6 でしょうね
「何? 戦争の話ね?」
「そうだよ」
空夜は彼女からトレイを受け取ると、椅子を引いて彼女を座らせた。桐珂はそれにゆっくりとした動作で座り込むと、自分のカップを取った。
「私がここにいていいのかしら? 席をはずしましょうか?」
そうは言っても、座り込んで席をはずしそうな感じではない。
空夜が秋比古の答えを待って、彼の顔を見る。
秋比古は首を振った。
「空夜のことを知っているのなら、クレッフェの試験部隊についても知っているんでしょう?」
「そのお話をする?」
秋比古は黙ってうなづいた。それから気付いたように声に出して、
「そうです」
「知っています。散花六部隊のことは、空夜に聞きました。それに、正規部隊の間でも噂になっていたのよ、その存在は」
「でしょうね」
皮肉っぽくなりかけながらそれを必死で押さえているような、そういう声で答える。
彼にしてみれば、戦場に一か月もいたかいないかという正規部隊の待遇は、うらやましいものなのだろう。正規軍と試験部隊では、終戦間際とはいえ、その待遇には天地の差があった。試験部隊は存在さえ明らかにされてはいないのだ。
「軍関係の話だって言ったな」
「あぁ」
彼は大きくため息をついて、それからできる限り小さな声で語りだした。
「俺は今、リヴンに住んでる。宇宙センターのある港街だよ。あそこで先週、散花六部隊の生き残りのひとりで、俺も懇意にしていたクレハスという男が拉致された」
「クレハスって、……第四部隊の狙撃手だった?」
「そうだよ」
秋比古は熱いお茶を口に含んで、おいしそうに飲み込んだ。