フルガイアへの道~③~
テルミナの森の中を疾走する僕たち。
森の中には、僕らの荒い息が響いていました。
「あの、いつまで走り続ければよいのでしょうか?」
この僕の問いかけには、誰も応えません。
かれこれ数時間ほど走り続けているのですよ。
いい加減、疲れました。
僕らが何故ひたすら走っているのかと申しますと、僕たちの後方を見てもらえれば理解できます。
「ちょっとこいつら、しつこすぎ!レジェス、何とかしてよ。」
「『断る。この数の魔物を倒すよりかは、走っていた方が楽だから。』と、申しております。」
この前のレジェスとサーシャ様の戦いから、この二人の距離感が縮まったように感じます。
二人供、年の頃でいえば同じくらいですからね。
気が合うのかもしれません。
あっ!そうそう、僕らが走っている理由でしたね。
僕らは魔物の群れに襲われている最中なのです。
この魔物はクリームといって、単体ですと大したことはないのですが、群れで行動する習性があるらしいです。
その数は、ざっと見積もっても千匹くらいでしょうか。
もちろん、この面子なら倒せないことは、決してありません。
しかし厄介なことに、このクリームという魔物は無限に数を増やせるという話しなのです。
つまり、倒しても倒しても切りがないのです。
逃げるしか手立てがありません。
そんな理由で、僕らは長距離ランナーと化しているのです。
「も、もう駄目だ。これ以上、走れない。」
最初に音を上げたのは、ローラスでした。
残念ですが、彼には生け贄となっていただきましょう。
「諦めちゃ駄目だよ、ローラス。私と一緒に頑張ろう。」
シエルさん……魔法の風に乗って、楽している貴女には言われたくないですよ。
「シ、シエル様。分かりました共に頑張りましょう。うおぉ!」
シエルさんの励ましでローラスは、完全に息を吹き返しました。
単純で羨ましいですね。
ですが、そろそろ僕も体力が底をつきそうになってきました。
何とか打開策を打ち出さねば、まずいですよ。
「あっ!この先、行き止まりよ。」
先頭を走っていたサーシャ様が立ち止まり、僕らも急ブレーキをかけました。
見てみると、そこは崖になっているではありませんか。
どうしたものでしょう。
「皆さん見てください。下には大きな川が流れています。飛び込みましょう。」
ジャクリンさん、正気でしょうか。
この崖、そうとう高いですよ。
僕は高所恐怖症ですから、無理です。
「これを飛び込めば、奴等も追ってこないだろう。よし、俺が一番乗りだ!」
ローラスは、なんの躊躇いも見せずに飛び込みました。
それに続いて、他の皆も飛び込んでいきました。
僕は、足がすくみ動けません。
「ピート。後ろの化け物に食われるか、ここから飛び込むかは、自分で決めろ。じゃあな、グッドラック。」
シエルさん、出来れば魔法で僕を運んで欲しかった。
そんな願いが、あの方に通じる訳がありません。
「し、仕方ない。」
僕は意を決して羽ばたきました。
……意外と大丈夫ですね。怪我もなく生きてます。
まあ、これでクリームからも逃れられますね。
「――あ、あれ!」
サーシャ様が上を見上げて何か言っています。
「ぎゃああ!」
なんと、あの駝鳥みたいな魔物が大量に降ってきているでは、ありませんか。
その光景はまさに圧巻でした。
そんなことより、逃げなくてはいけません。
そんなこんなで、又しても追いかけっこの始まりです。
しかし、ここで僕はある事に気づきました。
それは風景の変化です。
これまでは、ずっと同じような景色を進んで来ましたが、ここで初めて水辺に遭遇しました。
これは、本当にフルガイアが近いのかもしれません。
「皆さん、もう少しです。あと、ちょっと頑張ればテルミナを抜けますからね。」
ジャクリンさんの言葉に僕は、また不安になってきました。
「本当に、あと少しなの?」
「サーシャさん、間違いありませんよ。実を申しますと、フルガイアの方が、ずっと私たちを誘導してくれているのですよ。」
「誘導?」
「ええ。簡単に言うと、その方の魔力を辿って行っているのです。きっと、あの素敵な方は、私たちの到着を首を長くして待ってらっしゃいますわ。」
それは、もしかしてディミトリさんなのでしょうか。
だとすれば、サーシャ様との親子の再開は思っているよりも、早く訪れるかもしれませんね。
「見えた!あそこの高い石の塔。あそこがテルミナとフルガイアの境界線です。」
僕たちは、残った力でそこを目指し全力疾走しました。
そして、遂に森を抜けました。
しかし、ここを抜けたからといって、後ろから迫るクリームが諦めるとは、到底思えません。
「あの魔物たちは、こちら側には入って来れませんので、大丈夫ですよ。」
突然の聞き慣れない声に僕らは、振り返ろうとしました。
ぎぇええ!
すると、テルミナの方から魔物たちの鳴き声が激しく聞こえました。
ところが、境界線まで迫っていたクリームは、何かに怯えるようにして急にユーターンして帰っていきました。
「皆さん、お待ちしておりましたよ。」
僕らはテルミナから視線を、その男の方へと向け直しました。
しかし、その一瞬の間で僕にはある変化がありました。
それは、その男の声に聞き覚えがあるという、変化でした。
そして男の顔を見て、それは確信に変わりました。
「――あなたは、フォックス。」




