この男、復活
1、 500年ほど前、この世界には魔王が存在した。
多くの魔物や協力な魔族を率いて世界を征服する寸前まで成し遂げたのだが……。
あと一歩の所で勇者が現れ、魔王は倒されてしまう。その経緯にはいささか複雑なものがあるのだがここでは省略させてもらうとしよう。
2、 500年前の大規模な戦いの後、様々な種族の人々は互いに協力し合い国をつくっていった。そんな事さえも500年という年月は風化させていってしまうのである。
この世界アストラルには大きく分けて3つの大陸が存在している。世界を長方形とするならば、右に縦長のオウマ大陸、左には台形のブレナーク大陸、そして中央にリーワーフ大陸がある。
オウマ大陸にはエルフやドワーフなどの妖精族と呼ばれている者たちが多くすんでいる。ブレナーク大陸には人族や獣人族が、リーワーフ大陸には過去に魔王がいた事もあり今は魔物が多くひしめく暗黒大陸と呼ばれている。
この世界は意外に狭く、各大陸には船で2日もかからずに行ける距離にあり、交易もそれなりに盛んだ。命知らずの冒険者達はこぞって暗黒大陸に向かっていくのである。
3、 考えてみて欲しい、今の我々も500年前の風習や、当時の出来事などは文献でしかしることができない。ましてやこのファンタジー世界アルトラルに映像技術など残す術などなく、何もかも御伽噺のように語り継がれているのである。
物語はそんな500年前の魔王を崇拝する邪教徒達が、魔王の遺物を見つけ出し勇者召喚の方法で魔王を召喚する所から始まるのだ。
4、 オウマ大陸の中央部に位置する、ジェノーネ王国の東にある通称“魔の森”とよばれる洞窟に怪しげな男達がなにやら儀式を始めていた。
「いや~まさか王都の闇オークションで魔王様のマントが出品されるなんてびっくりしましたね!司祭!」
「私もまさかとは思ったが最高レベルの鑑定スキルを持っている奴が偶然傍にいて助かったぞ、金貨300枚はかなり痛かったがこれで復活の材料はすべて揃ったのだ!フハハハ!」
男達名前には1つの死体が転がっている。彼等が大いなる魔道士で力があれば遺物を媒介に魔王本体を召喚するのだが、いかんせん彼等の正体は少し魔法が使える貴族の次男や三男である。なので器を用意し、魂だけ召喚するという方法を文献から見つけている。
「司祭、本当にこの死体でいいんですかね?人族の体だからって魔王様怒ったりしないですよね?」
「その辺は私にもわからん、お主達も知っていると思うが魔王様は部下に優しかったときく。なんとか頭を下げればお慈悲もあろう」
目の前の男性の死体を前にすでに今後について話が行われていた。この死体も彼等が殺した物ではなく、死体安置所から勝手に拝借してきた物に過ぎない。だから死体の素性もこの場にいる誰も知らないのだ。
5、 死体の男性に魔王のマントを掛けて彼等は死体を中心に5メートルほどの魔方陣を書く。
「皆の者!中心にめがけて魔力を送るのだ!」
「「「はい!」」」
10分ほどだろうか、魔力切れで1人、また1人と気絶していった。
「司祭!俺も限界が…きまし…た。あと…はお願い…しま…す」
「ええい!腑抜け達め!!私はまだまだ倒れんぞぉ!!」
すると死体が光だしむくりと起き上がる。
6、 男は記憶を整理している。
余は宰相に嵌められて勇者達に殺された所までは覚えているがそこから先は覚えていない。それにしても手を見るとどう見ても人族の手だ、ただ自分に覆いかぶさっていたマントは自分のものだとはっきりとわかる。目の前の人族達は何をしているか気になり言葉を掛ける。
「その方、ここはどこだ?」
「あなた様は偉大なる魔王様でお間違いないでしょうか……?」
「余の記憶が正しければ魔王であるぞ。で、ここはどこだ?」
質問に質問で返された魔王は少しイラっとした。
「ここはオウマ大陸にありますジェノーネ王国でございます、魔王様」
ジェノーネ王国?聞いた事の無い国だな。それにしても状況が理解できんぞ。
「余が倒されてからどのくらい時がたったのだ?なぜ余は人族の姿をしている?」
「魔王様が憎き勇者に倒されてから500年ほど経ったところでございます、姿に関しては本来完全なるお姿で復活させるつもりでしたが我らの力不足故に死体に魂を入れる方法で復活の儀を行った次第でございます」
ふむふむ。大体は理解できたぞ、余の能力はどうなっているのであろうかな。少し試してみるか。
まず、右目の魔眼はどうかな?
名前:???
レベル:700
職業:???
HP:60000
MP:60000
攻撃力:9999
防御力:9999
魔法攻撃力:9999
魔法防御力:9999
すばやさ:9999
かしこさ:9999
幸運:2
特殊能力:アイ・オブ・ゴッド、アイ・オブ・ヘブン、統率者、魔王化、全能力者
ん?余の記憶しているもの表示と違うな……名前と職業が無いし、幸運が2しかないぞ……その他は問題ないが。
「魔王様!いかがなされましたか!?」
「いやなんでもない、それよりも今の時代の事を詳しく教えてくれぬか?」
「ははっ!あれから時が経ち――――」
ふむ、理解した。勇者の子孫が各地にいて王国を築いたりしているのか、魔族に関しては文献がないから知らんとな。当時と変わらず冒険者が魔物を討伐して、昔団結したような感じではなく今では人族がのさばっているとか、相変わらず醜い奴等よ……。
そこで魔王は考える。
余は今人族の姿をしている。もし魔族がいても余とは気づくまい、飽きるまで人族に紛れて生活するのもいいかも知れんな!そうするとこの者達は余が魔王である事を知っているわけだ……。復活させた恩義はあるがここで死んでもらおう。
「それでお主達はこれからどうするつもりなのだ?」
「それは魔王様を筆頭に世界を支配していこうかと思う次第で―――」
「もうよいわ!その方等に王の宣告を言い渡す……全員死だ」
「そ、そんな!魔王様!なにとぞお慈悲を!」
魔王は力試しと言わんばかりに得意の【特技】を繰り出す。
『真空』
「かはっい、息が……」
『業火』
真空によりすでに息絶えた彼等をさらに業火で焼き尽くす。
「ふん、これで彼等がいた事すらわからんだろう」
まず、王都とやらを目指してみるか!冒険者も幹部連中の話でしか聞いた事がないから、ギルドとやらに行ってみるのもいいかもしれんぞ!