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第四話 吸収

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 ルカビアンの十九魔人の一人、魔人ドルガーノ。


 かつてルカビアンがこの世界を支配していた頃は、先史文明の謎を解き明かすことに情熱を燃やす若き考古学者だった。


 限りなく不老不死に近いルカビアン達は、厳格な年功序列によって社会が形成されていた。

 今から六千年前、地殻変動が起こる以前のドルガーノは五百歳にも満たず、コネも実績も無いただの若造で、未知の発見があっても二千歳以上年上の学者達にその功績を幾度と無く奪われるのが常の、普通の若者だった。

 精魂込めて書き上げた論文が、別人の名前で発表されるのも一度や二度では無く、若きルカビアン達と場末の酒場で安酒を呷り、「くたばれ老害!!」と声を揃えるのが生活習慣の中に組み込まれていた。

 それでも、地下文明、地上文明、海底文明、雲海を漂う空中都市――、世界はいつだって謎に包まれていて、ドルガーノの知的好奇心を満たしてくれた。浪漫の痕跡は山程あった。


 地殻変動で世界が滅びたことで良いことと悪いことがあった。

 良いことは文明が崩壊したことで老害達の心が圧し折れ、自らの命を断ったことだ。

 これで老害達の縄張り、権利等の柵を気にする事無く、自由気ままにフィードワークに集中することが出来るようになった。


 悪いことは地殻変動によって滅びたのはルカビアンの文明だけでは無く、先史文明の痕跡も消えたことだった。

 目を付けていた山脈は平らに潰れ、いつか上陸することを夢見た島々は海の底に沈んだ。

 これには流石のドルガーノも応えたようで、失意のあまり、数十年単位で何も出来ない時期があった程だった。


 そして、ルカビアン達が嫌悪し、ヒトモドキの蔑称で呼ばれるオウラノ原種を祖とする人類種に対する感情だが、最悪と言っても良い。

 短命、無知、無能。何の価値も無い哀れな虫けら。

 放っておけばその内絶滅するだろうと気にも留めていなかったが、気付けば星を埋め尽くす程の勢いで繁殖していた。

 彼が感じた不快感を例えるなら、こうだ。


――帰宅したら、人の皮を被り、人の顔をしたシロアリが自宅を埋め尽くすようにして巣食っていた。


 何せ、僅かに残った先史文明の遺跡を切り崩し、造り上げた物は、時代錯誤で原始的な街。

 挙句の果てには、絶滅させる勢いで駆除しても、数十年と経たない内に何処からともなく集まって繁殖を繰り返し、元の数よりも増えたのではと錯覚する程増殖する。見苦しく不快な生命力。

 グァルプはヒトモドキを人の皮を被ったゴキブリと呼んでいたが、ドルガーノにしてみれば、人の皮を被ったシロアリだ。

 そう言った意味では、悍ましいミュータントを産み出したグァルプをはじめとする人工生命学者のルカビアンとの関係も良好とは言い難い。


 尤も、帝国が支配する現在の世界にしてみれば、ドルガーノの過去などどうでも良いことだ。

 魔人の中でも特に好戦的で危険度が高く、帝国の各地で、様々な時代で、ドルガーノを滅ぼすために多くの犠牲を払っているという事実が全てだ。


 サマーダム大学の記録が正しければ、下位にカテゴライズされる序列十一位の魔人で、倉澤蒼一郎が討伐した序列十四位のグァルプや、序列十八位のライゼファーよりも高い脅威度と攻撃性を持つ危険な魔人である。


 そのドルガーノに戦いを挑むのが零が率いる氷の団残党。

 絶無軍の武装ドワーフ隊千五百と、改造トロール隊千二百。


 零がオライオンの肉体と能力を得たとは言え、全盛期のグァルプであった頃の能力には遠く及ばない。

 だが、洗脳(ベレス)を手に入れ、ヤンクロットの眼を取り戻した今がドルガーノを倒し、その力を取り込む最初で最後の好機だ。


「ドルガーノは犠牲も無く打倒出来る程、弱い魔人では無い。何人が死ぬかも分からん。決して少ない数では無いことだけは確実だ。だが私なら奴を確実に殺せる。死を恐れるならこの地に留まり隠れていろ。魔人殺しの英雄になりたい者だけが我が背に続け!!」


 ヤンクロットの眼を発動させ、魔人ドルガーノの位置を特定した零は、魔人討伐を喧伝しながら帝国の地を歩いた。


「随分、目立っちまってるけど良いのかい?」


 行軍する零の隣を歩くドワーフのイオナが問いかける。

 零の勝利を信じて疑わない彼女の表情はこれから死地に赴くとは思えない程気楽なものだった。

 気付けば側近気取りでいる彼女を横目で見て、嫌悪感を覚えない己に『変われば変わるものだ』と鼻で笑う。


「勝利条件は、ドルガーノに気付かれること無く、私が洗脳(ベレス)の射程距離内に辿り着くこと。それを成し得た時点で一切合切の道理に関わらず、奴は自らの意志で我が前に跪き、己が首を差し出すことになる」


「ふーん。だから今の内に目立って戦力を増強するってこと?」


 だが、零は首を横に振る。


「問題は如何にしてそれを達成するかということだ。奴は魔人の中でも人間に対し、特に敵対的だ。安住の地に人類種が敵意を持って近付いていることを気取ったのならば、一方的に殺しにかかって来るだろうな」


「零のニーサンって元々は魔人グァルプだったんでしょ? そもそも魔人て何を考えて人類の敵やってんの?」


 ふむ――と、前置きをしてから零は考え、そして口を開く。


「人類種と魔人とではその力に差があり、価値観も異なる。しかし、それは魔人も同じことだ。全員が全員、共通認識を持っているわけでは無い。当然、ドルガーノのように人類種に対し、敵意を持つ魔人もいるが、実のところ、その考え方は少数派だ」


「そうなん?」


「人類種に興味が無く、殺すつもりが無くとも単純な行動の余波で殺してしまうこともあれば、価値観の相違で魔人の逆鱗に触れた人類種が殺されることもある。そんなことを四千年以上も繰り返していれば、人類共通の敵と認識されて当然だ。だが、魔人にしてみれば人類種に興味が無い、というのが多数派の見解だ」


 僅か十九人で多数も何も無いがなと、自嘲気味に嗤って締めくくった。

 加えて言えば、若いというだけの理由で最下層扱いされてフラストレーションを溜め込んでいる若年ルカビアンの慰めに作られたのが、現在の人類種。脆弱で不完全な人工生命体オウラノだ。

 ペットにする程上等なものでも無く、好感情にしても悪感情にしても、強い興味関心を持つこと自体が恥と考える者も少なくない。

 ヴァルバラのように長い孤独に耐え切れず、ルカビアンに似た見た目をしたオウラノを友と呼び、心の慰めにするという、本来想定していた使い方をする方が少数派なのだ。


「うわ、意外な事実発覚だね」


「信じるのは勝手だが、それを市井で言い触らすのは勧めんがな」


「零のニーサンの言葉なら信じられるけど、街中でそんなこと言ったら狂人扱いじゃん」


「何より、帝国は武を尊ぶ国だ。魔人という分かり易い敵の存在は英雄を量産するのに都合が良い。それが実際には人類種に敵対的な魔人は極僅かで、魔人は人類にあまり興味が無い。矜持を傷付け、世界にとっても不利益となろうよ」


「それでドルガーノの討伐を知らしめてるの? こっから英雄になったんでー!って」


「我々と合流した者達を見るが良い」


 合流し、最後尾に着いた者達の武具はいずれも貧相で雑多なもので、一見すると盗賊のようにも見えるが、生気も無ければ覇気も無く、一言で言ってしまえば生者の顔では無い。ただ死んでいないだけだ。

 恐らくだが、絶無軍に合流した者の中に戦士は一人もいない。


「明日をも知れぬ落伍者共だ。我々に同行し、運良く生き永らえることが出来れば、たちまちの内に勝ち組に転身出来る。それを期待しているだけの無知蒙昧の弱者。私には不要で、無価値な存在だが、絶無軍の肉壁には丁度良い」


「あらら、人が悪いねぇ」


 零は当然だと言わんばかりに表情を歪ませて肩を竦め、再び口を開いた。


「今の私が所有する戦力は武装ドワーフ隊千五百と、改造トロール隊千二百のみ。ドルガーノとぶつかれば半数は脱落する。

 だが、あの落伍した肉壁がドルガーノの攻撃を分散されることが出来れば、想定していた脱落者の内、半数は存命出来るかも知れん」


 合流した者の中には人間やエルフ、ドラゴニアンもいた。エルフ、ドワーフ、ドラゴニアンは亜人と呼ばれ、獣人よりかは幾分かマシな扱いを受けている。

 都市開発のドワーフ、魔術のエルフ、戦場のドラゴニアン。

 その時々の都合で亜人は人間扱いされるが、被差別種族側にいることは事実だ。

 どんなに足掻いても人間が最上位、土地によってエルフか、ドワーフが二番手に就き、人類種最強とされるドラゴニアンですら四番手以下の扱いだ。


 それにも関わらず、零はドワーフやトロール達だけを戦力と見做し、後から合流した者達を肉壁と呼んだ。

 元は魔人たる零にとって人類種が造り出したカーストなど無価値で無意味。

 人間だろうと獣人だろうと、ルカビアンが人工的に生み出した生命体でしかない。


「亜人や獣人やらのアタイ等が人間よりも大事にされてるってのは中々むずがゆい気分だよ」


「魔人などという埒外の化け物と戦うと言うのに私を信じ、付き従うお前達を無碍には出来んだろう。私を信じる限り、お前達を否定する者全てを討ち滅ぼし、この私がお前達を肯定し続けてみせよう」


 零の言葉を聞いた者達が口から気焔を吐く。

 生まれた時から否定され続けた者達に対する絶対的な肯定が歓喜となって津波の如く、力強く広がっていく。

 零に絶対的な忠誠を誓う絶無軍の力強い行軍に多くの者が誘われ、その列に一人、また一人と並び、ドルガーノを目指し、長蛇の列を作った。


 辿り着いたのはファルファクス地方を横断した先、大陸の南西端にある荒野。

 資源に乏しく帝国の支配領域から若干離れた地。


 ついに彼等は魔人ドルガーノの住処に辿り着いた。

 合流した義勇軍の数は一万五千に届こうとしていた。


――これだけ数が揃えば、多少はマシな者もいるかと思ったが、一人残らず無価値な落伍者とは……。


 ヒトモドキでも中には目を見張るものもいる。

 オウラノに対する物の見方が変わりつつある零も、これには投げやりな溜息が漏れる。


――まあ良い……。どちらにせよ我が兵以外は完全に使い潰すつもりでいたのだからな……。


「全軍突撃!! 勝利の暁には望む物全てが手に入る!! 魔人ドルガーノを討て!!」


 右腕を翻し、零の号令を下す。

 道中吸収した義勇軍が先陣を切り、その後を追随するかのように二列の縦陣となったドワーフとトロールが無人の荒野を駆け巡る。


「さあ、ドルガーノよ。どう出る?」


 零の言葉に応えるかのように、地面から黄金色に輝く装甲を纏った金属質な蜘蛛が這い出て来た。

 魔獣やアンデッド等のモンスターでは無い。

 れっきとした技術によって生み出された、科学兵器であることは一目瞭然だった。


「害虫共が。本来ならば一網打尽に消滅し我が視界に入った報いを受けさせるところだが、折角の機会だ。玩具の機動テストに使ってやろう。モルモットとして、その無様な命に価値をくれてやる。見苦しく苦しんで死に絶えるが良い!!」


 荒野の特等席でドルガーノが嫌悪に満ちた表情で声高に吐き捨てる。

 鋼鉄を纏った蜘蛛が義勇軍を縊り殺していく様を目の当たりにしても、胸がすくどころか、不快感は増していく。

 ただでさえ気持ちの悪い生き物が、気持ちの悪い死に方をして、気持ちの悪い死体を荒野に晒しているのだ。

 眼前で虫が潰されていく光景を見せ付けられるのと同じだ。

 生きていようが死んでいようが、不快感が拭える要素など一欠けらも無いのだから当然のことだった。


「蜘蛛型無人機動兵器群ネストリス。貴様等ヒトモドキでは有人無人に関わらず、機動兵器を産み出そうとする発想すら生まれまい。何より先史文明が作り出した機関のエネルギー効率は、貴様達如きでは後三万年は再現出来ん。いや、そもそもエネルギー効率という発想すら無い無知蒙昧の塵芥。歴史に想いを馳せ、大地に積もる塵となるが良い!!」


「ルカビアンの機動兵器とは設計思想が大きく異なると思っていたが、矢張り先史文明の遺産か。貴様らしい得物だな、ドルガーノよ」


 他者の介入など決してあり得ない。

 他者を必要としないドルガーノ一人のために存在する独立した世界に侵入者が現れた。


 眉間に皺を寄せて振り返ると今にも朽ち果てそうな枯れ木のような男がいた。

 襤褸切れを纏ってい生命力も覇気も無く、若いのか老人なのかさえも分からない。

 ドルガーノには、ただの死にかけた男にしか見えなかった。


 そもそも、ヒトモドキなど羽虫と同様、撫でれば死ぬような脆弱で不完全な生き物で、生気に満ち溢れていようが、死にかけていようが、ルカビアンの目からすれば死にやすさに大差は無いが。

 何はともあれ、その襤褸切れのような男が元は魔人グァルプであったなどと予想だに出来なかった。


「あァ? 害虫風情が気安く私の名を――」


「数が揃っている上に保存状況も悪くない。ナノマシンでも組み込まれていたのか?」


 妙に様になる仕草と姿勢でネストリスを観察する零の姿は、何処と無くルカビアン時代の研究者を思い出させた。

 何よりオウラノの口から絶対に出るはずのない『ナノマシン』という言葉に、ルカビアンの知性を感じたドルガーノは怒りを納める。


「誰の悪戯だ? 冗談では済まされんぞ!! 私が、ドルガーノがヒトモドキを不快に思っていることを知っての狼藉か! 正体を見せろ!」


 明らかに怒りを露わにした態度と言動だが、ヒトモドキの姿をした存在に攻撃を仕掛けていないだけ、まだ理性的とも言える。

 更に言えば、相手がルカビアンだとしても言葉を遮られたことは非常に腹立たしい。


 普通のオウラノならば死に至る程の怒気だが、零は飄々とした態度で肩を竦める。

 ルカビアンなら当然の反応だと分かっていても、姿形、気配、存在感、魔力、構成する全ての要素がヒトモドキであると主張する零の存在はドルガーノをただただ不快にさせる。


「生憎だが、本体と核を破壊されてしまってな」


「貴様ァッ!!」 


 ルカビアンの十九魔人の内、本体と核を破壊されたのは二人。一人はライゼファー。

 だが、彼は地殻変動が起こる以前から六千年経った今でも変わること無く、純真無垢な少年のままで、この絡み付くヘドロの様に薄汚い気配の持ち主では無い。


 消去法で考えれば、いや考えるまでも無く、目の前の男がガエルを殺し、ギエルに処刑された裏切り者グァルプであると悟り、ドルガーノに反射的な攻撃を繰り出させていた。


 ドルガーノが得意とする能力は視界内に存在する特定範囲の空間に対する飽和攻撃だ。

 攻撃空間と設定された範囲内に存在する攻撃対象は防ぐことも、避けることも出来ずに必殺必中の攻撃を受け続けることになる。

 無効化するには魔人の如き出鱈目な防御能力で耐えるか、ドルガーノの光速にも匹敵する攻撃を上回る反応速度で攻撃範囲から抜け出す他ない。


 ドルガーノに相対する人類種にとって、彼の魔人の攻撃を防ぐことも躱すことも考えるだけ無意味。

 防御と回避を捨て、自滅を前提に攻撃一辺倒の消耗戦を繰り広げ、力押しで押し勝つしかない。


 オライオンの力を手にした零とて、ほんの少々上等なだけで、オウラノであることに変わりは無い。

 零の肉体強度ではドルガーノの攻撃には耐えられず、零の速度ではドルガーノの攻撃から逃れることは出来ない。


 だが――。


「久々に再開した同胞に随分なご挨拶じゃないか。ええ? ドルガーノよ」


 そう語る零は無傷。防御も回避もしていない。

 ドルガーノが繰り出した攻撃の全てが零から逸れていた。


「何故だ!!」


 序列十位のヴィヴィアナが上位の魔人と呼ばれ、序列十一位のドルガーノが下位の魔人扱いされている。

 その理由は上位の魔人は全員が全員、ドルガーノの攻撃に耐えられる。或いは躱せるからだ。


 オウラノどころか、全盛期のグァルプも含め、下位の魔人ではドルガーノの攻撃に耐えることも避けることも出来ない。

 本体と核を失ったグァルプ――零では存命出来る筈が無い。

 ドルガーノはありとあらゆる可能性を模索し、口から飛び出したのは疑問を呈する言葉だった。


「今の私はルカビアンでは無い。ほんの僅かにルカビアンの記憶と知識を持つだけのオウラノだ。ヒトモドキと言うだけあって、オウラノの脳は本当に不便でな。記憶力、思考力、理解力、何もかもが劣悪なのだ。なまじルカビアンとしての意識が残っているせいで己の愚鈍さに何度苛立ったか分からないくらいにな」


「何だ? 何を言っている!?」


「やれやれ……、察しの悪い事だ。ヒトモドキ並、いやそれ以下の思考力だな。ルカビアンの十九魔人の一人、魔人ドルガーノの眼前に姿を晒す以上、絶対的な対策を取るのはオウラノでも当然だとは思わんのか、貴様は。偶発的な遭遇でも無い限り、オウラノが魔人に接近した時点で勝敗は決しているのだよ」


 今回の遠征は幸運が徹底的に零を味方した。

 本来ならば空間攻撃による広域殲滅を受け、多くの手駒を失うことを覚悟していた。


 だが、蜘蛛型無人機動兵器群ネストリスを発掘し、テスト起動として絶無軍と義勇軍の殲滅を任せたことで絶無軍の被害はほぼ皆無。

 ドルガーノは義勇軍が殲滅されていく光景に気を取られ、零の接近を許し、何の自覚も無いまま洗脳(ベレス)の制御下に置かれていた。


 零は、魔人グァルプが本来持っていた残虐性の矛先をドルガーノに差し向ける。

 オライオンはヴァルバラの身体と意識、その全てを洗脳した結果、全ての魔力と意識をヴァルバラの制御に向けなくてはならなかったが、ドルガーノを制御する零がやったことと言えば、零を傷付けることが出来ないという漠然とした制御だけだ。


「何故だ!? 何故、殺せん!?」


 どんなにドルガーノが零を攻撃しようとも、その攻撃が零を捉えることは出来ず、時には自らの攻撃で自身を砕くという自滅に導いた。

 その無様な光景に零は嗤った。ただただ嗤い続けた。

 怒りを露わにするドルガーノの怒気さえも愉快だと、ドルガーノの全てを嘲笑の対象とした。


「貴様は封印されていたから知らなかったのだろうが、今から三千年ほど前、ヒトモドキが洗脳(ベレス)という文字通りの術式を編み出したのだ。色々と面倒な術式だったのでな。念入りに遺失させたのだが、ほんの数カ月前にオウラノが復活させたのだ。本体と核を失った私には有用な術式なのでな横から奪い取ったと言うわけだ」


「ヒトモドキの魔術など私に通じるはずが無い!!」


「戯け。何故、過去の私が念入りに遺失させたと思っているのだ? 洗脳(ベレス)は、オズヴェルドさえも制御下に置く事が出来るのだぞ。貴様如きにどうこう出来る程、容易い術式では無いわ」


「貴様……!! 話には聞いているぞ、殺した者の姿、記憶、能力を奪い取る貴様の能力。その効果実験にガエルを殺したと!! 貴様は私をも奪い取るつもりか!!」


「今の私は脆弱だ。ならば、他のルカビアンから奪う他あるまい。ドルガーノよ、己の頭蓋と肉を裂き、脳と心臓を我が眼前に晒せ!!」


「ふざけるなよ、グァルプ!! その命、しかと承った!!」


 そして、ドルガーノは当然であるかのように自らの頭蓋を叩き割って脳を露出させ、自らの胸を切り開いて心臓を鷲掴みにして取り出し、零の眼前に突き付けた。


「我が満願成就の為、貴様の力を頂いていく!!」


 魔人ドルガーノの死と共に、零の身体にドルガーノの力が流れ込んでくる。

 再びルカビアンの力を手にした零の胸中にあったのは喜びでは無く、蜘蛛型無人機動兵器群ネストリスに関する知識を一刻も早く抽出しなくてはならないという焦りだった。


 ドルガーノが死に、制御する者がいなくなった今尚、ネストリスはそれまで命令を忠実に守り、義勇軍を嬲り殺し、絶無軍を攻撃し続けていた。

 義勇軍はどうでも良いが、己に忠実な絶無軍をこの場で失うのは、あまりにも勿体ない。


『ヒトモドキなど捨て置け、それよりもネストリスの雄姿に感動するべきだ』


 ドルガーノの愚にも付かない意思が喚くのを脳内で殴り付けて黙らせ――、黙らなかったので聞き流す。


「我が意に従え!! 旧世界の残骸共!!」


 呪言にも似た零の咆哮がネストリスの動きを止める。

 義勇軍は壊滅どころか消滅寸前に陥っていたが、絶無軍の被害はほぼ皆無だった。

 新たな兵力としてネストリスを手に入れたことを思えば、絶無軍の戦力が大幅に改善されたと言っても良い。


「機械の化け物の動きが止まった!? 勝ったんだね、零のニーサン!!」


「者共!! 勝鬨を上げよ!! 魔人ドルガーノは、この零が討ち取った!! 虐げられ敗北した我等の手には何も無い。全て絶えた!! だが、この手に何も無いということは何もかもを手に入れることが出来ることを意味する!! 我等の手に入らぬ物は何も無い。絶対にだ!! 我等は絶無!! 全てを失い、全てを手にする者也!!」


 新たに現れた魔人を討つ者に帝国全土が揺れた。


 尤も、全ての者がそれを歓迎したわけでは無い。

 中でも特に大きな反応と反感を示したのは零が宿敵と見做す男、倉澤蒼一郎だった。


「あの死に損ないが……。今度こそ念入りに殺してやる」


 名前を知らしめる以上、その覚悟は既に出来ていたことだ。

 とは言え、倉澤蒼一郎には柵が多過ぎることを零は理解していた。


 どれ程、優れた力を誇り、その真意に気付いていようとも、あの男はソウブルーからは離れられないのだ。

 ソウブルーに近付かなければ交戦する機会も無い。はっきり言って、現段階では警戒に値する敵では無い。


「ドルガーノの力を手にした今、洗脳(ベレス)など無くとも、下位の魔人ならば直接戦闘で始末し、吸収することが出来る。ヴァルバラはヴィヴィアナが保護している可能性が高く、手を出せんが、バエル、ティアメス、ルーフリードには大した後ろ盾も無い。この件が上位の魔人に気取られる前に、倉澤蒼一郎が魔人の討伐に乗り出す前に、三人の魔人をこの手で殺す!」

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