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第五話 先輩

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 朝――。


 アーベルトさんからの指名依頼を受けるために冒険者ギルドの扉を開くと――。


「お願いします! お金は一生かかってもお支払いしますから!」


「無理ですー! 出来ないんですー! 勘弁して下さい~!」


 十五、六歳くらいの白いマントを羽織った女の子が必死な様子でアナメルさんに縋り付いていた。

 周囲の冒険者たちは遠巻きに見るどころか、視界に入れないように担当者の待つカウンターで依頼の吟味をしている。


――他人に無関心な現代人か、貴様等は。


「お疲れ様です。倉澤様」


「おはようございます。ローザリアさん。彼女達は何をあんなに揉めているのですか?」


 未だに二人は「お願いします!」「無理ですー!」を連呼している。


「よくある事です。可及的速やかに冒険者の力を借りたい。でも、依頼料は無い。ただの若い子が言うことなら可愛いものですが、彼女はEランクの冒険者。物事の道理も分かっているでしょうに」


 ローザリアさんが嫌悪感を剥き出しにして吐き捨てるように言った。

 一度でも例外を認めてしまえば、それまでに規定の依頼料を払ってきた依頼人達に対する不義理になる。

 更に依頼料を払えない人達がこぞって特例を認めるように要求し、僕も私もと殺到し、ギルドに所属する冒険者の安売りに繋がり、ひいては冒険者ギルドの商品価値を落とすことになる。考えるまでも無い事だ。


――しかし、相手は子供だぞ……。


 正しいのは彼女達で、あの子供冒険者が間違っているのは事実だ。

 そうだとしても、ローザリアさんの言い方が冷たく感じたのもまた事実だ。

 だが、ギルドの規律を遵守することが、秩序を保ち、巡りめぐって冒険者の権利を守ることになる。

 大多数の秩序と規律、権利を守るために小数を切り捨てる。現実世界でもよく見かける光景だ。


「しかし、あの娘は何の理由で必死に?」


「お願いします! ベルカンタンプ鉱山に行かなきゃいけないんです! 後払いになってしまいますけど必ずお支払いします! 何だってしますから! お願いです!」


 ついに女の子は土下座してしまった。


「そんな事されたって無理なものは無理ですってば! エーヴィアさんも冒険者だから分かっているでしょう? 依頼料の支払い能力があっての依頼人。そこで初めて依頼人としての信用を得ることが出来るんです。冒険者は何があっても自己責任。依頼途中で命を落とすことがあってもそれは同じです。時には騙されることもあります。ある意味で社会的弱者です。そして、ギルドは冒険者の生命と権利を最大限守る為に存在するんです。あなたは二束三文の報酬を対価に、他の冒険者の生命と権利を脅かそうというのですか!? そんな背信行為をギルドとして絶対に許しません!!」


 話している最中に熱が籠って来たのか、アナメルさんはいつものぼんやりとした態度とは打って変わって毅然とした態度で大声を張り上げる。


「でも……っ!! だって……っ!! それじゃあ、お母さんが……っ!!」


 エーヴィアと呼ばれた少女が土下座したまま、すすり泣く。


「お母さん……か」


 もう見ていられなかった。


「倉澤様?」


「いえ、衛兵団長のアーベルトさんから、自分に依頼の指名が入っていると思うのですが」


「ええ……こちらを」


 彼女達から視線を外し、仕事の話になった事でローザリアさんが表情を引き締め、依頼書を差し出した。


「………………」


 ベルカンタンプ鉱山の調査依頼。

 依頼書に書き記されているカバーストーリーを斜め読みして特記事項に視線を移す。


『調査に必要な人員を別途に用意する事を許可する。

 人員の選別は倉澤蒼一郎の裁量に委ねるものとし、人員は冒険者に限定しないことを認める。

 人員の調達に必要な経費は依頼主が負担するものとする』


 冒険者以外の人員、つまりは胡桃さんとカトリエルを連れて行けという、アーベルトさんからの言外の要請だ。

 そもそも、今回の追加調査は胡桃さんの嗅覚と、カトリエルの魔力探査能力が頼みの綱だった。

 必要経費というのは二人に支払う報酬を意味する。

 

 しかしだ。この書き方なら――。


 書類に受諾の署名を入れてローザリアさんに返却し、土下座したまま咽び泣く、エーヴィアと呼ばれていた少女の元へと向かう。

 今は土下座しているから顔は見えないが、さっき見た感じでは顔立ちこそ一五、六歳。

 しかし、細くやつれ、十代とは思えない程荒れた手をしている。


「ベルカンタンプ鉱山までご同行願えませんか? 勿論、規定通りの報酬をお支払いしますよ」


 あの依頼書の書き方なら自分がこの少女を調査メンバーに加えても、別に何ら問題は無いということだ。

 幸い目的地は同じだ。自分が彼女の依頼を受けるのが問題なら、自分が雇えば良い。


「どうですか?」


「え?」


 再び尋ねると、大きな瞳から大粒の涙を流しながら、エーヴィアさんが茫然と自分の顔を見上げた。


「だ、駄目ですよ!?」


「倉澤様!?」


 アナメルさんと、ローザリアさんが慌てた様子で止めに入ろうとする。

 ある意味で想像通りの反応だ。「まあまあ」と嫌みにならないように笑顔を浮かべて両手を挙げる。


「自分の受けた依頼はベルカンダンプ鉱山の調査。調査の人員は自分の裁量に委ねられる。それは冒険者でも、そうで無くても良い。この条件をギルドが承認し、その依頼を自分が受諾しました。都合の良い事に、自分よりもランクが上の冒険者がベルカンプ鉱山に行きたがっている。どうせ連れて行くなら熱意がある方を連れて行きたいと思います。自分より格上なら、実力的にも問題は無いでしょう」


「ですが……」


「認めては……頂けませんでしょうか?」


 渋るローザリアさんとアナメルさんに懇願するように頭を下げる。

 斜め四十五度の最敬礼。ここまで綺麗な一礼をしたのは新卒時代の研修以来だ。

 案の定、二人がたじろぐような気配を見せた。

 正直、家族や身内以外の人間の事なんてどうなろうが知った事じゃない。

 普段の自分なら見ず知らずの他人のために頭を下げてやる気など更々ない。


――だけど仕方が無いじゃないか。


 詳しい事情なんてさっぱりだが、『お母さんが』なんて言われたら、どうしようもない。

 組織や社会の道理を曲げてでも何とかしたい。その為だったら土下座なんていくらでもする。

 叶わなかったら絶望して泣く。正しく子供の行動と理屈だ。

 だけど誰だって家族は大切だ。


――うん。仕方が無い。


 例え、他人でも家族のために奔走する子供が自分の手の届く距離にいる。

 もう見ていられなかった。黙って見ている事など自分には出来なかった。

 

「決してギルドの顔に泥を塗るような真似は致しません。必ず依頼を完遂してみます。それと同時に彼女の生命と権利。そして、尊厳を貶めるような行為も絶対に致しません」


 自分とて目的があって冒険者ギルドに所属している。ギルドから放逐されるのは論外だ。

 だから、自分に出来るのは此処までだ。


「頭を上げて下さい」


 ローザリアさんが根負けしたように嘆息と共に口を開いた。


「仰る通り、ギルドが認可し、倉澤様が受諾していることですから違反行為ではありません。ですから私達が倉澤様の選択を許可しないという事はギルドに対する背信になります」


 期待通りの言葉を引き出せた。

 そうだ。ギルドの規律と秩序を守るために、彼女達は自分の言い分を認めるしかない。

 だが、正論だけで物事を推し進めても、余計な敵を作ることになる。頭を下げたのは懇願するためではない。

 ギルドに背く意思は無い事を表明し、軋轢を避けるためだ。


「しかし、指名依頼という依頼主の多大なる信頼ありきの依頼です。初対面の、それも能力も知らない冒険者を誘うのはあまりにも軽率であると言わざるを得ません」


 それに関しては反論の余地も無い。

 だが、そうだとしても彼女の言葉に拘束力は無い。後は角が立たないように切り抜けるだけだ。

 しかし、無い頭を振り絞って反論を口にするよりも先に、ローザリアさんは自分の耳元で声を潜めた。


「今回は、依頼主との談合みたいなものですから、あまり五月蠅くは言いませんが……」


 先に釘を刺されてしまった。とても甘く、優しい釘だが。


「倉澤様の責任の元、依頼の完遂をお願いします。僅かな不備や不足も論外だということをご理解下さい」


 何はともあれ、どうにかお許しを頂くことに成功して、取り敢えずのお膳立ても出来た。


 後は――


「後は貴女次第ですよ」


 床に座り込んだまま涙を拭うのも忘れて、目を白黒させるエーヴィアさんに手を差し出す。

 彼女は恐る恐る手を伸ばし、後少しで手が触れるところで動きが止まった。


「だ、だけど……、私、Eランクで……」


 彼女の目は自分の腰に差したレーベインベルグの柄だった。

 大方、柄に埋め込まれた黒い魔石。見るからに魔術兵装だと分かる。

 装備の見た目で上位の冒険者と勘違いされているのだろう。


「ええ。聞き及んでいますよ。自分は四日前に冒険者になったばかりの新人、Fランクです。だから、色々とご指導ご鞭撻を頂けると幸いです。先輩」


 今の所、自分には現役冒険者の知り合いがいない。

 特にランクの近い冒険者から心構えのような物だとかを聞いておきたいと思っていたのは事実だ。


「先輩……私が?」


 余程、先輩呼びが意外だったらしく、彼女は流れる涙を拭うのも忘れ、きょとんとした表情を浮かべる。

 小動物的で可愛らしい子だ。ついつい自分も笑みが浮かんでしまう。


「ええ。自分よりもずっと若いのにEランクだなんて先輩はとても凄い方だと思いますよ?」


「あ、あの……! 私、こんなんだし、全然役に立たないかもだけど……。一生懸命頑張ります! 何でもします! だから受けさせて下さい!」


 エーヴィアさんが両手で自分の手をしっかりと掴んだ。

 いつまでも子供を地べたを這いつくばらせるのは気分が悪いし、外聞も悪い。

 そのまま、引っ張り上げるようにしてエーヴィアさんを立たせた。


「ええ。頼りにさせてもらいますね、先輩」


「ありがとうございます……! ありがとうございますっ!」


 再び大粒の涙を流しながらエーヴィアさんが何度も頭を下げる。

 あんなに泣きながら必死な子供を見捨てずに済んで、一先ずは安心した。

 あのまま放っておいたら、自分の心にしこりを残すところだった。


「と言う事になりましたので処理をお願いしますね。ローザリアさん」


「分かりました。ですが、次からはこの様なやり方は絶対に認められないと思って下さい」


 そして、ローザリアさんは声のトーンを落として言葉を続けた。


「ですから……次からはもう少し上手く取り繕うということを覚えて下さい」


 それが出来れば、ギルドの法と秩序を遵守するという条件の下、今回のようなグレーなやり方も認めると言ってくれているようなものだ。


「でなければ査定をマイナスにせざるを得ません」


 ギルドの秩序と大多数の冒険者の権利を守るために、か。

 ギルドの職員も大変だ。この借りは仕事で返すことにしよう。


「分かりました。自分も評価が下がるのは勘弁願いたいですからね」


「倉澤様にはご自身の価値という物を今一度見つめ直して頂きたく思います」


 責めるような言葉とは裏腹に、此方を気遣うような表情だ。

 気付けば現代日本人的な無関心さを披露していた冒険者の一部が恨みがましい目で此方を見ていた。


「――――――――……」


 一人は神経質そうな長身の青年で、厳めしい目付きをしている。

 自分と目が合うと彼は憐れむような顔で鼻を鳴らして立ち去っていった。


「ケッ……!!」


 もう一人は自分ではなく、エーヴィアさんの方に向かっている。

 リディリアさんくらいの年齢の女性冒険者で妬ましげに睨み付けている。

 エーヴィアさんの方は全く気付いていなかったが、自分の視線に気付くと怨念の篭もった形相で睨み付け、舌打ちして出ていった。


「よくある事です。何故、自分の時には倉澤様のような方が現れなかったのか。何故、自分は倉澤様のようになれなかったのか、と」


 成る程。救いたくても救えなかった。救って欲しいと懇願しても誰も救ってくれなかった。

 そんな事、古今東西、現実世界、異世界に関わらずよくある話だろうに。


――知ったことか。


 知ったことじゃないが、確かにもっと上手く取り繕う方法を考えておかなければ、余計なトラブルを招くリスクになりそうだ。

 

「あの……?」


 エーヴィアさんが何の事だか分からないといった表情をして、自分とローザリアさんの顔を交互に見比べた。


「いえ、何でもありません。大丈夫ですよ」


 それよりも、ここからは仕事だ。彼女を連れてソウブルー大正門前の馬車乗り場へと向かうことにした。

 馬車乗り場で、胡桃さんとカトリエルの二人と合流する手筈になっている。

 リディリアさんは商業地区でトーヴァーさんと買い物でもして遊ぶそうだ。


――叔父と姪とは言え、仲が良くて何よりな事だ、が……


 それにしても自分の手を握り締めるエーヴィアさんの両手は骨ばっていて、まるで老人の手のようにも感じた。

 栄養状態は良好などと、口が裂けても言えない有様だ。

 冒険者は儲かる。 Fランクでも真面目に依頼をこなせば食うに困ることは無い。

 しかも、彼女はEランクの冒険者だ。Eランクの報酬相場はFランクのほぼ倍だ。

 Eランクの冒険者にはそれだけの商品価値があり、子供ながらに一財を築くだけの力を持つ事を意味する。

 それにも関わらず、こんなにも痩せ細り、見るからに困窮している。


――はっきり言って異常だ。


「貴方にしては不甲斐ないわね」


 エーヴィアさんを連れて合流するなり、カトリエルは出発前の馬車から飛び降りて大正門へと向かって歩き出した。

 何故か知らないが彼女を怒らせてしまった。知らない女の子と手を繋いで此処まで来たからか?

 確かに自分達は対外的には婚約しているという事になっている。

 だが、それは自分達を取り込もうとする権力者達を遮断するための口実だ。

 これだけの美人だし、付き合えるものなら付き合いたいが、生憎と好いた惚れたの関係では無い。

 残念だが割とドライな関係なのだ。いや、衣食住の世話をしてもらっているし、ドライでは無いか。

 それは兎も角、第一、別に一段落するまでカトリエルのことを正妻として扱うなら二人や三人くらい女を囲っても良いって言ったのは彼女自身じゃないか!

 それ以前に今回、アーベルトさんから受けた依頼はカトリエルが同行することも頼まれている。

 だから不貞腐れて帰ってもらっても困る。非常に困る。大変困る。

 

「カ、カトリエル!?」


 慌てて呼び止めようとする自分の声に彼女は振り返った。

 怒ってはいないようだが、どうしようもない程、呆れた表情をしている。


「その娘用の食事を用意するわ。出発前までには戻るから大人しく待っていなさい」


 程無くして戻って来た彼女は「これ、飲んでおきなさい」と手にしたガラス瓶をエーヴィアさんに差し出した。

 透明なガラス瓶の中には湯気が立ち昇る白濁とした液体が入っている。


「霊薬を溶かし込んだオートミール。栄養剤代わりよ。消化し易いように柔らかくして貰っているから弱った胃腸でも大丈夫だと思うから」


「あ、あの……」


「安眠用のオイルを入れているから飲んだら眠りなさい。ベルカンタンプ鉱山に到着する頃には倦怠感もマシになる筈よ。この人が連絡の一つでも入れてくれていれば、もう少しマシな物が用意出来たのだけれど」


 戸惑いながら瓶を受け取るエーヴィアさんに、カトリエルはいつもの無感情、無表情で淡々と言葉を紡ぐ。


――あ、成る程。


 見るからに栄養失調者だと分かるにも関わらず、何の処置もせず、何も考えずに此処まで連れて来た自分のアホさ加減にカトリエルは心底呆れ果てていたのだ。

 だと言うのに、自分はカトリエルが嫉妬し、て怒ってしまったのだと的外れ極まりないことを考えてしまった。


――馬鹿過ぎるにも程がある。余計な口を開かなかったのが不幸中の幸いだな。


「あ、ありがとうございます。でも……」


「良いのよ。私がそうしたいと思ったからしただけ。それでも気が咎めると言うのなら……、そうね。しっかりこの人の事を手伝ってあげて頂戴。見た目通り抜けている所があるから」


――返す言葉も無い。


「あ、あの……でも、本当に感謝しています。ここまで良くしてもらって……」


 安眠オイルが効いてきたのか、霊薬入りのオートミールを飲んでいたエーヴィアさんの瞳が虚ろに揺れる。


「今はゆっくり眠りなさい」


 カトリエルの言葉を合図に崩れ落ちそうになる彼女の身体を胡桃さんが支えて、膝の上に寝かせた。


――ウチの胡桃さんマジ天使。


 なんて――、これが家族に対する行動であれば、親バカ全開で褒め倒しているところだ。

 家族以外の人間が胡桃さんに慰めてもらいやがって……ということでは無い。

 苦しさや悲しみを感じ取り、その人の側に寄り添う。飼い犬飼い主だけに限らず、何処にでもよくある話だ。

 この子が普通の犬なら自分だって気にはしない。

 だが、胡桃さんの根っこにあるのは人間に対する不審と恐怖だ。

 倉澤家の人間と親しいという条件があれば、初対面の人間でも懐くことも極稀にある。

 しかし、そもそも自分がエーヴィアさんと初対面だし、彼女に対する想いは憐憫だ。

 胡桃さんが懐き、気を遣うための条件が成り立っていない。


 それでも尚、この子が彼女に寄り添う理由――、


「ますたー……」


 膝の上で寝息を立てるエーヴィアさんの頭を撫でながら、胡桃さんが泣き出しそうな顔をした。


「どうしたんだい?」


「この子、すごくかわいそう」


 結局はそういうことだ。自分自身の人間不信を上回る程の何かを、何とかしてあげなくてはいられない程の不幸の気配を彼女から感じたのだろう。


「ああ、大丈夫だよ。この子を助けてあげよう。胡桃さん、手伝ってくれるかな?」


「うん!」


 家族のために頑張っている子供を目的地に連れて行ったらお役御免。

 そんな盆暗みたいなことをほざくくらいなら、最初から口出しも手出しもしていない。

 胡桃さんもこう言っている事だし、思いっ切り介入してやる気満々だ。


「ソウブルーって治安が良いのが一番の特徴と聞いたけど……、殺人事件、ドラゴン、魔人、心の乱れた子供冒険者。何を思って治安が良いだなんて自称したのやら」


「他はもっと酷い。そういうことよ」


――最悪だな、この世界。


「牧歌的で長閑な土地で胡桃さんの散歩には絶好の世界だと思っていたんだけどなぁ……」


 まるで自分の見通しの甘さをあざ笑うかのように馬車を引く馬が『カッポカッポ』と間の抜けた足音を響かせてベルカンダンプ鉱山へと向かうのであった。

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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