1 彼の訪れ
客観的な(あるいは、ごくごく主観的にでも)感想や批評をいただけるとありがたいです。自分の文章にまったく自信がないので…。
三日雨が降り続き、三日乾いた日が続いて、そうして今夜はまた雲が出はじめた。
繁華街は大きな音を反響させて、毎晩のこと騒ぎ立てている。それはまるで人類全体が緩慢に発狂しているような光景だ。多分その通りなんだろう。
空夜は空を見上げた。
この時間は地上のほうが明るい。サーチライトと電燈と、胸クソ悪くなるような色のネオンの群れが、地上全部を埋めつくして、自分たちの狂言を飾りたてている。
空には二つの人工天体。
遥か彼方にあるはずのそれは、しかし、間近に感じる。多分そこに人がいることと関係があるのだろう。
街はときどき美しかった。
空夜は立ち去ることもできない娼館の扉の前で、人混みの向こうにある空を見上げていた。
もう、どれくらいそうしていることだろう。だいぶ、長い時間だ。
仕事の上がり時間はとうに過ぎていた。だが、交代で来るはずの男が、未明をまわった時間になってもまだ来ない。一時間近い延長業務だったが、手当てがつくのでは文句が言えなかった。
だいたい、これからの時間は客が引くばかり、たいして危険な警備の時間帯ではなかった。男もそれを見越して、遅刻してくることも関知しないのだ。
延長手当はいただきだなと、かの男からぼったくることを考えて、空夜は疲れて緩慢になりがちな体を励ました。
「まぬけた面だな」
笑いを含んだ声が、空を見上げていた空夜の横顔にかかった。
まるでどこかのテレビジョンから抜き取ったような声だったので、初めはそれが自分にかけられた声だとは気付かなかった。正直、騒々しい音楽と奇声のために、聴覚はカットしていたのだ。
「そんなんじゃ、警備員だと思われない」
そこで初めて自分にかかった声だと気付いて、空夜はふり返った。
背の高い色黒の少年が真横に立って、おかしそうに空夜のほうを見ていた。昔なじみの秋比古だった。
空夜は無表情を保って言った。
「警備員に見られないほうがいいんだって。娼館は非合法だから」
「非合法が聞いてあきれる。みんな知ってるじゃないか」
「上の人間にばれなきゃいいんだよ」
「だからお前みたいなのを雇うんだな」
「そう。おかげで今月も食いあぶれることがない」
秋比古はそれを聞いてひとしきり小さく笑うと、
「平和で良かったな」