本来の力
もやもやとした、夢から醒めたのは、お日様が一番高く上がった頃でした。
気付けば、もう皆さん起きているようでした。
「こらピートちゃん!あんたいつまで寝てんのよ、もうお昼よ。さっさと起きて昼食の準備手伝ってちょうだい。」
グラノールさんの言葉に憂鬱な気分で僕は立ち上がり、嫌々ながら欠伸をして、体を動かしました。
驚いたのは僕より早く寝坊助なサーシャ様が起きていることでした。
よく眠れなかったのかサーシャ様の顔には少々の疲労の色が見受けられました。
昼食の準備が終わり、皆でテーブルを囲んで楽しいランチタイムの始まりです。
今日のメニューは何かの肉のサンドイッチと取れたて野菜のサラダに正体不明のドレッシング、そして若干薄めの何かしらのスープです。とてもヘルシーですね。
まあ味はともかく、大勢で食べる食事は良いですね。
しかし、皆さん黙々としてらっしゃる。これでは皆で食べている意味がありません。仕方ない、ここは僕が先陣をきって話題を提供いたしましょう。ちょうど気になって仕方ない事があるのでちょうどいい。
「あの、ちょっとお訊ねしてもよいですか。」
「ん?なんじゃ?」
食べていた手を止めてパラドール・ジグマは僕の方を向きました。
「あのシエルさんについて聞きたいなあと思いまして。」
レト大陸の三魔人と呼ばれるエルフ族の美しき魔法使いで、パラドール・ジグマの弟子だった彼女の事が、気になって気になって夜も
眠れません。
えっ!?遅くまで寝ていた癖にですって……まあ細かいことは、お気になさらずに。
「……シエルちゃんか……うぅ。」
どうしたことでしょう。突然パラドール・ジグマは涙を流して泣き始めたではありませんか。
ぼ、僕が泣かせた訳ではありませんからね。
「あの子は突然、帰ってしまったんじゃ。」
「突然じゃないわよ。あんたのセクハラのせいでしょうが。」
グラノールさんの突っ込みにパラドール・ジグマは顔を上げ反論しました。
「違う!断じて違う。あの子は俺のセクハラに屈するような、やわな子ではない。」
それはセクハラ行為は認めているのではありませんか。
さすがのグラノールさんも呆れた顔をしていますよ、パラドール・ジグマさん。
「これは誰にも話しておらんけど、実を言うと彼女はエルフ族に連れ戻されたんじゃ。」
「連れ戻された?どうして?」
グラノールさんは半信半疑で問いただしました。
「そもそもシエルちゃんはエルフ族の未来を憂いて力をつけようとして俺に弟子入りしたんじゃ。」
そこからパラドール・ジグマはシエルさんの思いを代弁するように、語り始めました。
ちょっと話が長かったため僕が要約させて頂きます。
その昔、エルフ族は人間と共に生活していました、しかし時代が経つにつれ、人間とエルフの間に軋轢が生じてきました。
エルフ族は人間から逃げるようにして人目のつかない辺境の土地に住みかを移して隠れるようにして生きてくことを選びました。
しかし、そんなエルフ族の将来を危惧する者が現れます。それがシエルさんです。彼女は人間界で人の役にたち名声を広めて人間との距離を縮めたいと考えていました。そして、いつの日か人間とエルフが共に暮らしていけるような世界を造りたいと願っていたそうです。
崇高な目的を持った方ですね。僕はシエルさんを尊敬しました。
しかし、パラドール・ジグマの元で修行を行うシエルさんの元にエルフ族の者が現れ彼女をエルフの郷に強引に連れ戻していってしまったのです。
エルフ族には、やはり人間と馴れ合うのは嫌う方々がおられるのでしょう。
まあ致し方ないのかもしれませんね。過去に人間が彼らエルフ族に行った行為は簡単に許されるものではないのかもしれませんね。
まあ、この話しはまたいつかするとしましょう。
これで僕の夢の一つであるエルフ族の美しい女性とお会いするということを実現するのが難しくなってしまいました。
「もし、もしも、お前さん方が何処かでシエルちゃんに会ったら伝えてくれ。俺の力が及ばなかったばかりに嫌な思いをしたことを謝りたいと。そして、いつでも戻ってきてくれと。」
恐らくシエルさんは、中途半端な状態で郷に帰りたくなかったのでしょう。しかし、その前に彼女に対してのセクハラを謝りなさい!と、僕は感じてしまいます。
「何処かで会ったらって、シエルちゃんはエルフの郷に居るんでしょう。だったら、その辺でばったり会う事なんてないはずよね。」
グラノールさんの指摘は確かにそうですが、そんなに深く突っ込まなくてもよいのでは。
「実は風の噂でシエルちゃんがエルフの郷から逃亡したという情報が入ったんじゃ。まあ、あの子の性格ならやりかねないからのう。真実味があると思うんじゃ。」
「なるほど、有り得るわね。でも、もし本当に郷を出ているとして、パラちゃんの所に顔を出さないのなら、やっぱり根に持っているのよ、あんたのセクハラ行為に。」
パラドール・ジグマは、それ以降口を閉ざしたまま貝のようになってしまいました。
僕は、ふと先程から黙ったままのサーシャ様の様子を伺いました。
妙におとなしいサーシャ様の存在が、ちょっと不気味に感じたからです。
するとサーシャ様は椅子から立ち上がり、おもむろに剣を抜きました。
「あの、サーシャ様?」
僕が声をかけると皆がサーシャ様に視線移しました。
するとサーシャ様は突然、剣に魔法をかけ始めました。
それを見たパラドール・ジグマとグラノールさんは、ほぼ同時に、
「やめなさい!」
「やめるのじゃ!」と、声を上げました。
僕やローラスには、どういうことか理解できません。
「燃え盛る剣」
サーシャ様がそう唱えたときには時既に遅し。
強烈な炎がまるで爆風の如く巻き起こり、パラドール・ジグマの小さな家は跡形もなく吹き飛んでしまいました。
僕たちは間一髪でパラドール・ジグマの瞬間移動の魔法で助かりました。
サーシャ様は驚いた顔で自分の剣を呆然と眺めていました。
「こら、サーシャ!あんたの魔力は強大になったのよ。いつもの調子で魔法剣を使っちゃあ駄目よ。危うく殺されるとこだったんだから。」
「ご、ごめんなさい。でも、これが本当の私の力なの。」
サーシャ様は自分でも信じられないといった様子でした。
「お前さんの本当の力の片鱗と言ったはずじゃ。まだまだ、こんなもんじゃないぞ。」
「これは一刻も早く戻って修行ね。サーシャには魔力のコントロールを身につけてもらわないと命がいくつあっても足りないわ。」
これには僕もローラスも同感です。
「よし、帰るわよ。」
グラノールさんの言葉に皆が頷きました。
でもただ一人、パラドール・ジグマだけは、
「おおい、俺の家はどうするんじゃ。」と、嘆いておりました。




