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おもい、つなぐ、てがみ

作者: 星野紗奈

どうも、星野紗奈です。


こういうふうに書くと、何のことかわかる人にはわかってしまいそうですが……(笑)

こちらは、5分を一つの基軸に考えた作品です。

どんでん返し感があんまり出せなかっていなかったかな、と反省していますが、私らしい世界観はつくれたと思うのでそんなに後悔していません。

短めの作品となっておりますので、気軽に楽しんでいただければ嬉しいです。


それでは、どうぞ↓

 カション、とポストに何かが落ちる音がした。

 搭載されている時計機能で定刻になったのを確認して、ゆっくりと玄関先へ向かう。部屋の中には、静かなモーターの駆動音だけが響いた。

 扉の内側に備え付けられた蓋をつまんで開け、ポストの中を覗き込む。そこにあったのは、見馴れた紺青の封筒だ。

 それを持って、私は部屋の隅へ移動する。やがて、主が用意してくれた小さな空間に辿り着くと、胸元を開き、小さな作業机を展開した。改めて封筒を確認すれば、宛名はやはり、私の主になっていた。

 この紺青の封筒の送り主とは、もう五十年以上もやり取りをしているらしく、聞く限りでは主の夫にあたる人だという。

 しかし、私の主は既に亡くなっている。

 それでもこうしてやり取りが続いているのは、私が主の代わりに手紙を書き続けているからだ。手紙のやり取りが途切れないので、送り主は主がいなくなったことを知らずに、いつまでも主に宛てて手紙を書き続けているらしい。

 主は、私が初めてこの家に来た日、こんなことを話した。


「あの人はね、案外、さびしがり屋なのよ。だから、仕事でこうして別々に暮らしている中でも、こうやってこまめにお手紙をくれるの。それに、自分だけじゃなくて、『きっと他の誰かも、いつか、心のどこかで寂しく思うはずだから』って、あなたみたいな素敵なロボットまで開発して……。ふふ、私、あの人のそういうところが好きでねえ……。だから、もし私がいなくなっても、ちょっぴりでもあの人の寂しさを埋めてあげられるようにって思って、あなたをお家に呼んだのよ。――今日から、よろしくね」


 今も絶えず送られてくるその手紙は、主の言葉を正しく証明していた。そして、主が私をこの家に迎え入れた理由に、すんなり納得した。

 ペーパーナイフを指先から繰り出し、丁寧に封を切る。紺青の封筒の中からは、オフホワイトの便箋が顔を出した。そこには、筆圧が高く、少しだけ角ばった文字が連なって踊っていた。もう数えきれないほど見た、送り主の文字だ。


《ヨナへ

 留守の期間が長くなってすまないが、まだ帰るには時間がかかりそうだ。

 いつになったら、と何度も所長を問いただしているんだが……、あいにく甲斐なしだ。

 手紙を書くロボットは、想像していたよりずっと評判が良いらしい。

 しばらくしたらまた休みを掛け合ってみるつもりだから、もう少し待っていて欲しい。

 いつまでも、共に。

 アーロン》


 主はこれを読んで、一体どんな顔をするのだろう。計算してイメージを出力してみても、いまいち納得がいかない。結局、かつてカメラ越しに見た主の柔らかな笑みを密かに再生して、今日も私はペンを持つ。

 きっと私は、主の身体より硬いだろう。それに、筆跡も、思考も、所詮データから算出した偽物に過ぎない。主が抱えていた感情の多くだって、私の作り出すものにはいくつも欠けてしまっているにちがいない。

 それでも、主の想いを繋ぐために、書き続けるのが私の仕事だ。

 さて、今日も手紙を書こう。

 愛した人を待ち続けている、主のために。

 そして、ちょっぴりさびしがり屋な、主の大切な人のために。


     *


 リンゴン、とチャイムが鳴る。モニターで郵便配達用ロボットが直立しているのを確認すると、私は許可を出した。

 数秒後、いくつかの扉を抜けてロボットがやってきた。ロボットは人間の顔の額にあたる部分から光を照射し、ホログラムで資料を映し出す。


「本日の定期報告です。配送件数、二件。また、本日三件の執筆信号を受信。明日以降、配送を行うことになるでしょう」

「承知した。報告ご苦労」


 私がたいして抑揚のついていない声でそう言うと、引き返すかと思ったロボットは、胸元の収納スペースを開け、何かを取り出してこちらに差し出した。


「こちら、アーロン様宛ての手紙です」

「……そうか。ご苦労」


 私はそう返して、真っ白な封筒を受け取る。ロボットは少しだけ頭部を傾けると、静かに去っていった。

 機械が低く唸り続ける部屋で、私はその手紙の封を切る。


《うんと素敵なものをつくり出してしまったんだから、仕方ないわね。

 もう少しだけ、あなたを待つことにします。

 遅くなったって、私は気にしないから。

 来月でも、来年でも、それを待つ間にこうしてお手紙が来るだけで、十分嬉しいのよ。

 頑張っているのはわかるけれど、くれぐれも無理はしないでね。

 すっかり名前を書くのを忘れていたわ……、アーロン。

 もう一度、あなたに愛が伝わりますように。

 ヨナ》


 私は知っている。彼女がもうこの世にはいないことを。

 ある日を境に、彼女の家から執筆信号が発信され始めたことで、私は彼女が亡くなったことに気がついた。執筆や配送の業務信号を毎日チェックしているのは、紛れもない私なのだから、当然といえば当然だ。しかし、私はそれを知りながら、今日も引き出しから便箋を取り出し、ペンを握る。

 手紙を書くロボットが開発された理由は、当初は、故人への想いのはけ口を作ることだった。人工知能で故人の思考、感情、筆跡などを再現し、手紙を送り合うことで、大切な人を亡くした悲しみに暮れるばかりの日々から抜け出す。もちろん、故人を再現することに対する批判は痛烈なものだった。しかし、こうしたロボットたちに心を救われ、また新たに一歩踏み出した人々がいたことも、確かに記録に残されている。

 開発されてからしばらく経ち、それが改良の段階に移行したとき、手紙を書くロボットの意義が新たに一つ増えた。それは、人間の生きた証を残すことだった。

 残念ながら、この街には、もう生きた人間はいない。

 様々な要因が複雑に絡み合い、急速に進んだ人口減少。もしかすると、まだどこか遠くの場所には、同じように文明を持つ生きた人間がいるのかもしれない。だが、果たしてこの街がその見知らぬ人々に発見されるまでに、一体どれだけの時間がかかるのだろうか。

 待ち続けなければならない。しかし、ただ待ち続けているだけでは、ここに人々が生きた証は消えてしまう。だから、残さなければならなかった。

 人間は誰しも、いつか死を迎える。そのとき、新たに別のクローン人間を作り出すことは難しいかもしれない。しかし、手紙というただ一点のみであれば、成り替わる形で引き継げるのではないだろうか。

 奇しくも、彼女より先に亡くなっていた私の主は、それを見事に体現してしまった。

 今紡がれているのは、そんな夢物語の続きだ。ここにあるのはどれもこれも、故人の写しで、真似事で、偽物だ。それでも、主がそれを望んだのなら、その想いを繋ぐために書き続けるのが、私の仕事だ。

 さて、今日も手紙を書こう。

 故人の想いを繋ごうとする、ロボットのために。

 私に全てを託して眠った、愛すべき主のために。

 そして、いつか出会うかもしれない、尊い命のために。

最後までお読みいただき、ありがとうございました(*´ω`*)

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