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ChainBreaker  作者: imokenpi
第一章 旅立ち
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第1章 ミロダクトの村3

「……?」


俺がうっすらと瞼を開けると、その途端に太陽の眩しい光が目に染みた。


眩しっ。光を遮ろうと手をかざす。


!?


だが、その手は手のひらから肘にかけて、白い包帯が巻かれていた。

それを見て、昨夜の事が甦る。


――――そうか、俺はあの時剣を抜いて……。そこで意識を失ったんだ。


ゆっくりと起き上がると、俺は妙な状況に気づいた。


「あれ?」


俺は寝ぼけたまま座りなおす。


今まで寝ていた場所は、戦闘をした洞窟でもなく、助けられたはずなのに、自分のベッドでもない。村の集会所の真ん中の地面にござを敷いて、そこに寝かされていたみたいだ。横にはあの時に抜いた剣が置かれている。


それを見て、俺は焦った。


「リーネ! ライアンも! 大丈夫なのか!?」


近くに二人の姿が見えないことに恐怖を感じた。


まさか……俺のせいで、炎に呑まれて死んでしまっていたら……。最悪の事態を考えると、背中に寒気を感じる。


しかも、近くには誰もおらず、遠巻きに村人達が怯えながら俺を見ていた。


「おい、起きたぞ」


「早速、村長を呼んで来よう」


昨日まで親しかった村人たちが、ひそひそと声を潜めながら話す。


「なあ、ライアンと リーネは無事なのか? お母さんは? どこにいるか知らない?」


俺が立ち上がると、彼らは数歩程俺から離れる。そして、誰も問いには答えてくれない。その状況に俺の不安はますます膨らんだ。


「なあ! 誰か答えてくれよ! ……勝手に祠へ行ってごめんなさい。もう勝手に村は抜け出さないから、手伝いもするから。だから……許してくれよ!!」


いつもなら、叱ってくれたり、優しくしてくれたりする、家族のような人達だったのに。今は何一つ俺を咎めることもなく、ただただ見つめている。


「なんで誰も何も言ってくれないんだよ? どうして!?」


まるで何か異物でも見るような視線に耐えかねた俺は大声を出したが、村人は気まずそうに顔を見合わせるだけだ。


「……静かになさい」


村人をかき分けて目の前に現れたのは、長いひげを生やした村長だった。

杖を突きながら、俺の近くへゆっくりと歩み寄る。


「村長っ!!」


俺はやっと話を聞いてもらえそうな相手が現れた嬉しさに、村長の元へと駆け寄った。

「それ以上近づくでない!」


「……え?」


村長は俺に杖を突きつける。くすんだ碧眼の瞳が険しく俺を見据えている。


村長にまではっきりと拒絶されたことに、戸惑いを隠せなかった。

どうして?そう聞く前に、村長は語りだした。


「お前は自分が何をしでかしたか、分かっておらんようだな。わしや村の者が、頑なに隠そうとしたことが仇になったのかもしれぬ。


…今から話すことを良く聞きなさい」


長老は、知っている限り俺に話してくれた。



はるか遠い昔、今俺が持っている剣は、心正しきものがこの世の罪を裁くため、神によって地上に送られた。 だけど、あまりに絶大な力を持つこの剣は、最初の持ち主が亡くなった後、邪な権力者達の手に渡り、己の欲の為にしか使われなかった。


そのせいか、次第に剣を持った人の心が奪われ、その人はかたっぱしから人々の命を奪い、全てを焼き尽くした。その人が倒されても、権力を欲しがった人が同じような事を繰り返した。誰もその剣を使いこなすことができず、世界には争いが絶えなかった。また、大地はみるみる焼き野原となってしまった。


そこで神様は、信仰心が厚く、争いも避けていたこの村に剣を預けた。剣を 封印しても人間が過ちを続けるなら、神の裁きが下るという言葉と共に。そして、荒廃した大地には緑が戻り、いくつかの国が誕生して平和が生まれた。この辺も治めているバルクレイ帝国の皇帝は、剣の封印に理解を示し、様々な援助をしてくれていたそうだ。それは現在の戦争好きな皇帝の代になってからも続いている。だからこそこの村は平穏を保っていた。


なのに、その平穏を俺が壊してしまったらしい。



長老は俺の右腕をやみくもにつかむと、包帯を一気に解いた。


「何だよ…これ。」


見ると、炎に焼かれたはずの腕に火傷の跡は残っておらず、その代わりに黒い刺青のような紋章が肘から手のひらにかけて刻まれていた。俺は思わず言葉を失う。周りの村人も息をのんだ。


「…『業火の剣』を引き抜いた罪人の証じゃ。これは―――」


「何これ超かっけえ!!」


何か、いかにも物語に出てきそうな展開に、一人で盛り上がった俺はガッツポーズをした。


「話を聞かんか馬鹿たれっ!!」


「洞窟を崩壊させるほどの力じゃぞ。アレクに業火の紋が出ている限り、いつかはみな殺されてしまう。わしはそれを避けたいのじゃ。」


村長の言ってることは確かにわかる。今は何ともないけど、これからもずっととは限らない。


「この子なら大丈夫です!お願いします。私の元でいさせてください!」


母さんは深々と頭を下げて懇願してくれた。だけど、村人達はそんな母さんを冷たい目で見ていた。


「もし俺たちが殺されたらどうするんだよ…。」


「そうそう、家畜だって殺されちゃ敵わん。」


「色んな奴らが剣を奪いに村を荒らすかもしれんぞ…。」


ひそひそと話をする声が俺にも聞こえた。




「……俺、出ていくよ。」


覚悟を込めて発したその一言に、母さんは目を丸くした。


「俺が出ていけば、みんなは平和に暮らせるんだろ? 母さんやリーネとライアンがみんなと揉めるのは嫌だし。別に殺される訳じゃ無いんだから、いつかまた会えるよ」


心に湧き上がる不安を抑え込み、まるで自分に言い聞かせるように、なるべく笑顔で話す。すると、村長はほっとした様子で業火の剣を鞘ごと丁寧に両手で持った。


「わかった。ならば、この村の奥の聖なる山、ミロダクトの 山頂に向かって真っすぐ歩け。昔、神がそこに現れて剣を封印したそうだ。そこに辿り着けば、神がお前を許し、その業火の紋も何とかなるかもしれん」


「本当ですか!?じゃあ、さっそく準備しないと!!」


その紋章が消えるなら、また村のみんなが俺を受け入れてくれるなら……! そう思い、家へと駆けこもうとした俺の手を、村長がつかむ。


「待て。神は俗物を嫌うから、この剣以外は何も持って行ってはならん。己の身一つであの山頂を目指すのじゃ」


俺は村長がしわだらけの手で指差した山頂を見上げる。ミロダクトの山はうっそうと生い茂る木々を携え、堂々と立ちはだかり、その頂は雲さえも貫いていた。……これは大変そうだなぁ。だけど、俺の決意は変わらない。


「じゃあ、俺頑張ります!」


「アレクっ!!」


村や、母さんの為に決意をしたのに、母さんは悲鳴のような声を上げた。


「村長命令じゃ!勝手にお前が止めるでない!」


すぐさま村長に怒鳴られて、母さんはそれ以上何も言わなかった。


「……わかりました。ならせめて、少し待ってください」


母さんは村長を睨みながら静かに告げると、家へと駆けて行き、しばらくして戻ってくると、一着の服を俺に差し出した。


それは白いラインの入った鮮やかな赤のジャケットで、父さんが若いころに買って着れなかったものだ。俺とライアンが正義のヒーロ―みたいと言いながら着ていたなぁ。いざ着てみると、当時ぶかぶかだった上着はいつの間にかちょうどよくなっている。


「……おっきくなったね」


母さんはしみじみと言うと再び俺を抱きしめた。


「アレク…あんたは私のかわいい息子なんだから、絶対に帰っておいで」


あまりに真剣に、心を込めて言われたから、なんだかくすぐったいようなきもちになる。少し大げさな気もするけど、やっぱりそれだけ大変なんだろうな。


「…うん。」


でもやっぱり嬉しかったから素直に頷いた。そうして俺は、剣だけを頼りに村を後にしたのだった。



※どんどんと小さくなるアレクの背中を見送ったアレクの母は、声を押し殺しながら涙を流していた。


「水も食料もなしにあんな険しい山に行かせるなんて、死ねと言っているのと同じじゃないですか!!」


彼女は嘆きながらしゃがみ、エプロンの裾で溢れ出る涙を拭う。


アレクが目指すミロダクトの山、そこは日光が差さないほどうっそうと木々が生い茂っているため迷いやすく、さらに魔物達がうろついている山だ。


現在は帝国軍により村人以外の立ち入りを禁じられているが、昔から多くの行方不明者を出し、討伐者達も滅多に立ち寄らない場所であり、そんな場所にろくな装備もせずに向かうなど、自殺行為に等しい。

そんな場所に、アレクは行ってしまったのだ。


村長は彼女の肩にそっと手を置きながら、悲しげに首を振った。


「…仕方ない。村だけでなく、世界の為にもこうするほかなかったのじゃ」


さらに村長はゆっくりとアレクの母に語る。


「例えあの剣を手にしたアレクが死んだとしても、封印が解かれたからには誰かが必ず剣を欲するはずじゃ。もしかしたらこの国の皇帝かもしれん。血気盛んな奴があの剣を手に戦争を始めれば、それこそ神の鉄槌が全ての人間に下 るだろう。業火の剣はアレクごと、誰の手にも渡らぬよう、神の山に葬るのが一番じゃ」


「だとしても、他に方法はなかったのですか!?」


彼女はエプロンの裾を強く握りしめる。止まらぬ涙をそのままに、村長を見据える彼女の双眸は鋭かった。

村長はため息をつく。


「なぜあの子にそんなにこだわる。あの子はお前さん達夫婦の実子ではないだろう? 確かに素直ないい子じゃったが」


村長は彼女の背中を擦りながら静かに語りかける。


確かに、鳶色の髪に褐色の瞳を持つロート夫妻の実子、ライアンとリーネはその身体的特徴を引き継いでいたが、アレクだけは違った。この辺も含む帝国内では珍しい、真夜中の空のような黒髪と、黒い瞳を持っていた。


「ええ、確かにあの子はまだ赤子の頃に森で見かけて拾いました。だけど、それまでなかなか子供が出来なかった私達にとって、あの子を育てた日々がどれほど幸せだった事か」


彼女はこの時ばかりは当時を思い出したのか、口元がわずかに綻ぶ。


「ずっと、息子として育ててきました。あの子も自分が私達夫婦の実子でないことは知っています。ですが、その上で私たち『家族』なんです。だから……アレクは、私達家族をっ…村人の白い目から守るために、たった一人で……」


そう言い終わらないうちに、彼女は嗚咽を上げた。村長はその背中を何度も擦る。


「だから、アレクの意思を無駄にせぬようリーネとライアンを育てるのじゃ」


村長の言葉に、ようやく彼女は頷いたのだった。

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