11杯目☕️ 王子と思ったら、強キャラでした。
長くなってしまったので、10話に少し移植しました。
それから何度か出勤はあったものの、元々の勤務時間の違いもあり、葉山と顔を合わせる機会はないまま、日付だけが過ぎていった。
「……寝てる」
スタッフルームのドアを開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に、真雄は思わず声を漏らした。テーブルに突っ伏したまま眠っている、葉山の姿だった。
そんな真雄の背後で、再びドアが開く。
「あ、高瀬くん。おはよう」
「おはようございます…!」
振り返ると、そこに立っていたのは上城だった。手には、なにやら軽めの朝食らしきものが載ったトレーを持っている。
「ああ、これ?葉山くんの。彼、一人暮らしなんだけど、1人だとあんまりご飯を食べないらしくてさ。だから、こうやって強制的に渡してるんだ」
上城の言葉に、だからあんなに細いのか、と真雄はひとり納得する。言い方からして、今回が初めてではなさそうだ。
「葉山さんが、ここで寝てるのって、よくあるんですか?」
「ああ、葉山くん。深夜は別のところで働いてるからね。ここで寝てるのは、出勤の日だけだよ」
「え!? ……別のところでも働いてるんですか!?」
思わず声を上げてしまい、真雄は慌てて口を押さえ、小声で聞き直した。
「お金のため、って本人は言ってたけど。でも、働かなくてもいいくらいの実家だって、話は聞いてるから…あんまり無理はしてほしくないよね」
(……ガチの王子じゃん)
上城は「起きたら渡して」と言い残し、真雄にトレーを預けるとスタッフルームを後にした。
「…いい匂い」
「っ!!!??」
上城の背中を見送っていた真雄は、背後から突然かけられた声に思わず肩を跳ねさせた。振り返ると、いつの間に起きたのか、葉山がトレーを覗き込んでいる。
「…あ、上城さんが」
「あー。ありがとうございます」
心臓がばくばくと音を立てる中、真雄はトレーを差し出した。葉山はそれを受け取ると、先ほどまで座っていた場所へ戻っていく。
「いただきます」
そう言って、葉山はおにぎりにかぶりついた。その様子を横目で見ながら、真雄は向かい斜めの席に腰を下ろす。まだ少し眠たそうに、微睡みを残したままおにぎりを頬張る姿を見て、思わず口を開いた。
「…何時まで仕事だったんですか?」
声をかけると、葉山の視線がこちらへ向く。
「5時ですね。一回帰って、昼過ぎには学校あるんで…」
さらっとした答えに、真雄が言葉を挟む前に、葉山はふと思い出したように続けた。
「というか、高瀬さん。同い年なんで、タメ口でいいですよ」
「え」
「…あれ?違いました?」
「いや、同い年です!同い年」
「良かった」
そう口にしてから、葉山は再びおにぎりを口に運んだ。その拍子に、舌に光るピアスがふと視界に入り、真雄は一瞬、思考が止まった。
(おおおおお……やっぱり陽キャじゃん)
普段目にすることのない場所だったこともあり、真雄は思った以上に動揺してしまう。今日は珍しく早く起きられたため、出勤前に早めに店へ来ていた。とはいえ、まだ出勤時間までは余裕がある。
おまけに、同じ時間帯で入るはずの藤代は1時間遅れだと聞いている。
つまり、この時間は——葉山と二人きりだった。
(会話…会話するべきか?それとも、なんかするか……)
そんな真雄の逡巡をよそに、葉山がふいに口を開く。
「高瀬さん、好きなおにぎりの具とかあります?」
「へ?おにぎり?」
「はい。おにぎりです」
少しの沈黙。真雄は一瞬だけ視線を泳がせてから、小さく息を吸った。
「……昆布です」
ただ、おにぎりの具材を答えるだけなのに、こんなにも緊張することがあるだろうか。真雄は内心で首を傾げながら、じわりと冷や汗を感じていた。
「おー、昆布。いいですよね。あれ、地味に味付け濃いし、噛むほど旨味出るじゃないですか」
「白米だけが残る感じもないし、最後まで飽きずに食べられるし」
真雄は、バンドマンで“王子”と呼ばれる男の口から出たとは思えない感想に、内心で静かに驚いていた。
「葉山さんは?」
「俺は梅一択です」
そう言って葉山が持ち上げたおにぎりの先には、確かに梅干しらしき赤が、少しだけ顔を覗かせていた。
「梅!?…あ、いや。すみません」
「やっぱり意外ですか? よく言われるんですよね」
「俺、同い年の人とあんまり話したことなくて。
どうやったら高瀬さんと打ち解けられるか、相談したんです」
《誰でも答えられる、くだらないこと聞いてみろよ》
「…って言われたので」
一瞬、頭の中で言葉を反芻する。
「…それで、おにぎり?」
「はい。おにぎりです」
「……ふ、あはは!葉山さんって、意外とギャップありますね。…あっ、すみません」
少し間を置いて、葉山が言った。
「高瀬さん。やっと、笑ってくれましたね」
その声は驚くほど穏やかで、真雄はそのとき初めて、葉山が笑っていることに気づいた。
「俺、高瀬さんに嫌われてるのかと思ってました」
「えっ!?」
「なんか、絶妙に距離あるなっていうか。買い出しのとき、何回か拒否されたので、嫌だったかな、って思って」
「あ、あれは……」
真雄は一瞬言葉に詰まってから、視線を泳がせる。
「…自分の非力さを、その、目の当たりにしたというか…」
「あ! だから、嫌いってわけじゃなくて!あ、まあ…陽キャだと思って、ちょっと苦手意識はあったけど……」
必死に言葉を繋ぐ真雄に、葉山は一瞬きょとんとした顔を向ける。
「……つまり、俺、嫌われてなかったんですね」
「あ、うん…まあ」
歯切れの悪い返事になりつつも、真雄が頷くと、葉山はほっとしたように肩の力を抜いた。
「良かった」
その一言には、思った以上に安堵が滲んでいた。
「俺、自分から話すことないので、同級生と仲良くなったことあまりなくて。でも、高瀬さんとは仲良くなりたいなっておもってて。だから、嫌われてたら終わりだなって思ってました」
そこまで言って、葉山は小さく笑った。
「高瀬さんと仲良くなれそうで、嬉しいです」
「……っていうか、葉山さんこそ、敬語やめてください。同い年ですし。俺も、その……仲良くなりたいので」
真雄の言葉に、葉山は一瞬大きく目を開いたが、すぐにふっと微笑んだ。
「はい。でも、癖みたいなものなので……そのうち取れると思います」
「そっか」
そのうち取れる——その言葉にほっとしつつも、小さな残念さを同時に胸に抱きながら、真雄は制服に着替えるため、更衣室へ向かった。戻ってきてからも葉山との会話は続いていた。
「高瀬さんも、俺のこと、名前か葉山でもいいですよ」
「え!? えっと……じゃあ……葉山、くん?」
「はい」
そう微笑む葉山を見て、真雄の口元にも自然と笑みが浮かぶ。最初は少し苦手意識を抱いていた相手と、まさかこんなふうに打ち解けられるとは思っていなかった。
人を見た目だけで判断してはいけない――まさに、その通りだと、真雄は実感していた。
「いやー、でも葉山くんと仲良くなれそうで、良かったな!同い年だし、前世持ちじゃなさそうだし!」
前世の記憶を持つ人間ばかりに囲まれたこの職場で、ようやく自分と同じ“普通”の存在を見つけた気がしたのだ。まるで、葉山は希望の光だった。
「え?高瀬さん、違ったんですか」
不意に投げかけられた葉山の言葉に、真雄はきょとんと目を瞬かせる。
「……え?」
「あー、てっきり知ってるものだと。俺は別に興味ないんで、聞かなかったですけど」
その一言で、真雄の中にあった希望の光が、音を立てて砕け散った。
――ああ。
勝手に仲間だと思い込んでいたのは、自分だけだったのだ。
喉がひくりと鳴る。恐る恐る、真雄は口を開いた。
「……え、葉山くん。ちなみに、前世って……?」
「俺ですか?」
少し考えるような間を置いてから、葉山はあっさりと言った。
「斎藤一ですね」
「え?…斎藤一って、あの…?」
「はい」
「……きょ」
「?高瀬さん?」
「強キャラじゃねーか!!!!」
その場に、真雄の叫び声だけが虚しく響いた。
本編全然筆が進まないのに、小話ほ3話ほど出来ました。早く投稿出来るように、スピード上げて頑張ります。




