この男、考える
この話自体はなくても良かったかもしれません
1、 町はずれの草原に2人はやってきていた。
「ギルド横に併設されてる練習場ではだめだったのか?」
「それでもよかったのですが、被害が大きくならないために……ね」
アレンはギルドマスターが何を言っているのかわからなかった。
「アレンさん私にはあなたが高度な隠匿の魔法でステータスを誤魔化してるのが分かるんですよ。隠匿している内容まではわかりかねるが、あの町の誰もが気づいていない所をみると私レベルでないと隠匿しているのさえ気がつかないのでしょうね」
アレンは正直驚いている。あの洞窟で転生してから今の世の中を正直自分が生きていた500年前と比べて下に見ていた。
下等吸血鬼如きが国家の中枢ではないにしろ、町1つを手にかけていた事や、多くの魔法が失われている事もあり世界に失望していたのだが……。
「ほぅ、あんたは中々見所がありそうだな。本気などは出す気はないが、少し気合を入れて遊んでやろう」
「フフフ、今時冒険者がギルドマスターに遊んでやるなどと言うセリフを言う人は居ませんよ。私は最初から本気でいかせてもらいますねっ!」
そう言い切ると、腰にかけてある細身の剣を抜くとアレンに切りかかってくる。
2、 お互いに剣を交えて少し経つ頃にギルドマスターが口を開く。
「私はね、500年前に終結した戦争中にこの世に生を受けたのです。物心つく頃には勇者様一行が魔王を倒し世界は平和になったんですよ」
アレンは話の内容よりも目の前にいる外見が自分と大して変わらないエルフが長生きしている事に少し驚いた。
「平和になった所までは良かったんですがね……人と言うのは醜いもので、各地で勝手に国が起こり、同盟を結んでいた魔族意外は案の定バラバラになりました。アレンさんは今の世界に何を感じていますか?」
「さぁな。あまり興味がないし、魔王にも直接会った事がないから、本当に悪だったのかも今ではわからんではないか」
「最近では魔王を信奉しているやからも居るとの報告があがってきていますね。まぁ話はこれくらいでそろそろ魔法での攻撃をしますよっ!」
ギルドマスターは剣での間合いから離れて1人短めの杖を構えアレンに魔法を放つ。
「まずは小手調べの≪ファイアボール≫!」
アレンはそれを剣で弾き飛ばす。
「フフフ、剣で魔法を弾くとはやりますね、ではこれはどうでしょう。≪ウィンドカッター≫!」
「ふん!」
アレンは剣を振りかぶり少し力をいれる。飛んできた風の刃と同じ向きに腕を振ると同じ様な風の刃が出現し、ギルドマスターの放った魔法と相殺された。
ギルドマスターはその光景に驚いている。
「そんな“スキル”は見た事もない。それは一体……」
アレンは首をかしげて問いに答える。
「何を言っているんだ?ただ力を入れて剣を振っただけだが?」
さも当然の事とばかりに言うアレンを見てギルドマスターは考える。
(実際勝負はついていないが、アレンの力は十分に理解できた。下手にアイアンや、ブロンズで居られるよりもシルバーになってもらった方が問題も少ないだろう。彼ほどの力がアレバレッサーヴァンパイアも倒せると確信できたし……だがこの町に残れば厄介事が増えるのも確実だ。彼には王都にでも行ってもらったほうがいいだろう)
さすがに長寿のエルフだけあって短絡的ではない。より、自分に火の粉がかからないように最善を尽くすのである。
「君の実力は十分把握できた、君の申告通りシルバーのランク上げるよ。そして王都に向かう事をおすすめする。この町じゃシルバーの冒険者は少ないし、依頼もアイアンやブロンズ向けがほとんどだからね」
アレンはなるほどと考える。王都に行けばさらにランクが上がるかもしれないし、金も稼げるのではと考える。
「では明日になったらギルドに寄って詳しい話をきかせてもらうとする」
そう言い残すとアレンは風のようにその場から居なくなったのだった。