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第十四話 ○○でも友達になってくれる?

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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 鋼の枝葉が複雑に絡み合う加護の鎧が、ガラガラと音を立て、バラバラに崩れていく。

 加護の残骸が煌びやかな輝きと共に天に昇り、ある種の幻想的な光景を生み出していた。

 この世界の人々にとってみれば縁起の悪いこと極まりない光景かも知れないが。


「………………………………」


 自分がエルフの少女の元に辿り着くと、キャスタードラゴンは全長十メートル程度の貧相な姿に――それでも脅威的に巨大だが――成り果てていた。

 横たわった身体を持ち上げることも出来ず、絶え絶えになった呼吸を繰り返しつつ、恐れを露わにした瞳で此方に視線を合わせたまま離そうとしなかった。


――最強の幻想種もこうなってしまえば哀れだな。


「急激に加護の力が無くなったから、本体に爆発的なフィードバックが発生しちゃったみたいだね」


 自分の気配を察したらしく少女が振り返らず口にした。

 無邪気と言うよりは余裕があると言った方が正しいかも知れない。

 強者としての自覚があるからか、それともエルフの習い性みたいなものだろうか。

 考えてみれば、まともに会話が成立するエルフと出会ったこと自体が初めてだからよく分からないが。


「絶大な力を誇るキャスタードラゴンも加護の力が無ければ、ただの爬虫類ですか」


 種さえ割れてしまえば程度の知れた脅威だった。

 キャスタードラゴンには最早、身体を動かす力は残っていないらしく、未だに奴は怯えを含む眼で此方を見ていた。

 これから殺されるという事を理解しているだろうし、当然の反応とも言える。


「研究材料ゲット!」


 エルフの少女が喜々として叫んだ。

 するとキャスタードラゴンの影が粘土のように歪み、崩れた影の中から幾つもの黒い腕が飛び出した。

 黒い腕はキャスタードラゴンに絡み付き、影の中に押し込み、引き摺り落とそうとする。

 力の尽きかけているキャスタードラゴンには抵抗する手段が無く、弱々しくもがき、悲し気な悲鳴と共に影の中に飲み込まれていった。


「研究材料?」


 恐ろしい魔術だと、そう思った。あのキャスタードラゴンが何処に行ったのか自分には知る由も無いが、此処では無い何処かへと強制的に引きずり込まれてしまう魔術に本能的な恐怖を嫌でも感じさせられる。


 だが、恐怖以上に優れた魔力を持つエルフが、強大な力を持つドラゴンを使って何をするのかという事に興味を引かれた。

 自分が文系の人間だから、研究という理系的な響きに憧れを抱いているというのも否定出来ない事実だ。


「よくぞ聞いてくれました!」


 エルフの少女は待っていましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべて振り返った。

 自分の問いかけは彼女にとって喜ばしいものだったようだ。

 自分が若干の警戒心を滲ませているのを気付かない筈が無いのだが……、多分気にしていないんだろう。

 研究に興味を持たれ、それを説明出来ることが嬉しく感じているように見える。


「あのね、キャスタードラゴンって凄いんだよ! 八雷神や自然神の加護を感覚的に切り替えることが出来る唯一無二の生き物なんだよ!」


「加護の切り替え?」


「そう! 例えば私だったら白のアルカリスから加護を貰ってるんだけど、他の八雷神や邪神から加護を受けようって思ったら、信仰や契約を結んで、今の加護よりも強い加護で上書きしてもらわなきゃいけないんだよね」


「キャスタードラゴンにはそれが無い?」


「うん。これは全ての種族に共通して言えることだけど、人類種以外の有機生命体に信仰や契約を思考出来るだけの知性なんて、極僅かな例外を除いて無いんだよね」


「それにも関わらず、加護を得ることが出来る。加えて、キャスタードラゴンは本来なら面倒な手順を踏まなくてはならない筈の加護の切り替えを感覚的、本能的に実現している。つまり、信仰や契約は加護を得る為の必須条件では無く、考えられているよりも単純な穴がある。キャスタードラゴンはそれを本質的に理解していて、その時々で加護の切り替えが出来る合理的な生物だと言うわけですか」


「そうそう! そういうことだよ、おにーちゃん! 理解が早い人って素敵だと思うよ! それに普通なら加護を得るのに信仰はいらないなんて言ったらムチャクチャに怒る人多いのに柔軟な考え方だね!」


 エルフの少女が何の嫌味も無く、無邪気そうに純粋な笑みを浮かべて感心したように何度も頷いた。

 信仰が不要である事については頷ける。自分が信仰心ゼロでありながら、青のルスルプトから加護を得て出鱈目の力を振るえていることからも明らかだ。


「しかも、加護の力を失った反動で衰弱するということはだよ!?」


「肉体的、魔力的な強度を、身の丈を遥かに越えた加護を得ていることが考えられる、ですか?」


 エルフの少女は向日葵の様な大輪の笑顔を浮かべ、飛び付いて来たので取り敢えず抱き止める。どうやら大正解らしい。


「だから、キャスタードラゴンを徹底的に解析して理解するの! 今回の個体は八雷神じゃなくて、山林に宿る名無しの自然神の加護しか受けてない若い個体だったから研究材料としては三級品だけど、上手くいけば八雷神や自然霊、邪神、一通りの加護を受け取って一番都合の良い加護を選ぶことが出来るようになるかも知れないの!」


 少女は自分を地面に押し倒しかねない程の勢いで肩を揺らしながら早口にまくし立て、一際大きな笑顔を浮かべて言葉を続けた。


「上手く応用出来れば複数の加護を併用することだって出来るかも! それが上手くいけば人類種の進歩! その大いなる一歩になるんだよ!」


 随分とスケールの大きな話だった。


「凄いな。そんな事を目指すだけの力があるなんて聡明なんですね。貴女は」


「うーっ……褒めてくれるのは嬉しいけど貴女だなんて他人行儀はイヤ! ヴァリーって呼んで!」


 上機嫌にしがみ付いていたエルフの少女改め――、ヴァリーを地面に下ろすとが不機嫌そうに頬を膨らませる。少し胡桃さんに似ているかも知れない。

 小動物的な可愛らしさに思わず、彼女の頭に手が伸びる。


「ごめんなさい、ヴァリー」


「いいよー! 許してあげる!」


 ヴァリーは、ころころと表情を変えて自分の掌に頭を押し付ける。

 言外に許してやるからもっと撫でろと言っているようだ。

 犬と女の子を撫でるのは好きだし、拒絶する理由が無い。頭を撫でながら、彼女に問いかけてみた。


「ヴァリーは何故、そんなスケールの大きな研究をやろうと思ったのです?」


 その問いに深い意味は無かった。ただの雑談。そのつもりだった。

 加護や信仰を道具として扱う考え方をする者はほぼ皆無で、自分がその皆無のマイノリティ側だからという理由が少なからずあった事は否定しないが。


「あのね、おにーちゃんは自分よりも強い人や優れている人のこと、どう思う?」


「格上の相手をどう思うか、ということですか? 相手によりますね」


「どういうこと?」


「誇り、尊敬し、誉めることも出来ますが、誹り、嘲り、妬み、そして、恐れることも出来ます。ああ、奮起したり、後に続こうと目標にする事もあるでしょうね」


 結果が全てとは言うが、()()()()()()()()()――という事が全てでは無い。

 ()()()()()()()()()――、これも中々重要な要素だ。


「どんなに素晴らしい能力を持っていても、それが何者なのか、自分とはどんな関係にあるのか、それ次第で印象も評価も二転三転する。我々には心と感情がありますから、理詰めだけでは納得出来ないものです。事、身分や種族、人種なんてものが関わると特に、ね」


「そう、だよね。うん、おにーちゃんの言うこと分かるよ。だから、だからね。私は人類種を進化させたいんだよ」


 頭を撫でる自分の手にヴァリーが震える手で指を絡ませてきた。

 官能的でも無ければ、背徳的でも無い。色気のある感じは全くしない。

 寧ろ、ヴァリーは自分の指が、まるで繊細な硝子細工であるかのように緊張感を滲ませて、恐る恐るといった様子で指を絡ませてくる。

 ヴァリーは思い詰めた表情をしていた。されるがまま様子を見ていると彼女は安堵したかのように深く指を絡ませ、潤んだ瞳で自分を見上げた。


「おにーちゃんは私と友達になってくれる?」


「え? ええ……勿論ですよ」


 彼女が湛えた緊張感とは裏腹に飛び出した言葉は何でもない、本当にささやかな願いだった。

 戸惑いはしたが、あまりにもささやか過ぎた。

 何も考えずに頷いて見せるとヴァリーは悲し気に首を横に振った。


「そうだよね。おにーちゃんなら、きっとそう言ってくれるって思った。だって、おにーちゃんにとって私はエルフの小さな女の子にしか見えないから。おにーちゃん自身が凄く強いから私の投擲魔術とか影の領域を見ても普通の女の子扱いして友達になってくれるんだよね。でも……」


 彼女の指先から放たれる魔力が拘束具のように自分の指を、手を、肘を、腕を、肩を這いずるように拘束していく。

 それでも、ヴァリーの悲しげな表情を見ていると拘束から逃れる気も、反撃に転じる気にもなれなかった。

 愚か過ぎる判断だということは重々承知している。

 承知した上で、彼女の意志を見定めてからでも遅くない。そう思ってしまった。


 そして、彼女は寂しげに言い放った。


「私がルカビアンの十九魔人ヴァルバラでも友達になってくれる?」


 多少の反動を無視してでも拘束を解き、目の前の魔人を突き飛ばすか、殴り付けるか、精霊兵器を体内に直接召喚するか、レーベインベルグで斬り伏せるか。本来ならばそうするべき状況だ。

 それにも関わらず腕の中で怯える魔人、いや小さな少女をただ無言で見つめる事しか出来なかった。

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