この男、街道を歩く
1、 魔王はとりあえず洞窟を出て街道をひたすら歩く事にした。
「『飛行』や『浮遊』、『風魔法』を使えばすぐ村や町に着くと思うが……ただ歩くというのも旅の醍醐味であろうな」
とは言ってみたものの……余は料理ができぬし、野営?などした事ないしどうしよう。
そんな事を考えていると“また”魔物の群れが魔王を襲う。
「本当にうっとうしいやつらだ。ゴブリンやオークなど下賎な者しかおらんし、言葉も通じぬしな……。余の配下の下級オークでさえ、鎧を着込み言葉も話せたというのにさっきから出てくる者共は知性の欠片も感じられん」
魔物の群れを適当な魔法で切り刻み魔石だけ回収する。もちろん大量の魔石は今は既に失われている空間魔法に収納する。
「そういえばこの口調も直さねばいかんな。んんっ!俺は田舎から来た者だが冒険者登録はできるか?っとこんなところであろう」
「それと初めて冒険者登録する奴がレベル700な分けないからな、適当に150ぐらいにして……名前どうしよう、幹部連中の名前を勝手にもじってと、今日から俺はアレン・ルシフィールドとして生きていくぞ!」
2、 魔王改めアレンがそんな事を考えつつ街道を歩いている頃、少し先の街道で盗賊達が談笑していた。
「最近魔物が増えたよな?そろそろ北上するか?」
「あぁ~俺もそう思ってたのよ、ちょっとお頭に相談してくるぜ」
「お頭~!最近この街道誰も通らないし魔物も多くなってきたんでそろそろ北上しませんかね?」
「ん?そうだな~そうするか」
気の抜けた返事をした男こそこの盗賊団のリーダーである。元は冒険者でCランクまで上り詰めたのだが、ギルドといざこざを起こして今では盗賊まで身を落としている。
そんな話をしている時に見張りの男があることに気がつく。
「ん?なんか南から男が歩いてくるぞ。お頭~!カモが1人きやしたぜ!」
「うし、野郎共!今回が終わったら北上して町の近くで活動といこうや!」
「「「おおぉ!!」」」
彼等は知らない、そのカモと呼ばれた男がこの世界で1番強い相手だと言う事に……。
3、 アレンが街道を歩いていると複数の男達がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「よぉ兄ちゃん、殺されたくなかったら荷物を全部置いていきな!」
アレンは思わずため息をついた。やっと言葉の通じる相手かと思ったらまさかの盗賊。しかしここで閃いた。
(余は今無一文だ、しかしこやつらは少なからず金銭を所持しているはず。身ぐるみも剥いで一石二鳥かもしれん)
「いやだと言ったら?」
「そりゃおめぇさん、ここで死んでもらうぜ!」
男達は一斉にアレンへと飛び掛る。しかし全員何が何やら分からない内に息絶えたのだった。
アレンは1番身なりの良さそうな人物から服を剥ぎ、全員から金銭を奪う。
「ふぅ、しかし弱いのう。風魔法の『風刃』で倒れるとはな……相変わらず人族は儚いな」
アレンが使った『風刃』という魔法は今は既に失われた魔法であると言う事は本人自身今は知る由も無い。
「たしか食客であった人族の小僧から聞いた話によると、白金貨が1番価値があって金貨が2番、銀貨が3番、銅貨が4番だったな。う~む、こやつ等は金貨を2枚しかもっておらんな……銀貨は40枚、銅貨が28枚か」
アレン自身使った事がないので多いか少ないか分からないでいたのだが、聞いていた金貨が少ない事に不安を覚えている。
4、 アレンは襲い掛かる魔物を虫けらの如く倒していきながら街道を北上し、町を目指す。既に洞窟を出てから5時間程が経った所であろうか、辺りは薄暗くなり始め、アレンも歩くのに飽きてきた頃であった。
「う~む、飽きたな。余はそろそろベッドで寝たいぞ」
思わず口に出してみたが、昔のように配下はいない。今は魔王ではなくただのアレンという1人の人族なのだ。
ふと目を凝らすと、街道の奥が薄っすら光っている。もしやと思いアレンは走る。近づくにつれてそれが町の灯りで在ることが分かった。
「おぉ!やっとついたぞ!余の人生が始まる場所だ!」