【chapter:1】
廃墟と化した街の一角。そこに、反乱軍の分隊が拠点として使っている建物がある。
第二十七番隊、その隊長を任されているのは一人の女性。
二十四歳という若さで分隊長にまで出世した女性、結城 サナ江。
彼女は、他の異脳種たちとは違う理想の為に戦っていた。
「異脳種と優位種という区別を失くし、全ての人が手を取り合い笑い合う」――他人に語っても、一度も理解された事のないこの理想の景色を追い求め、結城はここまで必死に戦ってきた。
今日も彼女は、戦場に立つ。
ただひとつ、ただひとり、その景色を追い求めて。
「結城さーん!」
ぱたぱたと、戦場には到底似つかわしくない明るい声と共に駆け寄ってくる、一人の女性兵。
その姿を認め、結城は思わず頬が緩んだ。
「……空砂」
息を弾ませ、手に配給品の袋を下げて走ってきたのは、結城の直属部下――第二十七番隊分隊長補佐、空砂 美花。
〝視〟えない優位種の部隊によってじりじりと囲みをつくられているという状況にも関わらず、空砂の出現で結城達の緊張は一気に緩む。
――その代わり、全員の「士気」は、先程までの何倍にも高められた。
「いつもいつも、済まないな」
「いえいえー! これが私の役割ですから!」
配給の備品と糧食を受け取り、二言三言、何やら単語を言い交わす。
そして、
「それじゃっ、守りはお願いねー!」
そう、抱え上げられた結城の頭上から言い置いて、
――次の瞬間、二人の姿は虚空に消えた。
第二十七番隊拠点を取り囲んでいた優位種達は、身動き一つ、呼吸すらまともに出来ないでいた。
先程まで余裕の笑みを浮かべていた彼らを縛り付けたのは、「恐怖」という鎖。
仲間からの突然の無線で知らされた恐ろしい事実。
「――何者かが、次々と仲間を襲い、屠っている。」
決して〝視〟えないと裏打ちされ、余裕を生むものだった彼らの装備は、今や、彼らを其処に縫いとめるものに変わった。
作戦責任者の白鳥 亜人は、涙で滲んだ視界の中、必死に「屠殺者」を捜していた。
「(くそっ…、誰だ、誰だッ! 何処にいやがるっ、異脳種め…っ!)」
両目を必死で左右に動かし、その気配に耳を澄ませる。
だがその「殺気」が動いた瞬間にはもう、仲間の一人の首がまた、飛ぶ。
「(…何で…っ、なんでだっ…! 俺達の姿はっ、視えない、筈だろッ!?)」
――思考を一瞬、そちらへと割いたのが間違いだったのか。
「(――あ、)」
気づいた時には、既に
「(俺、死ぬ)」
亜人の首と身体は、永遠に分かれていた。
亜人達の部隊を僅か数分で殲滅させた空砂と結城は、軽く息を整えながら、鮮血に濡れた腕と脚を拭い始めた。
「…力は落ちていないようだな。安心したぞ」
「結城さんこそ、寧ろ速くなってません? 乗っててちょっとビックリしましたよー」
それは至って単純な絡繰。
結城の上に空砂が乗り、その状態で結城が走り、空砂が亜人達の頭にパンチを叩き込んだだけ。
――しかし、そこに二人の「能力」が加われば話は変わる。
空砂の「怪力」は、巨大な大岩すら軽々と叩き潰し。
結城の「瞬間移動」は、最大出力となればヒトが認識することなど不可能な迄のスピードを生む。
反乱軍第二十七番隊――別名「難攻不落の要塞」。
その要塞を守りながら、結城は独り、夢を紡いだ。