6杯目☕️甘い話の裏に、気まずさという名の苦味
最初の方だけ書き直しました!
「それで、人生初の恋バナしたってわけ?」
依月の問いかけに、真雄は机に突っ伏したまま、小さく頷いた。
「うん……女の人ってすごい……」
昨日の出来事を思い返すたび、ため息が漏れる。ロッカーを背にして2人に迫られる――そんな場面が実際に起こるなんて思いもしなかった。それも胸が高鳴るどころか、むしろ恐怖に近い感覚だった。
「それで、相手はどんな人なの?」
興味津々な2人の視線に、真雄は落ち着かない。背の高い清夏と、小柄な花帆。2人に挟まれては、上を見ても下を見ても逃げ場がなく、視線は泳ぐばかりだった。
「……地元の、幼なじみといいますか……憧れのお姉ちゃんといいますか」
「あ!!よくあるやつだね!」
「小さい頃の初恋が続いてるって、いいわね」
「それで、高瀬くんは」
清夏と花帆は顔を見合わせ、盛り上がるように笑い合った。その様子に、真雄の胸の奥にはじわじわと恥ずかしさがこみ上げてくる。頬が熱を帯び、ついには耐えきれず声を張り上げた。
「…っ!!それこそみなさんはどうなんですか!」
「……」
「え、なんですか。その沈黙は」
真雄の声に、さっきまでの盛り上がりはすっかり影を潜めた。勢いよく向けられていたはずの視線は、今やそっと逸らされている。沈黙の理由が自分の発言なのか、それとも別の理由なのか、判断がつかない。だが、この空気を前にして真雄はさらに畳みかけた。
「もしかして、恋愛したことないんですか…?」
「初恋はあるけど、今はご飯の方がいいかな〜」
「え!?そうなの?私、そうゆう経験ないかな」
先ほどまでの盛り上がりが嘘のように静まり返り、意外な答えが返ってきた
(だから、人の恋愛話に食いついてきたのか…!!!)
2人の様子を見つめながら、真雄は心の中で大声をあげていのだった。
その後も、恋愛経験の無い2人から桃音のことを根気強く質問攻めにされたのだった。
「なんか、俺に話してるときよりダメージ受けてない?」
「いや、依月に話すのと女性に話すのじゃ、やっぱ違うっていうか……なんていうか……死にたい……」
「生きろ!!真雄!!7月に桃姉に会うんだろ!!」
7月になれば、夏休みに入る。そのタイミングで、真雄は桃音と出かける約束をしていた。とはいえ、桃音は仮にも地下アイドル。地元への帰省ついでに会える程度ではあるが、真雄にとっては念願の「初デート」だ。
「帰省するってことは、夏休み中は真雄とは会えないのか」
「え、まぁ。依月も帰省するだろ?」
「俺?あー、俺は……帰らないかな。ほら、同居人が生活レベル終わってるから、世話してやらないといけないし」
「……あー」
依月の同居人にはまだ会ったことがないが、家事は苦手で酒癖も悪いらしい。酔っ払って帰るたびに、依月が世話を焼いているらしい。
「依月も大変だな。親御さん、寂しがるんじゃないか?」
「……そうかもな。ところでさ!真雄」
依月がふと思いついたように、声をかけた。
「このあと、空いてる?」
その流れで連れてこられたのは、少し風変わりなカフェだった。宇宙をモチーフにしたらしく、外から見える店内には星や惑星がファンシーなタッチで描かれている。宇宙というテーマのわりに店内は明るく、パステルカラーでまとめられていた。
そして、行列に並ぶ客のほとんどは女性。あまりにも浮いた自分の存在に、真雄はそわそわと落ち着かない。
(男いても……カップルしかいないじゃん!!)
「なぁ、依月。なんでここなんだよ……」
いたたまれなくなり、前に並ぶ依月に小声で尋ねる。依月は不思議そうに首を傾げた。
「んー? 食べてみたかったから?」
「ここで!?」
「うん、バイト先の人がここのパフェおすすめしてて。俺、1人じゃ入りづらいし」
「いや、それ……俺と一緒の方が余計気まずいだろ……」
その一言に、周囲からざわめきが起きた。気のせいではない——そう真雄は確信した。
恥ずかしさといたたまれなさが一気に押し寄せ、思わず視線を店内へ向ける。
そして、視線の先で固まった。
「……? どうした、真雄?」
異変に気づいた依月が不思議そうに問いかける。だが、真雄はそれに答えず、顔を逸らして言った。
「……悪い、依月」
「え?」
「今度!また今度来よう!!なっ!」
そう言うなり、戸惑う依月の腕を掴んで列から離れた。一刻も早くその場から離れたかったのだった。
「これは、どうかな?」
「うん。いいと思いますよ」
翌日、キッチンで話す上城と安西の姿を、真雄は柱の陰からそっと見つめていた。
(上城さんって、優しいし背が高くてイケメンだ。それに、声がいい……。絶対に彼女がいると思ってた。思っていたけど——)
「何してるの?」
「うわっ!!」
突然かけられた声に、真雄はびくりと肩を跳ねさせた。
「藤代さん……その、えっと……」
振り向くと、そこには花帆が立っていた。しかし、真雄は彼女の顔をまともに見ることができない。視線が泳ぎ、落ち着かない。
あの日——あのお店で、花帆と上城が仲良く笑い合っている姿を目撃してしまった。
(いや、べつに“藤代さんが上城さんの相手か?”なんて……思ってない。いや、むしろ、お似合いだとは思う。でも、でもだよ!? ここでそんな雰囲気、一度も見たことなかったし!?それに藤代さんこの前まで、恋愛よりご飯言ってたし、もしかして隠してたのを俺が見ちゃった可能性もあるし!?)
(気まずい!!!)
「ん? どうしたの、熱でもある?」
「え!? い、いや、全然!大丈夫です!」
動揺を隠せないまま慌てて否定すると、すぐそばから別の声が聞こえてきた。
「あ、藤代さん。それに高瀬くん。ちょうど良かった」
どうやら2人のやり取りが聞こえていたらしく、上城が声をかけてくる。
「良かったら、味の感想を聞かせてもらえないかな」
その視線の先には、色とりどりのフルーツがあしらわれ、星型のクッキーがトッピングされたケーキが置かれていた。
「わっ、美味しそう! これ、どうしたんですか?」
「俺が作ったんだ」
「え……作った!? 上城さんが!?」
「お店で出してるケーキは、クマさんの手作りだよ」
「えっ、あれって手作りだったんですか!?」
15時頃になると増えるケーキメニュー。その種類の多さから、どこかから取り寄せているのだと思っていた。まさか、上城が一から作っているなんて――。
「一応、製菓衛生師の資格も持ってるから、ある程度は作れるよ」
「すご…」
(この人、前世でどんな徳を積んだんだ……)
(ああ、この人たち元新選組だった…)
最初は信じるはずもなかった。だが、何気ない会話の中でぽろりと零れる“前世時代”の話を聞くたびに、その可能性が冗談では済まされないような気がしてくる。今では、疑っていた自分が馬鹿らしく思えるほどだった。
(俺も自分の前世知りたくなるな…)
「ねぇ!くまさん!このアイディアって、この間、一緒に行ったカフェのおかげ?」
「!!?」
隣から飛んできた声に、真雄は思わず口にしていたものを噴き出しかけた。辛うじて飲み込んだものの、喉の奥がひりつく。
聞いていいのか、それとも聞くべきではないのか――そんな迷いが胸の内に広がっていく。
あの日、たまたま目撃してしまったあの光景。以来ずっと気になっていたその“真相”を、当の本人が突然話題にしたのだった。
予定より長くなってしまったため1度終わります。後日内容追加するかもです