14杯目☕️夏だ!祭りだ!いざ勝負!
原作読んでたのですが、実写ゴールデンカムイにドハマリしてます。地上波おめでとうございます。
「これ、どこに置きますか?」
「とりあえず、そこで大丈夫だよ」
帰省から戻ったばかりの真雄は、夏祭りの出店準備をしていた。今日は誠堂近くである小さな夏祭り。お店を臨時休業にして、出店に参加しているらしい。どうやら、ほかの飲食店も屋台を出していた。
「よし!今日はみんな、よろしくな!」
「おー!」
遠久村の掛け声に、花帆は元気よく拳を上げる。その様子を微笑みながら見つめる上城、淡々と立っている安西と葉山。
(やばい…このメンバーに、遠久村を止められる人がいない)
真雄は内心、不安を覚えていた。いつも怖いと思っている土岐の存在が、こんなに恋しいと思う日が来るとは、夢にも思わなかった。
「知っての通り、この夏祭りは普通の夏祭りとは違う。最終時間にお客さんの投票で順位が決まる、近隣の飲食店による戦いだ」
遠久村は珍しく、真剣な表情で告げる。小さな地域の夏祭りだが、屋台同士で競い合うこのイベントは毎年恒例だ。
投票基準は「見た目」「味」「楽しさ」。理由は来場者の自由。景品や賞金こそないが、順位がつけば名誉と話題性が手に入る。
「そんなに力入ってるのに、焼きそばなんですね。もっと変えてくるかと思いました」
自信満々な遠久村の顔を見て、真雄は首をかしげた。
「焼きそばは競合が多いからな!うちはただの焼きそばじゃない!なんと、一度に6種類の味が味わえるんだ!」
「……なんで?」
遠久村は胸を張り、腕を組んで得意げに言う。真剣そのものの表情に、真雄の理解はまだ追いつかなかった。
「普通のソース味は想像できるだろ?」
遠久村は腕を組み、真顔で言う。その表情は本当に真剣そのものだった。
「いやいや!普通でいいんですよ!6種類の味って、それはもうパスタですよ!」
「いや、そんなことないぞ」
差し出された焼きそばには、6つの山が綺麗に並んでいた。定番ソース、カレー味、照り焼きマヨ、明太子、バジルトマト、そしてチョコ――。
「……味のラインナップ、完全にたこ焼きやん!!!」
真雄は抑えきれず、つい大声をあげてしまった。
「まあまあ、高瀬くん、落ち着いて。味はともかく、楽しさも評価の基準だから」
花帆の言葉に、真雄は小さく頷いた。そう、評価の基準は「見た目」と「味」そして「楽しさ」つまり、味で負けても、楽しさで逆転できる可能性があるのだ。
《それでは、飲食店バトルロワイヤル、スタートです!》
「バトルロワイヤル!?」
祭りの開始を告げるアナウンスに、真雄は思わず声を上げた。周囲の屋台から、一斉に呼び込みの声が響き始める。
「よーし、じゃあ開店だ!」
遠久村の号令と同時に、屋台の前に明かりが灯った。鉄板の上では焼きそばがジュウッと音を立て、香ばしいソースの匂いが辺り一帯に広がっていく。
遠久村の指示で、全員それぞれの持ち場に散った。真雄と花帆は会計と商品受け渡し担当。遠久村と葉山は仕込みと盛り付け。上城と安西は焼きそば作りを任されていた。
「よし! 高瀬くん! 呼び込みも頑張ろうね!」
「は、はい!」
最初の数分、客足はまばらだった。案の定、誠堂の焼きそばを目当てに来る人はまだいない。物珍しそうに屋台を眺める人が数人いるだけだ。真雄が不安そうに周囲を見回した、そのとき。
「あれ?誠堂さんも出店してたの?」
「あ!こんにちは!」
声の主は、よく店に足を運んでくれる常連客の二人だった。花帆も気づいたようで、すぐに笑顔で挨拶を交わす。
「いつも美味しいご飯、ありがとうね。焼きそばもいただこうかしら」
「わ!ありがとうございます!いつもキッチンに入っている人たちが作ってるので、美味しいですよ!」
花帆の言葉に、常連の女性は屋台の奥――表に立つ上城、安西、葉山へと視線を向け、思わず目を丸くした。
「……いつも厨房にいる人たち?」
「ちゃんと顔を見るの、初めてかも……」
そう呟くと同時に、3人へ向けられる視線が少しずつ増えていく。
「……え、ちょっと待って」
「顔、良すぎない?」
最初はさっきの常連二人だけだったはずなのに、気づけばその後ろに、さらに数人。視線の向きは、焼きそば――ではない。
「ねえ、あの人たちが作ってるの?」
「そうそう、ほら、あの穏やかそうな人」
「え、無表情の人も普通にイケメンじゃない?」
ひそひそと交わされる声が、嫌でも耳に入ってくる。真雄は思わず、鉄板の前を見る。こちらの様子に気づいた上城は穏やかに会釈し、安西と葉山は無表情のまま、黙々と焼きそばを盛り付けていた。ただそれだけなのに。
「……すみません、焼きそば一つください」
「私も!」
注文が、立て続けに入っていく。慌てて対応しながらも、真雄の視線はつい、列の先へと向かってしまう。
――客の目線は、明らかに焼きそばではなく、作っている人だった。
「いや、完全に焼きそば目当てじゃないですよね…」
「うん!これも戦略のうちだよー!」
小声で言う花帆に、真雄は呆然とする。
「藤代さんも、意外とそんな事考えるんですね」
「だって、1位取れたら焼肉食べ放題連れてってくれるって、遠久村さんが」
(仲間より食を取っただと!!??)
誠堂の屋台前にできた列は、時間が経つにつれて、ますます伸びていった。
焼きそばの匂いに誘われた――
そう言い切るには、視線の集まる先があまりにも偏っている。
「……おい」
ぼそりと呟いた声に、仲間の店主たちが振り向く。
「なんだ、あれ」
周囲の屋台にも異変は伝わっていた。隣の店の店主が、誠堂の様子をじっと睨む。
「料理じゃねえぞ」
鉄板の前に立つ、上城、安西、葉山。上城は相変わらず穏やかな笑みを浮かべ、安西と葉山は無言で手を動かしている。
「……顔だな」
「顔だわ」
短い沈黙のあと、誰かが吐き捨てるように言った。
「くそ……顔で勝負してきやがったか……」
「よし」
隣の店主が、覚悟を決めたように頷く。
「おい、亮!」
「前に出ろ!」
「え、俺っすか!?」
「いいからエプロン外せ!」
半ば強引に屋台の前へ引っ張り出される若いスタッフ。その横では、別の屋台でも――
「ちょ、ちょっと! あの子、表に出して!」
次々と“店の顔”が呼び込みのように前へ出されていく。祭りの空気が、明らかにおかしくなっていった。
屋台通りは、いつの間にか。食べ物ではなく、人の顔で勝負する場所になっていた。
「……なんだ、この祭り」
その光景を遠い目で眺めながら、真雄はぽつりと呟いた。
《ただいまより、集計いたします》
アナウンスが響く。気づけば空は夕暮れ色に染まり、飲食店バトルロワイヤルも終わりを迎えていた。
「あれだけ売れたんですし、順位も良さそうですね」
「……ああ。今年こそは、上位にいきたいな」
真雄の言葉に、遠久村はどこか実感が伴っていない様子だった。だが、ひたすら列を捌き続けていた真雄には、少なからず手応えがあった。
そう思っていた矢先に発表された投票結果。
誠堂の順位は――6位だった。
「やっぱダメか!!」
遠久村は頭に手を置き、落胆したように息を吐いた。楽しさも、話題性も手に入れた。人は、確かに集まった。
けれど、1位の出店を見て、真雄は思う。やっぱり、味には勝てなかったんだなと。
「冷たっ」
不意に頬に触れた冷たさに、真雄は振り向いた。そこには、ペットボトルを差し出す葉山の姿があった。
「高瀬さん。お疲れさま」
「お疲れ様! 高瀬くん」
「お疲れ様」
次々にかけられる声に、真雄は小さく息をつく。
試合には勝って、勝負に負ける。
きっと、こういうことを言うのだろう。それでも、これはこれで、悪くない思い出だ。そう思いながら、真雄は冷たいペットボトルを握りしめた。




