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第一話 研修

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 卑劣の王オライオンのソウブルー襲撃から二月が経過した。


 バーグリフは存分に辣腕を振るい、人、物、金をかき集め、一気にソウブルーを復興させた。

 瓦礫の除去と仕分けは下位の冒険者、戦士としては破格過ぎる報酬を提示し、誰も彼もが我先を争うように復興作業の下地作りに従事した。

 市街地は鍛冶職人ギルドと、頭領ロイドの人脈とバーグリフが用意した金で一気に再建させた。

 怪我人達の対応は莫大な報酬を得たカトリエルを筆頭に錬金術師や、回復系の術式を得意とする魔術師、冒険者達が総出で当たった。

 食料はカトリエル醸造所、ラーフェン家が所有するカーラ農園等の備蓄から解放された。

 ソウブルー地方内の何処に、誰が、何を、どれだけあるのか。その全てを完全に把握しているからこその力技だ。

 そして、今回の復興は資産の再調査も兼ねていた。近々何人かの貴族が追徴課税を徴収される予定である。


 更にサマーダム大学の復興に関しても同様だが、バーグリフの力技でヤンクロットの眼の紛失はもみ消され、ゴドウェン学長については病死扱いで処理された。既に再建は完了し、新たな学長が据えられ何事も無かったかのように再稼働している。


 そして、キャスタードラゴンにより壊滅したトルトーネ街は破棄され、トルトーネ要塞として再建されることが決まった。

 復興しても住人の殆どが死亡し、居住地として復興させる意味が無くなったからだ。生き残った住人達はエルベダ要塞やソウブルーへと移り住むことになった。

 こうして、ソウブルー地方の動乱は一先ずの落ち着きを見せていた。


――表面上は。


「倉澤先生! 今日もよろしくお願いします!」


 ギルドの会議室に着席した十人の少年少女が声を揃える。

 年齢は十三歳から十四歳。動乱の鎮静に合わせて自分は冒険者を廃業して教師に鞍替え、では無い。

 彼等、彼女らもまたれっきとした新人冒険者たちである。


 エルベダ要塞防衛と、キャスタードラゴン討伐の功績により、自分はAランクの冒険者に昇格した。

 神々に対する信仰心皆無で一般常識の著しい欠如を理由に昇格が保留されていたが、功績が積み重なり過ぎて昇格せざるを得ないという判断らしい。


 ローザリアさん曰く、「上層部の往生際の悪さは何とかならないのでしょうか。素直にSSランクの昇格を認めてしまえば良いものを」

 そんな具合で不満を漏らしていたが、まだまだアーベルトさんに勝てる気がしない。Aランクで妥当だ。

 それはさて置き昇格してから一番最初の仕事が、新人冒険者たちの研修だった。


 通常であれば、このような研修は行われない。

 別に自分が閑職に飛ばされたとか、ペナルティとかそういうことでは無い。

 今回に限って特例的な研修が実施されたのは彼等の生い立ちにある。

 彼等は魔人グァルプによるソウブルー市街地攻撃によって孤児となった子供達だ。


 帝国の一般的な就労開始年齢は十五歳。成人年齢も同じく十五歳。

 日本人の自分にしてみれば十三歳も十五歳も大した変わりは無いのだが、帝国人にしてみれば十五歳は大人だが、十三歳、十四歳は子供だからある程度の常識を身に付けさせる必要がある、というのが名目だ。


 そう、あくまで名目である。


 新人のAランク冒険者である自分が指導員に選ばれた理由は――、Aランク以上の冒険者で、尚且つソウブルーを拠点にしていて、民間人、依頼主からの評価が高く、()()()()()()をしているから。

 以前にローザリアさんとこんなやり取りをしたことがある。


「実力主義の商売とは言え、サービス業ですからね。最低限、依頼主を不快に思わせない恰好をするのは当然かと」


「上位に行くにつれて、そんな当たり前の常識が失われていくんですよ! あの人たちは! 倉澤様が文明人なら、あの人たちは巨人ですよ! 力があっても人としての尊厳が決定的に欠落しているんですよ!」


 ランクが上がるにつれて、戦えればそれで良いようなバトルジャンキーが加速度的に増えていくらしい。

 高い戦闘能力とそれに累乗していく強力な装備と魔力に八雷神の強力な加護。

 一般人と隔絶した力は冒険者のイメージを著しく損なっている。


 最低限とは言え、身に付けた日本のビジネスマナーをAランクの冒険者となった今でも利用しているだけだが、周囲が戦闘狂ばかりということもあり、相対的にまともな人格をした常識人と冒険者というのが自分の評価だ。

 冒険者の評価向上の施策の一つがマナーの向上。この少年少女達に施す研修は、そのテストモデルでもある。

 

 とは言え、マナーだの心構えだの何だのは必要最低限。


 人や依頼主にあったら笑顔で挨拶をしろ。

 人に良くしてもらったら必ず礼を言い、恩を返せ。

 過ちを犯したら必ず謝罪し、出来る範囲で詫びをしろ。

 依頼の納期や待ち合わせ。時間を意識し、厳守しろ。

 多くの人と知り合い、言葉を交わせ。

 仕事に手を抜くな、最善を尽くせ。

 身の危険を感じたら、まずは自分の命を最優先にしろ。

 仲間や依頼主を裏切るな。

 金の貸し借りをするな。貸すくらいならくれてやれ。

 散財するな貯蓄しろ。だが、成長期が終わるまでは飯代を絶対にケチるな。

 装備品に金を惜しむな。手入れを怠るな。薬品は常に揃えておけ。

 どんな儲け話を持ち掛けられてもギルドを通さない依頼は絶対に受けるな。

 戦えるのは若い内だけ。龍殺しでも老化には勝てない。

 休むのも仕事の内だが、休み過ぎは怠惰。メリハリを付けろ。

 困ったことがあったら一人で悩み行動せずに仲間や先生、ギルドに相談しろ。

 人種差別をしない。特に半獣※超重要

 

 こういった具合で、基本的には実践的な指導がメインになる。


 幸い、素直な子たちばかりだったので苦労は無かった。

 冒険者に限らず、全ての仕事にも共通していると言うとより一層、自分の言葉に耳を傾けてくれた。


 教師になった学生時代の友人から『子供の面倒は別に良いんだよ。保護者がクソうるせーのが厄介なだけで』と言っていたのをふと思い出した。うん、実際にその通りだと思う。


「さて、今日はみんなに魔物の討伐依頼を受けてもらいます」


『おおーーーーーっ!!』


 少年グループが興奮した様子で歓喜の声を挙げた。

 戦いこそが冒険者の本領とも言える。流石は男の子、といったところだ。

 今まで職人地区での面通しも兼ねた依頼ばかりを受けさせていたということもあり、随分と窮屈で退屈な思いをさせてしまった。


――楽しそうにして……こっちは子供を危険な魔物と戦わせなくてはならないと言うのに……。

 

 楽しそうにする子供達とは裏腹に胃が痛くて仕方が無い。

 とは言え、自分が監督できる間に出来るだけ戦闘経験を積ませておかなければならない。

 自分の手を離れた瞬間に命を落とすなんてことにもなりかねないからだ。


 それに今回の研修の有用性が認められ、年齢に関わらず研修の義務が課せられるようになれば、冒険者の死亡率を低下させることも出来るようになる。


――成長の痛みだと思って割り切るしか無いか。


 少年冒険者たちとは対象的に、少女冒険者たちは少し不安そうにしている。


「楽しみだと思う人もいれば、怖いと思う人もいるかも知れませんが、今のみんななら決して負けないと判断した上での討伐依頼です。それに研修期間中は今まで受けた依頼と同じように先生がついていきますから安心してください」


 子ども達を宥めてソウブルーの外へ。討伐依頼を受けた場所は目と鼻の先にある森林の中に聳え立つ監視塔だ。

 先々月までは稼働していたが、オライオンが放った間者により監視者は皆殺しにされ氷の団の前線基地にされた経緯もあり、今では裏切りの塔と蔑まれ、近々監視塔の解体と周囲の森林を伐採する計画が進められている。


 しかし、今になって行方不明になっていた監視者達の遺体がスケルトンナイトとなって森林や塔の中を徘徊しているという報告が上がった。その対処に冒険者が選ばれた。

 スケルトンナイトは死亡者の遺骨を媒介に出現するアンデッドだ。物理的な触媒を必要とし、物理的な攻撃が通用する為、アンデッドとしては最弱の部類に位置する。

 適切な装備と訓練を受けて、徒党を組めば子どもでも十分に対応出来る相手、の筈だ。


 一応、自分の生徒と同年代のエーヴィアからは「蒼一郎様の監督下にあるなら万が一も無いでしょうし、大丈夫だと思いますよ?」とお墨付きをもらっているが、ああ見えて才気に溢れる娘だから安心材料にならない。


――不安だ。ああ不安だ。


 多分、気の小さな子どもよりも緊張していると思う。正直、魔人と対峙する方がまだマシだ。

 どんなに緊張していても現場はたった一キロ先だ。すぐに到着してしまう。

 アンデッドは更なるアンデッドを呼ぶ。いっそスケルトンナイトがワイルドハントに変化してくれていれば、自分が介入する理由にもなると言うのに。


「さて、現場に到着しました。此処から先は大人も子どももありません。仕事が始まれば先生も、みんなもただの冒険者です。依頼主はこの辺一帯に巣食うアンデッドを殲滅することを望んでいます。良いですね?」


『はい!』


「装備の目視確認!」


 レザーアーマーに致命的な破損は無いか。装着に不備は無いか。

 回復薬の破損や不足などの不備が無いかを二人一組になって目視、口頭で確認させる。

 剣、盾、弓に関しては自分が召喚した精霊兵器を使わせている。

 基本的に使い捨てだが丸一日は持つし、性能も初級冒険者向けの装備と同等。

 損壊してもすぐに変えが効くし、補修作業の練習にも使える。


 精霊弓に至っては精霊たちの技術的な問題で矢を飛ばすことが出来ず、魔力を飛ばすことしか出来ないが、子どもの内から魔力の制御に慣れておけば、大人になる頃には自分以上の魔術兵装使いになれるどころか、魔術を得意とする冒険者になれることも期待出来る。


 体内への直接召喚なんてキワモノ的な使い方をせずとも、人を育てるには優秀な機能を持っていると気付いたのは最近のことだ。


「先生! 確認完了しました! 異常ありません!」


 報告に来たの少年の名はヴィルスト。

 歳は十四で新人冒険者たちのリーダー格とも言うべき存在だ。

 克己心の強い実直な性格でロイドさんからの覚えも良い。

 両親を失ったばかりにも関わらず、悲嘆に暮れること無く他の九人を引っ張っている。


「よし、それじゃあタンカー、アタッカー、バックアップの三人一組になってください。ヴィルスト、君は全員の動きを見て適宜フォローに入ってください」


「はい、やってみます!」


「日頃から口を酸っぱくして言っていますが、『まだいけるはもう危険』です。少しでも危険を感じたら下がり、仲間が下がり出したら孤立しないようにフォローに入ってください。ですが、先生が見張っていますので敢えて無理をして自分の限界を知ることも勉強です。無理をしてみたい人は事前に申告してください」


 カトリエルから「無理をするなって言っても、子どもなんて加減の分からないものだから」と霊薬を幾つか預かっている。

 霊薬では癒せない重症を負っても此処からなら光の速さで工房に戻れば何とかなる。


 幸か不幸か、「先生の負担になるかも知れませんが、無理をさせてください」と申し出たのはヴィルスト一人だけだった。

 先生としては子どもに無理させたくないんだが、無理しても命の危険が少ないのは先生がいる間だけだから無理して欲しいという気持ちもある。実に悩ましい。

 最初からこの世界の人間だったら、あるいは彼等ともっと歳が近ければこんなに悩むことも無いのかも知れないが……ああ、胃が痛い。


 子ども達が木々を背にして静かに塔を目指す。

 今の自分の魔力なら視界を防がれても半径三百メートル以内にいるスケルトンナイトの位置をほぼ完全に把握出来る。

 だが、口出しはしない。観察力、気配察知、魔力探知力、これらを養わなくては近々死ぬことになる。


 精霊弓を構えた後衛が慎重な足取りで森林の中を俯瞰的に観察しつつ、盾を構えた前衛が視界を塞ぐ木々の影にスケルトンナイトが隠れていないかを確認する。

 若干早い足取りで偵察に出ていたヴィルストがハンドサインで停止を指示する。

 そして、続け様に前衛の位置から十メートル先に、スケルトンナイトが一体発見したことを報告する。

 自分を含めた全員に戦慄が走る。


 子ども達が一斉に自分の方へと振り返る。危険だから止めたい――が。


「頑張りなさい」


 反省会は後からでも出来る。今はただ笑顔で送り出す。

 君達なら大丈夫だから――と、必死に恐れと震えを抑え込んだ。


 精霊弓から魔力の矢が三条の軌跡を描いて、ヴィルストが指差した方向に撃ち込まれる。

 帝国兵団の制式装備を身に纏った骸骨が、錆びた長剣を振り被った姿勢で飛び出して来た。

 盾には三カ所の魔力痕が穿たれていた。狙いは正確だが、発射の時点で此方の存在を認識されていたようだ。


 子ども達が息を呑む音が聞こえた。

 アンデッドというだけあって決して綺麗な見た目では無く、グロテスクな上に不気味な雰囲気を漂わせている。

 来ると分かっていても、その不気味さとプレッシャーに気圧されているのが見て取れた。


 先に目視確認が出来ていたヴィルストは、他の子ども達よりも立ち直りが早かった。

 両手で盾を構えてスケルトンナイトに肉迫し、その斬撃を受け止め――踏ん張りが足りず、もんどりうって背中から倒れる。

 プレッシャーから解放された二人の盾持ちが入れ替わるようにヴィルストのカバーに入る。

 子どもとは言え、二人がかりで盾を構えれば、さしものスケルトンナイトの斬撃も阻むことが出来た。

 剣持ちの一人が拮抗の隙を突いて側面に回り込み、剣を持つスケルトンナイトの右腕を斬り落とすと、背後に回った二人の剣持ちが、これ幸いにと頭部と脊椎を殴り付けるような斬撃で叩き壊す。


 怨嗟の断末魔と共にスケルトンナイトが消滅し、今の今まで自分が呼吸を止めたままでいたことに気付く。

 怖いわ、緊張するわで、何でこんな依頼を引き受けたのか今になって激しい後悔となって背中にのしかかって来た。今日一日だけで同じ思いを後何回しなくてはならないのか。


「悪い。いざとなったら怖くって動けなくなった」


「俺もフォローが遅れた。怪我はしてないか?」


 盾持ちの三人が申し訳無さそうにヴィルストに手を差し伸べる。


「大丈夫だよ。カッコ悪いところ見せちゃったけど、飛びかかって来たときは避けるか受け流した方が良いかも。結構、攻撃が重たかったよ」


「多分、足が止まってる状態からの攻撃だったら、一人でも受け止められるかも」


「先生が言っていた構えと踏み込みって奴だろ? 今度は踏み込ませないことを意識するってのは?」


「矢を撃つ時は、盾で防ぎ難い所を狙った方が良いのかな? 足とか」


「難しくない? 母ちゃんみたいな大根足だったら狙えるけど、スケルトンナイトの足って、あたしの足より細いよ?」


「当てることよりも足止めを意識するとか?」


「俺達、剣持ち組は完璧だったな!」


「けど、タンカーに動きを止めてもらった上で三人がかりでしょ? 本当は弓、盾、剣の三人一組で戦うんだからさ」


 こちらの心配を余所に初勝利の熱量に任せて即席の反省会と作戦会議が始まった。

 少年少女諸君、此処は敵地のど真ん中だぞ。


 だが、一応、安全は確保出来ているから今は口煩く言うまい。

 試行錯誤を繰り返して、先生の胃痛を一刻も早く止めてください。


「弓でスケルトンナイトの足止めをしている間に盾持ちが接近。踏み込みの出来ない弱い攻撃を誘って防御。その間に剣持ちがスケルトンナイトの武器を持っている方の腕を切断。盾持ちが体当たりでスケルトンナイトの体勢を崩したところを剣持ちがトドメを刺す。その間、弓持ちは周囲の警戒。出来そうなら他のチームの援護射撃。これでやってみよう」


 ヴィルストがそう締め括り、探索を再開。良い感じだ。

 カウンターだとかスイッチだとか難しいこと、今はまだ考えなくて良い。

 基本を忠実に、命を大切に。それを意識してくれれば良い。


 スケルトンナイトの習性と彼等の作戦ががっちりと噛み合い、危なげなくスケルトンナイトを撃破していく。

 しかも、流石は子どもと言うべきか学習が早い。交戦の度に動きは洗練され、最適化されていく。

 順調に見えたが、監視塔に到着するなり彼等の足が止まった。


「どう攻め込めば良いんだろう」


 ヴィルストが悩ましげに言葉を漏らす。

 監視塔は八重構造になっていて各フロアの直径は二十メートル程。

 森林に紛れての不意打ちは困難で戦闘エリアをあまり広く確保することが出来ない。

 フロア毎にどれだけのスケルトンナイトが待ち構えているかも分からない。

 

下手に突撃しようものなら乱戦は免れないし、別フロアから増援が現れる可能性もある。

 だが、それとは逆に各フロア毎にスケルトンナイトが待ち構えていない可能性もある。

 それどころか監視塔には一体もいないかも知れない。


 どちらにせよ監視塔の調査は必須だ。

 此処が無人なら拠点として利用出来るし、出口を封鎖して頂上から精霊弓によるアウトレンジで一方的にスケルトンナイトを殲滅することが出来る。これを使わない手は無い。


「先生、質問良いですか?」


「勿論です」


「監視塔の中に生存者はいないんですよね?」


「いない、ということになっていますね。この監視塔が裏切りの塔と呼ばれるようになった所以は、みんなも知っての通りです。恐らく、生存している帝国兵はいません。仮に人がいたとしてもスケルトンナイトが徘徊する監視塔を拠点にするような者、まともではありませんよ。寧ろ、この騒動を引き起こした者である可能性が高い」


「分かりました。ありがとうございます」


 中には敵か、悪人しかいない。そう考えたらしく、ヴィルストが子供達に「みんな聞いてくれ」と声をかける。


「盾持ちの三人は固まって防御態勢。残りは装備を弓に切り替え。狙いは監視塔の入り口だ。僕が矢で扉を撃ち抜いて、中に潜んでいるスケルトンナイトを誘き寄せる。一体ずつ倒して安全が確保出来たら侵入しよう」


 良い作戦だ。まだまだ彼等にはスケルトンナイトと一対一で戦えるだけの実力は無い。

 態々、不安のあるエリアで戦う必要は無い。戦いの場を自分達の持ち味を生かせる土俵で戦えば良い。


 スケルトンナイトの配置は一階から七階に各一体ずつ、八階に三体の計十体。

 無理せずに戦えば事故が起きない限りは問題無く勝てる数だ。

 念のためにいつでも介入出来るように戦闘開始と同時にレーベインベルグの柄に手を回す。

 閉所での戦闘経験を積ませるために敵の残数を教えて、突入を命じるべきだろうか。

 いや、彼等から緊張感を奪うのは良くない。黙っておこう。


 落ち着かない気分で彼等の攻略を見守る。

 特に変な事が起きるわけでも無く、無事に監視塔の制圧は完了した。

 高所を確保して、以前の座学で言った通り、彼等はアウトレンジから一方的にスケルトンナイトに殲滅。

 依頼を達成したと判断して帰路に発つ。


「いやー! どうなることかと思ったけど、俺達、本当に魔物と戦って勝ったんだな!」


 盾持ちの少年が意気揚々と声をあげた。まだ森林の中だぞ、少年。

 自分が口を挟まずともヴィルスト辺りが注意するだろうと思い、放置したが――


「ああ! この緊張感と達成感! これが冒険者なんですね、先生!」


 注意するどころか他の子ども達に混ざって興奮した調子で声をあげてはしゃいでいる。

 ああ――、普段はしっかりしているが彼も男の子か。

 いきなり達成困難な依頼を割り当てたのは失敗だったかも知れない。


「駄目ですよ、みんな。座学でも言ったでしょう?」


「え――?」


 大木の枝の上で監視していたスケルトンナイトが大上段の構えと共に飛び降りて来る。

 数は三体――、炎を纏い赤熱化したレーベインベルグを一閃。解体したスケルトンナイトを塵に帰す。


「敵は此方の気が緩む瞬間を虎視眈々と狙っている。帰るまでが依頼ですよ、とね」


「す、すいません……クソ……怖くて動けなかった!」


「その恐怖は敵が恐ろしく、そして格上だと理解しているからこその感情です。此処は格上の敵が潜む領域です。粗方の敵は片付けましたが、今のようにまだまだ潜んでいる可能性があります。であれば、やるべきことは分かりますよね?」


「は、はい! 盾持ちは先頭、弓持ちは後方、剣持ちは前衛と後衛のフォローが入れるように中間で待機。僕は最後尾から後方を警戒する」


――危ない危ない……。口から心臓が飛び出るかと思った。


 子どもたちにとっては良い教訓となってくれたらしく、冒険者ギルドの会議室に辿り着くなり、子ども達が肉体的、精神的疲労でぶっ倒れた。

 自分もぶっ倒れたいところだが、大人として先生として無様を晒すわけにはいかない。


「ほら、後もう一息ですよ。依頼の進捗報告報告書を書いてギルドの受付カウンターに提出して報酬を受け取って初めて依頼の完遂です」


『は~い……』


 子ども達がのろのろとデスクに向き合う。


「ほら、明日は丸一日休みにしますから、しっかりしなさい」


『はい!!』


 休みと分かれば疲労も吹き飛んだか。現金なものである。分かり易くて可愛げがあるとも言うが。


「今日の宿題は、今日受けた依頼の感想、反省とその対策。自分の中で上手く出来たと思うことを書いて提出してください。疲れていると思いますが、感覚が新鮮な内に出来るだけ今日中に書き上げるように。報酬を受け取ったら各自解散!」


 今日一番苦しい仕事が終わった。

 自分も工房に戻ってぶっ倒れたいが、報告書という面倒臭い仕事が残っている。

 そして、研修とは別に個人的な依頼もこなさなくてはならない。

 精神的な疲労は過去最高に蓄積しているが、彼等の戦いを見守るという大仕事に比べたら楽なものである。

 その癖、報酬は研修よりも格段に上なのだ。そう思えば足取りも軽くなるというものだ。

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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