デーモンズホール
「デーモンズホールが出来たのは、およそ百年ほど前なのは、皆知っているよね。」
それくらいは常識です。
サーシャ様でさえも知っているはずです。グラノールさんの所で勉強しましたからね。
「そして、その穴を開けたといわれるのが、アルティメットと呼ばれる魔法なんだ。」
究極魔法ですね。
それも修業中にグラノールさんに教えてもらいました。
「その、アルティメットと呼ばれる魔法を使ったのは、人間なんだよ。」
これは、さすがに知りませんでした。
僕はてっきり魔物……フルガイアの民だとばかり思っていました。
そもそも、そんな強力な魔法を使う人間が当時に存在していたなんて驚き以外の、なにものでもありませんよ。
「アルティメット魔法というのは、このフルガイアには存在しなかった。これは人間界に遥か昔からある、古代魔法の一種らしいけれど詳細についてはよく分かっていない。そして、そのアルティメットを先祖代々守っていた一族がいたんだ。」
それは、もしかして――。
「そう、マリアの一族だ。彼女の家系は、このアルティメット魔法を守る為に存在した一族なんだ。」
そうだとすれば、アルティメット魔法を使用したのは、その一族の誰か、ということになります。
「アルティメット魔法でデーモンズホールを開けたのは、マリアの母でありサーシャ、お前の祖母にあたる、クロエだ。」
サーシャ様の祖母!?
「私のお婆ちゃん!?どうして?」
「クロエは、一族の中でも特殊な魔力を秘めた稀有な存在だった。アルティメットは、マリアの一族ならば誰でも使えるような代物ではなかった。もちろんそれは、マリアでも例外ではない。近年でアルティメットを扱えたのは、クロエだけだった。」
なるほど、その禁断の魔法を使える者が限定的ならば、おそらくは実行犯はクロエさんで決まりですね。
しかし――。
「でも、何の為にそんなことを?」
そう、サーシャ様の言う通り、その動機の理由です。
「デーモンズホールが開けられた目的は、フルガイアと人間界の通り道だ。もともと我らフルガイアの民は、ある程度の魔力さえあれば、デーモンズホールが無くとも人間界へ行くことが出来た。」
これにも驚きました。
僕はてっきり魔物は、全てデーモンズホールを通って人間界へ来ているのだとばかり思っていました。
「我々は人間界の事、それに位置を把握しているんだ。だが、人間の方は我らの事について何も知らない。そればかりか、我らを魔物というカテゴリーで一括りにしている。」
確かに無知というのは、時に罪ですよね。
しかし、ディミトリさんの話を要約すると、早い話し人間がフルガイアへ行く為にデーモンズホールを開けたことになります。
ですがやはり、その理由が分かりません。
「話が少し脱線しちゃったね。なぜ、クロエがアルティメットを使ってデーモンズホールを開けたのか。それは、ある者に利用されたからなんだ。そいつの名は――アイスだ。」
やはり、そういうことでしたか。
百年ほど前から奴は存在していたのですね。
「……アイス。許さない。」
サーシャ様の怒りは、ごもっともです。
ですが、これで話しは繋り、目的は単純明快になりました。
要はアイスを倒せばいいということです。
「クロエを脅し、デーモンズホールを開けさせたアイスの目的は、人間界の支配ではない。奴の真の目的は、このフルガイアの支配なんだ。そのために人間界を牛耳って、奴の兵隊として人間をデーモンズホールからフルガイアへ送るつもりなんだ。」
アイスのフルガイアへの執着心を感じます。
しかし、何故そこまでフルガイアの支配にこだわるのでしょうか。
自身の力で挑めばよいものを、わざわざ人間を使うなんて、汚いとしか言いようがありませんね。
「アイスが人間界を手にしたら、必ず大軍をフルガイアへ送ってくるだろう。魔物を討伐するという大義名分を打ち立てれば人間の兵士の士気は高まるだろう。だが、結局それはアイスの思う壺だ。そうなれば、人間たちは滅びるかもしれない――それはあまりにも憐れだ。」
魔物討伐を率いるトップが魔物なんて、考えたくもないですね。
アイスの目的のために人間が犠牲になるなんて、許せません。
「しかし、全てがアイスの思惑通りに進んでいるわけではない。デーモンズホールも当初は、もっと巨大になる予定だったらしい。一気に大軍を送り込めるような大きな穴が開くはずだったんだが、クロエは最後に抵抗を見せてくれた。そのお陰でデーモンズホールは、あの規模の大きさで済んでいるんだ。それに、人間界にも沢山の抵抗勢力がいる。キリエスを分裂に追い込んだドレイク三世の実の兄、ピーター・ドレイクやフェイトフル・リアルム。それにギアン大陸の国々。そして、君たちがいる。アイスといえど人間界を支配するのは容易なことではないだろう。」
もちろん、そう易々と思い通りになんかさせませんよ。
人間を舐めたことを後悔させてやらなくてはなりません。
「デーモンズホールに関しては、こんなところかな。あとはサーシャ、何か聞きたいことは、あるかい。」
「私は、お父さんのことを聞きたい。私と離ればなれになる前のことも含めて、全部。」
「……そうだね。お前には話しておかなければならないな。それに、私の過去のことは、アイスとの関係にも深く関わってくるからね。」




