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第十二話 冒険者

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 仮初のプロポーズと無職呼ばわりに耐え切れず、カトリエルさんの工房を後にしてギルド地区を目指す。


 胡桃さんの面倒はリディリアさんに任せた。

 このけったいな夢を見出してから一人で出歩くのは初めてな気がする。 


 スケイルドラゴンの襲撃が収束して、まだ一時間が経つか経たないかだ。

 衛兵達が怪我をした住人達をかついで走り回り、筋骨隆々のドワーフたちが瓦礫を運び出し、復旧に向けた活動が既に始まっていた。


 この辺りはスケイルドラゴンの被害もそれ程大きくは無い。

 矢張り、酷いのは奴が落下した衝撃で溶鉱炉をぶちまけた鍛冶屋達が密集しているエリアだろうか。


 とは言え、フードの付いたローブに身を纏った魔術師らしき集団が結界術式を展開し、延焼を食い止め火災の拡大を防ぎ、別の魔術師達が掌から流水を放って消火作業を行っており、火災の混乱も収束しつつある。

 おとぎ話に出て来そうな森の奥に住む怪しい魔法使い然とした風貌だが、衛兵達は特に気にした様子も無く、時折、親しげに声をかけあったりする姿もあった。

 多分、あの格好が魔術師のスタンダードなのだろう。


 それにしても、あれだけの騒動と被害があったにも関わらず、初動の遅さとは裏腹に、事後対応が凄まじく早い。


「手慣れている……、違う。いや、慣れてはいるんだ。龍の対応にと言うか、災害や戦火に慣れているんだ」


 消防専門の組織の姿は見受けられないが、魔術師に限らず各人に出来る事を誰かに命じられるでもなく粛々と作業をこなしている。

 竜は兎も角として、こういった都市被害に慣れているのが見て取れた。そうだ、生活様式の一部に組み込まれているように見える。


「これが……、これで帝国でも一、二を誇る治安の良さ……か」


 心底辟易した。それに自分では役立てそうにも無いので、彼等を尻目に緩やかな坂道を進み、ギルド地区に繋がる門へと足を向ける。

 衛兵に呼び止められ、カトリエルさんに預かった許可証を渡すと暫く待つように言われたので大人しく指示に従う。

 一応、婚約者という体裁を取るのであれば彼女のことは呼び捨てにした方が良いのだろうか?


「年下とは言え、カトリエル【ちゃん】ってキャラじゃないよな。彼女は」


 なんて事を口走っていると「疾風」だとか「龍殺し」なんて単語が聞こえた。


 前者はあの声量も存在感も喧しい男が原因だろうが、後者の伝わるスピードがやたら早い気がする。

 そもそも、叙勲式だって風呂に入っている間に、自分の預かり知らぬ所で二日後に決まった上に礼服まで用意されていたのだ。妙に作為的な物を感じる。


「大変お待たせ致しました。お通り下さい」


 先程の横柄な態度とは打って変わり、やたらと慇懃な態度だった。

 権威やら何やらに弱いのは、夢も現実も同じらしい。

 だからと言って彼等に倣って自分が横柄に振舞うのも、器が小さい奴みたいで憚られる。


 衛兵に一礼して先へ進みギルド地区へと再び足を踏み入れる。

 三日前、八雷神教会の司祭を殺害したエルフの追跡で訪れて以来だが、大体の地理は記憶している。


 基本的にギルド地区の往来は関係者のみで商業地区のような人混みも無ければ、職人地区のような熱気も無い。

 閑静な公園のような雰囲気が漂っている。


 商業地区までの距離があるので、生活には不便そうだが、整地された広い道路に適度な芝生もあって胡桃さんの散歩コースには向いていそうだ。

 冒険者ギルドの登録が済めば、ギルド地区の出入りもし易くなるだろうし、その時は胡桃さんを連れて行こう。きっと喜んでくれるはずだ。


「おお、疾風の! いや、これからは龍殺しだな!」


 閑静なギルド地区の景観を著しく損なう上半身裸の巨漢の男に声をかけられた。


「ああ、アンタか。ルトラール。それじゃあな」


 この男に用は無いので先に進むと、両手を広げて回り込んで来たルトラールに阻まれる。


「待て待て待て! そう急くな!」


 何やかんやあって冒険者ギルドへの登録が遅れに遅れている。

 余計なことにかかずらって、これ以上の遅れを出すのは避けたい。無職呼ばわりは精神的にクるものがある。

 奴の身体を潜り抜け、先を急ぐ。


「アンタは暇でも俺は暇じゃない。先に行かせてもらうぞ」


「ええい、薄情な奴め!」


 自分が薄情ならコイツは強情だ。道を阻むのは諦めたようだが、それでも必死に追いすがってくる。

 

「知るか。俺は俺の目的のためにギルド地区まで来たんだ。これ以上、余計な道草を食っていられるか」


 これ以上、住所不定扱いもごめんだ。


「ギルド地区に用? ついに戦士ギルドに入る気になったのか!」


「なるか、ボケが」


「なあ龍殺し。お前、会う度に俺への態度が辛辣になっておらんか?」


 自業自得だ。


「アンタへの態度はどうでも良いが、俺がギルド地区に来たのは冒険者ギルドに登録するためだ」


「なんで? 龍殺しなら戦士ギルド一択だろうが! 戦士ギルドなら戦いの場には困らんと言うのに!」


「龍を始末したのは成り行きだ。そもそも俺は争い事を好いていない」


 何より平和主義の胡桃さんが嫌がるし、怖がる。そんなことよりも散歩だ。散歩している方がずっと良い。とても有意義だ。

 大体、何で自分が、こんな汗臭い巨人なんかと道を歩かねばならんのだ。


「婚約者が冒険者ギルドへの紹介状を用意してくれたというのに、それを無碍になど出来るか」


「婚約者? お前、婚約者がいるのか? 誰だ? 俺が知ってる女か?」


 本当に鬱陶しい男だ。しかも、馴れ馴れしい。


「ああ、アンタも知っているだろう。錬金術師のカトリエルだ」


「ほー……う?」


 隠すと余計に詮索されそうなので正直に答えるとルトラールの足が止まった。まあどうでも良い。

 漸く、開放されて清々する。奴を置いて冒険者ギルドへと急ぐ。


「い、いやいやいやいや!! 待て待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇいっ!! 龍殺し! お前の婚約者がカトリエルとは一体どういうことだあああっ!?」


 ルトラールの大声に木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽搏いていく。

 そして、背後にルトラールが地響きのような足音を立てて走り出す気配を感じた。

 まるで背後に十トントラックが迫って来るような猛烈な気配を感じた。


 普通に怖いわ。 


 全力疾走で奴を振り切り、冒険者ギルドへと駆け込んだ。


 ギルドのエントランスの中に駆け込むまでの間、何度も「龍殺し!! お前、カトリエルと結婚するのか!?」とか、「畜生! カトリエルは俺も狙っていたのに!」とか、「どうやってカトリエルを落としやがった!」みたいな品の無い言葉を吠えていたが、心底どうでも良い。


 冒険者ギルドへと辿り着くことが出来たことだし、本来の用件を済ませてしまおう。

 ゴシック系だかV系バンドが着るコスプレ衣装みたいな礼服を着ているせいか、龍殺しの噂が届いているのか、どちらでも良いがギルドの中にいる人達から滅茶苦茶注目されて非常に居心地が悪い。


 さっさと登録を済ませて立ち去ろう。


 愛想の良い笑顔を浮かべる糸目の女性職員がいる列に並んで順番を待つ。

 程無くして順番が回ってきたので懐からカトリエルにしたためて貰った紹介状を渡した。


「登録をお願い致します。此方は紹介状です」


「はいは~い。確認しますねぇ。ふんふん……」


 紹介状を黙読していた職員の女性が細い目をカッと見開いて飛び上がった。


「カトリエルさんが一目惚れしたぁっ!?」


「ちょ、ちょっと! 声!」


 ギルドの中にざわめき声が広がり、別の吊り目気味の女性職員が慌てた様子で糸目の職員を咎める。

 権威と影響力ならそこいら木っ端貴族に劣らないと言っていたが思った以上だ。自称するだけの事はある。

 自分に向けられる視線の内の半分程が羨望、残りは怒気と、殺意に変わったのを感じた。


 まるで武術の達人にでもなった気分だ。それ程の殺気が渦巻いているを感じさせられた。

 どうやら、目の前の彼女達も同じらしく、身を縮ませて声を潜めた。


「ご、ごめんなさい。登録の受付をさせて頂きますので別室にお越し頂けますか?」


「ええ、承知致しました」


 そして、別室に通され、三人掛けのソファに着席を促される。

 胡桃さんのお昼寝用ベッドに良さげな座り心地の良いソファだ。

 定住地が決まったら家具を買い揃えよう。


「先程は大変申し訳御座いませんでした」


 騒ぎを起こした糸目の職員と、彼女を咎めた吊り目の職員が深々と頭を下げる。


「カトリエルさんからの紹介と言うだけでも驚きなのに、あんな惚気たっぷりの紹介状を書くなんて思いも寄らなくってつい……人って恋すると変わるんですね!」


 どんな紹介状なんだろうか。見たいような見たくないような。


「変わるんですねじゃないわよ!! 貴女、バカなんじゃないの!? 普通あんなこと大声で言う!? 普通!!」


 多分、カトリエルの仕込みだ。しかし、ルトラールを筆頭にあんなにやっかむ輩が現れるとは想定外だ。

 いや、彼女の容姿を考えれば別に想定外でもなんでもない。当然の反応か。


 仮に、自分の友人がカトリエルのような美人を連れ歩いていたら……。

 うん、別に殺してしまっても情状酌量の余地はあるんじゃないかと思う。


「先程の件については構いません。早速、登録を進めて頂いても宜しいですか?」


 いつまでも恐縮されていては此方もやり辛い。

 嫌味にならないように気にしていないという態度を見せておく。


「あ、は、はい! 改めまして冒険者ギルドのアナメルです。よろしくお願いいたします」


 糸目の女性職員、アナメルさんの自己紹介に合わせてソファに座ったまま一礼して返す。


「姓を倉澤、名を蒼一郎と言います。これからお世話になります。どうぞ宜しくお願い致します」


「はい! 登録と言っても身元の保証はカトリエルさんがしてくれていますし……、確認は一点だけ、冒険者としてのスタンスをお聞かせ下さい。それによって振り分ける依頼を調整しますので!」


「クラビス・ヴァスカイル及び、魔人に関わる情報収集とそれに携わる組織並びに個人への支援。これらに関わる依頼が無い場合、ソウブルーの治安維持に携わりたいと考えています。報酬に拘りはありません。以上が自分のスタンスになります。」


「良いですね! 凄く立派な考えだと思います! 噂の龍殺しが冒険者ギルドに来てくれて、しかも、こんなに素敵な人で良かったです!」


「恐縮です。しかし、自分のスタンスに合う依頼はあるのでしょうか?」


 糸目の職員、アナメルさんが同席している吊り目の職員に目を向ける。


「ローザリアと申します。今後、倉澤様を担当させて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 和やかな雰囲気をした糸目のアナメルさんとは反対に、吊り目のローザリアさんはバリバリのキャリアウーマンのような毅然とした雰囲気の女性だ。


「こちらこそ宜しくお願いします」と一礼を返すと、彼女は咳払いを一つして口を開いた。


「まず早速ですが、実績は不足しているものの信用度、人格面、戦闘能力、いずれも申し分ありません。クラビス・ヴァスカイル、魔人に関わる依頼が入り次第、倉澤様に最優先で依頼を要請することをお約束します。ですが……」


「矢張り、此方が望む依頼自体は極めて少ないという認識で良さそうですね」


 簡単に情報が得られるならカトリエルが独力でどうにかしている。

 自分も腰を据えて取り組むつもりだったのだ。口約束とは言え、優先的に依頼が回してもらえるだけでも充分だ。


「これらの情報収集は学者や魔術師、帝国研究室のすることですから……」


 魔人やクラビス・ヴァスカイルに関係の無い依頼でも、依頼主が魔術師ギルドや帝国研究室の関係者なら顔繋ぎに依頼を受けるのも良さそうだ。

 同じ理屈でサマーダム大学とやらも候補に入れても良いだろう。


「では、その方達からの依頼も回して頂けると助かります」


「かしこまりました。ですがカトリエル様から推薦を受けるだけあって珍しい感性をお持ちなのですね」


「珍しい?」


「勿論、悪い意味ではありません。龍殺しを叙勲されるような方が財宝や報酬、新たな新天地、地下帝国跡に興味を持つこと無く、やろうとしていることは学者と衛兵の兼業。矢張り、珍しい方かと」


 カトリエルの力を使ったコネ入社みたいまものとは言え、一応は面接みたいなものだ。

 それに余計な疑念を抱かれて大事に障るのも癪だ。もう少し胸襟を開けることにしよう。


「勿論、冒険者らしい事に興味が無いと言えば嘘になります。事が済み次第、冒険者ならではの仕事もやってみようと思っています」


 特に地下帝国跡なんて名前の響きからして男の子の心を刺激してならない。

 出来ることなら今すぐにでも向かいたいくらいだ。


「ところで自分が龍を殺し、叙勲されるという噂はご存知なようですが、何故、自分が龍と戦ったか、その理由も噂として流れているのでしょうか?」


「いえ、そのような噂は……アナメル、貴女は?」


「えーっと……分からないです。やっぱり正義のためですか?」


 予想外の回答に思わず、吹き出しそうになる。

 どうやらアナメルさんの中で自分は正義の龍殺しということになっているようだ。

 それよりも龍殺し倉澤蒼一郎の人物像までは噂になっていないというのは好都合だ。


「残念ですが、そうですと言える程、自分は出来た人間ではありません。自分の家族が龍に襲われましてね。安全の確保と報復のために殺した。それだけの事なのです」


「その……、襲われたご家族は?」


「ご心配には及びません。半獣というだけあって頑丈に出来ているようです。経過を診るために今はカトリエルに預けていますが、問題はないでしょう」


 倉澤蒼一郎は家族を守るためスケイルドラゴンに一人で立ち向かい、大きな手傷を負うことなくこれを惨殺した。

 しかも、その家族というのが半獣。この事実は龍殺しの雷鳴が響く程に重要な意味を示すようになる。

 胡桃さんにいらん真似をしたら、龍殺しがスケイルドラゴンと同じように惨殺しに来るという噂が流れるようになれば尚良い。


「話を戻しましょう。あのドラゴン、聞けば魔人ライゼファーとやらの眷属だとか。であれば家族の安全のために始末しようと思っても何ら不思議ではないでしょう?」


 家族のためならドラゴンどころか魔人にも牙を剥く。

 家族想いという名の狂犬くらいに思わせておけば胡桃さんの安全確保にも繋がる。


 トーヴァーさんのリアクションを思うに帝国の貴族達は半獣を奴隷か何かのように扱っている。

 自分を確保するために胡桃さんを害する事を考える盆暗も少なからず現れるかも知れない。


 卵要塞やソウブルーの宿屋で胡桃さんが軽んじられることは無かったが、自分の発言を受けてアナメルさんとローザリアさんが絶句しているところを見るに、自分が思っている以上に半獣の扱いは悪いと思った方が良さそうだ。


「帝国の方には人間の家族が半獣というのは信じられませんか?」


「い、いえ……」


「ああ、いえ、ご心配なさらないで。私の国でも半獣ペットは人の下として扱われています。自分がそうだからと言って、半獣ペットを人間同然に扱うべきだなどと言うつもりはありませんのでご安心下さい」


 現実世界でもよく勘違いされるが別に自分は特別犬が好きなわけではない。


 あくまで胡桃さんが大好きなのだ。


 自分の家族になったのならまだしも、それとは違う他の動物や半獣のことまでは面倒見切れない。

 自分には、そこまでの力も無ければ、器も無い。


「種として見るのでは無く、個で見た結果家族となっただけですから」


 彼女達が戸惑った様子を見せる。現実世界でもペットを家族扱いするのはまだまだ一般的とは言えない。

 残念だが『たかが動物ごときに』という声もよく耳にする。彼女達の反応も同然と言える。


 自分が見ている夢ならもう少し融通をきかせれば良いものを……

 もしかしたら半獣よりも犬の方が格上扱いされているかも知れないが。


 それは兎も角、これで自分は、新たな龍殺しは異端の価値観の持ち主と思われる。

 何を考えているか分からない、これまでの常識とは異なる価値観を持つ存在。


 時に未知は人に恐怖をもたらす。


 これで自分にまとわり付こうとしている輩も少しは慎重になってくれることだろう。


「さて自分からはこんな所です。他にご質問は?」


「いえ、結構です。倉澤様のスタンスはよく理解出来ました。早速ですが何か依頼を受けていきますか?」


「ええ。目的を果たすためにも信頼と実績は重ねておきたいですから」


 ローザリアさんから冒険者証を受け取り、依頼主の元へと向かう。

 依頼主は職人地区のロイド。ソウブルー鍛冶職人組合の代表を務めるドワーフの男だ。

 漁協や農協のトップ、かなりの大物だ。渡りをつける相手として申し分ない。


 ロイドさんの元を訪ね、依頼内容を確認し、実務を開始。


「これが冒険者のすることか……?」


 そうぼやかずにはいられなかった。

 自分に与えられた役割は破壊された鍛冶エリアの瓦礫の解体と運び出し。

 仕事として与えられた以上は、どんな仕事でも完璧にこなすつもりだ。


 そのつもりだったが、これでは浪漫も糞もへったくれも無い。


 スケイルドラゴンの解体と同じ要領で、瓦礫の中に精霊兵器を召喚して細かく解体していると「力任せにやるより早いし機械でやるより綺麗じゃねぇか!」とロイドさんが大絶賛してくれた。


 自分も、まあ単純な人間なわけで、例え相手が小さなゴリマッチョのおっさんからでも、絶賛されると大変嬉しいわけで。

 半分不貞腐れながらやっていた解体作業が、急に面白くなってくるのだから我ながら現金な物である。


「これなら再利用も出来るな! おい、おめぇ等! 瓦礫バラすのはコイツと機械に任す! 残りは分別と運び出しに班を分けろ!」


 ロイドさんの一喝に毛むくじゃらのドワーフ達があたふたと持ち場を変え、自分の周りから人気が無くなった。


 いや、一人の方が集中出来るし、地道な作業の繰り返しも嫌いでは無いから別に良いのだが……。


 黙々と作業を続けていく内に気付けば瓦礫の解体が完了した。時刻はまだ昼過ぎだ。

 ロイドさんに経過を報告すると彼は景気の良い大声で笑った。


「おめぇさん、今日はもう上がって良いぞ! 報酬にも色を付けてやる! この調子なら思っていたよりも早く復旧工事が片付きそうだ!」 


「お役に立てたようで幸いです」


「お役に立ちまくりだ! 冒険者稼業が駄目になったらウチに来い! 俺の弟子にしてやる!」


「その折にはどうぞよろしくお願いいたします」


 そんなやり取りを交わして追加報酬としてロイドさんから指輪を投げ渡された。

 虹色の輝きを放つハート形にカットされたダイモンドが埋め込まれた指輪だ。

 なんでも「追加報酬の一つでもくれてやりてぇ所だが、現金の手持ちが無ぇ。今日の所はそれで勘弁してくれ!」ということだ。


「カトリエルに婚約指輪の一つでも贈っておいた方が良いか……?」


 そんな事を考えながら、カトリエルの店を目指す。まずは胡桃さんを連れてギルド地区へ散歩に行こう。

 冒険者ギルドに依頼完了の報告をしなくてはならないが、仕事終わりに一人でこの長い坂道を歩くのは抵抗がある。

 何より胡桃さんと散歩していれば、カトリエルに婚約指輪を渡すという緊張感も幾分かは和らぐはずだ。

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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved. 


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