【chapter:0】
――夢を見た。
――とても奇妙な、夢を見た。
俺は夢の中で、どんどん子供に逆戻りしていく。
そして赤ん坊の姿にまで戻った時――俺の身体は、溶け始めた。
どろどろ、どろどろ――
そして、「俺」だった灰色のどろどろは――巨大な昏い穴ぐらの中へと落ちていく。
――そんな夢を。
頭に何かがぶつかる衝撃で目が覚めた。
「いつまでぐずぐず寝てるのさ。さっさと起きなよ」
真上から俺の顔を覗き込み、母親のような口調で言う高緋更。艶やかな短い黒髪と深海のような紺色の瞳をした、俺と同じ「異脳種」の女性。
「はいはい。…今、何時?」
「午前二時。アンタ、また十時間以上寝てたよ」
何とかしなさいよ、と視線だけで訴えかける高緋を他所に、俺――由良成弥は、首を解しながら外へ出た。
街は深い闇の中に沈んでいるが、空には微かに星が瞬いている。そして、僅かな灯りは、街の中にも埋もれていた。
昨日は反乱軍の仲間が一人殺された。代わりに、こっちは政府軍のグループを一つ潰してやった。
これが、俺達「異脳種」の日常。
命を削って、「優位種」に反抗することと、この世界が隠し続ける「真実」を見つけ出すことが。
「異脳種」――この世界で、「超能力」を持つ者達はこう呼ばれる。
彼らの持つ能力は、大きく分けて次の十一種類がある。
念動力、念話、記憶読取、予知、透視、飛行、幽体離脱、瞬間移動、怪力、発火、分析。
しかし、彼らは、普通の人々――「優位種」から、「劣ったもの」という烙印を押されていた。
理由も分からないまま、迫害を、弾圧を受けていた。
そんな優位種に対抗し、迫害される理由を見つけ出すべく、異脳種たちは「反乱軍」という組織をつくり上げた。
だが、異脳種たちのその動きを、優位種の政府が見逃す筈も無く、政府は優位種の中から「選び抜いた者達」でつくられた軍――政府軍を出動させ、事に当たらせた。
――今も、異脳種と優位種の戦いは続いている。
最早、どちらにとっても「日常」と化した戦争が。