度のイベントで一緒にコスする事」
無情にも沙也加が言い渡したのは悪魔の命令だった。
「いゃあ、絶対似合うと思ってたんだよね〜、りりかコス。私じゃ出来ないからサァ」
その道ではちょっと有名な現役女子高生コスプレーヤーの沙也加はブルーのカラコンを入れながらケラケラ笑う。
スラリと高い身長と同性でも見とれたくなるほどのメリハリボディ。
「そりゃあ、出来ないでしょうよ」
悪態をつきながらも、ため息をついて諦めとともに用意された衣装に袖を通す。
パステルピンクのヒラッヒラの装飾過多なミニドレス。
フンワリしたパフスリーブに胸元の大きなリボン。幾重にも重ねられたパニエスカートにニーハイソックス。靴はもちろん厚底ヒールのショートブーツだ。
鏡の中にはいかにも日曜朝にテレビの中で正義の味方をしている女の子な格好をした私がいた。
「パンツ見えるよ〜〜」
崩れ落ちた私を横目で見下ろしながら、沙也加が足先で突いてくる。ひどい。
「アンダースコート履いてるし!」
「ハイハイ、髪してあげるから座って〜〜」
恨みがましく睨みつけてもどこ吹く風で鏡の前に座らされ、慣れた仕草で髪を整えられる。
腰まである髪はクルクル巻かれてツインテールに。
ドレスとお揃いのピンクの大きなリボンを飾られれば、魔法少女りりかの出来上がり。
泣きたい。
「コレでカラコン入れてくれたら完璧だったのに!」
「体質的に無理!」
青い眼で見つめられても無理だって。
試着して見たけど、涙で目が開けられなくなったもん。
「………これは変装。コレは変装。きっとここまでやれば誰も気づかない………」
鏡の中を睨みつけ、暗示をかける。
夏のイベント、参加したことはあるけれど出没ブースがそもそも違う。
私は薄い本を買う専門だったのに。
これだけはと今まで頑なに逃げ続けてたのに………。
「写真嫌い。人前嫌い。そもそも、こんなキャラじゃないのに……」
暗示をかけてたはずがいつのまにか恨み言に変わってきてる私の髪を沙也加が引っ張る。
「はいはい。ここまできたら楽しみなって。今から君はりりか。お花と動物と可愛いものが好きで、ちょっとドジっ子だけど頑張り屋の女の子」
「…………了解」
渋々頷くと、よろしい、と頭を撫でられる。
優しい笑顔に肩を落とした。
最近嫌なこと続きだった自分を励まそうと、沙也加が自分をここまで引っ張ってきたのも本当はわかってる。
悪気なんてなくて、自分の大好きなことを分けてあげたいと心から思っている事も。
ただ、その「楽しい事」が、目立つのが苦手な自分にはちょっとハードルが高いってだけでな!
「負けは負けだし、やりますよ!やりますとも!」
ヤケになって叫べば、ペンっと頭を叩かれた。
「キャラ設定と言葉使い、忘れたらその分の回数後でしばくから」
………笑顔が怖いよ、沙也加さん。
「りりかちゃ〜ん、こっちにも笑顔ください」
「さららちゃんも、お願いします〜」
周りを囲まれ、声をかけられる。
人気があるのは知ってたけど、此処までとは思ってなかった。
外に出た瞬間からカメラ持った人にグルリと周りを囲まれる。
怖いよ!
そして、アングル低いよ!?
緊張で引き連れば、繋いでいた手に力が込められた。
痛い!
「りりか、スマイルよ?」
サラサラの黒髪を揺らして小首を傾げるあなたの目こそ笑ってませんけどね?!
「う………うん、さ………ゃららちゃん」
危うく本名呼びかけて言い直す。セーフ!セーフだよね?
そこから始まる撮影地獄。
そこここから飛んでくるポーズリクに応える余裕などあるはずもなく、となりの沙也加に促されるままあっちに笑顔こっちに笑顔。
時々始まる沙也加の小芝居に付き合わされて見たりと……私、頑張った。
超頑張ったと思う。だから。
「さららちゃ〜ん、疲れちゃったヨゥ。お腹すいたヨゥ」
甘え口調で上目遣い。
どうだ!キャラ設定崩さずの「休ませろ」要求は、どうやら沙也加のお眼鏡にかなったようで。
その瞬間に激しくなったフラッシュに残り少ない精神力もガリゴリとげずられたけど、素に戻れる時間のためなら………時間のためなら。
「もう、りりかったらしょうがないわねえ」
お姉さんキャラそのままの口調で頭を撫でられるのに「やったぁ〜〜」と両手を万歳させる小芝居だってしますとも。
そうして、浮かれ気分でコスプレイヤーさん専門の休憩ブースへと向かっていた時。
人混みを縫うように近づいてきた男の人の俯いていた顔が見えてしまったのは私の身長が低かったからで。
そして、その瞳が暗く濁っていた事も、その手に隠すように銀色に光る何かが握られているのに気づいてしまった事も、本当に些細な偶然で。
「沙也加〜〜!君は僕のものダァ〜〜!!」
奇声と共に一気に駆け寄ってきた男と沙也加の間に体を滑り込ませたのも何を考えてのことでも無かった。
ぶつかられた衝撃を受け止めることが出来ず、後ろの沙也加ごと倒れこむ。
床に倒れた衝撃は沙也加にいったみたいでほとんど痛く無かった。それよりも、まえからのしかかってくる男の体重が痛い。てか、苦しい。
咄嗟に押し返した時、ゾロリと体の中から何かが引き出されるなんとも言えない感触がした。
「あ、やば」
妙に冷静な思考が、声になって溢れた。
男の手にはまだしっかりと握られた銀色。それにまとわりつく赤……。
一瞬の静寂の後、上がった悲鳴は誰のものだったのか。
「ウワァァァア!!お前、誰だ!!誰だよ?!?」
その悲鳴に触発されたようにさけび出した男が再び銀色を振り上げた。
反射で腕が顔の前に挙げられて、どこか冷静な思考が(防御瘡ってこうやってつくられるんだ)なんて人ごとのように考えてた。
だけど、その銀色が腕に当たる瞬間、男の体にどこからか黒い塊が飛んできて当たった。
結構な重量と勢いがあったそれに、男の体がバランスを崩す。
と、それの後を追うように次々と男めがけものが投げられる。
どうも、周りにいたカメラマンな人が、反射的に手に持ってたカメラ投げつけて、それにつられるように他の人も、手に持ってたものや周りにあるものを投げ出したみたい。
突然始まった投擲に唖然としている身体がズルズルと後ろに引きずられた。
見れば、沙也加が何かを泣き叫びながら、私の体を引っ張ってる。
けど、なんだろう。その声が、随分、遠い。
髪も綺麗な青いドレスもぐちゃぐちゃで。
冷静なお姉ちゃんキャラの見る影もない。
腰が抜けちゃってるのか、うまく力が入らないみたいで、自分だって地面に転がるようになりながらも、何度も何度も滑る私の体を握り直しては後ろへ、後ろへ……。
何やってんの。
狙われてんの沙也加なんだから、今のうちにサッサと逃げないと。
そう思って、沙也加の手を触ればヌルリと滑る。
白い手に赤い汚れ……。
(やばい……の、かな……これ)
痛みを感じないから現実感、わかない。
ただ、体からどんどん力が抜けていく。
ぐちゃぐちゃの沙也加の顔。
(あんた、キャラ守れってあんだけ私に言ってたくせに)
なんだか少し可笑しくなって、笑っちゃうけど、表情になってるのかな?よく、分からない、や。
視界が暗くなって、最後まで聞こえてた私の名前を呼ぶ沙也加の声も遠く霞んでいく。
(だ………め、じゃん………ゎたし……いま………りりか………な……の……)
「ねぇ、起きて。早く起きて〜〜」
誰かに揺すられる。
しぶしぶ思い瞼を開ければ、目の前には綺麗なピンクの瞳。
「あ?」
「うわぁ、間抜けな顔〜〜。起きるの遅いしぃ〜〜」
「……………誰?」
横になってたらしい体を起こし改めて目の前の人を観察。
私に合わせてか床に座り込んだその人はふわふわと地面に広がるほど長いピンクの髪に、大きな瞳も同色の鮮やかなピンク。
顔の造形は恐ろしいくらい整っているのにどこか親しみやすく感じるのはその瞳がキラキラと好奇心に輝いているからなんだろう。
服はまるでギリシャ神話の女神様がきているような白くドレープの多いドレス。
で、辺りを見回して見れば、
白い靄のようなものに囲まれて壁があるのかも定かではない場所。
もう、ここまできてイヤな予感しかしないんだけど。
サブカル好きをなめんなよ?
てか、こんなテンプレ、マジであるの?
あ、実は死に際に見てる夢幻とか?
それなら、私の貧相な想像力じゃこんなもんか、と非常に納得なんだけど。
「変なふうに納得しないでよ〜〜。夢でも貴女の妄想でもないから」
「……………はぁ」
返事ともため息ともつかない声が出る。けど、察して。
死にかけてたはずなのに、気づけば不思議空間にご招待、とか。
「あはは。やっぱり、貴女、見た目と中身のギャップが面白いわ〜〜。見た目だけなら、すっごく可愛い砂糖菓子みたいな子、なのに」
「……………はぁ、どうも」
褒められた……の、か?
見た目と性格のギャップはまぁ、育ってきた環境によるものだからしょうがない。
自分では割とこの性格が気に入ってるし、普段は性格に見合った格好してるから大丈夫。
そう、なぜか私の格好はりりかコスのままでした。
最後の格好がコレだったから?
「ううん。可愛かったから」
にっこり笑顔の返事になんかイラっとしたのは私だけ?
「ヤダ、怖い〜〜。せっかく、生き返るチャンスをあげようと思ったのに〜〜」
「余計なお世話です。元の場所に返してください」
反射で返す。
この手の話にろくな事はない。
少なくとも私の読んだ物語では8割厄介ごとだった。
マイナススタートから覆すだけの気力も根性も持ち合わせてないし。
こちとら現代の一般軟弱女子高生だ。
「戻ったら死んじゃうのよ?」
「それも、また運命です。あるなら来世にかけるし無いなら素直に無に還ります」
「マイナススタートなんてさせないし、ちゃんと便利能力もあげるし〜〜」
「いりません」
「ちょっと私のお手伝いしてもらうだけだし〜〜」
「聞きたくありません」
打てば響くように全てに拒絶を返す。
考えるだけでも伝わるみたいだけど、ここはしっかりと声に出して。
言語化って大事。
「……………これ見ても、そんな事、言える?」
しばしの沈黙の後、ピンクの女の人がスッと手を上げて人差し指で宙に円を描いた。
そこに映し出されたのは………。
「もう………テンプレは勘弁してって………」
救急車の中、なんだろう。
狭い空間の中に何かも良く分からないゴチャゴチャとしたものが詰め込まれた空間。
狭いベッドの中に横たえられた私につながれたたくさんの管。緊迫した表情で救命士の人達が何かをしている、中で声を押し殺して泣きじゃくりながら隅で小さくなりながらもじっと私を見つめ名前を呼び続けてる、沙也加。
私を抱きしめてたせいで、身体中に血がついてる。
髪もメイクもグシャグシャで、顔色だって真っ青で。騒ぎの中でコンタクトはどこかに飛んでっちゃったのか、片っぽだけ青い眼は、だけど絶対に私から逸らされなかった。
まるで、瞬きしたらその瞬間に私が死んじゃうって思ってるみたいに。
「このまま貴女が死んだら、あの子はずっと自分を責め続ける。大切な友達が自分を庇って死んでしまった。自分が無理やり連れて行ったから。あの子は嫌がってたのに、私が連れて行ったから……って」
囁きは耳元で落とされた。
思わず、舌打ちが漏れる。
絶対、こいつは悪魔に違いない。
「ひどい。私は悪魔なんかじゃありません」
拗ねたように唇を尖らせるけど、知るもんか。
「前向きに考えようよ。これはチャンスよ。貴女の命とあの子の心を救うチャンス。お代は貴女の頑張り次第!」
だから、その誘い方がどう見ても悪魔ちっくだというのに………。
ふぅ、と大きくため息をつくと、私は意識して体から力を抜いた。
理不尽、だと思う。
けど、知ってしまえばもう、見なかったことになんかできない。
丸く切り取られた空間の中では死にかけの私の体に、縋るような目を向ける沙也加の姿。
逆の立場だったら、私だって絶対に耐えられない。
いま、自分こそが死んでしまいたいと思ってる。
命を引き換えれるならそうしたいと切実に願ってる。
それこそ、出来るなら悪魔とだって取引をするくらい………。
「……………いいわ。何すれば良いの?」
「だから悪魔じゃ無いって言ってるのに……。むしろ、その悪魔を駆逐して欲しくてお願いしてるのに……」
ぶちぶちと文句を言いながらその人は説明してくれた。
自分の名前は『愛と正義の女神ラライア』
ある世界の創造神でもあるんだけど、彼女の作った世界に悪意を持つ異物が紛れ込んでしまったらしい。
巧妙に人の心に根を張り繁殖していったそれの存在に女神が気づいた時には時はすでに遅く、気づけば強大な力を持ったソレは世界を滅ぼす一歩手前で。
直接自分が出て行くとそれこそ世界のバランスが崩れて崩壊しちゃうんで、自分の代わりにその世界に行ってその『異物』を取り除いてほしい、と。
「それ、自分の世界の人に力与えたら良いんじゃ無い?」
無駄なあがきと思いつつも思わず聞けば、これまたある意味テンプレな答えが返ってきた。
「それだと弱いのよねぇ。その世界の弱みをつくように成長しちゃった存在だから。かといって、1から抵抗できる存在を作るとなるとすっごく大変で神力使うの。それこそ、新しい世界一個生み出すのと同じくらい」
よくわからないけど、創造する側にも創造する側の理屈がある、らしい。
「だから、元々ある形にそれに見合った力を与えて投入する方が簡単なのよ。貴女がいうテンプレってすっごく大事なのよ?そのテンプレを作り出すのが大変なんだから!」
つまり、型紙が大事なんですね。分かります。
「そう、だから、貴女にはその「りりか」の力と姿を利用して私の世界を救ってきてほしいの。よろしくね!」
(はいはい。「りりか」ねぇ。まぁ、正義の味方の魔法少女なんていかにもだしね……、って、ちょっと待て!)
なんだか面倒になってきて右から左に女神の言葉を流していた私は、次の瞬間、我に返った。
「りりかって、これ?!私に魔法少女やれってこと?!」
ヒラヒラのワンピースの裾を摘んで主張すれば、良い笑顔で頷かれた。
「ビュジュアルはほぼそのままでいじる必要もないし、魂の器もしっかりしてるから私の力を注いでも問題なく受け止めれる。「りりか」の能力は全部使えるようにしとくから、心置きなく戦ってきて?ちゃんと『魔法少女りりか』研究したし、バッチリ」
「いや、私もう17で今更魔法少女って、無理無理無理!!他のにして!」
「え〜〜、無理だよ〜〜。もう、設定しちゃったし。て、いうか、そもそも「りりか」の器を作るのに最適な魂検索結果が貴女だし」
「『りりか』に最適な魂って!?」
女神の言葉に崩れ落ちた私を容赦なく、謎の光が包み込んだ。
「ちゃんとアフターフォローもするから神殿に来てね〜〜。あそこが1番お話ししやすいし。
あ、四六時中「りりか」として行動しろっていっても大変だろうから、サービスで言葉や仕草は勝手に「りりか」仕様に変換されるようにしといたから〜〜」
「はぁ?!「りりか仕様」ってなに?!ちょっと!ちょっと待って!!」
慌てて叫んでも全ては遅く。
何も見えなくなるほど激しい光に眼を閉じて。
気づけば空から落下中、でした。
アフターフォローの意味、調べ直してこい!!
ヤァ、良い子のみんな、元気?
みんなのアイドル、ラブリーフラワーりりかだよ!
今ね、お空を飛んでるんだ!
青いお空を小鳥さんや雲と一緒に飛ぶのはとっても気持ちがいいんだよ〜☆
って、そんなわけあるかい!!
死ぬ!死ぬから。
なんか下の方でどんぱちやってるっぽい人が小さく見えるけど。
なんかいかにも悪役っぽい人が黒い靄に包まれてるのも分かるけど、あの大きさからこの高度を推測するに地面に叩きつけられたら私死ねるカラァ〜〜!!
えっと、待って、落ち着いて確かりりか、空をとべたはず。
なんだったっけ?
確か、たしかぁ〜〜??!
「可愛いお花は風とお話できるんだよ!怖がらないで、私!風を感じるの!私なら出来るから!」
うわ!なに?!口が勝手に動いた!
じゃなくって。魔法!魔法の名前!
「羽ばたけお花たち!フラワーウィング!」
そう、そんな名前だった!けど、なんで体が勝手に動いてポーズとってるの〜〜?
空中で器用にクルクルとステッキを振り回しながら周り、技の名前を叫んだ途端に背中に白い天使のような羽が生える。
(フラワー関係ないじゃーん!)
と内心ツッコミ入れた瞬間、疑問は霧散した。羽ばたくたびにキラキラと小花が散るんだよ。本物じゃなくて幻みたいなモノらしく一定距離離れるとスゥッと消えてくけど。
ナニこの仕様……。
こんなの………あ〜〜〜、あった気がするなぁ。
よし、墜落死は免れたし良しとしよう。
それよりも、さっきから勝手に言葉やポーズが……、コレが女神が言ってたサービスの「りりか仕様」か………。
何かしようとすると勝手に体が「りりか」として動いてくれるんだあ……。
ふぅ〜〜ん。
「もう、女神様ったら!(フザケンナ、クソ女神)」
言語化しようとすると、言葉が勝手に変換されるんだね〜〜凄いなぁ〜〜。
「女神様ってすっご〜い!(なんて事してくれてんのよ!!)」
あ、ちなみに台詞とともに可愛らしく肩を竦めたり口元に手を当てたりとフリ付きです。
やばい。コッチの心が死にそうなんだけど。
内心打ちひしがれても、局面はドンドン動いていくわけで、修羅場が近づいてくる。
どうやったのか川は干上がり、地面はひび割れたり抉れたようになり、其処彼処に死屍累々………。
あ、動いてるからまだ死んでないか。
まぁ、カウントダウンって感じだけど。
本当にギリギリのタイミング、だったのね。
「大変!!早くみんなを助けなきゃ!約束守ってくださいね!女神様!(コレ助けたら、約束守ってもらうからね!マジで!)」
そうして、最初に戻るのである。
「りりか様、この度は命をお救いいただき誠にありがとうございます」
「はわわ!!そんな事しないで下さい!!顔あげて下さい!!(うわ!やめて下さい!顔あげて下さい!)」
目の前で沢山の人達がひざまづいて頭を下げている。
西洋文化っぽい雰囲気だし、コレって日本でいう土下座っぽい感じじゃないの?
ピンチを救ってもらって、感謝する気持ちは分かるけど、自分より年上のいかにも偉そうな人達に頭下げられるってかなり居心地悪いのね。
知りたくなかったわ。
「寛大なお言葉ありがとうございます」
1番前にいた騎士装束の人がスッと顔を上げる。
泥や血に汚れ所々壊れたり傷ついたりしてるけど、いかにも本は良いものだったと分かる立派な鎧からするに、この人がこの団体の1番のお偉いさんってやつなんだろうなぁ。
に、しては若そうだけど。
さらに、やけにイケメンだけど。
もっとも、よく見れば全体的に顔面偏差値高いけど!
テンプレか!
「りりか様は、女神様の御使様であられるのですか?」
跪いたまま真っ直ぐに見上げる瞳は綺麗な青で、最後に見た沙也加を思い出して、少し胸が痛んだ。
まだ、泣いてるのかな?
私、頑張るから泣かずに待っててくれたら良い。
女神様の『お願い』なんて直ぐに終わらせて帰るから。
「はい。りりかは女神様にお願いされて、ここにきました。でも「御使」なんてそんな偉い人なんかじゃないんです。だから、どうか普通にしてください。跪いたりしないで(確かに女神に押し付けられてきたけど、そんな大層な存在でもないんで。そういうのはやめてください)」
そっと同じように膝をつき、今度は私が見上げるようにすれば、騎士さんの目が少し驚いたように見開かれる。
「騎士様の方が年上なんですから、どうか呼び捨てでもなんでもしちゃってください!様なんてつけられたら、りりか、返事しませんからね!」
エヘンと胸を張る『りりか仕様』ウゼェ!!
けど、それを見た騎士さんの顔が少し困ったような笑顔になったから、まぁ、良いのかな?
小動物って場を和ませるよね。
まぁ、とりあえず1つの山は越えたみたいだから、次はこの世界の現状を詳しく聞かせてもらえないかな?
女神の説明じゃ、ざっくりしすぎてて何が何やら。
とりあえず、一体敵を倒したくらいじゃ、元の世界には戻してもらえないみたいだしね。
先に立ち上がった騎士様に手を引かれて立ち上がりながら、なんとなく周りをくるりと見渡す。
『りりか』の魔法のおかげで視界に映る場所は緑豊かな野原のような場所になっている、けど。
きっとこの世界の大半はこんな穏やかな世界じゃないんだろう。
「私」がまだここに居るのがその証拠。
「(お話を聞かせて下さい。私が何をするべきなのか、何をすべきなのかをする為に)」
私の言葉に、騎士様の表情がスッと引き締まった。
「分かりました。長い話になりますので、少し場所を移すことをお許し下さい」
そうして、転移の魔法で移動した先は、騎士様の王国の王城で王様がいたり。
そもそも、騎士様が王様の息子だったり。
大元の『悪意のある異物』とやらにたどり着くまでに雨後の筍のように次々現れる敵を撃破する、のはともかく、ピンチを迎えないと次の大技が覚醒しない『テンプレ』のせいで何度か死にかけたり。
ついには仲間として他の魔法少女が出てきたり、とか色々あるのだけれども。
能力や装備の『テンプレ』はもう諦めた。
死にかけないとパワーアップしないとか、なんでか頑丈なはずの魔法少女の衣装が際どいところまでは破けるとか、「こういうものなんだ」と、諦めたから、お願いだから顔面偏差値の高いメンバーとのラッキースケベやハニートラップのような恋愛モードだけは勘弁して下さい!
私は帰る!元の世界に絶対帰るんだから!
例え女神様の「ご褒美」で沙也加と連絡が出来て、こっちで元気にやってる事を伝えれて安心させれたとしても。
実は家庭環境が悪くて、沙也加の問題さえ解決すれば、さほど元の世界に未練がないとしても!
だんだん逆ハー状態に慣れてきて、騎士さんに絆されてきてると、しても!
「はわわ!!」も「えへへ」ももう嫌だ。
リアルで「テヘペロ」なんてやってられるか!
ウッカリ絆されかけた時「そういうの………嫌いじゃないぞ☆」って、変換された時精神死にかけたわ!
私は絶対『りりか様』からにげてやるぅ〜〜〜!!!
読んでくださりありがとうございました。
主人公→可愛いもの好きな母親より幼少期お人形扱いされていた。あげく、母親は浮気して修羅場の末に娘残して離婚。見た目が母親そっくりのため父親からは空気扱い、同居の祖母からはプチ虐待な、ため少々歪んでるが幼馴染の沙也加家族のお陰でそれなりに成長。
沙也加→主人公の幼馴染。
すぐに精神的に引きこもろうとする主人公を振り回す事で支えてきた。
従姉妹の影響で中学時代にコスプレーヤーとして覚醒。
女神様→複数の世界を管理中。新しい世界創りに夢中になってるうちに、一カ所崩壊させかけたウッカリさん。地球のサブカル大好き。テンプレって楽で良いよね。
魔法少女りりか→日曜朝の幼女に人気なテレビアニメ。第3形態まであります。仲間も増えるよ(笑
騎士さん→第二王子で騎士やってる真面目さん。
影に日向に『りりか』を支えているうちに、中の人(菜月)の存在に気づく。ちゃんと気づいてるんですよ〜〜!菜月ちゃん。
テンプレ魔法少女の副音声がこんなだったら面白いのに、とふと思いついて勢いのまま書いた。制作時間3時間。あれ、意外とかかってる(笑
本当に久しぶりに書きたい、と思いつき、おかげで本日の予定がすっ飛ばし中でございます。
本当に、書こうとすると頭が真っ白という恐ろしい呪いの中におりまして……。
コレがスランプの露払いになってくれる事を願いつつ、勢いのみで投稿させていただきました。お目汚し失礼いたしました………m(_ _)m