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最強の女戦士ここにあり  作者: 田仲真尋
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VS剛剣

「ピート。そろそろ強い奴と戦いたいわ。」


珍しいこともあるものです。サーシャ様が、まともな発言をされました。ちょうど僕も、そう思っていたところでした。

やはり、ずっと一緒に旅をしていると思考回路が似てくるのでしょうか。嬉しい反面、やや恐ろしくもあります。


さて、僕たちは今、キリエス領土の南方、エクテス地方におります。

キリエスといえば、以前はレト大陸の覇者として名を馳せておりました。しかし内紛が勃発し、三つに別れてしまいました。それ以来、キリエスは廃れてゆく一方です。とはいえ、この広大なレト大陸の三割の領土を持つキリエスは、大国と呼ぶに相応しい力を持っていると言ってよいでしょう。


僕たちは、エクテス地方の小都市ガナッシュに滞在中です。

この街は商業都市であります。街は活気に溢れ、商人たちが各地方から集まってきています。当然、そんな所には腕利きの剣士たちも姿を見せます。どこかの富豪の用心棒や、雇ってもらおうとする強者たちがそこかしこにおります。


僕は、自慢の手作りのリストを広げました。「剣士リスト」とでも呼びましょう。このリストにはランク付けがされています。

DランクからSSランクまであります。当然、Dは弱い。そしてランクが上がるに従って強くなる、というシンプルな作りです。

ちなみにサーシャ様は、僕の見立てではB辺りでしょう。本人はAだと言い張っていましたが、それはないと言ってやりたいです。

Aランクなどは化け物揃いです。サーシャ様にはまだ足りないものが多くあります。そこに気づくためにも是非とも強者と戦っていただきたいものです。



僕は約百枚ほどあるリストの中からBランクの男をチョイスしました。これはランクがどうこうといより、彼の住んでいるこのガナッシュが出没ポイントで、あるという理由の方が大きい。


「サーシャ様。こいつにしましょう――剛剣のシュバルツ。」


「Bランクか……まあ、この街に住んでいるなら話が早い。仕方ない、こいつで手を打っておくか。」


サーシャ様……舐めすぎです。同じランクでも経験は彼の方が遥かに上でしょう。もしかしたら八つ裂きにされるかもしれません。まあ、それはそれで僕の興奮ポイントになりますが。死んでもらっても困るので、サーシャ様には勝ってもらいたいものです。


リストには彼の住所が書き記してありました。自分で作成したリストですが、なんという見事な出来栄えでしょうか。利用者のことを考え尽くした見事なリストです。自画自賛、自己満足と思いたければ、どうぞご勝手に。


シュバルツが住んでいるはずの住所に到着したのは買い物客でごった返す、夕方時でした。

その場所には八百屋。


「八百屋?あれ、間違えたかな。」


「ピート、しっかりしてくれよ。」


だったら貴女が、しっかりしてくれよ、とは死んでも言えません。

仕方ないので八百屋に尋ねてみようと僕は八百屋へ入りました。


トントントン!


なにやら小気味よい音が。


「へい、らっしゃい!」


「ブハッ!なんですと!?」


僕は思わず取り乱しそうになりました。千切りです。キャベツを千切りにしているスキンヘッドが高速で切っているではありませんか。凄すぎます。

何が凄いかって?男の手にしている包丁です……いや、これは剣でしょう。分厚い刃は、まるで鉈のようです。刀身も長い。相当重いはずです。それを彼はまるで包丁のように片手でキャベツを千切りしているではありませんか。そりゃあ驚きもしますよ。


どうやら当たりのようです。彼が、彼こそが剛剣のシュバルツ。


「ふーっ、終わった。それで今日は何にいたしましょう。人参、胡瓜、玉葱、うちのベジタブルは何でも安いよ。」


「あ、いや、その……客じゃないんです、僕たち。」


「あっ!?じゃあ何だい。――それよりあんたらベジタブルは、ちゃんと食べてるか。食ってないだろ?顔見れば分かる。」


すると今まで黙っていたサーシャ様が僕を押し退け前へ。


「――肉だ。」


「お嬢さん。うちは八百屋だ。肉なら肉屋へいきな。」


二人の間に激しく火花が散っているようでした。

シュバルツはサーシャ様の剣に目をやり、

「もしかして、そっちの用かい?」と、不敵に微笑みました。


「そういうことだ。表に出ろ、ハゲ!」


「ハッハハハ!臨むところだガキ!」


二人は電光石火の如く飛び出していきました。なにやら通じるものがあったのでしょうか?

さて、僕も観戦させていただきましょう。


サーシャ様とシュバルツは剣を抜き、構えて対峙していました。

不意にサーシャ様は僕の方を向き、

「ピート。こいつの名前ってなんだっけ?」と、相手に隙を与えるような行動をとりました。


ブォン!


その瞬間でした、サーシャ様の顔目掛けてシュバルツの剣が僅か数センチのところを掠めていきました。


「お嬢ちゃん。油断してると、その首無くなるぞ。」


「ふーっ、危ない。サーシャ様、気をつけて。その人の名前はシュバルツですよ。」


「あっ!そうそう。それだ。さっきから思い出せなくてモヤモヤしていたんだ。サンキューなピート。」


全く、肝が座っているのか天然なのか、分かりません。

しかし、惜しかった。先ほどのシュバルツの攻撃がサーシャ様の首を落としていたならば、僕は迷わず首を拾い、持ち去っていたでしょう。サーシャ様の首と暮らす余生。悪くありません。サーシャ様の首を酒の肴にして飲んでみたいですね。

だけど、まだ早すぎます。彼女には、もっともっと強くなってもらわねば色々と困るのです。


「おらぁ!凪ぎ払い!」


シュバルツは大剣を振り回すようにサーシャ様へと襲いかかりました。

しかし、サーシャ様も冷静に太刀筋を見極め華麗に避けています。

シュバルツの攻撃は、どこまでも勢いを増していきます。さすがは元キリエス正規軍の将だった男です。ちなみに彼がブンブンと振り回している、あの大剣は、「首斬り包丁」と呼ばれているそうです。何とも恐ろしい剣です。


「なかなか素早い。だがまだまだ!」


シュバルツの大剣の速度が更に急速に上がりました。

これではさすがのサーシャ様も反撃に転じることができません。それどころか避けることも厳しくなってきた様子です。

そして、これ以上は避けきれないと判断した、サーシャ様はシュバルツの攻撃を受け止めようとしました。


「そんな剣で俺の攻撃を止めれるものか!」


確かにサーシャ様の剣、「スパロウティアズ」では難しいかもしれません。女性でも扱い易いような細身の剣で軽量ですから。しかしあの剣は、ちょっと特殊です。おそらくは魔力を帯びているのでしょう。詳細については、僕も知りません。

だけど――。


ガキン!!


「な、なに!止めただと!?」


サーシャ様は大胆不敵に笑い、そして動きを止めたシュバルツへ一撃を与えました。

サーシャ様の剣の切っ先がシュバルツの左肩へ突き刺さります。


「グハッ!」


シュバルツは悶絶し、膝から崩れ落ちました。


「くっ……油断した。俺の負けだ、殺せ。」


サーシャ様の勝利です。僕は最初から信じていましたよ。

さあ、奴にとどめを。僕の鼓動が激しく波打ちます。


ところがサーシャ様は、シュバルツへ意外な一言を発しました。


「そんな命は、要らない。代わりにこれを貰っておくぞ。」


そう言ってサーシャ様はシュバルツの首斬り包丁を拾い上げました。あっ、しかしかなり重そうで持てない様子です。


「ピート。これを頼む。」


僕は、サーシャ様の殺人ショーを観れなかった不満と、重たい剣を持たされるという不満を抱えたまま、剣を抱えました。


「持っていけ。俺はもう剣士は辞める。これからは、八百屋一本で生きていくことにしよう。」


「ああ。それが懸命だ。」


「ふっ。まさか、お前のような娘に負けるとはな。俺も、やきがまわったというものだ。大事にしてくれよ、俺の首斬り包丁。」


サーシャ様は、くるりと回り歩き出しました。

僕は、クソ重たい剣を引き摺るように持ったまま、サーシャ様に尋ねました。


「サーシャ様。こんなもの貰ってどうするつもりですか?」


するとサーシャ様はクールにお答えになりました。


「売るに決まっているだろ、そんな敗者の剣。」


僕は痺れました。そして真っ赤な夕日の中、サーシャ様の後を必死に追いかけてゆくのでした。



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