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【chapter:2】

 宵闇の中、響く短い断末魔。

 飛び散った紅い液体は冷たいコンクリートを濡らす。

 どさり、と地に倒れ伏した優位種には目もくれず、その場を後にする二つの人影。よく似た色の髪を持つ、雰囲気は全く違う二人。

 十代になったばかりのような子供っぽい少年・由良 成弥、

 二十代とも十代とも取れる大人びた少女・高緋 更。

 二人が所属する「反乱軍第零番隊」――そこは、反乱軍の中でも、最も謎に包まれた組織。

 第零番隊への入隊は、他には無い様々な条件がある。


 一、二十歳以下である事。

 二、能力が「怪力」「発火」「飛行」「幽体離脱」以外のものである事。

 三、殺しに躊躇いを持たずにいられる事。


 この三つ目の条件――それが第零番隊このぶたいの存在理由、そのものであると云われる。


 第零番隊――選び抜かれた「暗殺者アサシン」達によって結成された分隊。


 由良は、両親の復讐の為に反乱軍へ入る事を選んだ。

 優しかった父母。それなりに幸せだった暮らし。「外」の世界は冷たくても、家の「中」は暖かかった。

 ――それなのに。

 只「異脳種」である、それだけで殺された両親。

 目の前で惨殺され、死体すら残す事を許されず焼き尽くされ、それでいて尚平然と笑っていた優位種を、許そうと思った事など一度たりとも無い。

 例え殺されようと、絶対に。


 第零番隊に所属する者は皆、そうして胸の内に強い「怒り」を覚えた者達だった。

 他の反乱軍のメンバーとは決して相容れることなく、闇に紛れ、ただ「邪魔をする」優位種を殺す事にのみ特化した、最も戦闘力に優れた彼等は――時に、反乱軍とは別の勢力とさえ認識される。


『どうでもいい』


 しかし、過去に一度、反乱軍本部から通達された注意書さえ、彼等はあっさりと切り捨てた。

 ――今や彼等の力は、ひと振りの抜き身の剣と同じ。

 ――それを振るうも抑えるも、彼等自身にしか出来ない。


「…コラ、ぼーっとするな。今夜中にあと十人。」

「…あー、はいはい」

 〝三本目の腕〟を摩りながら、由良は先を行く高緋の後を追いかけた。

 その背後を、歩いた道を、次々と血の海に変えながら。


 ――もしも全てを創り出した神がいるのなら。

 答えて欲しい。教えて欲しい。

 何故「異脳」なるモノを生み出したのか。

 「異脳」は何の為のモノなのか。

 ――何故、「異脳種わたしたち」は生きていかねばならないのか。



 異脳種の能力は、大きく分けて十一種――それが今までの認識だった。

 その新たな「能力」が発見されたのは、辛うじて人の住んでいた痕跡が残る街。

 反乱軍第一番隊――戦闘ではなく「研究」を主な任務として行う為に「研究班」とも呼ばれる――の一員である、名無一夜なないかずやが見つけた、一人の少年。


「――君は、〝誰〟かな?」


 怖がらせぬように、努めて優しい声で、そう呼びかける。

 少年はきょとんとした表情を浮かべた後、笑顔で答えた。


「――そうた。有尽創太ありづきそうた!」


 えへへと笑う少年の傍で、淡い光を発するひと振りのナイフ。

 やがて数十秒もしないうちに、それは光の粒子となって霧消した。

「君の『能力』は?」

 今まで名無が見てきた、どの「能力」とも違うような、その特徴。

 少年は当たり前の顔で言葉を紡ぐ。

「えっとね、『ものを創る』! 父さんがね、『象られし有限〈コーティングライト〉』って付けてくれたんだ!」

 さらりと告げられたその内容に、名無は心の中でほくそ笑む。


 ――この子供は、即戦力に出来る、と。


「いい名前、だね。

 ――君にも、力を貸してもらおうか」


「へっ…?」

 少年――創太が何かを言う前に、名無は袖口に隠していた注射器を、ぷつりと創太の首筋に突き立てる。

「……ぁ」

 かくん、とでも擬音がつきそうな動きで首を項垂れ、創太はそのまま固まった。指一本、ピクリとも動かない。

 そして名無の後ろにいた、すらりと背の高い整った顔の男――寒雷の方を振り返って「じゃあ、よろしく」と微笑んだ。

「一夜……そろそろ、俺にばっか頼むのやめない?」

「いいじゃないか。それに、寒雷の能力が一番便利なんだよ。

 空間と空間の『座標』を繋ぐ――『空間の繋ぎ手〈ワームホール〉』が」

「……ったく」

 ブツブツ言うものの、まんざらでもなさそうな顔で、寒雷は未だ気を失っている創太と、名無、そして名無が捕らえた「異脳種」の手を握り――一瞬にして、反乱軍第一番隊の拠点、「研究室」に移動した。



 気がついた時、創太は、自分がどこにいるのか分からなかった。

 白い壁。電球の光がとても眩しい。床にごちゃごちゃと置かれた機械、あちこちへ伸びるコード。そして、乱雑に積み上げられたファイル。

「……ど、こ?」

「おや。――気がついたね」

 その声の方へと視線を向ければ、さらりと黒髪が顔にかかる、先ほど自分に声をかけてきた人の姿。

 自分と同じか少し年上くらいだろうと思っていたその人が、さっきとは打って変わって真っ白な服に身を包んでいる。その格好が、彼の印象イメージを、ひどく大人に見せていた。

「突然、すまないね。でも、私は君の能力に興味があるんだ。君のその、『ものを創る』という能力に、ね」

 見せてくれないか、と微笑みながら言われ、悪い気はしなかったので、創太は能力を発動すべく片手を上に掲げた。

「……」

 無言で、その手を軽くひと振りする。

 すると――光が形を取ったような、曖昧のまま固まったような、不思議な〝ナイフ〟が、手の中に出現した。

 ほう、と感心したように目を見張る名無にちょっと嬉しくなって、創太はもう片方の手で銃を握る動作をする。やはりそこにも、同じような色をした「銃」が顕れた。

「…これは、〝何でも〟創れるのかい?」

「ううん、そういう訳でもないよ。俺が知らないもの――見たことがないものは、創れないし」

 名無は創太の片手に握られたままのナイフに触れて、驚いた。

傍目から見ると曖昧であるようなそれは――しかし、触れた時には確固とした実体を持っている。

 刃に指を滑らせ、痛みが走った。

「あっ…だ、大丈夫?」

「…あぁ」

 指が離れた時に流れた紅い血を見たのだろう、創太は慌てたような声で名無に言う。

 だが名無は、傷の痛みなど微塵も感じていなければ「怪我をした」という思いも無かった。

 胸の内にあるのは、膨らみ続ける「興味」と「期待」。

「……君の力は素晴らしい。『反乱軍』でなら、さらにその力を伸ばせるだろう」

「反乱軍? ――優位種に抵抗してるっていう、あの?」

 瞬間、創太の瞳にちらりと異様な光が宿ったのを、一夜は見逃さなかった。

「そうだ。…入ってみる気は、あるか?」

 問いながら創太の上体を起こさせ、台の上に座らせる。目線の高さは、ほぼ同じ。

 真っ直ぐ、黒と薄茶色がぶつかる。


「――俺も、入れてください。お願いします!」


 ――当時、有尽創太、僅か九歳。

 ――反乱軍として、最年少のメンバーとなった。


 そして数年後、創太は一つの分隊に入る。

 反乱軍第十七番隊。

 そこはやがて、「光の武器庫」と呼ばれるようになる。


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