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ChainBreaker  作者: imokenpi
第一章 旅立ち
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第1章 ミロダクトの村2

 こうして日が沈み、闇夜に月が昇った後、俺たちは母さんが寝たことを確認し、(父さんは出稼ぎ)村人がみな寝静まっただろうと思い、こっそりと家を抜け出したのだった。暗闇の中、月明かりだけを頼りに村を横切る。微かな虫の声と、木々のざわめきだけが耳にこだまする。


「なんか、わくわくするな!」


その、夜の静寂を打ち破るように、ライアンが棒切れを片手にぶんぶんと振り回す。


「静かに! 母さんにばれたらただじゃ済まないんだからな!」


俺が言うと、ライアンは珍しく素直にわかったと頷いて見せた。……なんだか心配になってきた。

リーネもなぜかついて行くと言い張り、今は俺の左手を握っている。二人と無事に家に帰れるように、俺はベルトに差した木刀を装備しなおしたのだった。やがて山道に差し掛かり、暗い山道を三人が無言で歩く。両手をライアンとリーネに握られた俺は、二人がこけないように気を付けて進んだ。やがて開けた場所に出ると、二人から歓声が漏れた。三日月から白い光が優しく降り注ぎ、夜空に浮かぶたくさんの星は、散りばめられた宝石のように煌めいていた。感慨に浸っていたその時、背後の草むらが音を立てる。


「誰だっ!」


俺は木刀を構えて振り向くが、そこには誰もいなかった。何事もなくてよかったとほっとするのと同時に、ライアンとリーネにいいところを見せられなかったとがっかりした気分にもなった。


「なあ、あの中に入ってみようよ!」


そんな時、ライアンが祠を指差して言ったのだった。


「あそこは祭りの時以外立ち入り禁止だろ? おまけに子供は入っちゃダメって言われてるし」


俺が渋っているのにも関わらず、ライアンは俺の手をぐいぐいと引っ張ってゆく。


「もう子供じゃないやい!! 兄ちゃんは子供なのかよ!」


そう言われてしまうと、そのまま帰ってしまってはただの情けない兄になってしまう気がしたので、


「違うよ。なら連れて行くけど、はぐれるなよ」


少しやけになりながら、俺は祠の入り口に立ったのだった。祠である洞窟の入り口は、一見して大岩が塞いでいるように見えるが、実は、手前にある直径2メートル程の平らな石をスライドさせると、地下の階段から中へ入れるようになっている。去年祭りをこっそり見ていたので、自分がやるのは初めてだが、入り方は知っていた。入り口を開くと、ライアンが驚きのあまり目を見開く。リーネも子ども扱いされたくないのか、行く気満々で俺を見上げていた。俺も入るのは初めてだから、微かな緊張と、わくわくする気持ちを感じる。だって、今やっていることだって、勇者の冒険みたいだし。


「よし、行くか!」


ポケットに入れていたライターに火を点けると、俺、リーネ、ライアンの順でゆっくりと階段を降りて言ったのだった。通路にある松明に火を点けながら進んで行くと、以前に聞いていた通り、程なくして開けた場所が現れた。そこは、その場所自体が淡い赤の光を放ち、ライターの火が必要ないくらい明るかった。


「すっげえ……」


ライアンは口をあんぐりと開けたままあたりを見渡す。確かにすごい。幻想的な景色に魅入られた俺たちは、無我夢中であちこちを探索する。この空間を囲む岩石は淡い光を放つだけではなく、宝石も含んでいるようだ。所々、キラリと光る石が見えた。持って帰ったら、母さんが喜ぶかな。そんなことを考えていた時、けたたましい悲鳴が聞こえた。


「どうした……って、リーネ!?」


慌てて振り返ると、そこには覆面で口元を隠した男がいた。リーネを腕に抱きかかえ、その喉元にダガーナイフを翳している。その男は前髪が片方だけ長く、右目が隠されていたが、鋭い光を放つ左目は俺を見据えていた。突然のことにどうしてよいかわからず、俺はただただ驚くことしか出来なかった。


リーネを抱えた覆面の男は、気だるそうな口調で俺に向かって話しかける。


「そこの剣について知っていることを洗いざらい吐け。……こいつを殺されたくなかったらな」


少し掠れた低い声で言われた台詞に、俺は肩を竦ませた。リーネは恐怖の為か何も言えずにただただ涙目で震えている。ライアンは棒切れを握りしめるが、人質を取られているので、どうしようもなく立ちすくんでいた。


「け、剣ってこれのことですか?」


俺は男の言っていることがよくわからなかったので、自分の手作りの木刀を恐る恐る見せてみる。もしかしたら、俺が作った剣は何か特別な効果があるのかもしれない! しかし、そんな淡い幻想も覆面の男によって即座に否定された。


「んな訳あるかぁっ!!そこの祭壇の剣だ!神に封印されし『業火の剣』。

ミロダクトの村人のくせに、知らねえとは言わせねえぞ」


男はリーネを抱えている腕に力をさらに込めながら、俺の背後の数メートルにある祭壇を指差した。


「……お兄ちゃん」


リーネが苦しそうにしていたため、俺は腰の木刀に咄嗟に手をかけた。だが……


「おっと、それ以上動くなよ。動けばどうなるかわかるな?」


男はいかにも悪役がいいそうな事を言った。リーネの首筋にダガーナイフをあてがわれたままでは何もできない。何とかしなければ、という焦りだけが募る。彼が言った方向を見てみると、祭壇の上に、確かに一本の剣が置かれていた。埃をかぶったいくつも鎖に絡まれ、かなり古びている。


確かに何となく凄そうな剣だけど、村の大人たちはやたらとこの祠のことを隠したがるから、俺はこの剣が存在する事すら知らなかった。そんなだから、男の質問になど到底答えられる訳がない。


「本当に何も知らないんです。すいません。……だけど、リーネを離してくれよ!」


初めて対面した殺意に恐怖を覚えつつ、俺は懇願する。だけどそれも虚しく、彼は薄く嗤ったように見えた。


「無理な相談だな。手がかりがなければお前たちを消す」


覆面の男がそう言った直後、俺は頭の中が真っ白になってしまった。初めて向けられた殺意に戸惑うばかりでなく、『死』という単語だけが頭の中を占めていた。


「痛って!」


俺が呆然としていた間に、リーネが男のグルグルと包帯で巻かれた腕を噛んだのだった。突然の痛みに驚いた彼は、リーネを地面に振り払う。今がチャンスだ!!

そう思った俺は、すかさず木刀をベルトから抜いて跳び上がると、覆面の男にありったけの力をこめて振り下ろした。しかし、自分なりに全力で振ったつもりなのに、男はいとも簡単に木刀を片手で受け止めた。


「え、マジ?」


俺がそう呟いた時、男は俺から木刀を奪い取り、俺の腹部に強い蹴りを入れた。そのため俺は祭壇まで吹っ飛ばされ、背中を強く打ちつける。


「……っ!」


鈍い痛みを感じる背中を擦りながら思った。……今のままでは絶対に勝てない。このままでは、リーネもライアンも殺されてしまう! 今もなお、男はダガーを片手にリーネとライアンをゆっくりと追いつめようとしている。


……助けなきゃ!! でも、どうやって?


よろけながら立ち上がると、祭壇の剣が視界に入る。これが、よくわからないが神の剣というならば……。

ライアンとリーネを救えるはず!! 村人たちが祀りたてる剣という事には一抹の不安を感じるが、今の状況ではそうも言っていられない。俺は覚悟を決め、ただ二人を助けたい一心で剣の取っ手を掴んだ。


その瞬間、剣を縛っていた鎖が次々と弾けるように消える。ライアンとリーネは二人で固まって震えていて、男が今にも斬りつけようとしているように見えた。まずい!


『大事な人を救うために、この悪い奴を倒したい!』


そう思いながら、俺は鞘から剣を一気に引き抜いた。すると、鞘を投げ放つと同時に剣先から刀身にかけて、紅蓮の炎が灯る。


な、何これ!? しかも、炎の勢いは止まることはなく、そのまま右腕まで呑み込もうとしているかのようだった。


「熱っ……!」


だがもう時間がない。俺は顔をしかめながら力が入るよう両手で柄を握りしめると、覆面の男に背後から駆け寄り、再び斬りかかった。男は振り返った瞬間、驚いたように目を見開いた。彼に掠りさえすれば、少しでも炎に怖気づいてくれれば…。

身を焼かれる熱さを感じていた俺は、それを期待してやみくもに剣を振るので精いっぱいだった。そして、振り切った瞬間、轟音が響き、爆炎と閃光が祠全体を包むどころか洞窟そのものまでも振っ飛ばす。


「……やべぇ」


男の呟きが微かに聞こえたとき、俺は熱に包まれたまま意識を失ったのだった。


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