動物園デート
「本当にこんな所で良かったの?」
「ええ、地元では馬や牛くらいしか見たことが無かったですから」
「それはそれで凄い話だと思うけど」
朱莉の希望でやってきたのは、上野にある動物園であった。
「あ、ほら、あそこでパンダが見られるらしいですよ」
「ああ、こんな入り口直ぐの場所にいるんだ。
……よくよく考えたら、僕もパンダって初めて見るかも」
「そうなんですか?」
「テレビとかで見た気になってたけど、実物見た事なかったかなって」
「じゃあ、お互いに初めてパンダを見た記念日ですね」
「……ああ、そうだね」
満面の笑顔でそう語る朱莉を眩しいものを見るように目を細めて答える宗介。
その後も園内を回って様々な動物を見て回り、軽食屋では宗介が2人分のソフトクリームを買って朱莉に手渡した。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取り、ソフトクリームを食べ始めた朱莉を見て宗介はクックッと肩を振るわせて笑う。
その様子に疑問符を浮かべて首を傾げる朱莉に向かって、宗介はスマホでパシャリと彼女の写真を撮って見せた。
画面の中の朱莉の左の頬には白いクリームが付いており、それは現在も変わらないということ示していた。
「も、もぉ!意地悪ですよ!!」
「くくっ……ごめんごめん。
はい、じっとしてて」
宗介は左手で朱莉の右頬を押さえ、右手に持ったハンカチで彼女の頬を綺麗にする。
そのあまりに自然な仕草にされるがままであったが、自分の置かれている状況に気付いた朱莉は顔を赤くしながらググッと宗介を押しのける。
「も、もう大丈夫ですから!
あ、今度はアレに乗りたいです」
朱莉が指差したのは湖に浮かぶボートであった。
「良いけど、ああいうのって田舎に無かったの?」
「あったんですけど、いつも圭太くんが率先して漕いでて私は乗ってるだけが多かったんです。
偶には私も漕いでみたかったのに……」
「よし、乗ろう!
僕が漕ぎ方を教えるし、危なくないようにサポートするから安心して漕いで良いよ」
「本当ですか!」
喜ぶ朱莉と連れ立ってボート乗り場へと向かう2人。
その距離は動物園に入った時に比べて、やや近くなっていたのであった。