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2杯目☕ひょんな事に、即採用されました…?

2話が思いつかなかったんですが、探偵学園Qを観てたら書けました。ありがとう。探偵学園Q

「君。カフェで働きたいんだろ?俺の店カフェなんだ。良かったら、どうかな」


そんなふうに声をかけられたのは、人生で初めてだった。不採用続きで気が緩んでいたのかもしれない。つい浮かれて、深く考える前に返事をしてしまった。


――後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。


「……か、カフェ?」


「そう、ここが俺の店さ」


そう言って指差した先にあったのは、真雄の想像とはまるで違う“カフェ”だった。

洒落た外観もなければ、ガラス張りのオシャレな内装もない。そこにあったのは、どう見ても“ザ・古民家”。


軒先には、風に揺れる浅葱色の暖簾。玄関の脇に立てかけられた小さな看板。そこには、手描きのような文字でこう書かれていた。


【Cafe 誠堂】


そしてその足元には、店の雰囲気にまるでそぐわない、カラフルなおすすめメニューの立て札。抹茶ラテやパフェの文字が、妙に明るく浮いて見えた。真雄は言葉も出ず、それをじっと見つめた。


──いや、どう見ても古民家。でも、これが“カフェ”らしい。


先ほど、遠久村のおかげで警察の事情聴取は拍子抜けするほどスムーズに終わった。ここまで来てしまった以上、断る理由も見つからず、真雄は再び玄関横の看板に視線を戻した。


「カフェ、せいどう…?」


恐る恐る呟くと遠久村がニヤリと笑った。


「え!? な、なんですか……」


「“まことどう”って読むんだ」


「誠堂……って!普通に読んだら、そうか!! 恥ずっ……」


「ははは! どっちでもいいさ。誠の心があれば、それで」


遠久村は笑いながら、真雄の頭にぽんと手を置くと、そのまま店の扉に手をかけた。ゆっくりと開かれていく古びた木の引き戸。

その背中を見つめながら、真雄は胸の奥がほんの少しざわつくのを感じていた。


(誠の心……? なんだ、それ)


遠久村の背に続いて、真雄は古びた引き戸をくぐった。途端、鼻先をかすめたのは香ばしいコーヒーの香り。木の床板、控えめな照明、奥のカウンターにはドリップポットが並び、ゆっくりと湯気を立てている。


(本当に、カフェだ…なんだ。穴場的なカフェだと思えば…)


ほんの少し肩の力が抜けかけた、そのときだった。ふと視線を巡らせた真雄の目にそれは、飛び込んできたのだった。


「……は?」


店内の壁には、「誠」の一文字が大きく染め抜かれた、浅葱色のダンダラ模様の羽織が掛けられていた。小さな畳の座席には、数本の刀がずらりと並べられている。動きかけた足が、ぴたりと止まる。


「……やっぱり、帰ります」


真雄が踵を返そうとした瞬間、首根っこをぐいっと掴まれる。


「まぁまぁ、落ち着いて」


「いやいや!想像してたカフェじゃなくて、ですね!!」


「確かに、普通のカフェとは違うかもしれんな。ここは――」


遠久村は満面の笑みを浮かべたまま、胸を張った。


「新選組コンセプトカフェだ!」


「詐欺じゃねーかあああ!!!」


「あれ?帰ったんですか。遠久村さん」


真雄が絶叫したそのとき、奥の暖簾から1人の男が顔を出した。灰がかった短髪は整えられ、センターで分けられた前髪がわずかに眉にかかる。眉間に寄る皺と鋭い眼差しが、整った顔立ちに冷ややかな印象を添えていた。


「っていうか、さっきからうるさ……言葉喋る猫でも拾ったんすか」


(猫…?)


「よお、土岐!買い物の帰りに偶然出会ってな! これもご縁ってやつだ!」


「いや、拾わないで。捨ててきてくださいよ」


土岐の冷ややかな視線が突き刺さる。真雄はまるで本当に猫扱いされたかのように、大人しく身を縮めた――が。


(猫……俺が??)


「…俺は、正真正銘の人間だあああ!!」


真雄の叫びが、木造の店内に響き渡った。


「…で、遠久村さんに出会ったと」


まるで警察の事情聴取でも受けているかのような緊張感の中、真雄は質問に答えていた。目の前にいる男――土岐 翔人(とき はやと)は、この店の副店長らしい。今日はちょうど定休日とのことで、店内は静まり返っている。そのせいか、土岐の存在がやけに圧を持って感じられる。真雄は少し怯えながら、真正面から彼と向き合っていた。


「なんでまた、拾ってくるんですか」


「いやー、それが、高瀬くんが助けてくれた相手、うちの上得意さんだったんだよ」


真雄が助けた相手が店の取引先だったと知ったのは、警察との事情聴取が終わったあと、お礼を言われてからだった。一部始終を見ていた遠久村が、真雄に興味を持ち声をかけたらしい。


「あの、やっぱり俺……」


言いかけたそのとき、真雄の腹が大きな音を立てた。ぐううう、と間の悪すぎるタイミングで響いた音に、真雄の顔が瞬時に赤く染まる。朝から何も食べていなかったのを、このときになって思い出した。


赤面する真雄をよそに、遠久村はおかしそうに笑い、土岐に何かを耳打ちした。やがて数分後、真雄の前にふわふわの卵が乗ったオムライスが運ばれてくる。


「俺の奢りだ」と言って、遠久村はスプーンを差し出した。恐る恐る一口すくって口に運んだ瞬間、真雄の目が丸くなる。


「……美味しい……!」


コンセプトカフェの食事なんて、てっきり見た目重視だと思っていた。だが、その味は想像以上。いや、普通のカフェとしても十分やっていけるレベルだった。


そんな中、ふと気になっていたことを思い出す。


「……あの、そもそもどうして“新選組カフェ”なんですか?」


ずっと引っかかっていた疑問を、真雄はようやく口にした。新選組は確かに知名度が高く、人気もある。それをテーマにしたカフェが存在していても不思議ではない。


「それは、俺の前世が近藤勇だからだ!」


「…………」


返ってきたのは、真雄の想定を遥かに超えた答えだった。きっと今、自分の顔には「何言ってるんだこの人」って書いてあるに違いない。そんな真雄をよそに、遠久村はあっさり続ける。


「ちなみに、土岐は前世が土方歳三だしな」


「ちょ、遠久村さん!」


「…へぇー、そうなんですかー」


(コンセプトカフェだから、ちゃんと設定もつくってんだな…)


真雄の棒読み気味な返事に、何か言いかけた土岐を、遠久村がひょいと手で制した。やがて、遠久村がふと真雄を見つめた。


「ところで、高瀬くん」


「改めて聞くが、この店で働かないか?」


真剣な視線に、真雄は言葉を失った。即答できない自分に戸惑いながらも、どこか心のどこかで悪くないと思ってしまっているのを感じる。


そんな真雄の心の動きを見透かしたように、遠久村が笑いながら言葉を継いだ。


「言い忘れてたけど、時給は1250円! シフト自由! 髪色ももちろん不問!」


「それに、まかない付きだ」


最後にさらりと加えると、真雄の胃が再びきゅるると鳴った。


(胃袋を掴むとは、よく言ったものだ)


一人暮らしの人間にとって、まかない付きというだけでも十分に魅力的だ。しかも、それがプロ顔負けの味ときたら、断る理由など次第に霞んでいく。


「でも、俺、バイト自体初めてだし。それに、あのとき助けたのも、たまたまで……普段は全然……」


言葉を濁しながら、目線を落とす。あのとき強盗を相手にとった行動は、自分でも驚くほどだった。だが、それが本当の自分かと言われれば、胸を張る自信はない。普段の、自信のない、頼りない自分を見たら――と考えると、言葉が喉の奥でつかえてしまう。


そのとき、不意に真雄の頭に、大きく温かい手が置かれた。驚いて顔を上げると、遠久村と目が合う。


「確かに、あれは普段の君と違うのかもしれない」


ゆっくりと、けれどはっきりと、遠久村は言葉を選ぶように続けた。


「でも、あのときの君を見て、俺は……いや」


真雄の目をまっすぐに見据えながら、遠久村は短く息を吸った。


「“俺が”、君と働きたいと、そう思ったんだ」


出会ってから、まだ数時間しか経っていない。

それなのに――どうしてだろう。不思議と、この人のそばで働いてみたいと思った。


その日、真雄は初めてグループにメッセージを送った。


【本日から働きます。高瀬です。よろしくお願いします。】


画面に浮かんだ文字をじっと見つめながら、土岐は小さくため息をつく。


「本当に良かったんですか、あれで」


ぽつりと零れた問いかけに、遠久村は笑みを浮かべたまま、ゆっくりとコーヒーを口に運んだ。


「んー、まあ。今すぐ言って辞められたら困るしな」


「まあ、いいですけど。じゃ、お先に」


立ち上がった土岐が、ちらりと振り返ることもなく店の奥へと消えていく。


「おう、また明日な」


静寂が戻ったカウンター席で、遠久村は再び履歴書に視線を落とすと、ふっと口元を緩めた。


「高瀬真雄君。君との出会いは……運命かもな」

後日談

グループメッセージ初体験の真雄にとって、ひっきりなしに飛んでくる複数人分のスタンプは、驚きというよりもはや軽くホラーだった。

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