出立の時
シエルさんの発言に僕たちは度肝をぬかれました。
魔界と繋がるといわれる魔法の穴が、よりによってキリエスの王が住むグラス城にあるかもしれないということです。
「それは、いくらなんでも無理があるのでは?何か根拠があるのですか?」
さすがに僕は信じられないでいます。
「貴様、疑っておるのか。よかろう、教えてやろうぞ。」
シエルさんって、ちょいちょい面倒くさいキャラになりますが、まあそこは触れずにおきましょう。
「あれは、およそ百年前の戦争の時ね。ソマール大戦っていうんだけど。その時に起きた大爆発についての資料が残っていないか調べていたんだけど、不思議なことに何一つ見つからなかったのよ。」
たしか究極魔法によってもたらされた爆発でしたね。
それほど大きな爆発ならば何かしらの文献があってもよさそうなものですけどね。もしかしたら隠蔽されたのかもしれません。
「でも、私は諦めずに必死に何かの手がかりを探したの。そうしたら遂に見つけました!」
シエルさんは、芝居がかったように立ち上り両手を広げ天を仰ぎました。
やっぱり面倒くさいエルフです。まあ、美人ですから全て許しますけどね。
「それでそれで。」
サーシャ様は、まるでミステリー小説の続きを聞きたいように、目を輝かせていました。
「私が見つけた記録は全部で三点。全てバラバラの地域で見つかったの。それで、その三つの文献から爆発が起きた地点を予測していくと、そこはキリエスの首都、マビン・グラスのほぼ中心付近だったことが判明したの。」
「すごい。シエルって頭良いのね。」
「でしょ!私も自分でそう思った。」
シエルさんは、何故か僕の方をジーッと見つめて黙っています。
これは催促でしょうか?
仕方ありません。
「本当シエルさん、天才ですよ。こんな知的で美人の方と僕は出会ったことありません。いよっ!エルフの才女。」
僕の言葉に彼女は満足したようで、一度こくりと頷いてから、続けました。
「実はキリエスには昔から妙な噂があったのよ。」
「妙な噂?」
キリエスという国は何かしら変な噂が沢山ありますよ。
その殆んどが都市伝説みたいなものでしょうけど。
「グラス城の地下には悪魔が眠る、っていう噂よ。それで私はピン!ときたの。魔法の穴はグラス城の地下にあるってね。」
なるほど。その噂が本当ならば、かなり高い確率で魔法の穴が存在しているかもしれません。
「その穴を見つけてどうするんです?」
「うーん……決めてない。でも、魔界って興味あるって思わない?」
「ある!すごい興味ある。」
サーシャ様は魔界になんて興味があるのか、と僕は意外に思いました。
それは、やはり魔族の血が流れているからなのでしょうか。
さすがに僕は口に出しては聞けませんでした。
――翌日。
僕らはシグレ島を出発します。
村の皆さんが、名残り惜しそうに見送ってくださいました。
「本当に行っちゃうんだね、サーシャ。また寂しくなるわ。」
「また帰ってくるから。シャロン。元気でね。」
結局、サーシャ様はここでの生活を思い出すことが出来ませんでした。
だけど新たな思い出としてサーシャ様の記憶に残って行くはずです。
「また来ましょうね、サーシャ様。」
「うん。」
ちょっとだけ、その綺麗な瞳が潤んでいるような気がしました。




