ナツが好き
私は夏が好き。
私、一緒に暮らしてる女の子がいるんだ。
名前はレイカちゃん。ヤンキー系っていうのかな。怖い物知らずで、ちょっと口が悪くて、でも本当は優しくて。
だって、こんな私をありのまま受け入れてくれるんだから。
「ただいまー。ナツいるー?」
玄関からハスキーな声がする。レイカちゃんがお仕事から帰ってきた。
「おかえり、レイカちゃん」
コートを脱ぐのも待たずに、一瞬だけハグして、すぐにお互いの体を離す。嫌いだからじゃないよ。
「寒いからゴメンな。もうちょっとあったまってからベタベタしよーぜ」
「うん。おこたのスイッチ入れといたからね」
「サンキュ。ナツはホントに気が利くなー」
微笑みかけながら、私の肩を撫でてくれるレイカちゃん。
吊り上がった目元が、すらりとした体が、手のあたたかさが、私は大好き。
「お店の雪かき大変だった?」
「おー。今日は料理する気力残ってねーかも」
レイカちゃんはコンビニ袋から出したカップ麺にお湯を注いだ。
出来上がりを待つ間、私たちはこたつに入って、今日あったことをおしゃべりする。
「そろそろだな。ナツも食べるか?」
「じゃあ、ちょっとだけ」
お邪魔します――なんてね。私はレイカちゃんの中に『入る』。
「んじゃ、いっただきます」
『いただきまーす』
憑依すると、匂いも味も、舌触りまで共有できるんだ。レイカちゃんの美味しいも、あったかいも、気持ちいいも。
普通の恋人同士じゃできないことまで、私たちは分かち合える。
「ふぁあ~……沁みるわぁ~……」
『美味しいねぇ~』
そう、私は地縛霊。何が原因で死んだのかは忘れちゃった。事故物件になったこのワンルームに、ある日レイカちゃんが越してきたんだ。
私のことが見える人は何人かいたけど、怖がらない人はレイカちゃんが初めてだった。
「あー食った食った」
「ごちそうさま~」
外へ出て、頬を寄せ合う。
レイカちゃん、あったかいな。
「……ひんやりして気持ちいいな」
私とくっついてると涼しいんだって。夏は同じ布団で寝るんだ。
今は冬だから、私は我慢する。去年はわがまま言ってくっつきすぎたから、レイカちゃん風邪引いちゃったものね。
看病するのはちょっとだけ楽しかった、なんて言ったら怒るかな。
「無理しなくてもいいんだよ?」
「してねーって。あたしはナツとこうしてたいんだ。これから先も、ずうっとな」
私はレイカちゃんが好き。レイカちゃんとくっついていられる夏が好き。
早く、夏が来ないかな。