表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

12杯目☕君と交わした約束、更新されますか?

色々重なり、職場が一時的に4つになってしまいました。1月は暇だったのですが、2月更新できるといいな。

窓の外から、セミの鳴き声が聞こえてくる。

懐かしい天井をぼんやりと見つめながら、夢の底に沈んでいた意識が、ゆっくりと現実へ引き戻されていく。


「……真雄! いつまで寝とるのー!」


一階から、母親の声が響く。


高瀬真雄。

約4ヶ月ぶりに、地元・兵庫へ帰ってきた。


「……はいはい、起きてるー!」


布団の中からそう返すも、体は一向に言うことを聞かない。東京では聞かなくなったセミの大合唱。耳障りなはずなのに、不思議と嫌じゃない。のそりと体を起こし、スマホに手を伸ばす。


【真雄、久しぶりの地元どう?】


依月からの連絡に目を通し、寝ぼけた頭のまま短く返事を返す。大学生になって迎える、初めての夏休み。そして――初めての帰省。


そこへ、もう一件。


【まーくん。明後日の集合は17時でもいい?】


その文字を見た瞬間、心臓が飛び出しそうなほど大きな音を立てた。それでも、頬は勝手に緩んでしまう。大学生になって、初めて。


桃姉と、二人きりで出かける。


母親が作ってくれた朝食を食べ終え、身支度を整えて家を出ると、じりじりとした夏の空気が肌にまとわりついた。東京の暑さとは違う、どこか湿り気を帯びた、懐かしい暑さだった。


「……暑っ」


思わず零れた言葉に、返事をする者はいない。


駅前から続く商店街を、真雄はゆっくりと歩き出す。相変わらずの街並みに、懐かしさがじわりと込み上げてきた。商店街を抜け、川沿いの道へ出ると、風が少しだけ涼しい。水面に反射する光を眺めながら、真雄は無意識のうちに歩調を緩めていた。


(この辺、よく来たな)


「男は武道だ」が口癖の父親に、よく連れてこられた場所だった。あの頃は嫌々だったけれど、それがきっかけで桃音にも出会えた。そう思うと、胸の奥に複雑な感情が広がる。


「……懐かしい」


思わず、独り言が零れた。


幼い頃、柔道をやっていた時に通っていた道場だ。そして――


桃音と、初めて言葉を交わした場所でもある。


桃音と出会ったのは、彼女の父親が教えている剣道場だった。


自分より三つ年上の女の子だと、父親から教えられたのが最初だった。もともと、桃音の父親と真雄の父親が知り合いだったこともあり、顔を合わせたことは何度かあった。ただ、きちんと話したことはなかった。


それでも、年上の人たちに混ざって剣道をする桃音の姿は、何度も目にしてきた。負けて悔しそうに唇を噛む顔も、勝って嬉しそうに笑う顔も。そのすべてから、目が離せなかった。


(結局、何も続かなかったけど……)


もともと同じ学校ではなかった。合気道を辞めてからは、桃音との接点も完全になくなったと思っていた。初恋とも呼べる感情は、いつか自然に終わるものだと、そう思っていた。


――中学3年のとき、再会するまでは。


「あれ? もしかして…まーくん?」


ショートに近かった髪は、いつの間にか胸の下まで伸び、高校生になった彼女は、すっかり大人の女性に見えた。あまり変わらないと思っていた3歳という年の差が、急に大きな壁のように感じられる。


それでも。自分に向けられたその笑顔は、あの頃のままで。真雄の初恋は、もう一度、静かに始まってしまった。


(…進展、あるといいな)


そう、胸の内でぽつりと呟いた。隣に並べる男になりたくて、ずっとその背中を追いかけてきた。でも、まだ追いつけてすらいない。


「……いや、でもさ。さすがにキモいよな。

10年近く片思いして、おまけに追いかけるように上京して……」


「……キモすぎる」


自分のことだというのに、考えれば考えるほど、ため息しか出てこない。軽く息を吐き、うつむいていた顔を上げた、その瞬間だった。


「あ!やっぱり、まーくんだ!」


明るい声と同時に視界に飛び込んできた光景に、真雄は思わず息を呑む。


「も、ももも……桃姉ぇ!?」


微笑みながら手を振る桃音が、そこに立っていた。


腰が抜けそうになるのを必死でこらえ、真雄は咄嗟に背後の壁へ手をついて体勢を立て直す。

そんな真雄の動揺など気にも留めず、桃音は楽しそうに近づいてきた。


「ここで会うなんて思わなかったな。メガネ姿、久しぶりだね」


「あ、うん。ふらっと出るだけの予定だったから」


(…桃姉に会うなら、コンタクトにしたのに……!)


心の中で後悔している間に、桃音はすぐそばまで来ていた。


白いブラウスに膝下までのタイトスカート。リボンのついた大きな麦わら帽子を被った、いつもの“アイドル姿”とは違う桃音。その姿に、真雄の心臓は今にも飛び出しそうになる。


「懐かしいねー。まーくんと、初めてちゃんと話した場所だよね」


「……!覚えてくれてたの?」


「うん。忘れないよ」


あまりにもあっさりと言われて、逆に胸がぎゅっと締めつけられた。初めて話した日のことを、覚えていてくれた。その事実だけで、今にも踊り出してしまいそうなほど嬉しい。


「ねぇ、覚えてる?昔まーくんが合気道で自分より身長高い人倒したやつ!」


唐突に投げかけられた言葉に、真雄は少しだけ視線を泳がせる。頭の奥を探るように、曖昧な記憶を辿ってみたが


「…覚えてないかも」


「そっか」


桃音はくすっと小さく笑って、続けた。


「まーくんは小さくて、試合に負けて泣いちゃう子ってイメージだったんだけど」


(うっ…)


胸に、地味に刺さる。


「その時は、あっという間に倒しちゃってさ。後で聞いたら」


「《合気道は争わない武道。自分と相手を守るための武術なんだよ》って教えて貰って。ああ、まーくんにピッタリだなって思ったんだよ」


何気ない一言。

けれど、真雄にとっては。自分でも知らなかった“誰かに見られていた自分”を突きつけられるようで。胸の奥が、静かに熱を帯びていった。


「だからね、嬉しかったんだよー!『桃姉の騎士になる』って言ってくれて。私、お姫様になったのかと思ったもん」


「……え。なんか…恥ずかしい……」


それは、幼い頃の真雄が桃音に向けて口にした言葉だった。


――大きくなったら、桃姉の騎士になる。


真雄自身、忘れかけていた約束。それを桃音が、今も覚えていてくれたという事実に、胸の奥がじんわりと熱くなる。


「桃姉はさ。どうして、アイドルになろうって思ったの?」


恥ずかしさで話題を変えるように、真雄はそのまま口にした。桃音は少しだけ考える素振りを見せてから、照れたように笑う。


「んー…お姫様になりたかったから、かな」


「お姫様?」


「うん。ほら、小さい頃ずっと剣道やってたでしょ。髪も短かったし、よく男の子みたいって言われてて」


懐かしそうに目を細めながら、桃音は続ける。


「テレビで見たアイドルが、キラキラしてて……まるでお姫様みたいで」


「こんな世界もあるんだ、って思ったの。だから、憧れもあったのかな」


その言葉を、真雄は黙って聞いていた。


強くて、真っ直ぐで。

それでも、ずっと“お姫様”に憧れていた人。


「それに、まーくんが、ずっとそばで騎士でいてくれたら安心だね」


冗談めかした口調。でも、微笑むその表情は、どこか無邪気で――ずるいほど綺麗だった。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


「じゃあね、まーくん。また明後日」


「うん、また」


遠ざかっていくその背中を、真雄はしばらく見つめていた。


ねぇ、桃姉。

俺は騎士じゃなくて、あなたの。


王子様になりたいんだ。


って言ったら、君はどんな顔して笑うのかな。

桃姉こと桃音のプロフィールです。


佐倉桃音さくらももね

誕生日10/15 age21

身長156cm

イメージカラー白。ゆるふわパーマ

東京生まれ、兵庫県出身。

小さい頃父親に連れられた道場で真雄と出会う。幼なじみ関係。

ゆるふわ天然であり本人が言って言葉に深い意味はないが、真雄はそれを糧にしている。自分が言った発言を忘れたりすることが多い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ