1.ユーリ王子の憂鬱
第1話は、「神官は神に舞を捧げる」の番外編と同じです。既読の方は、第2話へどうぞ。
僕は、ユーリアート、16歳。ユーリと呼ばれることが多い。日輪王と月の女王の第三子で第二王子。次の月王に決まっている。どうも、母はさっさと引退して楽しく過ごしたいようだ。
僕としては、あと10年は現役でいてほしいところ。これは次期日輪王の兄とも意見が一致している。兄も父を少しでも長く日輪王でいさせる為に画策しているらしい。
仲がいいのはいいことだけど、早く譲位して新婚時代に戻りたいってのは我が親ながらどうかと思う。
半年前に、次期月王に正式決定してから、神官学校に通うようになった。といっても、午前中の座学だけだが。
王家は光の女神を信仰しているので、どうしても、他の神々のことがおろそかになってしまう。すべての神官の長となるのだから、神官学校に通うべきだと母が強く希望したのだ。これは、僕にもうれしかった。
城では、大人ばかりに囲まれていたので同年代の少年少女はとても興味深い。それに、大神殿に行くと、彼に会える可能性が高い。
彼、シュウは大神殿に良く出没する。神官学校の教師カサネとスオウが親代わりだから大神殿にいるのだと小さい頃は思っていた。
でも、次期月王に決まって、シュウは、実は天界への門を守る竜の化身だって聞いた時は、衝撃だった。大神殿に来るんじゃなくて、大神殿の地下に住んでるんだって。一度連れて行ってもらったけど、泉のほかには竜の石像があるだけだった。
もう亡くなったおじいちゃんだって。竜は死ぬと石になるんだって。そうして自然に還るんだそうだ。
シュウと僕は良く似ている。というか、スオウと僕が似ているんだよな。シュウのあの顔はスオウの顔なんだってさ。カサネに好かれるようにそうしたんだって。スオウは父上のいとこだから、僕と似ていておかしくない。実際、小さい頃は親子に間違われたこともある。シュウともよく兄弟に見られたな。
シュウと僕を並べて女官たちが、きゃあかわいい~と声を上げていたものだ。この頃は、違う意味できゃあきゃあ言われているようだ。悪寒がする。一度女官長に苦情を申し立てよう。
噂をすれば、シュウだ。
「シュウ!」
「ユーリ、授業は終わった?」
「うん、カサネのところに顔出すけど、いく?」
「もちろん。」
並んで歩くと、神官たちがにこにこ挨拶してくる。見習いの女の子達が、頬を染めてシュウを見ているのに気付いた。…こいつモテルんだよなぁ。僕と似てるのに、何が違うんだろう?
「なんだよ、人の顔見て。」
シュウが眉をひそめる。と、どこかからきゃあと歓声が上がった。
「いや、何でお前ばっかりもてるかなぁ~と。」
「ん~?女子は現実的だからな。婚約者のいるユーリよりボクのが手近なんだろ。」
「こ、婚約してないよ。母上が一人で騒いでるだけで!」
「でもユーリだって満更でもないんだろ?シオンは美少女だし。ほら赤くなった。」
うわ、赤くなるな、僕の顔!
「う、うるさいっ。第一シオンはまだ11歳だ!そんなこと考えられない。」
「ふ~ん、ま、そういうことにしておくか。」
シュウはまだニヤニヤ笑ってる。
そうなのだ。母は最近シオンと婚約しないかとうるさいのだ。陰陽の一対と褒め称えられた両親の血を引き、眉目秀麗才色兼備の美少女。5歳年下なのに、時々自分のほうが年下に感じられてしまうくらい完璧だ。
月王の伴侶には最適!と母の一押しなのだ。だけど、11歳と婚約って…。僕はロリコンじゃないんだぞ!?
「今の僕には、神官の勉強しか考えられないんだよ。」
という事にしておこう。うん。
ごちゃごちゃやってるうちに、カサネとスオウの家についた。中に入ると、いらっしゃ~いとキラがすっ飛んできた。シュウと僕にぎゅうとしがみついてくる。かわいいなぁ。妹ってこんな感じ?
後ろからカサネに手を引かれたリョクがとてとてと歩いてきた。いつ見てもシュウをまんま小さくしたようだ。
「いらっしゃい。」
カサネが微笑んで僕とシュウを見上げる。僕らは、今年カサネの背を越した。
「おじゃまします、かーさま。」
「ま、ユーりったら。」
カサネとくすくす笑いあう。一緒に旅して以来僕らは時々こうやって遊ぶんだ。スオウも交じる事だってある。ていうか、仲間はずれにするとすねる。
「ゆっくりしていけるんでしょ?」
「うん」
「よかった。後でシオンちゃん来るから。」
カサネはにっこりと爆弾を落としてくれた。ぼくは挙動不審になったんだろう。シュウが腹を抱えて笑ってる。キラとリョクは不思議そうに僕らを見てた。
「あら~、シオンちゃんとならお似合いだと思うんだけど。」
ああ、忘れてた。この人は、母上と通じてるんだった。
「くくっ、ユーリ逃げられなさそうだぞ?」
シュウが目に涙を浮かべて笑ってる。
だから、僕はロリコンになりたくないんだって!
5年たったら16歳。ロリコンじゃなくなるよ! byシュウ