第五話 再突入
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エーヴィアはある種の悩みを抱えていた。
蒼一郎と共にいると心の中にある善意と悪意、理性と本能が嵐のように暴れ、自分でも制御出来なくなる。
冒険者ギルドで救いの手を差し伸べてもらった日から、今日に至るまで救われ続け来た。
ベルカンタンプ鉱山に潜伏していた邪教徒を討ち滅ぼした後、彼女はカトリエルからこんな言葉をかけられている。
『あの人はこれから先も様々な偉業を成し遂げる。爵位の授与や英雄扱いされるのも時間の問題ね』
事実、商業地区にある宿屋や呑み屋では吟遊詩人達は倉澤蒼一郎を英雄と唄い誉めそやしている。
土地柄、バーグリフの唄の方が好まれ、最新作オライオンとの決戦は酔っ払い達の耳や心を大いに喜ばせたが、街中で倉澤蒼一郎の名を聞く頻度は確実に増えている。
『世間知らずで独り身の外国人と思って彼に良からぬことを考える女――と言うよりも家が近付いてくるでしょうね』
酷く嫌な気分だった。倉澤蒼一郎自身を好きになって、倉澤蒼一郎に好かれて結ばれるのであれば、それは素敵なことだと思ったし、その時は心から祝福するつもりでいた。
しかし、倉澤蒼一郎という男では無く、英雄を取り込むことによって得られる利益を目当てに近付いてくるのだとしたら――。
この話を聞いた当時、エーヴィアは物乞いに扮した帝国の諜報員によって母親を人質に取られ、地獄の日々を過ごしていた。
暴力による強要と、権力による強要。被害者側にしてみれば似たようなものだ。
恩人たる倉澤蒼一郎が自分と同じような目に遭わされると思うと、気が気でなかった。
『だから、信用の出来る娘であの人の身の回りを固めてしまおうと思っているのだけれど、貴女達にその気があるのなら、あの人と男女の関係になっても異存は無いわ。私が正妻で良ければ、ね』
カトリエルが倉澤蒼一郎の婚約者だと知った直後、ドワーフの娘リリネットと共に聞かされた話だ。
身の程を弁えろと叱責を受けると思っていたら、一夫多妻に寛容過ぎる大奥からの後押しだった。
それ以来、その機を伺い続けていたが、魔人グァルプとの戦い以来、蒼一郎とカトリエルの距離感が驚く程近くなっていた。
貴族等の権力者の接近を拒絶しながらも、蒼一郎に対する態度が一番貴族的だと思っていたカトリエルが真っ先に蒼一郎の一番近い所にいた(胡桃を除く)ことがエーヴィアに焦りをもたらしていた。
だが――。
「昨日のアレは失敗だったかも……」
邪神の干渉を受けた迷宮の中で蒼一郎が原初の火を召喚しようとするのを止めた。
原初の火――倉澤蒼一郎を英雄たらしめる彼の代名詞とも言うべき必殺の召喚術式。
この星を呑み込み、太陽すらも燃やしたとされ、燃焼の権能を持ち、その威力は直撃を許せば魔人ですら消滅を免れない。
火虐神ヴァルカンが放った天地創造の一撃を疑似的に再現しているだけの事はあり、その代償として膨大な魔力を要求される。
今の蒼一郎の自前の魔力では一日に二発が限度。
三発目からはレーベインベルグに充填された魔力を使用しなくてはならない。
魔術兵装に封入された魔力は、ガソリンと同じで使ったら使った分だけ消耗し、生命体と違って時間経過で勝手に増えることは無い。
そして、原初の火、一発分の魔力を魔術師ギルドで充填を依頼した場合、金貨二万枚の費用を請求される。
市街地に建てられたエーヴィアの自宅の評価額が金貨一万二千枚と言えば、如何に金喰い虫な攻撃かも理解出来る筈だ。
エーヴィアは金の節約という口実で、蒼一郎に三発目を打たせずにダンジョン内に留まらせようとした。
目的は蒼一郎と肉体的な契りを交わすことだった。
カトリエルの胎内には魔人ハーティアが封じられている。
万が一でもカトリエルが妊娠するようなことがあれば、魔人ハーティアは胎児に受肉してカトリエルの身体を突き破り復活することになる。
蒼一郎とカトリエルの間にある心の距離が近付くことになろうとも、決して身体を重ね合わせることは出来ない。
肉体的な距離なら一番近くにいることが出来ると考えたのだ。
そして今頃になって、エーヴィアは強烈な自己嫌悪に陥っていた。
自分だけが置いてけぼりにされた気分になって勝手に焦って、心の中にあったのはカトリエルを出し抜くことばかりが頭を占めていた。
その上、蒼一郎のことすら頭の中に無かった。
蒼一郎も勿論だが、カトリエルもまたエーヴィアにとって絶対的な恩人だ。
猿のように盛り、自分の心を満たすことしか考えていない独り善がりな考えをしていたことに気付き、更なる嫌悪感がエーヴィアの肢体に重く圧し掛かる。
これではまるで、物乞いに扮した悪辣な諜報員達のようでは無いか、と。
「エーヴィア?」
いつまで経っても起きて来ない彼女を心配して部屋を訪ねたのは彼女の母親だった。
元から年齢不詳の美貌と、年齢以上の色香を漂わせる自慢の母親だったが、最近はトーヴァーという恋人が出来たせいか、あるいはトーヴァーと再婚することが決まったせいか、女の魅力に拍車をかけていた。
だが、どんなに女を意識させる色香の持ち主とは言え、彼女は女であるよりも、母親であることに重きを置いている。
だから、というわけでは無いのかも知れないが、娘の異変に一目で気付いてベッドに腰を落とした。
「何かあった? お母さんに言えそうなことなら言ってごらんなさい?」
普段のエーヴィアなら顔を赤らめて「ないしょ!」の一言で済ませるところだが、一部始終を母親に話して聞かせた。
自己嫌悪に追い詰められていたこともそうだが、トーヴァーと物語的な出会いをして僅か二か月で結ばれた母親に、親として女としてのある種の敬意を感じていたことが、エーヴィアの口を滑らかにさせていた。
そして、全てを語り終えた娘に対して、彼女は――、
「ありがちな空回りね」
――と、一言でぶった切った。
「蒼一郎さんは、エーヴィアに好かれているって自覚あるの?」
「え?」
「だから、あなたから意識されているって気付いているのかなって思ったのよ。昨日も泊まろうって言われたのも誘われた自覚が無かったんじゃないの? 男なんてあからさまな好意をぶつけても、言葉、態度、行動の全てが伴ってなかったら自覚してくれないものよ?」
「で、でも……」
「恥ずかしい? はしたない? でもね、蒼一郎さんは既にカトリエルさんという決まった婚約者がいるんでしょう? カトリエルさんは妾を持つことに肯定的みたいだけど、蒼一朗さんは一夫一妻制の国の出身なんだから、エーヴィアの方から積極的にならないと振り向いてもらえないんじゃないかしら」
加えて言えば、二十代半ばの成人男性が未成年の、それも十五歳の少女に慕情を抱くのはあまりにも犯罪的だ。
それが帝国の法では合法でも、蒼一郎の法と価値観では違法だ。
それを蒼一郎がエーヴィアに言って聞かせたことは無いが、女として見られておらず、微妙に子ども扱いされているのは彼女も薄々気付いていた。
だから、重要度の高い依頼に同行を求められると、能力を認められ、対等な大人として扱ってもらえているような気がして嬉しくなった。
昨日の探索でも戦闘以外の全てを受け持ったのも、大人の冒険者として役に立てるということを訴えたかったからだ。
「態度や行動で示すのも大切だけど、まずは話さなきゃダメよ? 人間は言葉を使って意思疎通する生き物なんだから。態度と行動で示す前にちゃんと蒼一郎さんに好きですって言わないと何も分かってもらえないわよ?」
「う……うん……言ってみる」
「それじゃあ、朝ごはん食べて頑張ってらっしゃい。今日も蒼一郎さんと一緒に依頼を受けるんでしょ?」
それからエーヴィアは、顔を真っ赤にしてみたり、溜息を吐いてみたり、のろのろと朝食を摂って冒険者ギルドへ向かった。
「何だかんだ言って途中でへたれそうね」
娘の初恋が実るのは、まだまだ先かと肩を竦めた。
※ ※ ※
ソウブルー要塞前で人の往来を眺めてエーヴィアの到着を待つ。
昨日、破壊した地下一階から地下三階までは監獄としての形を保ったままらしく、行き交う人々は冒険者、戦士、魔術師、衛兵と様々だ。
時間潰しがてら地下から戻って来た冒険者達に声をかけ情報を集めることにした。
「監獄の囚人もピンピンしている奴から餓死寸前の衰弱した奴まで色々で、死体もついさっき死んだような奴から腐乱死体に白骨化死体までこっちも色々だ。今、魔術師達が囚人達から情報を引き抜いているそうだ」
「邪教徒達の痕跡? そういうのは見つからなかったな。深層部にいけばあるかも知れないな」
「行方不明者? 今ん所、そういうのはいないみたいだぜ? アンタが一時間以内に戻ってこなければ救助隊を派遣してペナルティを課すべきだー、なんて言うからよ」
「アンタは行く先々で大事に巻き込まれているな。今度、俺達とパーティを組んでみないか? 伝説にあやかりたいとまでは言わないが、伝説を目の当たりにするくらいは良いだろ?」
他のグループにも声をかけたが、後は大体同じような答えしか帰って来なかった。
迷宮化してしまった監獄もレーベインベルグで焼き払ってしまえば、取り敢えずは安全らしいことが分かったのは収穫だ。
「お、おはようございます! 蒼一郎様!」
「やあ、エーヴィア。おはよう」
一通りの情報収集を終えると、エーヴィアが桜色のポニーテールを跳ねさせてながら駆け寄って来る。
此処まで走って来たのだろうか? 少し顔が赤い。
「ご、ごめんなさい、お待たせしました!」
「まだ待ち合わせの時間には少し早いですし、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
時間に正確なのは良いことだ。流石は先輩、という奴だ。
日頃から生徒達にも言っていることだし、今日は生徒達もソウブルー要塞に来ていたので尚更だ。
ソウブルー要塞の調査が終わるまでは授業は短縮。実地研修をメインに据えることにした。
座学を中心の研修を行ったことが功を奏する形となった。
流石に彼等を監獄の探索に回すつもりは無い。
地上で出入りの冒険者や魔術師達の雑用をさせるだけだ。
とは言え、ソウブルー要塞の中に入るなんて機会は滅多に無いし、他の冒険者や魔術師の仕事ぶりを見学するのも勉強になる。
何より子どもとは言え、他の冒険者たちの前でも恥ずかしくない仕事が出来るくらいには育てているつもりだ。
場合によってはある程度のランクの冒険者たちにお声がかかる可能性だってある。
此処でチャンスを物に出来れば、良い人脈を作ることが出来る。
結果、彼等の将来に大いに役立つはずだ。
「では、予定よりも少し早いですが迷宮の破壊に行きますよ」
「はい、蒼一郎様。今日は地下四階からですね!」
監獄に向かう途中、作業場を覗き込むと生徒達が手際よく遺留品の仕分けを行っていた。
あまり心配はしていなかったが、真面目に頑張っているようだし、これなら安心して地下へ進める。
「蒼一郎様、あの子たちに声をかけなくて良いんですか?」
表情が緩んでいたらしく、エーヴィアがからかうような口調で言ってきた。
魅力的な提案だが、二十四時間張り付きっ放しと言うわけにもいかないだろう。
「自分が見ていなくても一人前の冒険者としてしっかりやれていますからね。彼等の活躍は後で他の冒険者たちに聞かせてもらうことにします」
何より生徒が頑張っているのに先生が何もしないわけにはいかないじゃないか。
時折すれ違う冒険者たちの姿を尻目に監獄の姿を取り戻した地下一階、地下二階、地下三階を下り、地下四階に続く階段へと辿り着く。
「アーベルトさん、これは?」
アーベルトさんが三人の衛兵を連れ立って階段の前を封鎖していた。
「倉澤か。此処から先は貴様で無ければ脱出不可能な迷宮だだろう? 功を焦った馬鹿共が入り込まないようにしている。Aランク以上の冒険者でも目端の利かぬ馬鹿者は決して少なくないのでな。馬鹿は常に此方の予測の遥か下を行く。念のための警戒という奴だ」
「馬鹿が馬鹿たる所以、ですね。取り敢えず、地下十階まで破壊を終えたら一度帰還します」
ソウブルー要塞の地下に存在するフロアは十に及ぶ。
だが、バーグリフの見立てでは、其処から下に続くエリアが存在する。
根拠は魔人ハーティアの封印区画の存在だ。地下十階までの区画にそれらしく物は無かったらしい。あるとすればその先だ。
「罪の重さに応じて地下の奥深くに収監される。万が一、囚人が檻の外を徘徊しているようなことがあれば殺せ。罪人よりも貴様達の命の方が遥かに重い」
自分の想像を絶するような極悪人が封じられているかも知れない。
許可も出たことだしエーヴィアに害が及ぶ前に原初の火で迷宮ごと焼き殺してしまおうか。
「了解です」
アーベルトさんに返事をしながらエーヴィアを伴い、地下四階に降りる。
相変わらず、妙な厳かさを感じた。とは言え、迷宮を焼けば消失する気配だ。
震えるエーヴィアを抱き寄せ、原初の火を召喚し、先へ先へ、下へ下へと進む。
途中で荘厳さに混ざって強烈な殺意を感じるようになった。
「恐らく、ロードクラス、キングクラスのアンデッドです」
自分にしがみつくエーヴィアが震える声で言う。
顔を合わせる前に殺気ごと焼き払ってしまったので、実際はどうか分からないが。
そして、地下九階の迷宮を監獄の姿に戻すことに成功したが、周囲に漂う荘厳さは変わらない。
恐らく地下で邪神か、邪教徒が妙な仕掛けと共に待ち構えている。
「原初の火を召喚出来るのは六発か」
ライゼファー、ガエルクラスの敵なら互角以上に戦えるだけの余力は残っている。
地下十階で待ち構えている敵を一掃してから一旦撤退、これでいこう。
「エーヴィア、大丈夫ですか?」
「はい! 足手纏いにはなりませんから!」
若干の不安は残るが、此処で撤退して邪教徒共を取り逃がすのも癪だ。
脱出不可能なダンジョン作成などと性質の悪い真似を余所でやられるのも困る。
万が一、胡桃さんが迷い込んだら――迷い込んだ迷宮から脱出出来ずに泣いている胡桃さんの姿を想像してしまい気が狂いそうになった――大事だ。此処で憂いを断つ。
地下十階に降りると、それまでのような迷宮では無く、五十メートル四方の空間が広がっていた。
床と天井は鮮血で塗り潰され、壁には囚人達の遺体が隙間無く磔にされていた。
空間の奥には怪しげな儀式を行っている集団がいた。
荘厳な冷気を放っているのは儀式の中心部からのようだ。
「よく――」
よく来たな無知浅学の異教徒共、か? それとも、帝国の犬か?
カルト宗教の狂信者の言葉に一切の耳を傾けてはならないのは、現実世界でもこの世界でも同じことだ。
先手必勝――。
抜き身のレーベインベルグから原初の火をフロア全体に放つ。
どれが、誰が儀式の基点となっているか分からないが同時に灰に変えてしまえば流石に無効化は容易いはずだ。
炎に包まれた邪教徒達が悲鳴をあげながら逃げ惑い、灰になる。
「何か言いかけていましたけど良かったんですか?」
「ええ、一通り焼き尽くしたら死霊術で情報の引き出しをお願いします」
「はい……でも、空気が変わりませんね……」
往生際の悪い輩め。思わず舌打ちしようとして思い止まる。
原初の一撃を受けても無事だと言うことは魔人クラス、或いはそれ以上の化け物、邪神が実体化している可能性がある。
「エーヴィア、下がっていなさい」
神剣レーベインベルグ――ドワーフ達が信仰する火と鍛冶の神ヴァルカンが悪神を討つために自ら鍛えた長剣だ。
オリジナルと同じ銘、同じ形、同じ機能を持ち、悪霊程度一撃で調伏せしめることが出来る。
「神を斬るのは初めてですが――」
風船が弾けるような乾いた音と共に原初の炎が霧散する。
紅い霧の向こう側から、強烈な気配が物理的な衝動を伴い迫って来る。
一閃と共にその接近を食い止めるが、速度も膂力も尋常では無い。
気を抜けば身体がバラバラになるような凄まじい一撃だ。
だが――
「実体化に使った触媒が脆弱な肉体なら、冥府に還すのも容易い!」
邪神が受肉した肉体は老若男女に関わらず、邪教徒の身体を混ぜ合わせたキメラと化していた。
恐らく魔術的な素養が高い者達の肉体を合成したのだろう。明らかに常人の力を超えている。
だが、どれだけ魔術で強化しようとも、神が制御するには人間の身体はあまりにも脆すぎる。
既にその反動を受けて自己崩壊が始まっていた。
サイドステップで立ち位置を変えつつ、胸部から飛び出した肋骨のかぎ爪を避け、カウンター気味に放った刃を横一文字に奔らせ、身を沈める。邪神の掌から放たれる膝蹴りを避け、脇腹に切っ先を侵入させる。
奴の肉の内側にあるかどうかも分からない心臓部を貫き、原初の火を召喚する。
――残り四発。
邪神の肉体を内側から引き裂くようにして顕現する炎の中から大腸の触手が強酸を迸らせる。
投網のように広がり地面に張り付く。奴の強酸が床に広がり、鉄板で補強されたブーツを溶かす。
縦横無尽に斬撃を放つが触手の中から金属を叩くような硬質の手応えを感じた。迷宮化した監獄の壁と同じ感触だ。
斬撃では破壊出来ず、回避出来る程の隙間も残されていない。
原初の火を召喚する。いや、させられた。
炎の絨毯が広がり、奴が吐き出す強酸さえも灰になる。
――窮地は抜けたが、これで残り三発。
四つの口から絹を裂くような甲高い絶叫がエリア全体に響き渡る。
後方でエーヴィアが苦悶の声を漏らしながら片膝を付いて耳を抑える。
指の間から血が流れているのが見えた。
――この疫病神、絶対に殺してやる。
邪神を覆う全身の皮が捲れ上がり、剥き出しになった内部からは直径五ミリ程の太い針がびっしりと並び、その先端は全て自分の方に向いていた。
無差別攻撃の類では無く、エーヴィアに攻撃が向かっていないことがせめての救いだった。
神が相手だろうと一定以上の効力のある攻撃を立て続けに繰り出しているということもあり、自分にしか意識が向かっていないのだろう。
ガトリング砲のような音を立てて断続的に射出される針を精霊盾を幾重にも重ねて受け止めようとするが溶けるかのような勢いで削り取られていく。
それでも自分が盾を再召喚する速度の方が一呼吸分だけ早い。
辛うじて、ではあるが拮抗状態を作り出すことに成功した。
だが、それで気を抜いたのは失態だった。
邪神の身体から紅い霧が漂い始め、針ごと精霊盾を融解させていく。
この霧にどれだけの破壊力があるか定かでは無いが浴びて良い物では無い筈だ。
何よりエーヴィアに害が及ぶのは避けたい。
すぐ様、原初の火を召喚して霧も針も焼き尽くす。
これで三発撃ち込んだが、未だ肉体の完全な崩壊には至っていない。
ありとあらゆる存在を焼き尽くす、原初の火とも言えども、現世には存在しない現象を召喚術によって疑似的に再現しているに過ぎない。
魔術的な防壁によって原初の火と現世の繋がりを断ってしまえば、無傷とはいかずとも焼き尽くされる前に消火することは可能だ。
肉体強度的に魔人等の超越種、龍等の一部の幻想種、そして神のみに許された防御手段ではあるが。
残りは二発。迷宮と同じで原初の火で無ければ有効打を与えることが出来ない。
後は自らの力の反動で邪神が崩壊するのが先か、それとも自分が死ぬのが先か。
「エーヴィア! 今すぐ地上に戻って応援を呼んでください! 原初の火と同系統の術式で無ければ殺せない!」
「ですが……!」
自分の意図を理解したのか、邪神がうめき声と共にエーヴィアの方に向き直った。
奴の頭上に斬撃を叩き込み、肉迫する。間合いを詰めると同時に体内に精霊兵器を出鱈目に召喚して破壊する。
元から動くだけで崩壊するような脆弱な肉体だ。この攻撃にどれ程の効力があるか定かでは無い。
だが、見た目だけは派手だ。自分は苦戦などしていない――そう見せることだけは出来る。
「此処で犠牲になるために逃がすのではありません。確実な勝利を掴むためにお願いしているのです。勝ち目が無いなら自分も一緒に逃げると言っていますよ」
「蒼一郎様……信じて良いんですね?」
「さあ、早く行きなさい!! 自分がこの邪神を抑えていられる時間にも限りがあります!!」
「絶対、絶対にご無事で……!!」
漸く、エーヴィアが走り去った。切り札は残り二発。加勢が来るまで何分かかるだろうか。
「出来るだけ早目に頼みますよ。保って精々数分程度でしょうから……!!」
彼女が立ち去った階段に声をかけて、レーベインベルグを構え直す。
増援が来るまで地獄の耐久戦の始まりだ。
「とは言えだ――――、よくもエーヴィアに舐めた真似をしてくれたな豚。増援を待つまでも無い。この手で縊り殺してやる。貴様は此処で殺すぞ豚」
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