この男、下級冒険者
1、 アレンは町の入り口に入ろうとしていた。当たり前の事だが、もれなく門番に止められる。
「そこの者止まれ!この町には何用だ!?」
普通ならそこまで強い口調ではないがアレンが盗賊から奪ったレザーアーマーには攻撃の際についた血が付着している。ましてや街道から1人で歩いてくるのに門番は強い疑問を持ったのだ。
「別に怪しい者ではない、故郷を出て1人で旅をしているものだ。この革鎧についている血は下賎な盗賊を討ち取った時の返り血よ」
これまで頭の中にまとめた設定をすらすらと口にする。
「最近出没している盗賊か……討ち取ったというとお前は冒険者なのか?」
「いや、冒険者ではない。故郷で剣の修行を積んだのでな、盗賊如きに遅れはとらん」
門番の男もこの男が嘘を言っているとは思えなかった。不審な挙動もないし、いたって堂々としている。これなら大丈夫だと確信を持った。
「よし、通っていいぞ。ようこそダミアの町へ」
「少し尋ねたい事がある、冒険者のギルドはどこら辺にあるのだ?」
「ギルドならここを直進した所にある広場の突き当たりだ。この町で1番大きいからすぐ分かると思うぞ」
ありがとう、と門番に声を掛けるとアレンは町に入っていく。アレンにとっては何もかもが新鮮であった。
500年前の当時は魔王をして城を動く事はなかった。魔王も出席する幹部会議で決まった内容を幹部が兵士に指示をだし侵攻する。魔王は圧倒的な力を持っているが自ら侵略した経験はないのだ。
2、 メイン通りを歩きつつ端々にある店を見ながら関心していた。
(余の想像以上に人族は切磋琢磨しているのだな)
そんな事を考えながらギルドがある広場に到着する。メイン通りとは違い、広場は露店が多くあり通りとはまた違う活気をみせている。
(とりあえず店などは冒険者になってからでも遅くはあるまい)
露店を物色したい思いをぐっと我慢し、アレンは冒険者ギルドと思われる扉をくぐる。西部劇の酒場のようなスイングドアとなっている。
扉をくぐるとそこそこの広さで、正面に受付があり、右の側面にはボードが設置されてありそこには魔物の討伐依頼や薬草などの採取以来、その他雑多な依頼が貼られている。左側には丸テーブルがいくつもあり、冒険者同士での情報交換をしたり、魔物の素材買取などをただ待っているだけの人もいる。
アレンは食客の人族から聞いていた話を思い出していた。
(そういえばあやつが言っておったな。この世界には“てんぷれ”が溢れていると、そしてギルドはお約束が多数横行しているとな!)
アレンも何がお約束なのかはいまいち思い出せていないが、少し楽しみが増していた。
3、 アレンは受付に直行し口を開く。
「すまないが、冒険者の登録はここでいいのか?」
「え、えぇ。ようこそダミアの冒険者ギルドへ。登録用紙に記入をお願い致します。失礼ですが代筆が必要な場合はご申告ください」
受付の女性は一瞬言葉に詰まってしまった。それは門番に止められた理由と同様にアレンの身体にそこそこの量の血が付着していた事だ。だが受付の女性もこの仕事を始めて短くは無い。一瞬動揺したものの、すぐに冷静さを取り戻した。
「記入したぞ」
「はい、ありがとうございます。ではギルドの規定について説明致しますね、ギルドにはまず――――」
大まかな説明としては、冒険者はアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールドと4種類に分かれており、大半の冒険者はアイアンとブロンズに分類される。シルバーとゴールドは冒険者人口の15パーセントもいないと言われている。
「少し質問があるのだがアイアンの冒険者がシルバーやゴールドの依頼をする事は可能なのか?」
「可能かと言われれば可能ですが最終的な判断はギルドマスターが判断なされるかと思います」
「ふむ、理解した。階級の上がり方もギルドマスターとやらの判断なのか?」
「その通りです」
(まぁ別に急いでいるわけではないが、ずっと下位にいるのも癪に障るからな)
「ではこのアイアンプレートをお受け取りください」
「うむ、しかと受け取ったぞ」
過去に魔王であった男が、最下級冒険者として再出発する瞬間であった。