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紳士の振る舞い

宗介に連れられてやってきたのは、朱莉ですら名前は聞いたことがある、超高級焼き肉チェーン店であった。


「お昼から焼肉なんて思ったけど、沢山動いてお腹空いてるんじゃないかと思ってね」


「う……本当にありがたいです」


お店に関しては恐れ多いものがあったのだが、既に2人分の席を予約しているという事であったので、大人しく従う事にした。


案内された席はよくある手前が椅子、奥がソファーのタイプであったが、宗介は当然のように奥の席を朱莉に譲った。


ちなみに余裕が無かった朱莉がそのことに気付いたのは、席に座って一息ついたからであった。


スマートにエスコートしてくれる宗介の行動にやや胸の高鳴りを感じつつ、朱莉がメニューを見ようとしたところで宗介の手がそれを遮る。


メニューをパパッと片付けてしまった宗介は、店員に何やら注文してしまった。


「かしこまりました。

お飲み物はウーロン茶、コーヒー、カルピスがございますが如何致しましょうか?」


「朱莉の好みはカルピスかな?」


「え、あ、はい!」


「それじゃ、僕はウーロン茶で。

食事前に持ってきてもらって構いませんよ」


「畏まりました」


店員が下がった後、当然ながら疑問に思った朱莉が口を開く。


「あのう……メニューとか見なくて良かったんですか?」


「メニューを見たら遠慮して一番安いものを頼んじゃうでしょ?

遠慮はしてほしく無かったからね」


「う……確かにそうですけど……」


「もし追加が必要なら横にある小さいメニューから出来るから、遠慮なく言ってね」


こうして運ばれてきたメニューは、当然ながらこの店のランチでは一番高いものであった。


朱莉は見たこともないような高級肉とその大きさに目を丸くした。


「このハサミで食べやすいようにカットするんだよ」


宗介は見本を見せるように先に焼き、ハサミで小さく切断して小皿に乗せていく。


「こ、こうですね。

じゃあ、このくらいで……んん!?」


宗介の真似をした朱莉は小さく裁断したお肉をタレに漬けてから口に運んだ。


その瞬間に味わったことのない旨みが口の中に広がり、お肉と一緒にほおの肉まで蕩けてしまっていた。


そんな様子を嬉しそうに見ながら、宗介も自分の食事を進めていくのであった。


食事が終わってから少し雑談していた時の事である。


朱莉は不意に尿意を感じて席を立つ事にしたのであった。


そうして戻ってきた所で次の場所に行こうという宗介の提案でそのまま店を出る事になった。


朱莉は少しでも払おうとバッグに手をかけていたのだが、宗介は会計のカウンターを素通りして店を出てしまった。


店員もその事に対して何も言わず、お礼を言って頭を下げるだけであった。


困惑する朱莉に宗介は一言、


「会計はもう終わってるから気にしなくて良いよ」


と告げて歩を進めるのであった。


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