生まれ育った街
朱莉のセリフで告白という言葉が二重にかかって不自然な部分を修正しました。
「なんか……悩みが多そうだよね。
僕で良かったら話してみたら?」
「え……でも、こんな初めて会った人に……」
「圭太って人のことも聞きたいな」
「え、何で圭太くんの事を!?」
「そりゃ、ここに来る間に寝言で名前を言ってたからね」
「な、尚更話せま……」
「あ〜ここまで背負ってきた疲れが今頃出てきちゃったかな?」
「は、話します!!」
宗介がわざとらしく肩を回すと、恩人の願いを無碍に出来ずに承諾してしまうのであった。
「その……圭太くんは幼い頃からいつも一緒にいた男の子で……」
「ふーん、彼氏なの?」
「そ、そんなんじゃないです!!」
「でも、好きって感じが出てるけど」
宗介に揶揄われた朱莉は顔を赤らめてモジモジと身を揺らした。
「圭太くんはいつも私を庇うように前に出て気遣ってくれて……だから、私は自然と好きになってましたし、自惚れじゃなければ圭太くんも私のことを好きだと思ってくれていると思います」
「それなのに付き合ってはいないんだ」
「何度か私から告白しようとした事はあったんです。
でも、その度にはぐらかされちゃって。
圭太くん、女性の方から告白されるのは格好悪いって思ってるらしくて……あっ」
当時のことを思い出したのかションボリする朱莉。
宗介はそんな朱莉の頭を優しく撫でた。
「それで自分から告白する勇気が出ずにズルズルと……こんなふうにされた事もなさそうだね」
「……はい。
女性に甘えるのは恥だと考えているみたいですし、過度なスキンシップも恥ずかしいみたいで」
「朱莉はこうされるの好きそうなのにね」
「……はい」
その手の大きさと温かさが心地よくて、ついついそう答えてしまった。
その顔の火照りは圭太の話をしている頃よりも濃く染まっている。
「それで朱莉は何で1人で東京にいるの?」
「あ……それは……」
そこから、朱莉は2人で受験した事と、自分は受かったけど圭太は落ちた事。
田舎に残るつもりだったが、圭太に後押しされて都会にやってきた事を語ったのである。
「無理してたんですね……ここはとっても住みにくくて嫌いになってましたし、そんな環境で過ごしていたから心も身体も限界になってしまったんだと思います。
今日のことで思い知りました……私、田舎にかえ……」
「ストップ!!
それはまだ早いんじゃないかな?」
田舎に帰ろうと思う……そう言いかけた朱莉の唇に立てた人差し指を押し当ててその言葉を止める。
「東京のことを嫌いになったまま変えられちゃうなんて、僕は悲しいよ。
この街は僕が生まれた時から育った街なんだから」
「あっ……」
宗介が悲しげに呟いた所で、朱莉はハッとする。
自分が生まれた故郷を大事に思っているように、この東京で生まれた人もいて、それを同じように大事に思っている人がいることを失念していたからであった。
「ね、良かったら今からデートしない?
行きたい所、どこにでも連れて行ってあげるよ」
「え……でも、そんなにお世話になるわけには……」
「じゃあ、ここまで朱莉を連れてきた僕を労うと思って」
「……んん、わ、分かりました!
その代わり、上京する前に行きたい場所のリストを作ってきたから、今日は徹底的に付き合ってもらいますからね!!」
「はは、りょーかい。
お姫様を全力でエスコートさせてもらうよ」
こうして、先程初めて知り合った2人ではあるのだが、東京観光という名のデートをする事になったのであった。