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『完結経験値』って本当にあるの?

作者: 悠戯
掲載日:2026/01/10


 作家の実力は作品を最後まで書き切ることで伸びる。


 そんな文言を目にした経験はないでしょうか。

 プロアマ問わず日々誰かがどこかで見たような創作論を発信しては、共感されたり反論されたりといったことを何度も飽きずに繰り返しているインターネットスラム街ことTwitter(自称X)を主な生息地としている私にとっては年に数回は目にする慣れ親しんだ話題です。


 ネットのドブ川よりは多少お上品な創作界隈においても、似たような話はそこそこ見かけるのではないでしょうか。お上品な創作界隈などというものが本当に実在するかどうかは知らないので完全に想像で言っていますが、まあここでは仮に『完結』というものに重きを置く創作者がそれなりの数いるものという想定で話を進めます。


 完結、良いですよね。

 追っていた小説が永久停止(エタ)りがちなweb小説界隈では特に良い。

 せっかく楽しみに読んでいた作品が次第に更新頻度を落としていき、最後には中途半端なところで止まったまま二度と更新されなくなって残念な思いをした人も一人や二人ではないでしょう。


 まあ、今回は作者側の罪業を追求する目的の文章ではありません。


 むしろ、その逆。

 作品を完結させると作者側にこんなに良いことがあるんだよ、と。

 そういうメリットについて語ることで、執筆に不安を抱える多くの創作者を口車に乗せて完結にいたる作品を一つでも増やすことが二番目の目的です。


 ちなみに一番目の目的は、ちょっと前に千話超の大長編を完結させた私の偉大さを世に知らしめると共に新規読者を呼び込むことにあります。そのついでに他の人の助けになれば良いかもねって程度で。あくまでそっちはオマケです。この文章を読んだ皆様におかれましては、その浅薄な目論見にまんまと引っ掛かっていただきたい所存でございます。






 前置きが長くなりましたが、そろそろ本題をば。


 作品を完結させることで作家としての実力がグーンと伸びる。


 なんとも夢のある話ですね。

 その現象を、ここでは仮に『完結経験値』と呼称します。

 作品を最後まで書き切った創作者はよく似たようなことを言っています。せっかく頑張って書き切ったんだし、そんな特別ボーナスがあってもいいだろうと期待する気持ちもあるのでしょう。


 しかし、そのボーナスというヤツは実のところあるんだか無いんだかもよく分からない、非常に漠然としたモノであるわけです。残念ながら、連載作品の最終話のラスト一文字を書き終えた瞬間、脳内に荘厳なファンファーレが鳴り響いて「○○は発想力が2ポイントあがった! ○○は情景描写力が3あがった!」みたいな天の声がどこからともなく聞こえてきたりはしないのです。もし聞こえてきたら早めにお近くのクリニックへどうぞ。お大事に。


 が、天の声が聞こえなかったからといって完結経験値など無いと断じるのは早計。

 あちこちの作家があると言っているのだから、連中が口裏を合わせて嘘を吐いているのでもなければ、どうやら作品を書き切って得られる『何か』はありそうだ、と。

 いくつかの仮説を立てて、その『何か』の正体を掘り下げつつ妥当性について検討していくのが、この文章の目的となるでしょうか。



 ◆◆◆



・仮説①:完結経験値の正体とは作品を俯瞰して見られる視点ではないか?

 

 まず前提として完結した作品は、その時点で作者の手を離れることになるわけです。

 世の中には本編が完結した後で番外編と称した新エピソードが百話以上もポコジャガ増えてる作品もありますが、それでも基本的に本筋のストーリーに大きな影響を与えることはありません。本編に関しては完結した時点で完成され、そこで一旦作者の手を離れているのです。


 そこで何が起きるのか?


 否応なしに作者と作品との距離が開き、また時間の経過に伴って良くも悪くも描いてきたキャラ達やストーリーへの入れ込み具合も落ち着いてきます。


 そうして頭が冷えてきた頃に再読すると、まあ大抵は書いてる時には気付かなかった粗が見えてくるわけですよ。小さなものだと誤字脱字から、大きいのだと作品の根幹を左右しかねない設定の破綻まで。

 

 ストーリーを円滑に進めるために、そのキャラに本来言わなさそうな不自然なセリフを言わせていたのに気付いたり、なんの伏線もなく都合の良いイベントが発生したり。そういう粗に気付いた時に、あなたはきっとこう思ったことでしょう。


 今ならもっと上手く書けるのに、と。


 『それ』です。

 そうして粗に気付ける目と改善案を思いつける頭こそが、イコールそのまま作者の成長幅。完結させて俯瞰的・客観的な視点を獲得したからこそ、次はもっとやれると思える実力を手に入れていたことに気付けたわけですね。その悔しさをバネに次回作ではもっと上手くやりましょう。



 ◆◆◆



・仮説②:完結経験値の正体とは単純に『自信』なのではないか?


 作品を完結させた。

 決して誰にでも出来ることではありません。

 巧拙や人気の高低がどうあれ、それ自体は文句なしに褒められるべきことです。


 そんなにも立派なことを成し遂げたという大きな自信。その自信はあなたを更なる挑戦へと向かわせる大きな助けとなることでしょう。以上。





 ……で、終わってしまっては物足りないので少し補足していきます。


 完結によって得られる自信。

 そういう精神的な強さは目に見える数値として表すのが難しいですし実在証明も困難なのですが、よっぽど卑屈な人間でもない限りは多少なりとも自己肯定感が高まるはずです。


 自分はこの山を登ったという確かな実感。

 目に見える成果を残したという手応え。

 決して楽な道程ではなかったけれど、その大変さがそのまま充実感へと裏返る。


 もちろん期待通りでなかった面もあるでしょう。

 本当なら連載を始めてすぐに話題になってランキングを駆け上がり、数多の称賛と書籍化やコミカライズの打診がわんさか来て然るべきところを、残念ながら知る人ぞ知る良作くらいのポジションで完結まで来てしまった。なんなら、ほとんど知る人がいないままだったかもしれない……が、それでも歯を食いしばって書き切ったこと自体の価値は何ら損なわれません。


 なんなら外部から得られるモチベーションに頼らず走り切った分だけ、そっちのほうが遥かに凄いかもしれない。売れっ子には売れっ子なりの悩みがあるのでしょうし、実際のところがどうだかは知らないけれど、思うだけならタダですしここは都合よく考えておきましょう。あなたのマイページには『完結済』の三文字が表示された作品名が確かに存在するのです。


 目に見える成果がある以上、意味はゼロではない。

 書き始める前、書いている途中よりも、自信の根拠となるモノがある。

 そうして得られた自信で次の小説を書くか、あるいはキリの良いところで手を引いて別の何かを始めるかは定かではないですが、なんにせよあなたには小説を書き始めて書き終えるだけの根気がある。それだけは誰が何を言おうと、例え本人にでも否定できない客観的な事実として、あなたの今後の人生でちょっとだけ背中を押してくれることでしょう。



 ◆◆◆


・仮説③:完結経験値の正体とは読者からの『信用』や『信頼』ではないか?


 小説というのは書いて終わりではなく基本的に誰かに読まれることを想定しているわけです。世の中には本当にただ書くことだけで心の底から満足して、書き終わった原稿を誰に見せることもなく机の引き出しにしまって終わりにするようなストイックすぎる創作のバケモノも実在しますが、無闇に話がややこしくなるのでここではそういう人らについては考えないものとします。



 読んでいる作品がちゃんと完結した。

 あるいは、路線変更での打ち切りくさいがキリの良いところで終わった。


 これらの情報は読者にとって好印象となる大きなプラス材料です。

 これから初めて読む作品がちゃんと終わりまで行くか分からなくても、同じ作者の作品欄に『完結済』と表示されてる作品がいくつも並んでいれば不安もいくらか薄れるでしょう。中には、いわゆる作家読みで過去作を片っ端から読んでくれる神の如き読者さんもいるかもしれません。


 そうした信用や信頼の積み重ね。

 経験値という言葉のイメージからは外れそうですが、作者自身の中にではなく外側に対して積み上げられた好意的なイメージが作品や作家のファンを呼び込む。そうして応援してくれるファンの数が増えれば、これから新作を始めた時に最初から一定数の支持を得やすく、目に見えるランキング等でも有利となるスタートダッシュをキメやすくなる……みたいに都合よく回ってくれたら良いなぁと思います。実際どうかは知りませんが、とりあえずマイナスにはならないはずです。


 ちょっと強引かもしれませんが直接的に原稿を書く以外の部分、そういう作家イメージに対するポジティブな作用もまた『完結経験値』の一部と言えなくもないのではないでしょうか。



 ◆◆◆



 ここまで長々と書いてきたわけですが如何でしたか。


 もしかしたら上記の仮説に納得がいかない、なんなら「やはり完結経験値などという戯言は創作者の浅ましい願望が見せる歪んだ妄想なのだ」という確信を深められた方もいるかもしれませんが、それならそれで別に構いません。


 ただまあ私見としては、完結によるプラスの影響は長期的に見ればそれなりにある。少なくとも損をすることはないので、出来そうならなるべくやっておいたほうがお得だろう……くらいに考えています。


 書籍化だのコンテスト受賞だのは運の良し悪しや出版社の方針など、自分以外の要因に大きく左右されるため確実に狙って出来ることではありませんが、書き始めた作品を完結させられるか否かは作者一人の頑張り次第で誰にでも達成し得る現実的な目標です。


 それが簡単だとは言いませんし言えませんが、根気強く続けていれば何らかの形で注目される可能性がほんの少しずつでも上がっていくと思えば悪い話ではないでしょう。悪くともゼロ、マイナスはありません。



 そろそろ締めに入らせていただきますが、ここまでの文章が誰かの重荷をほんのちょっぴりでも軽くする助けになれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。


気が向きましたら最近完結した『迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~』(本編全1105話)という世紀の大傑作もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 300万文字、連載終了おめでとうございます。 素晴らしいですね。 「長編を完結させたら、実力が伸びる」 これは、信じたい! じゃなきゃ、書いていられない……。 いいですよね。 書き終…
『完結経験値』という言葉、良い言葉ですね。 失礼ながらマイページ拝見しましたが、1000話も完結させたなんて、それも300万字以上信じられません! 凄い、凄まじい、素晴らしい忍耐力。 これだけでも一…
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